あれから1ヶ月が過ぎた...その間、俺にはいろんなことがあった...

再確認したことがある。やることがいっぱいある方が面白いということ。忙しいと人は言うけど、そうは思わなかった...

充実していた...一言で表せばそれに尽きる...頭の中はフル回転...並列思考でどんどん進めていった...α波が出っぱなしのフルスロットルって感じかな...まだまだ、面白くするぜ...

でも、できる限り平然とやるように心がけていた...だから、まわりからはいつもと変わらないように映っていただろう...ファインプレーみたいなもんだ。野球でいえば、難しい打球をまるで凡フライの様にキャッチする感じか。そのためには
球筋を早く読み、素速く動き、落下点にスッと入っていることが必要だ...それには経験プラス努力がものを言う...

いや、努力しているという意識は俺にはない...不思議と今まで“努力”という感覚を感じたことは無かった...今も無い...なぜだかわからない...好きなことをやっているからというありきたりな表現では語れない...なのに、生徒には“努力”という言葉を使っていた...他にピッタリな言葉が見つからなかったから...いつの頃からか、それが“夢中”という言葉に変わっていた...

そう...夢中になって経験してきたから...だから、今の充実した(忙しい)日々も余裕で過ごせている...そんな俺にも...

少し時間のゆとりができた...

そして、自分に問いかけた...

『俺は今、何に夢中なんだろう』と...

...ある日、大きなシャボン玉が飛んで来て、俺の身体を包んだ...そして、身体がフワッと軽くなるのを感じた...しばらくその感覚に浸っていると、繭が現れた...この1ヶ月の間まったく過(よぎ)らなかったのに...不思議だ...


電話した...

夜の9時過ぎ...彼女のケータイに...

「あっ、先生!久しぶりです」(弾ける様な声が還って来た)

「おぅ、元気か!?」

「ぼちぼちねっ」(右目でウィンクしているのが目に浮かぶ。おどけた時の彼女の癖だった)

「ハハハッ、浪花風(なにわふう)か!で、おまえの“挨拶運動”はどーなった?」

「もちろん続けてますっ!今まで話しかけたこともなかった人から声をかけられたりして...もー、ビックリあれ程まわりの目を気にしてた自分が信じられないぐらいです!」(大きな目を思いっきり開けて喋ってるんだろうなぁ。表情豊かだから)

「いーじゃねーか!」(喜びを言葉に乗せた)

「それでね、先生...教師の話や採用試験の勉強は職場ではやらないよーに決めたんです。職場では仕事に全力で集中したの!そしたら、どーなったと思う

「ストレス溜まり過ぎで、健康優良児になった!」

「それは小学校のときっ!」(頬っぺを膨らませているだろうなぁ)

「教師の道をあきらめたとみんな思った!」

「ブー」(目を閉じながら唇を尖らしている繭の顔が浮かぶ)

「なーんて言うのは冗談で...まわりが聞いてくるようーになった...『教師の勉強はかどってる?』なんて」

「あーっ、どーしてわかんの( ̄□ ̄;)!!」(ちょっぴりがっかりしながら、驚いているはずだ)

「人間ってそーゆーもんだろ」

「そっかー(^_-)☆」(ひとり相づちを打ってるんだろうなぁ)

「そろそろ“私は先生になる― 第1章 ―”に突入だな」

「えっまだ入ってなかったの」(マックスに開いた目が、彼女の部屋の一点を凝視してるに違いない)

「ああ、序章ってとこだ。3ヶ月かかったな」

「それって、順調にいってるんですか?」(不安気な表情に急降下

「もちろん

「よかったぁ...かかり過ぎで、『もー駄目かな』と一瞬思っちゃった」(平坦な道をゆっくり減速していく...今夜の繭は、まるでジェットコースターに乗ってる気分だろう...)


「第1章に入る前に質問だ。この3ヶ月で何が変わったと思う?」