老齢基礎年金を繰り上げ受給していると、障害年金はもらえない、という誤解も


よくある誤解のひとつです。


私自身も、つい先日、某年金事務所で、加入期間・納付要件等の確認にいったところ


お客様相談室の職員さんから、「この方は、繰り上げ受給しているので、請求できません」と


『説明』を受けたばかりですので、書いてみようと思いました。


一般の方でしたら、そのまま信じてしまうかも知れないからです。



確かに、老齢基礎年金を繰り上げ受給していると、請求できない障害年金もありますが


全部ではありません。請求できるケースがあるのです。



例えば、私が確認に行った方のケースでは、その方は現在70歳台になっていますが


60歳前に初診日があり、かつ、通常初診日から1年半の障害認定日に2級に該当する可能性が


高いのです。初診日は相当前ですが、きちんとした病院で、カルテは永久保存してありました。


60歳まえに初診日があり、認定日請求できる場合は、基礎年金を繰り上げ受給していても


請求できます。もちろん、65歳以後であっても請求できます(この誤解もけっこうあります)。



60歳以上、65歳未満に初診日があり、認定日に障害等級に該当する場合は、わかれます。


初診日に被保険者である場合は請求でき、そうでない場合は、請求できません。



いずれにしても、一律に「請求できない」ということはありません。


発達障害のひとつ、ADHDによる障害で、ご自分で障害厚生年金を請求したところ


不支給となり、審査請求から依頼を受けました。



大学を卒業し、大手の製造業に就職したのですが、やはりどうもうまくいかない。


工場などでは、危険なところもあるのですが、注意を受けても守れない


どんなに絵に描いて、懇切丁寧に説明しても、うまくいかず、立ち入り禁止に。


ついに、説明している側が高血圧でリタイアしてしまう。


ご当人はもちろん、会社としても困り果て、診察を受けたところ発達障害と診断されました。


「あなたができる仕事は当社にはない」とまで言われたのですが


なんとか障害者雇用に切り替え、雇用は継続されましたが、やはり収入は激減。



審査請求では、会社の協力を得て、いかに労働が、著しい制限を受けているかを立証したところ


決定そのものを見直すので・・・という例の連絡がありました。


正式な決定通知書を待って、「審査請求書取り下げ」です。


なにはともあれ、裁定請求時からのものをまとめて振り込むという通知が来て一件落着。



発達障害での障害年金は、まだまだ、難しいものを感じます。


ただ、きちんと立証していけば、アスペルガーにしても、ADHDにしても、受給につなげることが


可能なのであり、あきらめないで専門家につながって欲しいと、心から思います。




(事例は、いつものようにデフォルメしてあります)


ここのところ、アスペルガー症候群などの発達障害を抱えている方からの依頼が続いています。


昨年の11月に、発達障害に対する障害年金の認定基準が新設されたのですが


そのことが、「今度発達障害にも障害年金が支給されることとなった」と一部では伝わったようです。



以前から発達障害も含むすべての精神疾患は、障害年金の対象とされているのですが


発達障害、なかでもアスペルガー症候群は、タイプにもよりますが、一見しただけでは、


なかなか、その障害がわかりにくい面があり、専門の精神科医でも理解されず


何度か転院を繰り返し、やっと診断できる医師と出会い正しく診断されたという経験談も、


何人かの方から聞きました。こういう経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。


そういうこともあって、発達障害では障害年金はでない、という認識もあったのかもしれません。



障害年金となるとさらに複雑で、通常気を付けなければならないポイントの他に


正しく障害の状態を反映した診断書を書いてもらうことも結構大変で


それなりの工夫・努力が必要になる、というのが実感されます。



また、都道府県によって、認定の基準にバラツキがあるのが実態で(本来おかしいのですが)


