第25回
#StardewValley週間ライティング
お題:ジョディ、黒曜石の花瓶
テイスト:ギャグなし。物語風。
「Mom's birthday.」
日々の繰り返しに辟易するジョディ。そんな彼女の誕生日に、親友のキャロラインは『特別な場所』へ連れ出します。
#スタバレ #スタデューバレー
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Mom's birthday.
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同じ事を繰り返して、日々があっという間に過ぎていく。
ジョディは、食器を洗いながら、むなしさを感じていた。
愛する家族のために、家事にいそしむ毎日。
幸せなはずなのに、どこか満たされない。
ベッドで眠りにつく時、もう1日が終わってしまった、という気持ちが芽生える。
仕方ないわよね…。
小さなため息をつくことが増えていた。
*
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*
秋の木葉が、風に舞う晴れた日。今日は、ジョディの誕生日だ。
誕生日が嬉しく無くなったのは、いつからだろう。
あっという間に1年が過ぎてしまった。
また、ひとつ歳をとるのね…。
毎年、誕生日は、キャロラインがプレゼントをくれて、自分で、ご馳走を用意する。
今年は、ケントが家に帰ってくれたから、何かしてくれるだろうか?
誕生日は、日常の延長だ。
ケーキを食べて、ささやかにお祝いをする日。
「でも、やっぱり、お祝いの言葉や、プレゼントをもらったら、嬉しいわよね。今年は、どんな誕生日になるかしら。」
皿洗いを終え、ジョディはエプロンを外した。
家のインターホンが鳴る。
「あら、誰かしら…。
サム!出てくれる?」
家の中に大声をかけてから、思い出す。
そうだ。サムも、ヴィンセントも、ケントも、どこかへ出掛けているのだった。
ジョディは、玄関のドアを開けると、そこには、キャロラインが立っていた。
「あら、キャロライン?どうしたの?」
「ジョディ、お誕生日おめでとう!
今日、一緒に行きたい場所があるの。ついてきてくれる?」
「まぁ…めずらしいわね、どこかしら?」
*
*
*
家の鍵を植木鉢の下に隠して、キャロラインと歩き出す。
他愛も無い話に花を咲かせて、郊外の牧場に向かう。
「わぁ…!」
牧場は、フェアリーローズの花畑と、金色の小麦が一面に広がっていた。
その先には、カボチャ、サツマイモ、ナス、クランベリーなどの、秋の実りが広がっている。
老人が細々とやっている寂れた牧場だと思っていたけど、その孫は、精力的に手を入れているみたいだ。
「キレイね…!この畑を見るために、声をかけてくれたの?花畑が可愛らしいわ!」
「えぇ、一緒に見たかったわ。でも、ここが目的地ではないの。」
ふたりは、さらに歩みを進めた。
キャロラインが、牧場の温室の扉を開ける。
「まぁ…!」
日光がさしこむ、ガラスの温室。
四季折々の果物と花が、果樹や畑に成っている。色とりどりの蝶が舞い、花や果物から上品な甘い香りが漂っている。
まるで、この世の楽園のよう。
「キャロライン!ジョディ!待っていたよ!」
牧場の青年、ユウが立っていた
なぜか、カフェの店員のような、ソムリエエプロンを着ている。
そして、ティーテーブルと、アフタヌーンティーのケーキスタンドが、用意されていた。
「ハッピーバースデー!ジョディ!さぁ、座って!」
「まぁ…!!」
「私、ユウと、よく温室や、お茶の話で盛り上がるの。」
「キャロラインさんが、うちの牧場で、ジョディさんの誕生日祝いをできないかって、相談してきてさ。それで、少し張り切ってみたんだよ。」
ジョディの着席に合わせて椅子を押すユウ。
「こんなに本格的なアフタヌーンティーを用意してくれるなんて、、びっくり。」
キャロラインの言葉に、ユウは肩をすくめた。
「オレからの誕生日祝いですよ。
といっても、ガスが手伝ってくれてさ。ほとんどやってくれましたよ。」
アフタヌーンティーセットは、シンプルながらも、小さな花が飾ってあり、心踊る可愛らしい装いだ。
チョコレートケーキ、ルバーブパイ、プチ・パンケーキに、サンドイッチ…小さなスイーツ類が飾られていた。
ユウがティーカップにお茶をそそぎ、ふたりに差し出す。
「ジョディ、お茶は、私の手作りなのよ。」
ジョディは、カップを手に取る。
ポットもカップも上品で豪華なデザインで、金で縁取られていた。
「このポットとカップは、私からの誕生日プレゼントよ。」
「………すてきなカップね…!」
ジョディは思わず、カップに見とれていた。
お茶の香りが広がる。口に含めばおいしくて、温かさにほっとする。
