地震が来た時、利用者さん宅でお風呂場掃除していました。

古い日本家屋の豪邸…(仮名)クマさん。80才のおじいさんの一人住まい。

お元気なんですが、歩行が少し不安定。よく転びます。

だからって、いつもヘルメットかぶってるわけにもいかないから、とりあえずいつも毛糸の帽子かぶってます。


ガラス格子の多いクマさん宅。


やけにガラス戸がガタガタいってるなぁ…風が強いのかなぁ…と思っていたら、だんだんグラグラしてきて、地震だと判りました。


さあ、大変! クマさんの安全確保しなくちゃ~と、プロ意識に目覚めているうちは良かったけど、長い廊下を歩いているうちに、グラグラ・ガタガタ、なんとかクマさんのいる書斎まで行くと、クマさん意外と落ち着いて

「ほおぉ…地震だねぇ」と。

お介護・直は「そこ、ダメです!タンスから離れて下さい、上の荷物が落ちてきます」と言った瞬間、ドタッとタンスの上の段ボール箱が落ちてきました。ほら、だから、ノンキに構えてちゃ、ダメ~!


とりあえず、縁側と云うか廊下と云うか…とにかく、すぐに庭に出られる場所にクマさんと移動。


日本庭園のような庭全体が、揺れてる。恐ろしい光景。


梅の木も、椿もワサワサと揺れ、長い廊下のガラス格子戸は、もう、ガタガタ…。応接間の方から、壁に掛けてあった絵画とか、写真とかが、ガシャッドンッと音を立てて落下。


ああ、私の人生で最大の地震。


何だか、夢を見ているみたいで、でも、心底怖かった。


第一波が治まると、クマさん冷静に庭に下りて「ああ、瓦は落ちてないね」と。肝が据わってると言うか? 判ってんの?と言うか。


普段は「膝が痛い」「腰が痛い」と言って、歩行不安定なのに、妙にシャキッ手として、杖つきながら冷静に家屋の点検。

「ああ、ここに小さなヒビが…」と。

確かに、縁の下のコンクリートの部分に真新しいヒビが入ってました。

ホント、冷静。


で、一回りして家に入ると「じゃ、テレビ観てみよう」と。


テレビ付けて、びっくり。

凄い地震だったんだ。

「おおッ、津波だ」と、クマさんはテレビに釘づけ。

そんなこんなしていると、2度目の揺れ。これも大きかった。

でも、クマさんは冷静に「大丈夫、この家は潰れないから」と。

潰れたら困ります。命ないもの。


さて、クマさんに「くれぐれも気を付けて帰りなさい」と心配していただいて会社に帰ると、電話不通。同ビルに住む利用者さん宅は、運悪くガラス戸が割れていました。

ここからは、もう、ただひたすら安否確認あるのみ。

(皆さんもそうだったでしょう)


職場でスタッフと簡単な相談をして、とりあえず、全ての訪問サービスが終ったら、事務所にいちど集合。この時点で、電話、メール不通。電車・バスはストップ。


我が介護センターの一人暮らしの高齢者さんから優先で、安否確認。


①96才、超老朽住宅にお住まいの(仮名)マツおじいさん。

開口一番「関東大震災よりまし」と。ご無事。


②88才一人暮らしの(仮名)トクおばあさん。心配して緊急訪問しても「あんた誰?」と警戒して、玄関のドア開けてくれず。うんッこのくらい用心深いほうが良い。はい、ご無事でなにより。


スタッフ皆で回って、利用者さんには異常なし。皆さんご無事で何より。


 



