ロッテの開幕ダッシュの要因は西岡剛、荻野貴司の1・2番コンビが出塁し、井口資仁ら固定されたクリーンアップがランナーを還す、という得点パターンが出来上がっているからだろう。
昨年まではバレンタイン前監督がデータを重視し、試合毎にオーダーを変えていた。これでは選手が結果ばかりを気にしてしまう。そう感じていたのだろうか、西村徳文新監督は開幕前こう語っていた。
「選手を信頼して、固定したオーダーで戦いたい」
1番・西岡とクリーンアップはすぐに決まったが、唯一固定できない打順があった。2番である。果たして「つなぎ役」を誰にするのか。当初は早坂圭介が有力視され、石垣キャンプを終えた直後のヤクルトとの練習試合では、2番を任されていた。ところがこの試合、途中出場した新人、荻野貴司が見事な働きを見せる。西村が注目したのは、ヒットを放った打席ではなく、代走に起用された時のことだった。一塁ランナーの荻野は初球、いきなり二盗を決めたのである。
早坂との争いに勝利し、獲得した開幕スタメンの座。
「ああいう思い切りのいい走塁をしてくれると、次の采配がやり易くなる。新人で初出場、しかも初球。そういう状況では普通なかなか走れない。これからも使い続けてみたいね」
浦添の夕暮れの中、西村は嬉しそうに話してくれた。盗塁王に4度輝いた「足のスペシャリスト」の西村だけに、荻野の思い切った走塁の難しさが、誰よりも良く分かったのかもしれない。
次の日本ハムとの練習試合から荻野は2番に抜擢される。そして早坂とのレギュラー争いに勝利し、新人ながら開幕スタメンの座を勝ち取ったのである。
「オープン戦でホームランを打っても、そんなに評価されなかった。でも2つ盗塁をした試合の後、監督から『ナイス』と声をかけられました」
荻野自身も、自分の役割が何かをしっかりと認識している。
開幕から好調を維持している荻野だが、4月15日の日本ハム戦でスクイズを失敗。するとその翌日、朝早くから球場に入り、早出特打ちをする荻野の姿があった。
「この世界、ちょっとでも油断すると自分の居場所を失いますから」
雄星を差し置いて1位指名したロッテの選択は、間違いではなかったようだ。