「あぁ、おいしい…」
「あとはご婦人方でごゆっくり。何かあれば、テーブルの呼び鈴を鳴らしてよ。」
ユウは、ウィンクをして微笑んで、温室をあとにした。
「至れり尽くせりね。」
ジュークボックスから、ゆったりとした音楽が流れる。
「キャロライン…私のために、ありがとう。」
「ううん、私はユウにお願いしただけなの。ユウが、張り切ってくれたおかげよ。」
キャロラインも、ティーカップを口元に運ぶ。
「………ジョディ、昔、子供が大きくなったら、お洒落にティータイムを楽しもうって話をしたのを、覚えてる?」
「あぁ、そういえば…そんな話をしたわね。」
「どうして私達、こんな簡単な事を先延ばしにしてたのかしら。今となっては不思議だわ。やってみれば、こんなにすぐにできるのに。」
「そうね、すっかり忘れていたわ。
私、普段は、少しヒビがはいった、貰い物のマグカップを使っているの。安いお茶を飲んで…。
ティータイムを楽しもうって思って、ガラスのポットだって買ったのに、棚の奥にしまいこんだままだわ。」
チョコレートケーキを口に運び、ジョディは満面の笑みを浮かべた。
「でも、私、忘れててよかった。
あなたがプレゼントしてくれたんだもの…!自分で用意するより、ずっとずっと嬉しいわ…!!」
話が弾むふたりの様子は、あの頃のままだった。
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「……あぁ、楽しかった。キャロライン、ありがとう。持つべきものは友達ね。」
「あら、ジョディ。夜は、これからよ?」
キャロラインはジョディの手を取って、温室を出た。
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温室の隣の広場には、手作りのパーティー会場ができていた。
町の住人が何人か居て、立食スタイルの軽食を楽しんでいた。
ドラム、ギター、電子ピアノ、マイクスタンドが置かれた簡単なステージまである。
ジョディに気づいた住人たちが、口々に誕生祝いの言葉をかける。
「こ、これは…?」
「あぁ、ジョディ、来たか。」
「ケント!これは、何が起こっているの?」
「…………サムたちの悪ふざけさ。」
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「レディース エンド ジェントルメーン!
今日は、ザ・ペリカンズのライブに来てくれてサンキュー!」
サムのマイクが響き渡る。
「今日は、母さんの誕生日だ!
何をプレゼントしようかなと悩んで、やっぱり、音楽だよな!ってオレは思ったんだ!
まぁ、普段からライブをやるキッカケを探していてさ。
母さんの誕生日を口実に、ライブをやっちまえ!って思ったわけさ。
町のみんなに声かけたら、こんなに集まってくれて、嬉しいぜ!みんな暇なんだなぁ?笑
今日は、母さんが好きそうな、古い映画の音楽を何曲か演奏するから、みんな、踊ったりして楽しんでくれよ!
母さん!誕生日おめでとう!
いつも、ありがとう!
今夜は、母さんのために演奏するから、楽しんでいってくれよ!」
いつの間にか私服に着替えたユウが、マイクスタンドの前に立っている。
ユウをボーカルに加えた、ザ・ペリカンズが、聞き覚えのある懐かしい音楽の演奏を始めた。
「この曲……なんだったかな?」
「『雨に踊れば』よ。さぁ、ディメトリウス、踊りましょう!」
「わかったよ、僕のコマドリ。」
ロビン、ディメトリウス、エミリー、エリオットなどなど、いつもの陽気なメンバーが、ステージの前で、音楽に体を揺らす。
ケントは頭をかき、ジョディに視線を送る。
「………私たちも踊る?」
ジョディは、戸惑いながら、ケントの腕に触れた。
*
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『月の河』のゆったりとした音楽に合わせて、ケントとジョディは、身を寄せて体を揺らしていた。
「本当に昔の曲ばかりね。」
「…………ハニーは、あの女優が昔から好きだったな。」
「えぇ……。ねぇ、はじめて一緒に見た映画、覚えている?」
「なんだったかな?」
「忘れちゃったのね。」
「………あの時は、映画館で、君の手を握ろうって意気込んでいたんだ。映画の内容なんか、頭に入ってこなかった。」
「えっ、そうなの?」
「あぁ、次の曲は……」
「ズズシティ・エクスプレスの『太陽を求めて』だわ。私が一番好きな映画……」
「昔、一緒に見たね。」
「懐かしいわ。あのクラッシックな雰囲気が好きなの。
……そういえば、昔、『君は僕の太陽だよ』って言って、バラの花束をくれたわね。とても嬉しかったわ。」
「…………そうだったか?」
