夜間飛行 アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ | VictoryのV

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夜間飛行 アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ


 航空機が開発されてまだ日が浅い時代の物語。当時はレーダーなどもなく、もちろんGPSもない時代で、航空機は有視界飛行が可能な日中に運行するのが当たり前だった時代である。そんな中にあって、果敢にも夜間の飛行を開拓しようとする人たちがいた。荷物をいち早く目的地まで運ぶには、航空機は他の交通手段に比し、群を抜いていたわけであるが、夜間に飛行できないことによって、夜汽車や船舶に先んじられることは、航空会社にとっては死活問題だったわけである。安全で確実な航路を探し当てるために、操縦士は命がけの夜間飛行に飛び立つ。

 この物語の主人公は、航空会社を運営する支配人リヴィエールである。彼は命がけの夜間飛行を行うわけではないが、搭乗員の命を預かっている。彼には信念がある。いかなるミスも許さない、些細なミスであっても断固として懲罰を与える。取るに足らないようなミスを許すことが、人を油断させ、付け入る隙を作り、やがて命を奪う事故を招き入れると信じるからだ。かといって彼は非人情ではない、彼は人を処罰するのではなく、人の心に入り込む油断や怠慢を処罰するのである。

 夜間飛行に飛び立とうとする一人の操縦士、彼には妻がある。夫の無事の帰還を願う妻がいる。中継飛行場に降り立った操縦士ファビアン、しばしの休息の後、再び飛び立とうとしている。同行する無電技師の許に「雷鳴、空電、飛行中止」の忠告が届く。しかし、次の飛行場からは「快晴、無風」の報告、ファビアンは続航を決意する。やがて、周りを雲に覆われ、雷鳴が満ちてくる。暴風雨に突入した。最初はしばらく我慢すれば抜けられるものと思っていたが、地上と交信をする無電技師に集められる報告は、どの飛行場からも暴風雨、雷雨であった。四方を広大な暴風雨に取り囲まれた。地上との交信もままならなくなった。燃料も残りわずかだ。

 操縦士ファビアンが到着するはずの飛行場では、支配人が待っている。彼はファビアンの所在を確認しようとするが、航空機と通信ができない。どの無電局からも通信不能の報告が。所在不明。不安がよぎる。

 そんな時、一本の電話が鳴る。ファビアンの妻からである。夫が帰還飛行する夜は、飛行時間を計算して、着陸した頃合を見計らって電話を入れる慣わしであった。電話に応対した事務員から夫の帰還の報告を受け取るはずであったが、要領を得ない返事が返ってくる。

 支配人の許を訪れたファビアンの妻であったが、支配人は説明することができない。何もわからないのである。

 支配人リヴィエールは最悪の事態を覚悟した。支配人は打ちのめされていた。しかし、彼には感傷に浸っている暇はない。ここで夜間飛行を断念すればすべてが水の泡に帰す。遅れている夜間飛行便の出発を指示する支配人リヴィエールである。



 この物語では、飛行中の操縦士の様子など、生々しい描写が読み取れる。これは作者サン=テグジュペリが実際に操縦士だったこと、幾多の命の危険を潜り抜けてきたことが、単なる冒険小説と趣を異にしている。実際の経験に基づく実録的要素を含みつつ、彼の描写力によって生き生きとした物語に高めているといえるのではないだろうか。


アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ


1900年6月29日生まれ。「星の王子さま」の作者でも知られている。作品には「夜間飛行」、「南方郵便機」がある。航空郵便の会社に就職したり、軍隊に従軍するなど本業は飛行機の操縦士である。第二次大戦中、偵察機に搭乗して飛び立ったまま行方不明。ドイツ軍によって撃墜されたものとみられている。

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