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修行④

「はい。」


剛志はドアの方へ向かいドアノブに手をかけた。


トントンとドアをノックする音が再度したので


「はい。」


と言ってドアを開けた。


さっきの2人の少年である。


「あ、どうも。」


剛志は先に声をかけた。


少年は2人ともジャージ姿である。


1人はシャカシャカした生地のナイキの紺色の上下、もう1人はよく知らないメーカーの綿のジャージ上下である。


身長はナイキのほうが高く、180くらいはありそうだ。


もう1人は170あるかないか。


「自分、年いくつ?」ナイキが話しかけた。


「17。」


「俺らとタメじゃん。よろしくな。」


偶然にも3人とも同い年であった。


「部屋に入っていいか?」


ノンブランドが聞いてきたので2人を部屋に入れた。


「名前なんていうの?」


「剛志。」


「お前らは?」


「仁。こいつは秀彦。」


ノンブランドが答えた。


「あのさ、お前らってなんでここにいるの?」


「・・・」


2人は顔を見合わせ、


「色々あるんだよ。」


と答えた。


「親は心配しないのか?」


「しねーよ。俺らここに来てから学校休んだことないもの。成績上がってるし。」


「そんなこと聞いてねえよ。ここに住んでいることを親は納得してるのかって事を聞いてるんだよ!」


「・・・」


「言いにくいことなのか?」


「・・・」


剛志が一番気になるところは返答が無い。自分と同じ境遇なのか。自分の境遇もなんのことやらさっぱり分からないのにこいつらの境遇なんてさらに分からない。

修行③

そんなことで、殺人をした人の家に今晩から住み込むことになった。


1つ部屋を与えられた。


何も無い8畳位の洋室。


奥さんに布団を取りに来てと言われて布団を取りに向かった部屋は「布団部屋」と言っていいくらいの布団の数。


20セットくらいある。その中から、


「剛志君は大きいからダブルサイズがいるわね。」


と布団を選ぶ。


「ありがとうございます。」


と言って自分に与えられた部屋に布団を運んだ。


布団を敷いてみて寝転んでみたが何か落ち着かない。


それもそうだ、今日の展開は普通ではありえない展開なのである。


1、殺人現場を見た


2、見たことを殺人をした人物に見つかって捕まった


3、その場で殺されずに命は助かった?(今のところ)


4、殺人をした人の家で夕食をご馳走になった


5、その人の家で住むことになった


6、ここから学校に通学することになっている


そして最も不思議なのは、両親から自分に対して連絡が無いことである。


「森田さん」は「お父ちゃんには後で電話しとくわ。心配すんな。」って言ってたけど、普通知らない人から電話がかかってきて子供を預かっているなんて言うと、間違いなく


「誘拐!」


みたいな反応になりそうなものであるが、剛志の携帯電話にも一切連絡は無い。


本当に「森田さん」は電話をしたのであろうか。


自分から電話しておいた方がいいのであろうか。


そんなことを考えていると部屋をノックする音が聞こえた。

修行②

「ただいま。こいつ今日からお前らと一緒にここに住むからよろしく頼むで。」


「はい,、わかりました。」


どうやら「森田さん」の子供では無いようである。


「まぁ、メシでも食うか。こっち来い。」


「森田さん」は剛志をダイニングへ案内した。


テーブルには夕食が次々と準備されている。


さっきの女性は奥さんであろう。キッチンからお皿や箸やなんやかんやを運んでいる。


2人の少年はもう、どこかへ行っているようで姿は見えない。


「いただきまーす。」


「森田さん」が両手を合わせ、食べ始めた。


「早よ食えよ。」


剛志に食事を勧める。


「いただきます。」


剛志も食べ始めた。美味い!


