ともあれ平常時・臨終時における祖師大師への姿勢は、
覚鑁の『弘法大師講式』の一文
「平生の間には、世出世の 希願を遂げ、終焉の 剋には正念不乱の加護を蒙らん。生々に密教を亡失せず。世々に常に大師に値遇し奉らん。ないし有縁 無縁、普く利益に預かり同じく仏道を成ぜん。」㉕に認めることができます。
道範は覚鑁の教説により具体性を持たせているようにみえます。
また道範によって提唱されることになる八字の
「南無大師遍照金剛」は、
覚鑁の唱えた「南無高祖大師遍照金剛入定留身舎利」を
視野に入れながら、
入定・留身・舎利を巡る信仰に
異論を生じさせないための対応と捉えることもできましょう。
真言宗の開祖空海(774-835)に関する信仰を象徴する
御宝号「南無大師遍照金剛」は、
醍醐天皇から賜った「弘法大師」の諡号に端を発し、
『御遺告二十五箇條』等の御遺告類や
済暹の『弘法大師御入定勘決記』にみる
入定の趣旨と考証、
覚鑁の『弘法大師講式』に提示される
「南無高祖大師遍照金剛入定留身舎利」・
「日々の影向を闕かずして処々の遺跡を検知す。」
などの教説、道範)の『秘密宗念仏鈔』に示される
八字の御宝号「南無大師遍照金剛」の提唱や
信仰的な意味づけなどを経て、
大師信仰が形成されるに及んでいます。
『秘密宗念仏鈔』には
「南無大師遍照金剛」の八字御宝号と共に、
尋常行儀と臨終用心における宝号の別が綴られており、
その教理的淵源を覚鑁にまで遡ることができます。
註
㉕ 『興教大師撰述集』下・p. 3—4