前回の記事
では、問題行動改善の大事なポイントとして「悪いことをやめさせるのではなく、賢いことをさせていく」ということをお伝えしました。
そして、その大事なポイントにも、ちゃあんと理由があると。
私たちは、「悪いことをしたら、しっかりと叱らなくてはダメだ」と考えてしまいがちです。
しっかりと叱って、反省させることで、二度と悪いことをしないように教えるべきだと。
しかし、この「しっかりと叱る」という考え方には、「賢いことをさせよう」という視点はありません。
ただ単に、悪いことを攻撃しているだけです。
そして、この考え方はよろしくありません。
何がよろしくないのか?
それこそが、「賢いことをさせていく」という考え方の、理由になります。
動物が行動をする際、大きくわけて二つの理由があります。
「いいことがあるから」
「嫌なことが終わるから」
簡単な例を挙げますと…
オスワリする→褒めてもらえる=いいことがあった!
…褒めてもらえるので、オスワリするようになる
お腹を見せる→叱られなくなる=嫌なことが終わった!
…叱られなくなるので、お腹を見せるようになる
基本的には、この二つです。※1
今回注目するのは、下の「嫌なことが終わった」の方。
専門的には、「負の強化随伴性」と呼ばれる流れになります。
この「負の強化」は、「嫌な出来事・刺激(叱られている)」が行動の前にあるような流れです。※2
そして、「行動(お腹を見せる)」することで、「嫌な出来事・刺激(叱られている)」から、逃れることができます。
「嫌なことが終わる」というメリットがもたらされるので、何度もその行動を取るようになります。※3
イコール、「嫌な出来事から、回避・逃避する行動が起こるような流れ」になります。
上の「お腹を見せる」という例は、「叱られている」という出来事から「逃れようとする行動」といえます。
前回の記事で、「悪いことをやらなくなったとしても、それは石像のように固まるわけではなく、何か別の行動をするようになる」ということをお伝えしましたが、覚えてらっしゃいますでしょうか?
私たちは、「悪い」行動(噛む 吠える 飛びつく など)をなくすために叱ろうとするわけですが、単純に「悪い行動を消している」のではありません。
「叱られることから、逃げられるような行動を生んでいる」わけです。
この「叱られることから、逃げられるような行動」が、たとえば「フセをする」「お腹を見せる」「上目遣いで、反省しているような態度を取る」などの、「問題にならない行動」であれば、当然問題になりません。
おそらく、たくさんの人が「反省しているな」と感じて、結果に満足するでしょう。
しかし、「問題にならない行動」ではなく、「問題になる行動」をし始めたらどうでしょうか?
具体的には、「唸る」「噛む」「強く吠える」などの行動です。
「吠える」「唸る」程度のことであれば、すぐに「もっと強く叱る」という対応を取ることができるかもしれません。
でも、「噛む」という行動が出た場合、すぐに「もっと強く叱る」という対応を取れるでしょうか?
飼い主さんの目線
叱る → 噛まれた → どんな対応をする?
ほとんどの飼い主さんは、噛まれた瞬間に「すぐに強く叱る」ことはできないと思います。
むしろ、びっくりして固まってしまうか、あるいは一旦叱ることをやめて、犬と距離を置こうとするのではないでしょうか?
つまり、このような流れになります。
犬の目線
叱られている → 噛む → 叱られていない
先ほど触れた、「負の強化」の流れですね。
もしもこの流れに「噛む」という行動が乗ってしまうと、「叱る度に、噛まれる」というリスクが生まれます。
それでも尚、あなたは「悪いことはやめさせないとダメだ」という理由で、犬を更に強く叱れるでしょうか?
「できます!」という方もいらっしゃるかもしれませんね。
しかし、「悪いことをやめさせよう」という考え方がよろしくない理由は、まだあります。
今日のところは、ここまで。
※1
あともう二つあるのではないか?という説もあるのですが、ややこしくなるのと専門家の間でも意見が分かれるため割愛します。
※2
本当は間違っている説明ですが、分かりやすさ重視でこのように表現しています。
※3
時々、「負の強化」と「罰」のことを混同している方がいらっしゃいます。
「行動学を基にしたしつけ」をうたっている本やサイトなどでも、この二つを同じものと解釈されていたり。
しかし、この二つは明確に違うものです。
「強化」は「行動が増える」ような流れであり、「罰」は「行動が減少する」ような流れです。
つまり、まったく正反対のものです。
また、「負の強化」を、「陰性強化」と表現される方がしつけの世界には多いのですが、このような表現をしている方は、正確な定義を知らないか、あるいは間違っているかのどちらかであることが多いようです。