「・・・皆を見送ってから行くんですか?」
「・・・・・えっ」
保冷材はどうしよう、考え込んでいた時に、チャンミンが声を掛けてきた。
そしてその荷物の中を覗き込む
また怒られるんじゃないんですか?
面白そうに笑う。
「うー・・ん。やっぱりそう思う?」
余り料理が得意でない僕の愛しいその人は
びっくりするぐらい食に関する興味が薄い。
だからつい心配になって、会えるときにはこうやってつくりおき料理を持って行ってしまう。
「おかーさんかっ」
うちのおかーさんでもこんな事しないよ
とあきれ顔だったり、時に面倒くさそうに受け取ること自体を拒否されそうになった事もある。
苦笑いのチャンミンと共に建物を出て
彼は徒歩、僕はタクシー。
それぞれの時間へ向かう。
こうやって5人全員が家を空けるっていうのも珍しいかもね
流れてゆく窓の景色を眺めながら、考えていた。
大体僕が、居残りは多いのかな・・・
そんな事に気付いて、ちょっとさみしくなった。
何故、昨日彼女があんなことを言ったのか
今日になって心配顔のスタッフさんを見て分かった。
いつものことだから大騒ぎにはならないけれど
念の為、とひと通り報告されて、何かの時の為の心構えにはしておこうと思った。
沢山の人が、僕らに注目している
それは今でも変わらないし、僕らの過去は変えようもないから
一つ一つ、積み重ねてゆくしかないしことも分かっているし
信じてくれる人は必ずいるんだと言う事も、今の僕らは確信を持っている。
どんな顔で、何を言えば
君を安心させてあげられるんだろう
滅多に会えない上に、いつも心配かけているばかりで
こんな関係が本当に恋愛関係と言えるのか
時々自信がなくなる。
「ありがとうございました~」
暗がりに踏み出す僕の背中に
陽気な運転手さんの声がかかる。
この角から少し歩く
エントランスの植え込みからぼんやりとした光が入りぐちの建物名を照らしている
よく磨かれた自動ドアを通り過ぎた後
オートロックの部屋番号を入力する画面がある。
「・・・早かったね」
驚いた。
数字を押そうとした瞬間後ろから声が掛かった。
振り向いたら、君が居た。
それだけが、嬉しかった。
「ちょっと・・・」
君が慌てている理由は分かっている。
でも、少しだけ。
頑張れている。
気にしないと決めている。
信じてくれている人も居る。
書き込まれている言葉の方が少数派だって知っている。
僕は、僕たちは、間違っていない。
それでも、誰かに寄り掛かりたい夜もある。
必死に取り繕っている笑顔を、忘れたい瞬間がある。
たまにしか会えない君に見せたくはないけれど
この温もりに救いを求めてしまうんだ。だから今は。
閉じてしまった自動ドアが強風に軋んでいる。
風に揺れる木々の葉の音がざわめいている。
君のゆっくりとした呼吸が、僕の耳元に聞こえている。
そう思った次の瞬間
「・・・・良い匂いするね」
含み笑いの密やかな声。
「え?あ」
抱き締める腕を緩めて、君に差し出した。
「晩ごはん」
「食べてないよ。ジェジュン食べた?」
打ち合わせも兼て済ませたよ。そう言うとずるい、と一言返して
「一緒に食べる?」
是非食べよう!
「ええちょっと待って僕今ちょっとダイエット中・・・」
だってツアーも始まるんだよ、映画の撮影もあるし、知ってるでしょ
慌てる僕は無視してオートロックを解除し颯爽と中に入って行く君
エレベーターに乗り込んだあと、僕の頬を掴んで君は言う
「このシャープな顎で、なんでダイエットなの?」
なんかむかつく
結構むきになって僕を非難する表情が可愛かったから
部屋に着くまではこの箱の中で二人きりだし
思い切って君にくちづけてみた。
秋の夜は、まだ、これから。
*****
