[酒と俳句とモダン・ジャズを愛する劇作家兼英語教師のコラム]
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ミステリー小説というのは、たいがいハチャメチャな話に決まっている。
だからこそ、作者は細部の描写にリアリティーを持たせることで、読み手を騙しつつ、物語に誘導するのだ。
絶対あり得ないストーリーと、めちゃくちゃリアルな背景描写。
こいつでもって読者を騙す。
まるで詐欺師のテクニックである。
現実の世界においても、真相のはっきりしない事件について、あれこれと推理を働かせる探偵たちがいる。
「誰がケネディを殺したのか?」
とか
「タイタニックはなぜ沈んだのか?」
とか
「アポロ計画が中止されたのはなぜか?」
などなど。
女性として初めて大西洋単独横断に成功した、伝説の米国人飛行士、アメリア・イアハートの最期も、誰も目撃した者がいないだけに、二十世紀の謎の一つに数えられている。
世界一周単独飛行に挑戦していた彼女は、太平洋のマーシャル諸島付近で消息を断った。
通説では、燃料が切れて墜落死したと考えられている。
1937年7月2日の出来事だ。
それから80年経ったある日、インターネット上のニュースサイトに、次のような見出しの記事が掲載された。
New photo may prove Amelia Earhart was captured by the Japanese.
〈USA Today July 5, 2017〉
イアハートが(遭難したのではなく)日本軍に拉致されたことを示す証拠写真が米公文書館(US National Archive)から発見されたと言うのだ。
見ると、どこかの島の船着き場に数人の人物が米粒ほどに写っていて、その中で向こう向きに座って顔の見えない人物が、イアハートに間違いないという。
そう主張しているのは、アメリカのテレビ局「ヒストリー・チャンネル」だとのことで、同局は当該写真の発見をもとに、二時間の番組放映を予定しているといいい、さらに記事は続く。
The show features former FBI executive assistant director Shawn Henry as he investigates evidence supporting the theory that Earhart crash-landed in the Marshall Islands and eventually died in Japanese custody on the island of Saipan.
「番組には、イアハートがマーシャル諸島に不時着し、後にサイパン島の日本軍収容所で亡くなったという説を証拠立てるため調査を行ってきた、元FBA事務補佐官ショーン・ヘンリーが登場する」
そんな風に言われて、違和感を抱くのは私だけてはあるまい。
たとえば、もし、誰かが、
「アラスカのマッキンレー登頂を目指して消息を断った、日本の冒険家植村直己が、じつはアラスカ州当局に拉致されていたことを示す証拠写真が発見された」
と言って、雪の中に建てられた小屋にたたずむ。顔もわからない米粒ほどの人物写真を見せたとしたら、どんな反応が予想されるだろうか?
「あほか」
の一言で片が付くであろう。
どうしてか。
それは、アラスカ州なりアメリカ連邦当局なりに、植村を拉致する理由がないからである。
では、1937年当時の旧日本軍には、イアハートを拉致する理由があったのだろうか。
私には、その理由がさっぱり見つからない。
上記の記事にも、どうして日本軍が彼女(とその航海士のヌーナンを)拉致したのか、その理由について、まったく触れていない。
それでいて、USA Todayの読者は、何となく納得するのだろう。
「旧日本軍なら、何をやってもおかしくない。きっと奴らは、アメリカの英雄であるイアハートをスパイだとでも思ったのだろう。奴らは基本的に悪い連中だ。だから、真珠湾奇襲攻撃なんていう、卑怯な作戦で戦争を始めたんだ」
この、一般的に何となく共有されている認識というのは、横着な脚本家や、不真面目な小説家にとっては、非常に便利なものである。
犯行の動機を考えるとき、「悪い奴らは悪いことをしようという動機を常に持っているから、それが動機だ」と言ってしまえば、読者は、「そうか、そうか、その通りだなあ」と納得する。
しかし、日本人として、私は納得するわけにはいかない。
これが、1942年だったなら、十分起こり得ただろう。
なぜなら、日本はアメリカと交戦中で、マーシャル諸島は国防上の要となる地点だったからだ。
不時着した飛行機が敵国のものだとすれば、当然鹵獲するだろうし、乗員は捕虜となる。
しかし、1937年時点では、日本とアメリカは友好国同士である。
じっさい、イアハート捜索のために、日本海軍は水上機母艦「神威」や特務艦「膠州」などを出動させて、米海軍と共同作業を行っている。日米安保条約など。当時はなかったにもかかわらず。
それなのに、どうして日本軍が彼女を拉致しなければならないのか。
この辺りに、「何となく、悪い奴は悪いし、いい奴はいい。理由なんて必要ない」という、過去数十年間ハリウッド映画を貫いてきた「善悪雰囲気主義」が見える。
冒頭にも言ったが、ミステリーというのは荒唐無稽な話を、それらしく見えさせるテクニックが必要だ。それだけに、「ヒストリー・チャンネル」が、日本軍によるイアハート拉致説に、どれだけ説得力のある理由を見つけられるか、楽しみにしようではないか。
もし、できなかった場合は、次のような表題で記事を書いてやろうか。
Silly, stereotypical, stupid sensationalism still survives
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