もうあの時みたいなピッチングはできない
でもやると決めたからには後悔はしたくない
運命に翻弄された
狂熱の赤いウインドミル
あれは
2008年8月20日
北京オリンピック女子ソフトボール決勝
灼熱のスタジアムで繰り広げられた
優勝候補アメリカとの決勝戦
マウンドにはここまで3連投の上野由岐子
413球を投げぬいた伝説のエースは
オリンピックのソフトボール競技
最後の金メダリストとして
歴史にその名を刻んだ
選手としてすべての栄誉を手に入れた
・・はずだった
その後
オリンピックからソフトボールは消え
新たなる目標を失った
ソフトボーラーとして
完結しているなと思う時があった
もう何も追い求める必要がない
高める必要もない
迫りくる孤独感
つらかった・・・
そんな時に宇津木監督から声をかけられる
続けることに意味がある
オリンピックが無くなっても
ソフトボールはあり続ける
後輩を指導していくのがあなたの役目だ
現役を続行すること
五輪種目の復活のために前を向いて歩くこと
を決意した
ソフトボールが好きだから・・・
戻った上野は現役を続けながら
その情熱を後輩の指導にも向けていった
2016年
IOCがソフトボールを
東京五輪追加種目に加えると発表した
すべてが思い通りに
うまく回り出したように見えた
しかし
無情にも
神様は上野に
さらなる試練を与える
2019年試合中
ピッチャーライナーを
左あごに受け緊急搬送される
診断名は下顎骨折
緊急手術を受けた
思いもかけない出来事
つらいリハビリ生活が始まる
不安な毎日を過ごすことに
そんな中で聞かされた
東京オリンピックの1年延期
投げたくない。もう投げたくない。
もうやめてもいい・・・
迷走は深まるばかり
もう一度自分を取り戻すため
何かが変わるかもしれない・・
一縷の望みを求めて
一人開催地の福島を訪れる
目の前に広がる復興の町
きれいに整備された
福島あづまスタジアム
活気があふれる地元の姿に
昔の自分の姿を重ねてみる
ここで復活するんだ
もう一度立ち上がるんだ
もう一度五輪に出られるなんて
これっぽっちも思っていなかった
自分を受け入れられなかった
でも
ここにきてすべてを理解した
きっと神様が
最後のご褒美をくれたんだ
もう一度
オリンピックで闘う舞台を用意してくれたんだ
ソフトボールが大好きだから・・
もう一度立ち上がる・・・
もう一度
2021年7月21日
福島あづまスタジアム
東京オリンピック初戦
日本対オーストラリア
マウンドには上野
世界最速の121kmのストレートは健在
シュートは当時よりもさらにキレを増している
体格で勝る大型打者を次から次へとねじ伏せる
上野は戻ってきた
もうあの時みたいなピッチングはできない
でもやると決めたからには後悔はしたくない
運命に翻弄された
狂熱の赤いウインドミル
いま
13年の時を経て
再び日本に
熱狂の赤い旋風が吹き荒れる
written by Kaz Okayasu
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