昼寝をしないと 夜も落ち/\眠れない -23ページ目

昼寝をしないと 夜も落ち/\眠れない

おじょぉ の詭弁に満ちた日々

夏バテをして食欲が減退するなんてことは、今迄一度も無く、これから先もなさそうなのだが、
扇風機の風に当たり過ぎた身体が目に見えぬ脱水状態を引き起こし、
抱えきれぬ「だるさ」で押しつぶされそうになる。

涼を求めて彷徨にはまだ暑く、だるさが両足首を掴んで放さないので、
陰と重ねるようにひきずったまま出掛けた。
冷えた冷蔵庫内に迷い込んだ錯覚を楽しみながら周るスーパー店内では、
大放出された鰹のたたきが保冷棚に鎮座している。
丁寧に切り身にされた鰹のたたきは、けんの上に行儀よく並べられ、
ポン酢と擦り生姜の袋を座布団にし、きざみ葱を少量散らした状態でパック詰めにされている。
その横には、鰹節のような勇ましい出で立ちでパック詰めされているブロック状態のものもあったので、150円引きシールの貼られたブロックの方を選んだ。

鮮魚コーナーの棚に置いてあるが、生魚を切り身にしたお刺身でもあり、焼き魚でもあり、
ひとつ手を加えられた調理済みの惣菜でもある。
味はもとより、料理の手間を取らせずに、すぐに食べられるというところも、
私を魅了して止まないところだ。
夏バテというのは食欲減退するわけではなく、料理を面倒だと感じてバテてしまうだけで
食欲は充分にあり、手間がかからない食材は大歓迎だなとひとりごちた。

ドアを開けると、あたたかな香りが玄関先にまで漂っている。
帰宅した頃合いで炊きあがるようにセットしていた炊飯器が、
暗いキッチンの隅で炊飯ランプを点していた。

一旦鰹は冷蔵庫へ。
白米を丼によそい、穀物酢を馴染ませて酢飯をつくる。
手際よく酢とご飯を絡ませていくと、つんと甘酸っぱい湯気が鼻をくすぐった。

鰹を冷蔵庫から出してお好みの厚さに切っていくのだが、ここが一番難しいところで、
厚過ぎでも薄過ぎでも美味くない。刺身は切るだけだと思ったら大間違いで、
包丁の切れ味や魚に刃を入れる角度、そして絶妙な厚みを持たせているからこそ、
美味いと感じられるのだ。


まだ少し温かい酢飯の上に鰹のたたきを敷き詰めてゆき、贅沢にもさらに一段重ね乗せて、
白飯の姿をすっかり隠した。
小口切りにした葱をたっぷりと乗せ、ポン酢をくるりと回しがけする。
あとは食べる時のために、生姜とニンニクも用意した。
鰹のたたきが本場とされる高知では、生姜よりもニンニクで食すことが多いそうなので、
食通を気取って毎回試している。

まずは鰹のたたきだけをひと切れ口へ放り込む。
本日の鰹は解凍ものではないので、脂が乗っていて正に鮮魚!
と膝を打って叫びたくなるほどに美味い。
焦げた表面の香ばしい香りと、脂からほんのり感じられる甘味が舌の上で解け合ったところで、
大きく鼻から深呼吸をした。

ここで酢飯を一期に頬張りたいところではあるが、ガツガツかき込むことはせず、
ここは慎重に味わおう。

酢飯と葱を鰹の切り身で包んで、寿司を一貫。

何度も箸で寿司を作り上げては、生姜とニンニク2種類の薬味を交互に乗せ変え、
奥歯が見えるほど口を開けて舌に乗せる。

解凍ものとは、これほどまでに味わいが変わるものかと驚き、これを知ってしまった以上、
もう後戻りはできない味覚変動を受け入れなければいけない。
今まで美味く感じていた解凍ものは何だったのかと、自らの舌を訝り、
鍛え直さねばならぬと誓いを立てた。

最後に少しだけ余った酢飯をかき込んで、今は腹に納まっている鰹の余韻を楽しむ。

またすぐにでも食べたくなるであろう鰹のたたき。
財布と相談したあげく、諭された後にうっかり解凍の鰹のたたきを買ったとしても、
今夜の記憶を呼び起こして、能を欺く準備はできた。

冷えた麦茶を飲みながら、一粒の米も残っていない丼を眺め、胃のあたりをやさしく摩った。