認知症でも一人で暮らすセキ(仮名)さん。


心が暖かくなるのは、介護しているお介護・直の方が癒されているから。


仮名ですが、セキさんは85才。足腰は大分弱くなりましたが、まだまだ歩行は安定。ゆっくり行えば掃除・洗濯・炊事も自分でやります。


セキさんは一人暮らし。

地域の民生員さんに勧められて介護認定を受け、要介護1です。


一人暮らしが出来ているのに「要介護」

なぜなら、セキさんは認知症なのです。


昔のことは良く覚えているセキさん。

子供は2人。娘さんは九州。息子さんは静岡です。

ご主人は3年前に亡くなり、お仏壇を何より大切にしているセキさんは、時々「あれッ? おとうさん、死んだっけねぇ?」と。


短期的な記憶障害が進んでいるので、最近では10分前のことも忘れます。


とある、寒い日の出来事…。


こんにちは~と訪問した私。


セキさん「あれッ? 学生さんだったかな?」

私「あははは…」

セキさん「そうそう、20才の人よね」

私「ぎゃははは…そうで~す」

とまあ、こんな具合。

寒い日だったから、セキさんは「寒くない?」と心配してくれました。


セキさんは、可愛い系の「お婆ちゃん」です。


白い髪は、マルチーズかスピッツのようにパール色の白髪で、綺麗です。

色白さんで、目がクリクリして、リップクリームのオレンジ色が映えます。


身長140㎝・体重45㎏ 小柄で、ちょっと背中が曲ってますが、全体的に醸し出す雰囲気が若々しいおばあちゃんです。


性格は素直で優しい。何にでも好奇心を持ち、数年前、アメリカ大統領選の時には「オバマ派」で、応援していたそうです。

理由…セキさん曰く「白い方(白人)の名前しらないンだよね」と。

セキさんの応援のかいあって、オバマさん当選でしたね。


さて、ヘルパーの私に、セキさんはしきりに「寒くないか?」と。

実は、石油ストーブは危ないとの理由で、静岡の息子さんがエアコンと電気温風機を買ってくれた。寝る時は電気毛布。

でも、セキさんは気に入らない。

「だって、これじゃ餅焼けないンだよね」と。

セキさんにとって、使い慣れた古い石油ストーブは、暖房手段でもあり、調理の手段でもあったのです。

「餅焼けない」「味噌汁作れない」「お湯沸かせない」の3重苦に加え、エアコンと電気温風機は「暖かくない」のだそうです。


で、しきりに「寒くない?」とヘルパーに聞いています。


実際、寒くはありません。

エアコンは程良く室内全体を暖め、電気温風機は加湿器搭載だから、湿度も程良い。

でも、駄目なんです。セキさんには。


セキさんにとって、暖房器具とは、煮炊き出来るほどガンガン暖かく、それ以外の時は薬缶を乗せて、いつもお湯がシュンシュンいって湧いていなくちゃ、駄目。


息子さんは、離れてくらす認知症の母親のために、マイナスイオンで空気が綺麗な高いエアコンを設置し。足元のために電気温風機を買い、電気毛布。こうなると、今のままだとすぐヒューズが飛ぶから、アンペアを上げ、結構なお金を使って、親孝行…のつもり?


しかしセキさんは、石油ストーブと云う大好きな暖房手段を取り上げられ、

調理手段もなくなり、お湯も沸かせず、挙句、あまり暖かくない、となれば面白くないのは解ります。

だから、セキさんはヘルパーさんに「寒い」と言って欲しいンです。

そして「ヘルパーさんが寒がる」と云う理由で、石油ストーブの奪還を目論んでいるのです。


セキさん「ねぇ~寒いよねぇ~?」

私「ううん、大丈夫。私、ユニクロのヒートテック着てるから」

途端、セキさんのクリクリした目が輝く。

セキさん「あらッ? 何それ? 暖かいのぉ~?」

私「ハイ。とっても暖かいンですよ」

セキさん「じゃ、私も買おう! 何て言う下着?」

私「ユニクロのヒートテックです」

セキさん「待って、メモしとくから。ほら、私って、すぐ忘れちゃうでしょう?」

私「まあ~。そうですね」

と云うわけで、セキさんはメモしていました。


ふふふ…。

この会話、もう5回目です。


セキさんは、何でもメモしますが、メモしたことを忘れます。


その忘れたメモ用紙が、意外な所からみつかって、楽しい。

前回は下駄箱の中。その前は冷凍庫の中。その前は…???