そのような場合は、審査請求、再審査請求までやることも覚悟しなければなりません。


当事者がご自分で請求したときは、どこかであきらめてしまう確率も高いのでは・・・とおもいます。



そのようなことを解消する意味もあって、昨年の認定基準の新設となったのです。


それでも、まだ、都道府県レベルでの認定のバラつきは簡単にはなくならないでしょう。


困ったときは、専門の社労士に相談してみてください。


私は現在、社労士会労働紛争解決センター東京のセンター長という公職についています。


いわゆる民間型の労働ADR機関=裁判外紛争解決機関の責任者です。


21年10月の開設から、私が実質的に引き継いだ昨年11月までに、


申し立が7件、あっせん開始が2件、和解がゼロでした。5件は相手が応じませんでした。



ところが、私が引き継いだあとは、申し立が3件、あっせん開始が3件、和解成立が3件と


まさに、パーフェクトの状況が続いています。


今月も4件目の申し立に対して、相手方(会社)も応じることになり、あっせんが開始されます。


ちなみに、これまでの申し立は、会社側が2件、労働者側申し立が2件と半々です。



個別の労働紛争は、白か黒か、100かゼロかという判定には、なじまない面がある場合が多く


権利義務の関係をじっくり詰めながらも、実情に応じた解決をさぐる、という


社労士会紛争解決センターのような制度のほうが向いている面があります。



ちなみに、おなじ「あっせん」を行っているところに、労働局の紛争解決センターがありますが


私の立場だから言うのではないのですが、労働局は行政サービスの一環として行っているため


行政効率をも追及せざるを得ず、例えばあっせん委員は実質一人ですし、原則1回3時間きりです。


私も何度かつかったことがありますが、非常にあっさりした印象です。



それに対して、社労士会東京の場合は、あっせん委員は複数なうえ、原則3回まではやります。


それは、じっくりと権利義務関係を詰めたほうが、最終的には和解につながるからです。


その分、あっせん委員(それと私)は、半分ボランティアとなるわけですが、


社会貢献のひとつとして、意気揚々としてやっているわけです。



先日も和解が成立したあと、労働者は「話を聞いてもらって本当によかった」と感謝の言葉を述べ


会社側代理人の弁護士さんは、「社労士会紛争解決センターは、いい。今後も利用したい」と


うれしい感想を残していかれました。



私の場合は、毎回ボランティアとなるのですが


「一隅を照らすもの、これ国の宝なり」という心境で、毎回やっています。




(最澄が本来使った意味ではなく、現在一般的に解釈されている意味で使っています)


(青木先生のインタビューの続き)


青木先生の博士論文のテーマの核心部分のひとつだと、私は思っているのですが


障害年金を受給すると、とくに精神疾患・障害を抱えている方にとって、


どのような意味・効果があるのか、ということは、非常に大事なことだとおもいます。


この点は、私は以前から関心を持っていて、PSWの資格をとった遠因でもあるのです。



障害年金は、第一に障害者の所得補償であることですが、効果はそれだけにとどまりません。


最近の実例をあげたいとおもいます、4月に受給に成功した方の例ですが


20歳前の障害(統合失調症)により、すでに30歳を過ぎた方です。


よくある話ですが、精神科にかかったのは20歳を過ぎた時期、しかも国民年金は未納でした。


10年以上、障害年金はもらえないと説明を受けてきて、あきらめかけていましたが、


なんとか、小児科の医師の協力で20歳前障害の証明ができ、この4月に受給が決定され


3月ひと月分が振り込まれました。



そうすると、不十分ながらも将来に対する不安がやすらぎ、希望をもてるようになると、


次第に精神状態が安定してきて、兄弟や友人との関係も修復し普通の状態に戻りました。


小児科の医師や現在の精神科の医師からも、障害年金の受給を「よかったね」と声をかけられ


やはり、気にかけてもらっているという、そのこともいい効果を生みました。


そして、圧巻は、長い間、当事者を支え続けてきた母親に、感謝の気持ちをもつようになり、


最初に入った年金で、母の日のプレゼントを買ってきたそうです。


このことをお礼を言いに来てくれたお母さんから聞かされた時は、涙をこらえるのに必死でした。



細かなことは触れられませんが、このことが、障害年金を受給できたことの波及効果であることは


間違いありません。自分も本当にやりがいを感じる部分です。



医療従事者やソーシャルワーカーさんの中には、一定数、障害年金の受給に懐疑的な方が


いるそうですが、全部が全部、紹介したような例ではありませんが、障害年金の受給には


障害者を前向きにさせる確かな力はあるようにおもいます。