米澤穂信作「身内に不幸がありまして」は、少女が作る幻想世界に迷い込む一編。
「儚い羊たちの祝宴」の第一章を飾る作品です。
語り手は丹山家に仕える村里夕日。彼女の手記で始まる本作は、夕日が心から慕う吹子お嬢様のことが大半を占めています。
吹子は自他共に認める完璧な令嬢で、その振る舞いには一分の隙もありません。
そんな吹子は幼くして丹山家に召し抱えられた夕日に年近く、姉妹のように親密に育ちました。
夕日は読書家な吹子のため、秘密裏に本を買いに出たり、秘密の書棚を作ってやるなど、甲斐甲斐しく働きます。
10を過ぎたくらいの少女にそんなことができるのかと思わなくも無いですが、それだけお嬢様を溺愛していたのかもしれませんね。
なので序盤は2人の仲の良さが伺えるエピソードが多々挿入されていますが、そこはやはり暗黒ミステリー。曰く付きの事件が起こるのです。
時は吹子が大学に上がり、所属している「バベルの会」の読書合宿に参加する前のこと。
令嬢として完璧な振る舞いを身につけている吹子には、素行の悪い兄・宗太がいました。
人を殺めかけたこともある彼はある時、乱心状態で屋敷に戻って来たのです。
使用人をライフルで撃ち殺し、吹子と夕日にまで銃を構えます。しかしそこは完璧なお嬢様とその使用人。
応戦し、逆に右手を切り落としてしまうのです。(なかなかバイオレンス!)
しかし事件はそこで終わらず、宗太は行方不明になり、その次の年からまったく同日に親族が右手を落とされて殺され始めたのです。
まさに連続殺人事件。
事件の真相のネタバレは控えますが、読了した個人の感想としては、少々ぞっとしました。
大学生という年頃よりは、もう少し低い年齢を思わせる吹子と夕日の幻想世界は、やがてリアルにまで侵食していくのです。
こういった少女をテーマにした作品を読むと、「何歳までが少女か?」という疑問にぶつかりますよね……。
個人的には「精神的な少女」らしさによって決まる、と思っている派です。
代表的なのが夢野久作の「少女地獄」。
時代感覚のズレは否めませんが、「少女地獄」に登場するいわゆる"少女"たちの年齢は、どれも結婚ができたり働いたりできる年齢。
でも彼女たちの中には確固たる幻想世界があり、また悲劇的な運命を抱えているのです。
文学全般とは言えないと思いますが、ミステリーに「少女」わ加えるとどうしても悲劇を連想してしまうのは、私だけでしょうか??
話はズレましたが、吹子と夕日という2人の少女のキーとなるのが、彼女たちがこっそり共有している秘密の「書棚」。
その書棚が吹子お嬢様らしからぬラインナップ。
シェイクスピア「マクベス」、横溝正史「夜歩く」、海野十三「地獄街道」。
さらに言えば江戸川乱歩に夢野久作。
なんとも曰く付きの本ばかり。ミステリー・ホラーマニアには堪りませんけどね。
このラインナップが肝。気になった方は是非読んでみてください。