平成二十八年の豪雪が少しおさまった頃、僕は地元富山県から福井県の鯖江まで仕事の出張で来ていた。

福井まで来て何の観光もせずに帰るのは嫌だったので、福井駅まで向かいお店に向かった。

 

 

豪雪のせいか女の子の出勤数も少ないのでフリーで入る。

そこで出てきたのは何やら不機嫌そうな、中肉中背の二十代後半と思しき女性だった。

何となく話しにくい雰囲気だったが、向こうから「普段は吉原で働いている」と言ってきた。

そこから、自分がいかに凄いかをプレイしながら力説し始めた(でも、何が凄いのかはよく分からなかった)。

 

 

吉原の勤務について聞くと、店外デートもすると言った。

彼女はプロ級のヤクルトスワローズのファンで、お得意様の妻子あるお客さんも同じ球団のファンだから、自由恋愛抜きにしてよく球場まで見に行くようだった。

野球のことを話す彼女は、先ほどの不機嫌そうな態度は打って変わって上機嫌になっており、それはとても素敵な笑顔だった。

 

 

そんな彼女に僕は「そのお客さんと〇〇さんは、まるで恋人同士みたいですね」と伝えた。

その時の彼女の表情を、僕は一生忘れることが出来ないだろう。

 

 

すごく嬉しそうな、だけどものすごく悲しみを背負った顔をしていて、軽く唇を噛んでいた。

どんなにそのお客さんが好きでも妻子がいるから一緒にはなれない、そんな現実を忘れるために彼女が東京から福井の田舎まで出稼ぎに来ているのかもしれないと思うと、本当に切なくなった。