で、先日もメモ用紙がシルバーカーのポケットから出て来ました。

書いてありました、鉛筆書きで、セキさんの字で、

ゆに黒の人テック」って。


認知症とは、病気であって、

人間がポンコツになったことではありません。


認知症になっても「個性」は残ります。


キラキラした目で「ユニクロのヒートテック」に憧れるセキさん。

優しく「ヘルパーさん寒くない?」と聞きながら、虎視眈々と石油ストーブ奪還を企てているセキさん。

85才。中程度の認知症あり。最近のことは憶えられないけど、若い頃からの自慢の糠床で作る「お漬物」は抜群に美味しいです。



ヘルパーさん、あなたは利用者の「家族」でもなければ「女房」でもありません。まして「支配者」ではないのです。2011年1月13日(木)


お介護・直が、今でも忘れられない、そして教訓にしている出来事をお話ししたいと思います。これは、ほんの一例です。訪問介護と云うのは、利用者さんのお宅を一軒一軒回って、そのお宅の中に入って仕事をするので、どうしても利用者さんの「プライバシー」に触れてしまいます。これは仕方のないことです。だからこそ、訪問するヘルパーには、厳しい「個人情報の秘密保持」の義務があるのです。プロとしての義務です。


でも、ヘルパーさんの中には、ごく稀に、この「プロに徹した仕事」よりも「人情に徹した仕事」をしてしまう人がいます。

「まぁ、良いんじゃない。人情はあったほうが、温かい感じがする」なんて言わないで下さいね。 

訪問介護ヘルパーが「プロ」になりきれないまま「人情」や「同情」を振りかざした時、利用者さんにとって、思いもよらない、そして、取り返しのつかない不幸にみまわれる時があるのです。


エピソードファイルNo2


ハナ(仮名)さんとお嫁さん。


ハナさんは85歳。その昔は短距離ランナーの選手だったそうです。ハナさんは東北の貧しい農家の次女で、本当なら高等小学校を卒業したら働くはずだったそうですが、短距離選手として優秀だったので「恩師の取り計らい」で東京の学校に進学。国体にも出場して、就職も、某大手商社に入社したそうです。

そう言われてみると、ハナさんは、同年代のお婆様方よりも背が高く、姿勢も良かったです。でも、とっても女らしくて、優しくて、84歳まで編み物や短歌創りや、お散歩に行って草花を観察して「絵手紙」なんか作っていました。 


そのハナさん、ちょっとしたことから転んでしまい、大腿骨骨折! 手術の後はリハビリをしたけど、車椅子の生活になってしまいました。


ハナさんは、もうずっと前にご主人を亡くして、息子さん夫婦とお孫さんと同居生活をしていました。


お嫁さん、と云う人は、性格も言葉使いも「キツイ人」で、前々からハナさんに辛く当っていたようなのですが、ハナさんが家事を手伝ってくれていたので、まだマシだったとか…。ハナさんが車椅子生活になってからはアカラサマに「ああ、もうッ年寄の世話なんかしたくない」とか「お義母さんッ甘えてちゃダメよッ手伝いませんからねッ」とヘルパーの前でも平然と言ったり、ヘルパーが訪問すると、家族は皆で外食に行き、ひとりポツンとハナさんだけが家にいたり…。確かに、あまり良い話は聞きませんでした。


ご近所の人達、特に主婦達は、ハナさんの家に、当時はまだ珍しかったヘルパーが通っているので興味津々。中には「頂き物のおすそ分け」なんて言って、スーパーで買ってきたようなお菓子を持って覗きに来る近所の主婦もいました。そして必ずヘルパーに「ここのお嫁さん、意地が悪いでしょう」とか「ハナさんの年金を取り上げているのよ」とか、いろいろ吹き込んでいきました。運良く、月・水・金に通っていたヘルパーさんはベテランで、噂話にはあまり耳を傾けず、ハナさんの介護(トイレ介助・入浴介助など)に徹して、お嫁さんにも「労いの言葉」を掛けていました。


