プロ野球選手であり続けられるのか。それとも、新たな人生を歩みださなくてはならないのか……。

 11月11日、球団から戦力外通告を受けた42名の今後を占う合同トライアウトが甲子園球場で行われた。

 当日は、雨だった。

 開催地や各球団の関係者などのスケジュールを考えると日程をずらすわけにはいかない。開催地が甲子園であることは間違いなかったが、「球場」ではなく「室内練習場」に変更された。球場であればスタンドが無料開放されるため、ファンも観戦できるはずだったが、それも叶わなかった。

 選手もこのことでプレーが大きく狂わされることとなってしまう。誰のせいでもない。すべては雨。これに尽きた。

即席のマウンドは使いづらく、打席も人工芝マットだった。

ブルーシートの上に即席で作られたマウンド。とりあえず土を盛ったというだけでは、さすがに十分な硬さと高さが出なかったようだ

 室内練習場にはブルペン以外にマウンドが設けられておらず、ブルーシートの上から即席で“山”を作る。打席も土ではないため、ティー打撃などの際に使用する人工芝のマットを敷くなど、自分たちの運命を左右する“舞台”としては悲しすぎる佇まいだった。

 参加者も戸惑うしかなかった。マウンドについては、「正直、投げづらかったですよ」と首をかしげる選手もいたし、「全然ダメ」と呆れ顔の者もいた。

 事実、この日投げた投手のほとんどが“ノーコン”だった。ワンバウンドや高めに浮くボールは当たり前。その度にマウンドの土を掘り返すなど、露骨ではないが苛立ちが窺えた。ここ数年、トライアウトを見させてもらっているが、全投手トータルで過去最多の四死球だったのではないだろうか。

 打席に関しては、それほど否定的な意見はなかった。「最初見たときは『嫌だなぁ』と思っていたけど、意外としっくりきた」、「自分のスイングができた」という声が多かった。このことから、今年は「打者有利」だったのではないか、とも思えるが、実際にはそうとも言いがたい。

結局、投手も打者も明確な評価ができなかった!?

 勘がいい人はトライアウト翌日の新聞記事を見て気がついただろう。注目選手だった阪神・今岡誠の打撃について<安打性の当たりが2本>と書かれていたのを。安打性――。つまり、打者にとっては明確な結果がないテストだった。

 プロ仕様の室内練習場とはいえ、球場に比べたらその広さは雲泥の差。天井も低い。内野ならまだしも外野を守るのは不可能だ。そのため守備はなく、内野と外野はネットで仕切られた。打者対投手の、いわばフリー打撃形式というわけだ。だから、球場ではライト前のテキサスヒットになるはずの打球が、周囲の認識としてはセカンドフライになってしまう。そんな具合だ。

 トライアウトでの合否は結果だけで判断されるわけではない。だが、'07年の小関竜也(巨人→横浜)のように2本塁打という明確な結果を出すことができれば、急遽、獲得の意向を示す球団も出てくる。結果は重要なのだ。

戦力外の男たちは、どんな条件でも言い訳は許されない。

 ただ、彼らは戦力外になった身である。ここは、今までのように言い訳が許される場ではない。「思ったより緊張しました。マジで、久しぶりに」と、独特の雰囲気を初めて体感した今岡の言葉がそれを物語っていた。

「バッティングに関してはね、自分でどうこうと言うんじゃなくて、見た方が判断することですから。やることはやったんでね、今日の結果で評価をしてもらいます」

 今日の結果で評価――。正直、この日の今岡のプレーはどこか気が抜けていたように思えた。キャッチボールやノックの動きにはキレがなかったし、打撃にしても往年の迫力は感じられなかった。当初は獲得を前向きに検討しながら、それを白紙に戻した広島の評価も分からなくもない。

 どのような結果になっても現実を受け入れなければならないが、オリックス・古木克明のように本音をポロリと漏らす選手もいた。

「バッティングでは自分のスイングができたと思います。ただ……守備が。今年1年ですごく自信がついたし楽しくできるようになったんです。守りが課題だと周りから言われていただけに、今回は汚名返上のチャンスだと思っていたんですけど」

 プレー環境もそうだが、選手たちにとって不運だったのは、監督がひとりも視察に訪れなかったことだ。'07年は楽天・野村克也、'08年は中日・落合博満が現地に訪れた。現場の最高指揮官の光った眼がそこにあれば、選手だって自然と力が沸いてきただろう。しかも監督はチームの補強ポイントを誰よりも把握している。

今岡、古木、三井、前川……晴天を信じて二次でもう一度!

 西武の三井浩二にしてもそうだった。全盛期の力はないとはいえ経験豊富な左投手だ。本人も「力を出すことができた」と言ったが、「左は欲しがる球団が多いのでは?」との問いに対してはいささか懐疑的だった。

「そう言ってくれる人もいるんですけどねぇ……。そればかりはなんとも言えないですよ(苦笑)」

 トライアウトは二次まであるが、一般的に一次で声がかからなければ、その後、日本の球団からオファーがくる可能性は限りなく低い、と言われている。現に、今岡や古木、三井をはじめ、「二次は受けない」と答える選手が多かった。なかでも日本での再起を誓う元オリックスの前川勝彦('07年に解雇後、米国へ)は、自らの過去を振り返りながらこう断言したほどだった。

「あの交通事故で初めて自分の甘さに気づきました。もう、甘さはありません。今回がダメなら力不足だと理解します。チャンスはこの1度だけ。二次は受けません」

 選手の気迫、悲壮感が驚くほど伝わるトライアウトだった。1回のチャンスに賭けるのは男らしい。だが、今回は条件が悪すぎた。二次トライアウトは25日に神宮球場で行われる。晴天になることを信じ、もう一度、死に物狂いでプレーしてはどうだろうか? 悔いを残さぬためにも……。