「おいしいです。」


剛志が言うと


「ありがとー。私が作った料理をおいしいって言って食べてくれるのが一番うれしいのよねー。」


と言って奥さんが横に来て話し始めた。


「名前は?」


「剛志です。」


「どんな字?」


「ごう・・・こんごうの・・・に、こころざす・・・」


「はいはい。年は?」


「17です。」


「学校は?」


「北斗高校です。」


「あら、ここからすぐじゃない。ここから通うの?」


「・・・はい。・・・みたいです。・・・」


剛志は「森田さん」の方をチラッと見たが、黙々と食事をしているだけで、こっちの会話に入ってくる雰囲気ではない。


「あのー、奥様ですか?」


恐る恐る聞いてみた。


「そうよ。森田しずか。32歳よ。子供は今の時点で3人。剛志君を入れたら4人。」


「はぁ、そうですか。」


なんだ、オレはこの家の子供になるのか?家で待ってる父ちゃんや母ちゃんはなんと思うんや?学費は?食費は?小遣いは?友達を家に呼んでもいいの?・・・


「お父ちゃんには後で電話しとくわ。心配すんな。」


「森田さん」はそれだけ言ってまた食事を続けた。

修行①

「ほんまにええんですか?」


剛志は自分は100%あの場で殺されると思っていたのでスーツ姿の男の車に乗って家に向かう途中でつぶやくように聞いた。


「殺して欲しかったんか。」


低い声で返答されたが、そんなことは剛志の期待には全く逆の答えで、


「殺して欲しくないです。」

とだけ言って外を見た。まだ怖い。


スーツ姿の男の家に着くと運転していた男ともう1人は


「失礼します。」

と頭を下げて帰っていった。


家の門構えには「森田」と表札がかかっている。


豪邸である。玄関までは石畳で家自体が石壁で囲まれている。


監視カメラもたくさん付いている。


「なんというところにきてしまったんだ」と思いながらも玄関を開けるとキレイな女の人が


「おかえりなさい。あら、かわいいぼっちゃん連れて帰ってきたの。それならそうと電話してくれないと・・・」
と言って奥へ歩いていった。


剛志は「森田さん」の顔をチラリと見て玄関で靴を脱いだ。


玄関には左右に象牙らしいものが置いてあり、正面には大きな宝船がある。


宝船はきれいな5円玉で作られており、幅2メートルくらいありそうだ。


「おかえりなさい。」


剛志と同じくらいの年代の少年が2人玄関まで来て「森田さん」に挨拶をした。

耳鳴り⑤

「簡単に言うとオレは金貸しや。金融屋や。分かるか?」


「分かります。」


「お金を借りたら?」


剛志は自分の今の状況でこんな会話は必要なのかと思いつつも


「返さなあきません。」


「せや。ほんだら返さんかったら?」


「・・・殺す?・・・んですか?・・・」


「10点やな。お前頭悪いやろ?今いくつや?」


「17です。」


「大学はどの辺ねろてんねん?」


「大学は行きません。」


「行きませんちごて「行けません」やろ?」


「・・・」


「ちなみにオレは国立出てるで。」


「!」


こんなヤクザみたいな人が国立大学に行ってたなんて信じられなかった。ヤクザになるような人は大体中学校くらいしか卒業していなくて下手をすると中学校すらろくに行っていない人ばかりだと思っていた。


「意外やろ?」


「はい。」


「高校はちゃんと行ってるんか?」


「あまり・・・」


「バイトは?」


「してません。」


「小遣いは?」


「もらってます。」


「ナンボや?」


「月に2万円くらいです。」


「足りてるんか?」


「ギリギリなんとか。」


「お前、ウチに住め。」


「はい?」


「今からウチに来い。ほんで、ウチから学校に行け。大学も行かしたる。」


「はい?・・・はい。」


「これ持て。」


スーツ姿の男は剛志に拳銃を握らせた。おもちゃの鉄砲やエアーガンの類は触ったことがあるが、本物は思っていた5倍は重い。


「空に向けて撃ってみ。」


ガーン・・・


キーーーーーーーン・・・


耳鳴りがする。鉄砲って耳鳴りがするものなんや。

耳鳴り④

ベンチに座っているそれは、まさに「自殺」した中年の男だった。スーツ姿の男は話し出した。


「両手にはしっかりと拳銃が握り締められている。口にくわえて発射したのであろう、後頭部に大きな穴がある。俺たちの足跡は参考にはならない。全員運動靴を履いているからな。1人でここまできてるっちゅーことや。」


