「ところでお兄さん,ここってゲイバーって知ってて来たの?お兄さんもゲイ?」
マスターからの突然のカミングアウト。
やっちまいました。
バーデビュー上手くいったと思ったのに。
「いやいやいや,完全なるノンケです!」
必死に否定しました。
しかし,隣の席のおじさんは待ってましたとばかりに僕に説得を始めます。
「僕もね,最初はノンケだったんだよ。でも,僕が君くらいの歳の時に,彼女に振られてふらっとここに来てからゲイの道もいいなって思ったんだ。だから君もこれからゲイの道を開拓すればいいよ!」
なんでこのおじさんこんなに楽しそうなんだ?
怖い怖い怖い怖い怖い。
そこからおじさんの怒涛の口説きタイムが始まりました。
どうやらおじさんは法律関係の仕事をしているそうで,驚くほどに口が達者です。
どんなに否定しても丸め込まれる。
上手いナンパ師に口説かれる女の子の気持ちが分かりました。
あまりのしつこさに顔をしかめていると,おじさんがトイレに立って僕に背中をむけた時にマスターがジェスチャーを送ってくれました。
「(早く帰りなさい!)」
マスターのジェスチャーを見た僕は代金をさっと机に置き,間髪入れずお店を飛び出しました。
最近体を動かしていないこともあって,息は上がり膝は笑っています。
夜の繁華街をスーツ姿で駆け抜ける僕の姿はとても滑稽だったと思います。
僕のバーデビューは最初に想像していたものとは違いましたが,忘れられないものとなりました。
皆さんもバーに行く時はきちんと調べてから行ってください。
終わり。
