どんな動物も何かしらの言語を持っています。類人猿やサルの全種を含め、多くの動物が口頭言語を持っています。たとえば、サバンナモンキーはさまざまな鳴き声(コール)を使って意思を疎通させます。ホモ・サピエンスはサバンナモンキーよりもずっと多くの異なる音声を発することができ、クジラやゾウも見事な能力を持っています。それでは、私たちの言語のどこが特別なのでしょうか。

 最も一般的な説は、私たちの言語は驚くほど柔軟である、というものです。私たちは限られた数の音声や記号をつなげて、それぞれ異なる意味を持った文をいくらでも生み出せます。そのおかげで私たちは、周囲の世界について膨大な量の情報を収集し、保存し、伝えることができます。サバンナモンキーは仲間たちに、「気をつけろ! ライオンだ!」と叫ぶことはできます。しかし、現生人類は友人たちに、「今朝、川が曲がっている所の近くでライオンがバイソンの群れの跡をたどっているのを見た」と言うことができます。それから、そのあたりまで続くさまざまな道筋も含めて、その場所をもっと正確に説明できます。すると、集団の仲間たちはこの情報をもとに、川に近づいてそのライオンを追い払い、バイソンの群れを狩るべきかどうか、額を集めて相談できます。

 これとは別の説もあります。私たちの独特の言語は、周りの世界について、伝えるべき情報のうちで最も重要なのは、ライオンやバイソンについてではなく人間についてのものであり、私たちの言語は、噂話のために発達したのだそうです。この説によれば、ホモ・サピエンスは本来、社会的な動物であるといいます。私たちにとって社会的な協力は、生存と繁殖のカギを握っています。個々の人間がライオンやバイソンの居場所を知っているだけでは十分ではありません。自分の集団の中で、誰が誰を憎んでいるか、誰が誰と寝ているか、誰が正直か、誰がズルをするかを知ることの方がはるかに重要なのです。

 数十人の人の刻々と変化する関係を追跡するために手に入れて保存しなければならない情報の量は信じ難いほど多くあります。あらゆる類人猿がそうした社会的情報に強烈な興味を示しますが、彼らは効果的に噂話を交わすのが難しいのです。新世代のホモ・サピエンスは、およそ7万年前に獲得した新しい言語技能のおかげで、何時間も続けて噂話ができるようになりました。誰が信頼できるかについての確かな情報があることによって、小さな集団は大きな集団へと拡張でき、ホモ・サピエンスは、より緊密でより精緻な種類の協力関係を築き上げることができました。

 今日でさえ、人類のコミュニケーションの大多数は、SNS、Eメール、電話、新聞記事のいずれの形にせよ、噂話です。噂話はごく自然にできるので、私たちの言語は、まさにその目的で進化したように見えます。噂好きな人というのは、ズルをする人やたかり屋について社会に知らせ、それによって社会をそうした輩から守るジャーナリストなのです。

 

参考ウェブサイト、書籍

誰かに話したくなる日本人のルーツ「認知革命」https://okinosimatetsu.jimdofree.com/%E8%AA%8D%E7%9F%A5%E9%9D%A9%E5%91%BD/

ユヴァル・ノア・ハラリ著 柴田裕之訳 「サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福」 河出書房新社