外は雨が降り始めている。

作戦室には総司令官の順海大僧正を始め、参謀長兼裏吉野防衛隊司令官の孝顕、作戦本部長の杉浦昌少将、私、遠藤妙子、兵站担当の嶋田屋嘉平、傷が癒えて戦列復帰したばかりの福永玄庄少将、裏吉野僧兵隊の近祐大佐、裏熊野防御隊司令官の雑賀孫四郎、裏葛城警備隊西部管区司令の里川紫織予備中尉、裏高野山僧兵隊長の斉空中佐相当官、裏龍神警備隊隠れ里総軍派遣隊の世是夫中尉他主要な指揮官が集まっていた。

順海大僧正が話す。
「ご多忙の所、お集まりいただき感謝しています。皆様が御承知の通り、裏高野山を始め裏吉野、裏葛城、裏熊野、裏龍神は日本政府の政治的圧力と自衛隊の侵攻によって存亡の危機に晒されています。ここまで日本政府や自衛隊、それを支援する米軍と互角に渡り合えたのは作戦本部長杉浦少将の知略及び機転と嶋田屋さんの武器弾薬や食糧、医薬品の補給と新日本帝国からの武器援助があったからであると思いますが、自衛隊の戦闘、兵站能力及びハイテク兵器は我々よりも非常に強力で侮りがたく、このまま推移していけば吉野山が自衛隊に制圧されるのは目に見えています。裏吉野の政治、経済、軍事の中心である吉野山は隠れ里総軍とその中核である裏吉野防衛隊の最重要根拠地でここが自衛隊に制圧されるということは隠れ里全域が制圧されるのと同じである。そこでこの状態を覆し独立を全うするため、磁気嵐による暴風雨を利用して最後の攻勢をかけ、自衛隊を裏葛城や裏吉野から駆逐し有利な条件で講和に持ち込むことを考えています。作戦の詳細は杉浦少将から説明するので周知されたい。」

磁気嵐の中では自衛隊ご自慢のハイテク兵器は使えない。
しかも数日間続くであろう暴風雨はやり方次第でこちらにとっては幸運の数日間になり、向こうにとっては悪夢の数日間になるであろう。
練度不足、ローテク装備、おまけに寄せ集め部隊の集まりである隠れ里総軍はその数日間で勝負をつけなければならない。

昌が説明を始める。
「最後の攻勢に必要な式神の兵士が新たに5万人揃いましたので各々方に割り振っていきたいと思います。福永さんには2万人の歩兵師団を率いていただき松永少佐、平田中佐の遊撃隊と一緒に大淀、五條郷に展開している敵に正面攻撃を仕掛けて大淀、五條郷を奪い返して貰いたい。」
「承知した。」
福永少将が大声で言う。
「里川予備中尉は2千人の歩兵連隊を率いて裏葛城平野部へ展開し、敵の警備部隊を撃破しつつ後方撹乱を行って貰います。」
「了解しました。」
里川詩織がウインクしながら快諾する。
普段はメイクしない里川だが、この日はピンクの口紅をさし、アイシャドーをしている。
昌を意識しての事だろう。
「雑賀孫四郎さんは1万6千人を率いて貴志川郷から平野部へと進出し港湾施設や飛行場を奪取した後、裏吉野方向へ進出し福永少将の歩兵師団と松永少佐、平田中佐の遊撃隊と連携し、敵を挟み撃ちにして貰いたい。」
「心得まして候う。」
「裏吉野僧兵隊長近祐大佐は吉野山の警備及び残敵の掃討及び降伏した敵兵の武装解除をお願い致します。また、裏高野山僧兵隊長の斉空中佐相当官と裏龍神警備隊裏吉野派遣隊長の世是夫中佐は裏吉野僧兵隊の指揮下に入り、掃討戦の支援をお願いします。」
「杉浦さん、これは承服致しかねるのう。」
裏吉野僧兵隊長の近祐大佐が難色を示した。
「何故ですか?」
「我が僧兵隊は裏吉野きっての常備部隊であり、兵士及び指揮官は裏吉野各地の寺社にいる僧侶や神職の中から身体壮健なる者を選び、毎日訓練を施してきました。これを十分に活用しないのは僧兵隊の指揮官として慚愧の念に耐えません。」
「お気持ちは解りますが、作戦の成功は各々が割り当てられた任務を着実にこなして初めて勝利を掴むものと思います。」
どちらの言葉にも一理ありと思いながら私は二人のやり取りを見守った。
玉峰坊が二人の間に入る。
「どちらも一理有りますが昌殿、ここは曲げて近裕殿の主張を容れた方が良いかと思いますが如何じゃな?」
「そうなると町衆や各寺社から抽出した吉野山巡警隊を充てるしかないですね。
吉野山巡警隊は吉野山に所在する寺社と町衆の中から17歳から45歳迄の男女で構成され、指揮者は人望厚い玉峰坊で源峰坊と百合が補佐している。
「儂は構いませんぞ。昌殿が仕立てた作戦じゃ。カッカッカ!」

