
レコードについては、大まかに分けると、海賊盤といっても未発表音源を集めたブートレッグ (bootleg)と、本物の代替品として作られたカウンターフィット(Counterfeit)がある。スターの音源から昔からこのような商品が作られて、違法に儲けている者がいる。エルヴィス・プレスリーの場合、海賊盤対策として、FTDというレーベルを「本家」が作って、一般向けの正規盤とは別に、熱心なファン向けに、例えば未発表セッション録音をまとめて商品化して、主にファンクラブを通して販売している。
クラシックにおいても、例えばフルトヴェングラーのカウンターフィットがMYTHOSレーベルから作られている。著作権が切れた、旧ソ連時代に作られた貴重なレコードの複製である。ただし、本物の音を知っている人にとっては、複製は本物とは音のリアルさが異なって不満を感じる。それでも、安価で本物のような気分を味わうことを納得して購入する人にとっては有り難い。
目を当てられないのは偽物サインである。「偽物」と納得して安価で購入する人向けに、合法的・違法に作られたレコードとは事情は全く異なり、明らかに、人を欺いて作られるからである。偽物は、単なる「落書き」に過ぎず、何の価値もない紙切れに過ぎない。特に、貴重な古いレコードへの「落書き」をネットオークションなどで見る度に、とても残念な思いをする。
最近は、クラシック音楽の分野でも、偽物サインを見かけるようになってヤフオクにもよく出品されている。明らかに筆跡が違うものから、注意深く比較して観察しないと見抜けないものまである。欲しがる人の数が多いロック歌手によるサインほど、怪しい出品物は多くないけれども。
「証明書付き」というのは、ほとんど偽物を謳っているようなもの。昔から偽物が多いビートルズについては、世界に数人しか真贋を鑑定できると認められている人はいないので、そういうレベルの方が出したことが確実な証明書については信頼できるかもしれないが、安易に偽造された証明書については、存在しない連絡先が書かれていたりして怪しい。偽物に関わる悪質な連中は、「万が一本物だったらラッキー」と思うファンを獲物にしている。奴らを撲滅するには、偽物を安易に買わないことである。
とても偽物が多いエルヴィス・プレスリーについては、サインがシンプルなので偽造されやすい。E-Bayは無数の偽物で溢れかえっている。恐らくは、注意喚起のために専門家が真贋を見分けるポイントを紹介するホームページを作った。ところが、それを参考にして、さらに巧妙に偽物が作られる始末。最近でも、ヤフオクにも巧妙な偽物が登場した。
誰でも筆跡と筆圧は年齢と共に変わるので、書かれた年代と一致するかを見分けるには、数多くの同一人物による筆跡を観察した経験が必要である。有名人には秘書や周辺人物による代筆もある。高く付けられた値段は真贋を判断する材料にならない。ファンの誰もが欲しがるような物や、ポジションにサインされた物は怪しい。書かれた当時に入手が難しかった筆記用具を使っている場合は疑わしいし、存在しなかった顔料であれば明らかに偽物。さらに、捏造された入手エピソードも真贋を見分ける目安にもなる。E-Bayでは、巧妙に偽の入手エピソードを書き綴った手紙を添えるケースもあるので注意が必要である。時代考証的にあり得ないことを語っているエピソードも、熱心なファンなら真贋を見分ける材料になるであろう。例えば、コンサートをしていない時期に、「コンサート会場で貰った」というサインは存在しない。ましてや、同じ紙のその近くに、本物かもしれないという期待感を与えるかのように、数年後に映画で共演する女優のサインが入っているのはあり得ない。複数の有名人が同じ紙にサインをしている「魅力的」な物にはより大きなリスクがある。
良心がある本物を扱うある業者は、「1パーセントでも偽物の疑いのあるサインは売らない」、「色々な有名人のオートグラフを売っている業者は疑った方が良い」と言っていた。上の写真は1960年代に、机の上でしっかりと書かれたエルヴィスのサイン。ネガを現像して焼かれた大きなサイズの写真自体、まるでカメラのレンズを通して見ているかのようで、ディジタル写真よりもアーティストを身近に感じるし、本物のオートグラフからは、アーティストの温もりが感じられる。