椅子に浅く腰掛け、机に脚を乗せ、そして組む。傍らのタンブラーの中身は水。
軽く目を閉じ、頭を左右に振る。
キシギシキシと小石を踏んだような音がする。
そして暫くすると風景が見えてくる。
【ランダムウェブカメラ病】
動くことはできない。
視点を変えることもできない。
声を発することもできない。
ただ見ているだけ。
それだけしかできない。
おそらく脳の異常だと思うのだが、
それはもう鮮明に見えるので
「これは現実にあるどこかの光景なのではあるまいか」
とも思っている。
今回は鈎で何かを釣り上げようとしている場面が見えた。
詳細は不明だが中南米の佇まい。
大人の身長ほどもある鈎を持った男がひとり、道路に開いた蓋のないマンホール風の穴を覗き込みながら作業していた。
しかし、なかなか「何か」に引っ掛からず途方に暮れている様子であった。
失敗するたびに見せる大袈裟なアクション。
周囲に見せつけるようにわざとらしく上げているかのようなテンション。
あるいは作業そのものがポーズだったのかもしれない。
引っ掛ける「何か」など存在していないのかもしれないのだ。
行き交う人々は不自然なほど男を見ることなく素通りしていく。
僕だけが【消えるまで】じっと見ていた。