さて、困ったのは火・木に通っていたR河さんと云う60代のヘルパーさん。

仕事そっのけで「ハナさんに同情」家族は外食で贅沢しているのに、ハナさんは残り物のおかずに味噌汁だけ…と言って、自宅から鍋抱えてハナさんに肉じゃがを持ってきたり、寒い冬なのに、と、自分で編んだひざ掛けもって来たり…肝心要のトイレ介助は? 清拭や口腔ケアは?

当のハナさんは、R河ヘルパーに感謝して良いものか、丁重にお断りすべきか悩んだ挙句、当時ヘルパーステーションの責任者をしていた私、お介護・直に相談してきました。


「ありがたい、とは思うけれど、私は小食だし、寒がりじゃないし。それに、嫁が性格キツイのは昔から。もう慣れているし、あれで可愛いところもある」と言うのがハナさんの本音でした。


そうなんです。家族には家族しかわからない歴史があるんです。それをヘルパーが土足で踏みにじることは出来ない。ハナさんの「あれで可愛いところもある」と云う言葉に重みを感じます。


私は、私の権限で「ヘルパー交代」にしました。


ところが、ヘルパー交代を告げられたR河さん、な、何と、自分の訪問最後の日に「ハナさんのお嫁さんに大説教」懇々と「義理の母親でも大事にしろ」「鬼嫁」「自分勝手・身勝手」とここぞとばかりに言ってしまいました。


R河さんは気分良かったでしょう。

自分は正義の味方。人情の人…。

でも、違います。

R河さんのやった事は、ハナさんとお嫁さんとの間に、深い深いミゾを作る結果になりました。しかも、取り返しのつかない。


キツイお嫁さんは、近所からどう噂されようと、これまでマイペースでハナさんと暮らしてきた。ハナさんもお嫁さんの性格を知った上で、お互いにいがみ合うことは避けてきた。お嫁さんは、私の眼から見ても、決してハナさんの介護に熱心ではなかったが、放棄もしていない。

ハナさんは、残りの人生を「少々性格はキツイが、心底から悪い人ではないお嫁さん」と、自宅で、家族に囲まれて暮らしたいと思っていた。


だが、R河さんの不用意な言葉で、最終的にはハナさんは「特別養護老人ホーム」で残りの人生を過ごすことになってしまった。

そのくらい、家族間の問題は難しい。


家族と云うものは、外側から判るものではないが、チラリと内側を覗いたところで判るものではないのだ。


テレビドラマの「家政婦は見た!」の気分で、訪問介護ヘルパーをするのはやめてほしい。傍から見たら理解出来なくても、家族には家族の、夫婦には夫婦の、暗黙の了解やルールがあることを忘れずに。


訪問介護ヘルパーに、冷酷になれ、と言っているのではありません。

与えられた環境の中で、冷静に状況判断をして、まずは訪問介護計画に則ったサービスを提供し、かつ、温かい心で、どうしたら利用者にとって最良の介護が出来るか? 住み慣れた地域で、自宅で、どうしたらヘルパーとして最善を尽くせるか?しかも介護保険サービスのルールを守りつつ。


これは、とても難しいことです。

自宅から鍋抱えて持って来て「鬼嫁!反省しろ!」と言うほうが簡単。

ただし、自己満足でしかない。


訪問介護は「気を使う、移動が大変、仕事がきつい」と言われるけど、本来、人間は自分の家でくらす動物。

私、お介護・直は、在宅介護が好きです。そして、本当のプロの仕事が出来る「心優しい、高い技術を持った、素晴らしいヘルパーさん」を育てて行きたいんです。