故郷の福島県の阿武隈山麓の盆地は全国でも有数の猛暑の地域だ。

私は子供の頃、夏休みになるともっぱら町はずれの阿武隈川のダムの下で泳いだ。

泳げば涼しくなる。

田舎は海から遠く離れているし昭和20年代の学校にはプールなどはなかった。

ダムの上は遊泳禁止だったが、ダムの下は流れも穏やかで泳ぎやすかった。

あちこちに大きな岩がゴロゴロしていたので、適度な距離の岩から岩へと泳いだり、岩の上から飛び込んだりして楽しんだ。

私は海よりも川で泳ぐほうが好きだ。

泳ぎやすいし川の水は温かく何せしょっぱくない。

就職して初めての海で泳いだときには、遊泳禁止場所に出てしまって目に見えない潮に流され泳げども泳げども岸に着かなくて本当に焦った。いま思い出しても冷や汗が出る。

最近、時々、川で溺れる事故の報道を目にするが、海であれ川であれ慣れていないところは危険ということだろう。

ダムの下で泳いで疲れると、岩の上に寝そべって空を見上げた。

夏の晴れた日には必ず入道雲が現れていた。

私がいま住んでいる千葉の入道雲は、上空の風が強いせいか、形がはっきりせず大きさも小さくて輪郭がぼやけている。

それに比べて阿武隈山麓の入道雲は超巨大で、上へ上へと伸びて行って時にはあまりに登り過ぎたせいか頂上が平らで横にたなびくこともあった。

形は、巨大なマシュマロがいくつも重なったようで、それぞれのマシュマロは輪郭と陰影がはっきりしており、ふ～んわりとしていて本当に真っ白だった。そして絹の白無垢のようにキラキラと輝いていた。

それを見て、いつも「あぁ、あの上に乗ってみたいなぁ」と思ったものだ。

夏の暑い日には毎日のように夕立が来た。

ここ千葉は夕立がほとんどない。

以前のブログでも紹介したが、高台にある実家の眼下は田んぼでその向こうは山また山だ。

夕立が来る時には、遠くの山から白く霞んできてそれが徐々にこちらに進んでくるのが良く見えた。

やがて目の前の田んぼのあたりまで来ると、「くるぞ、くるぞ、きたぁ～！」とばかり、大粒の雨が実家の庭を叩きつけた。

同時に、あれほど暑かった空気が嘘のように涼しくなった。

私は、目の前の雨で霞んだ水墨画のような景色が大好きだった。雨音で心もなごんだ。

実家は茅葺き屋根だったので、軒先から落ちる雨しずくで真下に小さな小川ができた。

そこに裏山の竹やぶから採ってきた竹笹で作った小舟を浮かべて遊んだのが懐かしい。

田舎の夏には雷がよく鳴ったが、ここ千葉の雷とはケタが違った。

最初はピカッと光ってしばらくしてから遠くで雷の音がするが、徐々に稲妻と雷鳴の間隔が狭まる。

そして、ピカッと稲妻が光った瞬間に「ゴロゴロ、ガラガラ、ビシャーン！」という猛烈な音とともにグラグラっと地響きがした。

「雷が落ちた！」とは何度も思った。ただ私は現場を見たことがない。

子供の頃は、この雷が本当に怖かった。

外の縁側に繋いでおいた飼犬もおびえて、「怖いよう！家の中に入れてくれぇ！」とばかりに壁をガリガリと搔きむしった。

大人たちから「屋根から煙を出すと雷が落ちない」と聞いていたので、雷が近づくと兄弟で急いで囲炉裏で火を焚いて煙を立ち昇らせた。

もちろん迷信だが、囲炉裏は家の真ん中にあるので「柱と離れて居なさい」という教えだったのだろう。

そのうち雨がザーッと降り出して雷はピタリと止んだ。子供心に本当にホッとしたものだ。

やがて雨もやむと、再び青空が広がって、涼しくて清々しい夕方がやってきた。

阿武隈山麓の昭和の風景と生活 ＜夏編＞「入道雲・夕立・雷」

阿武隈山麓の昭和の風景と生活＜夏編＞「入道雲・夕立・雷」