あったかいミルクティーをすすりながら、リカコが言う。
「でもまあ、誰にでもあることじゃん?」
一瞬、話の流れがつかめなくて、モコとジャスミンと顔を見合わせる。
「好きでもない男と寝ちゃうとかさ」
言いながら、リカコはココアビスケットに手を伸ばす。
「あんたもあるでしょ?」
話を振られたモコは、ちょっと首をかしげる。
「そうだね。なくは、ない」
「あんの? つーかいつ?」
思わずあたしはモコに詰め寄る。
そんな話モコから聞いたことないし。
「えー? ユウヤといろいろあったしねー。その頃とかけっこう荒れて、やったこともある」
「ひぇー」
ジャスミンとあたしは驚きの声をあげる。
全然気づかなかった。
「へこむようなことでもないと、あたしは思うんだけど?」
と、リカコはあたしに顔を向ける。
これは慰めてくれてるんだろうか。
「まあ、ナナミはあんまそういうキャラじゃないから」
モコがフォローをいれる。
「キャラの問題もあるけどさ」
リカコが言葉を切る。
「ナナミ、セックスしたかった?」
あからさまにリカコが聞いてくる。
「いや、べつに……」
「だからへこむんだよ」
「え?」
「相手が誰だろうがさ、自分がしたいならそれでいいじゃん? でもしたくないのにセックスしても楽しくないし、そりゃムナシイよ」
だからあたしムナシかったの?
なんかちょっと違う気もする。
「セックスうんぬんはともかく、ナナミの意思じゃなかったのはたしかじゃない?」
モコがあたしの目をのぞきこむ。
「ナナミが誘ったの?」
「ううん、ツヨシくんが……」
「ツヨシかよ!」
リカコが大げさにのけぞる。
しまった。余計なことを言ってしまった。
「まあ、誰かは置いといて」
軌道修正してモコが話を元に戻す。
「誘われて、うっかり乗ってしまったと」
「……うん」
「じゃあ、まあ、次から乗り気じゃない誘いは断んなね」
これでおしまい、とばかりにモコが話をしめた。
「そうだよ、そんなんでヤルのはセックスに失礼だ!」
リカコが拳をつきあげる。
それはどうかと思うが。
「ツヨシにはあたしから制裁くわえとくけどさ、あんたもこれからちゃんと自分の意志を持ってやりなよ。そんなことでへこむのバカみたいじゃん。あ、ツヨシちゃんと避妊した?」
「それは、ちゃんとつけた」
「んじゃ、チョッパン2発でかんべんしてやるか」
チョッパンって。
リカコってヤンキー?
「質問!」
さっきから黙っていたジャスミンが、突然手をあげた。
「はい、そこ!」
リカコがベッドの上に立って、ジャスミンを指す。
「自分がやりたければ、セックスしてもいいんですか?」
「いいんです!」
どんなやりとりだよ。
「相手もやりたければ、だけどね」
モコが補足する。
「そうそう強姦はイカンよ、ジャスミンさん」とリカコ。
あたりまえだよ。
「なに? ジャスミンやる気マンマンなの?」
「そういうわけでもないんだけどさ。なんか、モコとリカコの話聞いてたら、そんなでいいのかなと思って。あたし的には、ナナミが知らない人と寝ちゃったって聞いて、それなりに驚いたわけなんだけど。でも、ふたりはたいしたことないって言うし。なーんだ、そんなもんかって」
「そんなもんだよ」
リカコが言う。
「たかがセックス」
「されどセックス」
モコが返す。
「人には向き不向きってもんがあるからさ。ナナミは、自分の気持ちがわかるのに時間がかかるほうだからね。よく考えてからしなさい?」
「はい、モコ先生」
あたしは頭を下げる。
ひとりでへこんでたのが嘘みたい。
あたしはもう落ち込んでなかった。
ありがとう、モコ、ジャスミン、リカコ。
照れくさいから口にはださない。
でも心の中で百万回でも言いたい、ありがとう。
「んじゃ、そろそろ本格的に卒論やらないとね」
帰りぎわにモコが言った。
そうだ。
提出まであと数週間しかない。
「しばらく、会えないけど」
モコがジャスミンの肩を抱く。
「卒論うざっ」
リカコがあたしの枕にパンチを入れる。
「そうだ、卒業決まったら、4人でなんかしよーよ」
モコが手を打つ。
「しよーしよー!」
リカコが枕を振り回して叫ぶ。
かわいそうなあたしの枕。
「あたしもいっしょでいいの? あたし同じ学校じゃないのに」
ジャスミンは驚いたみたいだ。
「どーでもよくない?」
リカコが言う。
「そうそう、どーでもいい!」
あたしとモコが同時に言った。
ジャスミンはほんとうに嬉しそうな顔をして、頷いた。
そんな約束をして、3人は帰った。
3人のおかげで、あたしは自分のバカげた行動から立ち直って、ようやく卒論に集中することができた。
