弁護士の岡本卓大です。
みなさん、日本には、5つの刑事訴訟法がある。
という衝撃的なお話をご存じでしょうか?
法律としての刑事訴訟法は、1つだけです。
刑事訴訟法
制定:昭和23年7月10日号外法律第131号
最終改正:令和4年6月17日号外法律第67号
ところが、この刑事訴訟法という同じ法律には、
5つの立場のまるで違うとも言える解釈体系があります。
一つは、刑事法学者の刑事訴訟法。
普通に大学の講義の教科書になったり、司法試験受験生が勉強する刑事訴訟法ですね。
二つ目は、弁護士の刑事訴訟法
刑事弁護人として被疑者・被告人のために活動する弁護士たちの刑事訴訟法の解釈です。
三つ目は、裁判官の刑事訴訟法
刑事事件の判決を書く裁判官の刑事訴訟法解釈です。
四つ目は、検事の刑事訴訟法
被疑者・被告人を起訴、有罪立証をしていく検事の刑事訴訟法解釈です。
五つ目は、警察官の刑事訴訟法
犯罪者を逮捕する、処罰するという警察官の刑事訴訟法解釈です。
このうち、犯罪捜査のプロではあっても、法律のプロではない警察官の刑事訴訟法が
ほかと違うというのは、なんとなく理解できます。
弁護士も裁判官も検事も、司法試験に合格するまでは、
一つ目の刑事法学者の刑事訴訟法を
当然ながら、勉強しています。
司法修習の期間も、それぞれ、同じ修習をして同じものを学んでいるはずです。
ところが、実務につくと、それぞれの立場で、
同じ刑事訴訟法がまったく別のもののように解釈が分かれていきます。
弁護士になると、被疑者・被告人の人権を守るという視点が強くなる。
検事になると、公共の安全のために被疑者・被告人を処罰するという視点が強くなる。
裁判官になると、その中間(実際は、やや検事より)
1989年に松江で開催された日弁連人権大会では、
刑事法学者の大権威であった平野龍一先生が、
「日本の刑事司法は絶望的である」とお話しされたと聞きます。
日弁連は、1991年に、被疑者の弁護活動強化のための宣言を出しています。
被疑者の国選弁護活動は、現在では、大幅に拡大されました。
それでも、えん罪を生む現在の刑事司法は、
まだまだ改善されなければいけない問題が多数あります。
少なくとも、法律のプロでは無い被疑者・被告人の立場に立った方が、
警察官や検事の刑事訴訟法に一人で太刀打ちできるはずがありません。
だからこそ、弁護士が弁護人として弁護していく必要があるのです。
そして、それは、憲法(34条、37条等)の要請でもあります。
残念ながら、弁護士資格を持っていても、
刑事弁護人としての本当の意欲と能力を持っている弁護士は、ごく一部かも知れません。
刑事弁護をビジネスとしてやっているような弁護士は、本物の刑事弁護人とは言えません。
本物の刑事弁護人は、国選弁護人であっても、本当に全力で弁護をしてくれます。
刑事弁護をビジネスとしてやっている弁護士は、私選であっても、たいしたものではありません。
国選弁護人は、費用を国が出してくれる代わりに自分では選べない。
私選弁護人は、費用がかかるけれど、自分で選べる。
国選と私選の違いは、そこなのだろうなと思います。
被疑者・被告人の立場になどならないことが一番ですが、
もし、そのような立場になってしまった場合は、
あなたが、本物の刑事弁護人と出会えることを願っています。