朝のNHKラジオ、水野和夫先生のGDPのお話を聞きました。
今回のGDPプラス成長は、輸入品の減少やインバウンド需要の増加によるもので、好景気によるものではなく、生活者には関係がない。
そして、GDPに一喜一憂すべきでないと。
もはや経済成長が国民生活を向上させることはないというお話でした。
水野先生のお話は、経済を生活者目線で考えるもので参考になりますが、ニュースが株価やGDPで一喜一憂しているのを見ると、いったいどうすればいいのかなと悩んでしまいました。
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23年9月15日 GDPの高成長率を考える 水野和夫(法政大学教授)
9月8日、4~6月期のGDPが年率換算で+4.8%と発表された。
日本は失われた30年間の中で、成長率が0%台。それで考えると驚くべき高い成長率。
2つ指摘したい。
①高い成長率の数字の中身
②GDPに偏って経済を見る際の不都合
①高い成長率の数字の中身について、前期比や年率換算が独り歩きするが、4~6月期の状況が1年間続けば、4.8%増加ということだが、そう判断してよいのは、バブル崩壊、戦争、パンデミックなどのショック要因、例外状況がない、平常状態の場合だけ。
今回は、ウクライナ戦争や中国のデフレ懸念、欧米の金融政策など不安定要因が多い。1年間続くとは見ることはできない。
年率換算での数字は実体経済を反映していないということ。
不安定要因が多い時期は、前期比ではなく、前年同月比で見た方がよい。そうすると、4~6月期は、+1.6%増となった。何が数字を押し上げているのか。
前期比(1.2%増)の内訳を見ると、内需については、住宅投資、公共投資はプラス、設備投資と個人消費がマイナス。これらを差し引きすると、内需はほとんどプラス成長に寄与していない。
一方、外需を見ると、輸出が+3.1%、輸入が▲4.4%。輸入減はGDP成長率を押し上げる。外需全体ではGDPを1.8%も押し上げた。
今回輸入が減少したのは、原油など鉱物性燃料、コロナワクチンなどの医薬品、携帯電話が減少したため。今後1年にわたって継続的に同じ割合で減少するわけではない。
今回は内需ではなく、外需が押し上げたが、輸出は自動車などに加えてインバウンド消費が原因。輸入は需要減。つまり、好景気による外需とはいいがたい。
外需頼みで内需が活発になったわけではない。
今後、外需も中国経済や戦争の長期化もあり、期待できない。
個人消費はマイナス。成長が実感できない。7月の消費支出は5%減。5か月連続。7月の実質賃金は前年同月比で▲2.5%。16か月連続のマイナス。物価上昇に賃上げが追い付かず、消費者の節約志向が強まっている。
1997年から5回の景気回復があったが、うち3回が実質賃金が下落していた。
②GDPに偏った経済
経済が豊かになると、個人消費支出の対GDP比率が上昇して、生活者の満足度が高まるが、日本の場合、戦後から長期的に個人消費支出の比率の低下傾向が続いている。
日本は生産に励み、米国が消費を楽しむ構造が戦後から続いている。1990年代半ばまでは実質賃金が上昇していたため、将来生活が向上することを期待して貯蓄していたが、それ以降は将来不安のために貯蓄することになった。
つまり戦後の日本人は70年間にわたって我慢を強いられている。
GDP頼み、経済成長率一辺倒の中では、際限のない投資が行われ、必要のないものを生産する。労働時間は増加するが、今は物価ほど賃金が上がらない。
今回の経済成長は、生活者とは関係のないところで起こっている。
経済成長についてどのような考え方を持つべきか。
近代社会が経済成長を善としたのは、個人の暮らし向きが良くなることに加え、私的利益の追求が公共利益につながるという前提があった。
ところが今はそれが崩壊し、私的利益の追求がむしろ不平等、格差貧困、環境破壊、戦争などの不都合や弊害を生んでいる。
株価やGDPに一喜一憂するべきではない。せいぜい、実質賃金、失業率、貿易統計を見ておけばよい。経済成長が国民生活を向上させるというのは幻想だというのを認識すべき。