「もうっ、なにも覚えていないんだから!」
『虹を越えて』が流れた時、ジョディは若き日の草原を思い出した。
ケントの自転車の後ろに座って、流れる風を感じていた。
土がむき出しの道は、車体が揺れるから、彼の体を抱き締めていた。
たくましい背中から、彼の体温を感じていた。
サムは本当に、あの頃のケントによく似ている。
陽気で、よく笑い、はにかみ、おどけたジョークで笑わせてくれた。
「………サムは、あなたによく似たわ。」
「ヴィンセントは、ハニー似かな。」
あの頃は、無邪気で、無垢で、何も知らなくて、明るい未来に自信たっぷりで、若さに胸をときめかせていた。
「ハニー、今でも列車の旅に憧れているのかい?」
「………せっかくあなたが帰ってきてくれたんだもの。しばらくは、この町で、のんびりしたいわ。」
ジョディは、きゅっと、手を強く握った。
「そうか。」
ケントも強く握り返した。
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*
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「ルイス町長、この牧場で、こんな風な観光プランを考えていて。
温室でのティータイムや、アウトドアパーティーのオプションも視野にいれているんですよ。」
「精力的で実に良いじゃないか!ただ、料理に関して言えば、ガスの負担が大きすぎないか…?」
「そうなんですよね…オレも下ごしらえから手伝うのですが、ガスが無理をしがちなんですよね……」
演奏が終わり、会場の端で、ユウとルイスは熱心に会話をしていた。
会場の中心では、住人が、ささやかながらもジョディに誕生日の祝辞を送っていた。
「お母さん、お誕生日おめでとう!」
プレゼントを抱えて、満面の笑顔で母親を見上げるヴィンセントの頭を、ジョディは優しく撫でた。
「ヴィンセント、プレゼントを用意してくれたの?」
受け取ると、意外とズッシリと重い。
包みをあけると、なんと、中身は黒曜石の花瓶だった。
「どうしたの、これ??」
「ギュンターさんと博物館でおしゃべりをして、トランプゲームをしたんだ。それでね、この花瓶をゲットしたから、お母さんにあげようと思って!」
ヴィンセントは屈託のない笑顔を浮かべた。
「………ギュンターさんに今度お礼を言わなきゃ。」
「ほら、ハニー。オレからのプレゼントだ。何がいいかわからないから、とりあえず花束にしたよ。」
ケントは、花束を差し出した。
あの日と同じ、10本の赤いバラ。
ふたりだけの若き日の思い出がよみがえる。
ジョディの瞳は、涙でうるんでいた。
*
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*
夢のような誕生日の夜は終わり、また日常の朝が始まる。
ジョディは、今日も家事にいそしむ。
洗濯物を洗い、干し、畳む。掃除をする。買い出しをして、友達とおしゃべりをして、食事を作って、皿を洗って、家計簿をつけて…。
男達は、相変わらず、外に出かけてたり、遊んだり、ぼーっとしている。
ジョディは、誕生日にもらったティーセットと、黒曜石の花瓶に生けたバラを眺めて、しあわせな気持ちでいっぱいになった。
「なるべく、このプレゼントで、ティータイムを楽しむ時間を作りましょう。古い映画の音楽を流して…」
私は、家の男どもを愛しているし、家事は、愛のプレゼントなんだわ…。家族や、自分への愛情表現なのよ…きっと…。
棚に飾った若かりし頃の写真を眺め、手に取る。
新郎新婦が、純白の衣装に身をつつみ、微笑んでいる。
あの頃は、幸せな家庭を築くことを夢みていた。今、自分は、あの頃描いていた夢を生きている。もっと毎日を楽しんでいいはずだ。
何気なく写真立ての裏を見ると、文字が書かれていることに気づいた。「Forever love.」とサラッと書いてある。
写真立てを戻して、ジョディはキッチンに向かう。
「私…いまのしあわせを守るためなら、なんだってできるんだから…!」
腕まくりをして、皿洗いに取りかかる。
家族の笑顔のために、お母さんは、今日も、がんばるのでした。
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おわり
Sun Room (Alone With Relaxing Tea)
https://youtu.be/0gi5-mEVEc4?t=8320
雨に唄えば
https://youtu.be/edvN1DfRTZI
ムーン・リバー
https://youtu.be/vnoPke8tlAs
虹の彼方に
https://youtu.be/oW2QZ7KuaxA
※「太陽を求めて」は元ネタなし