こんにちは。

弁護士の岡本です。

 

今日は、シリーズ【いじめ予防の考え方】の第一話として、

心のコップの水のお話をします。

 

 

本題に入る前に、少し前提になるお話をさせていただきます。

まず、なぜ、弁護士が「いじめ」の話をするのか?

 

みなさんは、弁護士が「いじめ」の話をするというと、

「損害賠償」がいくら取れる

とか

「何罪」にあたる

とか、そういった話をすると思われるかも知れません。

 

もちろん、「いじめ」が「損害賠償」の問題になったり、

「犯罪」になったりすることもあります。

私自身、民事の損害賠償の問題や刑事事件として「いじめ」の問題に

関わったことは、もちろん、あります。

 

私は、あるポスターにこんな風に書いてあるのを見たことがあります。

 

イジメは、犯罪

になりかねません。

 

例として、「傷害罪」、「恐喝罪」、「名誉毀損罪」なんかが並んで書かれていました。

 

 

なるほど、「間違いではない」とは思います。

 

でも、これだと

 

無視をする

 

とか

 

からかう

 

とか、犯罪にならないようなイジメは、たいしたことがないような誤解を与える、

ミスリードな内容のポスターのように感じます。

 

 

弁護士が「いじめ」の話をする理由。

 

それは、

 

「いじめ」が「人権」の問題

 

だからです。

 

 

憲法13条には、こう書いてあります。

 

すべて国民は、個人として尊重される。

生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、

公共の福祉に反しない限り、

立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

 

「憲法」というのは、「法律」の上にある

「国家権力が守らなければならない」ルールです。

 

この憲法13条で大切なことは、

誰(外国人を含む)もが「個人」として、大切にされなければならない。

ということです。

 

人間は、誰も自分自身が大切です。

そして、他の人も、その人にとっては、

自分自身として大切にされなければならない個人としての「人格」

があります。

誰もが自分が大切なように、

他の人も一人一人の人格をもった「個人」として大切にされなければならない。

 

「いじめ」というのは、

その大切な「個人」を傷つけることになる行為です。

 

だからこそ、

弁護士が「人権」の問題として、「いじめ」の話をするのです。

 

この「いじめ」は、個人を傷つける「人権」の問題

ということを理解していただくと、

「学校でのいじめ」以外の問題も考えやすくなるのでないかと思います。

 

職場での「いじめ」は、「パワハラ」の問題となります。

性的な意味を持った「いじめ」は、「セクハラ」の問題となります。

家庭での夫婦間の「いじめ」は、「DV」や「モラハラ」の問題となります。

家庭での親子間の「いじめ」は、「虐待」の問題となります。

一定の自分とは異なる特性を持つ人々への「いじめ」は、「差別」の問題となります。

 

すべて、「個人の尊厳」を傷つける行為であるということでは、「問題の本質」は一致しています。

 

 

前提について、お話しさせていただいた上で、「本題」に入ります。

 

まずは、法律の条文を見てみましょう。

 

いじめ防止対策推進法 第二条です。

 

この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、

当該児童等が在籍する学校に在籍している等

当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う

心理的又は物理的な影響を与える行為

(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、

当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。

 

これが、いじめ防止推進法2条で定めた「いじめ」の定義です。

 

法律というのは、わかりにくいですね?

すごく簡単に要約してしまうと、

「受けた人が辛いと思ったらいじめ」

ということです。

 

とても幅広い定義ですが、こういう「いじめ」の定義を元に、

自分のやっていることが「いじめ」になっていないか?

ということを、一人一人が考えていくことが大切です。

 

 

それでは、今日の本題、「心のコップの水」のお話です。

 

みなさん、一つのガラスのコップを心に思い描いてみてください。

そのコップに少し水が入っています。

コップは、いじめを受けている人の心です。

その中のは、その人が感じている辛さです。

 

このコップに、スポイトで、少しずつ水を入れていきます。

一度に大量の水を入れれば(ものすごくひどい暴力等)、

一気に水があふれ出てしまうことも、もちろんあります。

 

でも、スポイトで少しずつ水を入れる(悪口や無視など)だけでも、

少しずつ、コップの中の水は増えていきます。

コップの水がコップいっぱいになり、コップに入る量を超えてしまうと・・・

 

水があふれ出します。

 

心のコップから水があふれ出したとき

つまり、いじめられている人の辛さが我慢できる限界を超えてしまったとき。

 

学校に行けなくなる(不登校)

 

や、もっとひどいと

 

自殺してしまう

 

という最悪の結果になってしまいます。

 

この状態(正確には、その「疑いがある」)を、

いじめ防止対策推進法第28条1項では、

「重大事態」といいます。

 

「いじめ」をしている側の一人一人からすると、

スポイトで水を一滴垂らすくらいの小さなことのように思えます。

でも、「いじめ」を受けている側からすると、

その一滴一滴の積み重ねが、耐えられないと感じるほどの苦しみになっていきます。

 

「いじめ」って、そういうものなのです。

いじめている側は、自分が「いじめ」をやっているとも思っていないかも知れない。

でも、いじめられている側からすれば、みんなが「加害者」になってしまっている。

 

誰かが、「コップの水」がたまっていることに気づいてあげられたら、

「コップの水」が増えないように気をつけてあげたり、

「コップの水」を減らしてあげられるようにしてあげたなら、

いじめられている人が、救われることにつながっていく。

 

それに気づいてあげられなかったら、

自分の何気ない一言(スポイトでの水一滴)で、

クラスメイトが不登校や自殺をしてしまうかも知れない。

 

そうなってしまわないように、誰かが早く気づいてあげましょう。

これが、「心のコップの水」のお話です。

 

 

埼玉弁護士会では、埼玉県内の各学校から依頼があれば、

いじめ予防授業の講師を派遣しています。

 

 

埼玉以外の弁護士会でも、同じように、いじめ予防授業の講師派遣を行っているところもあると思います。

弁護士によるいじめ予防授業への講師派遣をお考えの学校関係者の方は、各地の弁護士会へお問い合わせ

いただくとよいかも知れません。

(対応できるかどうかは、その弁護士会の体制、ご判断次第になります。)

 

また、もし、「私個人」への「いじめ予防」の講演等をご希望の方がいらっしゃいましたら、

交通費・旅費と、お気持ちばかりの講演料をいただけましたら、全国のどこへでも

お伺いさせていただきたいと思います。

 

今回のお話が、「いじめ」の問題に関心を持つ方に、

少しでも、お役に立てるものであったなら幸いに思います。