医療者にとって本当に必要な接遇とは 1
病院は飛行機の上でもホテルでもない。
「おもてなし」より「人生観と死生観に裏打ちされた真摯な看護の提供」を part 2
看護のベテランになったら マナーの「型」を崩せる応用力が必要
マナー講師の教えによると、「おもいやり」は目に見えないので「形」にする必要がある。だから「型」や「形」が大事なのだといいます。私も心は目に見えないので「形」にすることは大切なことだと思います。(新人の時代にはこのスキルはしっかりと身に着けた方がいいでしょう。)
ただ、「形」をマスターしたらその次へ行ってほしいのです。つまり「おもいやりとは何か」という本質をベテランの医療者は学ぶ機会を求めているのに、マナー講師と呼ばれる講師陣は「形」や「型」だけの講義に終始している。そのため研修後の「物足りなさ」や「不満足感」が生まれてしまいます。
じつは今の私の仕事の三分の一は「接遇委員会の立ち上げ」や「接遇トレーナーの育成」に「接遇研修」です。 会社設立当初はこうなると予想していなかったので、私は会社の名前を「TNサクセスコーチング」としました。 文字通り、「コーチング」の資格認定やコーチング研修に特化する方向でこの名前をつけたのですが、上記のようなマナー講師への物足りなさから、「元医療従事者で接遇研修ができる人」にと、依頼を受けることが多くなり、そんなふうになりました。
私も研修ではマナートレーニングと称して「形」や「型」もお伝えしていますが、(新人研修では形の習得が目標です)ほとんどの時間は参加者の皆さんに「看護を語ってもらっているだけ」です。
痛みがひどくて看護らしいことも何ひとつできなかった患者さんに、「あなたに最後を看取ってもらえたらもういつ死んでも心残りはない」と言ってもらえた。 こういった場面を詳しく話してもらい、参加者みんなで涙する。「看護とは、本当のおもいやりとは何か」を共に考える。クレームを頂いたシーンを患者さん役と看護師役になってロールプレーをして再現し、よりよい対応を考える。と、こんなことを大事にしています。
ときには、看護師にいわれなき怒りをぶつけてこられた患者さんに感情的になって言い返してしまった。 でもその後、患者さんが「八つ当たりして悪かった。でもあんたにしかできんのじゃ。許してくれ」と言われ、「私でよかったらいつでもどうぞ。でも、受けてたちますよ!」と返して患者さんと爆笑し、そして号泣しあったのだという話・・・。
看護の現場からはこんな武勇伝がたくさんでてきます。私はファシリテーションをしているだけで、「看護師ってなんて質の高い思いやりを持つ人達なんだろう」と感激します。そしてこういった話を聴くことができるこんな仕事をさせてもらっていることに自然と感謝が湧いてきます。
看護師は、病気や死に直面している患者さんに寄りそうことで、いろんなことを深く、そしていろんな人々の立場から物事を考えます。時にはあばれる患者さんの立場になって考えたり、 退院調整が済んでからやっぱり連れて帰れないと放棄する家族の立場になって考えたり・・・。
日々の看護を一生懸命にすることは、看護師自身の「死生観」や「人生観」を確立させるのでしょう。だから患者さんやご家族とも「同じくはかない命をさずかった人間」として、しっかりと向き合い、ときに寄りそうことができるのではないかと思います。
確かに、お辞儀も言葉も身のこなしも、美しい方がステキです。だからマナーなどの「型」や「形」は「人生観」なり「死生観」が確立しておらず「看護の技術」も不十分な新人時代にこそしっかりと身に着けておくのがいいでしょう。
でも、ベテランになったら必要に応じて「型」を崩せる能力も必要です。
小学一年生は「〇〇様」と呼ばれるより、「〇〇ちゃん」の方が親しみを感じるでしょう。認知症の患者さんが自分のことを孫と勘違いしているような場合は、孫のふりをして関わることも大事です。敬語で説明してもずっと方言で聞き返してくる高齢の患者さんにはむしろ「なまって」方言で話すことも重要です。マナーだの接遇だのの型を超え、臨機応変に相手に合わせた対応ができる、これぞ看護のプロの技です。
でも、孫になりきって「ちょっと、早く薬のんでよ~」なんてやっているとき、遠くに住んでいてめったにこないご家族が面会にいらしたら、しゃきっとして、「ご苦労様です。今、お孫さんと勘違いしてらっしゃるようなのでなりきってお薬飲んでもらおうとしておりますの。おほほほほ」とご挨拶することもお忘れなきよう。
(ちょくちょく来られるご家族は事情をよくご存じで「いつもありがとうございます」と感謝してくれますが、それこそ「めったにこない遠い親戚さん」は来ないくせにいろんなことをおっしゃるものですから)
医療者に一番必要な接遇とは、お辞儀の角度でも、きれいな指示しでも、正しい名刺交換の技術でもない。そう私は思います。「型」や「形」は整っていた方がいいかもしれませんが、そんなことより看護師は質の高い「看護を提供すること」が一番大切なことではないでしょうか。人の「生き死に」に深く関わっていない人や「人生観」「死生観」がしっかりしていない人々が看護の世界における接遇を看護師に教えることは不可能だと私は思います。
医療者の提供する「おもいやり」とは、命の元に気高くてそして深い「慈愛」です。先にもご紹介しましたが、看護師は日常の看護の中でたくさんの慈愛に満ちた関わりをしているのです。 ですから私は、誰がなんと言おうとも、看護師さんには自分たちの接遇に自信を持ってもらいたいのです。
看護師の接遇の先生はどこかのマナー講師様ではなく、身近な先輩看護師です。
忙しい現場ではありますが、患者さんとの「触れ合い」を、そして「看護」を後輩に語っていただきたい。それが何よりの接遇教育であると私は思うからです。
理事長や院長に「うちの職員は接遇が悪いからなんとかしてくれ!」などと、依頼を受けることもあります。そんな時は、研修時間より早めに行って待合室でスタッフの様子を観察したりします。でも、接遇が悪いと聞いていたのに患者さんへのあいさつは感じがいいし、笑顔は多いしと、むしろ他の病院よりも接遇がいいというところもたくさんあります。
そんな病院のスタッフにじっくりと話を聞いてみると、「院長が苦手だからあいさつしないだけです」 なぁんて返ってきたりすることも多いですから(笑)
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