自殺に見せかけてこのベンチに座っている中年男を殺害したということか。スーツ姿の男の足元を見ると、スーツには似合わないどこか不恰好な運動靴を履いている。


「ぼうず、このオッサンは俺らに殺されたと思てるやろ?」


「当り前でしょ?あんたらが殺したんとちゃうんかい!」と言いたいところではあるが、それを押し殺し


「まぁ、今の話を聞けば・・・」


「ちゃうねんなぁ・・・殺した、と違って、殺したってん。分かるか?こいつは生きているより死んだ方が良かってん。

お前、農家に知り合いいてるか?」


「農家っすか?親の実家は畑やってますね。」


「ほんだら聞いたことあるやろ、畑を荒らす動物の事。」


「カラスとかイノシシとかっすか?」


「そうや、あいつらはお百姓さんが一生懸命に作った作物を荒らすんや。知ってるか?」


「知ってます。」


「お百姓さんは作物を農協やらどこやらへ売ってお金にしてはる。その作物が荒らされたらお百姓さんは生きていかれへん。分かるか?」


「分かります。」


「生きていかれへんということは死ぬっちゅうことや、それでええんか?」


「あきません。」


「せや、死ぬくらいなら作物を荒らす動物を殺すやろ?」


「そうですね・・・」


剛志はそこまで聞いたが、それ以上は聞く必要は無いと思った。それより今、自分が置かれている立場はどんな状況かと考えたら、あらためて寒気がする。

耳鳴り③

グラウンドのホームの左右、一塁線側と三塁線側には選手が利用する屋根付きのベンチがある。スーツ姿の男は三塁側のベンチを指差して


「見てきてみ。」


と言って、タバコを取り出した。付いて来ている2人のうちの1人がサッと火をつける。剛志は何度か振り返りながら三塁側のベンチへ向かった。男たちとの距離はどんどん開いている。逃げることの出来る距離までそっと歩く。後はダッシュだ。
ベンチに近づくにつれ、男たちが何を見せたかったのかが見えてきた。想像はしていたが、まさかそれを見ることになるとは思わなかった。それはベンチに座っていた。3メートルくらいの距離まで近づいたが、普通にそれは座ったままだった。「死んでいる」そんなことは分かっている。良く見ると、足元には物凄い量の赤黒い液体が溜まっている。そこから湯気が立っているのまで見えている。湯気はゆらゆらとそれの足元をくゆらせていて、生きている感じがする。それはすでに生命を絶たれているのにもかかわらず、それから出た液体は湯気となり、生命を感じさせる。


「いい距離や。」


スーツ姿の男は剛志のすぐ後ろに来ていた。しまった、と思ったが、何故か恐怖は消えていた。


「余り近づくと、気持ち悪うなるからな。臭いぞ。」


「そうなんですか。臭いんすか。」


恐怖心が消えて普通の会話が出来るようになっていた。
スーツ姿の男は話し出した。

耳鳴り②

「おいおいおい・・・子供相手に何をしとんじゃ。離したれ。」


後ろで手を縛られて、その場で座らされている剛志に、後から来た男が助けに入ってきた。1人だけスーツ姿である。さっき見えた3人組の一人であろう。後ろにあと2人いる。


「見たんか?」


やはり拳銃で何かを撃っていたのであろう。剛志は自分も同じ目に合うのであろうと覚悟した。手は縛られたままである。


「見たんかって聞いとんじゃ!」


さっきの二人組みの1人が剛志の頭を蹴り飛ばす。
横っ飛びに飛んだ剛志は蹴った男を睨みつけた。頭がクラクラする。蹴られた方の耳が熱い。ジンジンする。
もう、殺される。どうでもいい。こんなはずではなかった。ただ・・・


「射撃の練習や。射撃でオリンピックに出ようと思っててな。」


スーツ姿の男は剛志の肩をポンポンと叩きながら言った。


「見てたん?」


スーツ姿の男はもう一度聞いてきた。


「いえ、音が聞こえたから・・・」


「何の音?」


「分かりません。」


「こんな山の中へ音を確かめるために来たん?」


「・・・」


「まぁ、ええわ。こっち来い。」


歩き出した方向はグラウンドのホームの方向である。
完璧に殺される。でも、大声を出しても誰もいない。拳銃の音が聞こえないのだ。人の声など聞こえるはずが無い。
でも、ここで今すぐ撃たれるならもうちょっと時間稼ぎをした方が生きる確率は上がる。ホームの裏側は山である。おしっこするとかなんとかかんとか言って山に逃げれば何とかなるかも。そんなことを考えながら後についていった。剛志の後ろには2人の男がついてきている。

耳鳴り①

「・・・?」


何か音がしたが、剛志には何の音か分からなかった。音のする方向は某大学のグラウンドである。バイクで向かうには10分くらいはかかる距離であるが、近道を選べば2、3分で着く。暗い山の中に道があり、子供のころリトルリーグの練習で何度も通った道である。剛志にはその音が何なのかは分からないが、確認してみたい音でもあった。


「バーン?」
「ズーン?」
「ズボー?」


拳銃の発射音。初めて聞いたがそれであろう。とにかく山道をバイクで飛ばした。

グラウンド手前でエンジンとライトを消し、辺りを窺う。
月明かりが少し剛志の視界を助けてくれる。
剛志の立っているところから見えるグラウンドは外野からホームを見晴らす方向で、何かホームの横に人影が見える。2人?3人いる。
車できているはずだ。車を探すため、グラウンドの周囲を早足に歩き出した。話し声は聞こえない。車が見えた。2台ある。


「何しとんや。ボウズ。」


「!?」


後ろから2人組みの男が現れ、振り向いたときにはもう、逃げられない状態であった。

このグラウンドは、民家から車で5分くらい走らなければならないほどの距離にあり、夜は誰もいない。助けを求めることももちろん出来ないし、この2人から逃げることも出来ないようだ。すでに、手には拳銃が握られている。