「装備品が不足しているし、錬度も不十分では戦えないのではないか? 」
「近祐、創意工夫でなんとかするよ。無いものは自分達で作り、無理な戦闘は出来るだけ避け、攻められたら退き、退いたら攻めるのゲリラ戦で臨むよ。役の行者様が裏吉野を開かれて間もない頃、朝廷軍が攻め寄せてきて葛城や吉野が制圧され、更に裏吉野の存在自体が脅かされそうになった。その時、役の行者様は前鬼、後鬼と自分に付き従ってきた大勢の人々に、山の民の戦いは攻め寄せられたら退き、退いたら攻めるの繰り返しぞと仰った。ここでそれをやるのよ。」
「成る程、さすが裏吉野きっての知恵者と言われただけの事はあるな。」
近祐は笑って言った。
装備の殆どが自衛隊や警察機動隊やSAT、米軍からの捕獲品を町衆の武器職人が整備し保管していた。
弾薬も町衆の弾造り職人が旧式の工作機械も用いての手作りである。
飯貝の整備補給厰では捕獲品の整備へは手が回らない。
玉峰坊は町衆の武器、弾造り職人に話をつけ、天川郷の武器庫に保管されていた捕獲兵器を再整備させていたのである。
これで役者は揃った。
私は遠藤妙子戦況分析官や椿情報担当官や佳奈、美鶴、友子、真希、佳美と一緒に司令部で昌の仕事を補佐することになった。







隠れ里総軍総司令官発令で大暴風雨対策を行いつつ、防御戦を行う事になった。

私は桃山地区への飛行場建設の中止を提言し、採択されると玉峰坊を通じて山衆へ中止を命じた。
その日の夜、上空にオーロラが現れた。
「いよいよ暴風雨がやってくる。」
順海大僧正は呟く。

大暴風雨という状況のなかでの作戦は困難が予想された。
五條、大淀郷にいる敵に気付かれずに包囲し、攻撃を加える。
同時に金剛山中で籠城している裏葛城警備隊へも反撃指示を下さなけ ればならない。
里川紫織予備中尉率いる遊撃隊や雑賀孫四郎裏熊野防御隊司令官にも指示を下していく。
連絡業務は椿が受け持ってくれた。
晶と私は隠れ里解放作戦 special stormの立案にかかる。
五條郷へは真希率いる別動隊3千を向かわせ、敵の背後に回らせる。
松永少佐率いる主力部隊5千は正面から攻撃を加え注意を引き付ける。
平田中佐の龍門郷警備隊は大淀郷に侵入し側面を衝く。

夕方、司令部作戦室で最後の作戦会議が開かれた。

あと4話ほどで終わります。

次の小説は

仮想戦記  重工作艦秋津洲 奮闘記を予定しています。

あらすじ

太平洋戦争に遡る。
真珠湾攻撃を皮切りに太平洋、インド洋で猛威を奮っていた南雲機動部隊は1942年6月、ミッドウェー海戦で空母赤城、加賀、蒼龍、飛龍を失った。
連合艦隊にとっては大打撃であった。

工作艦明石の他に本格的な工作艦が必要である。
随伴していれば沈むフネを1隻でも多く救える。
連合艦隊司令長官 山本五十六は福留参謀長と黒島先任参謀を呼び工作艦の増強について意見を求めた。
黒島先任参謀は舞鶴軍港で朽ちるにまかせていた秋津洲を再利用することを提案する。
舞鶴軍港に係留されていた秋津洲は数奇な運命を辿る事になった。