録音された演奏について、音が良いかどうかは、好みの問題や再生装置によっても左右されるであろう。私は、レコードの楽器の質感を味わえる音が好きで、CDの細部を克明に表す「音の良さ」とは別の魅力を感じている。それは、音楽の感動の大きさが全く違うことと関係していると私は信じている。

ベルリンフィルからフルトヴェングラーの戦中録音がまとめてSACD化されるというニュースは、初出音源への期待と同時に、ディジタルでの最高音質で聴ける可能性を期待した。一方で、メロディアLPで聴く限り、元のマグネットフォン・テープは経年劣化によって音質が悪くなると受け止めていたので、ベルリンフィル資料室への問い合わせによって、「残っている複数のテープからベストを選んで最新技術を使う」という回答を得たにしても、戦後半世紀以上経った現在では、劣化がどれだけ進んでいるか気になった。

初出のラヴェルの「ダフニスとクロエ」第1組曲とシューベルトの「未完成」交響曲については、このセットでしか聞けない。しかも、「ダフニス」は巨匠が残した唯一の録音で、存在は知られても、長らく是非とも聞いてみたいと待ち望んでいたので、このセットを手に入れるしかなかった。

長らく親しんできたメロディアのレコードについては、プレスされた3つの場所による違いを聴き比べたりして、かなりこだわって聴いてきたし、恐らく、聴いたレコードのレコードの種類としては、最もたくさんの種類のメロディアによるフルトヴェングラーを聴いた一人ではないかと思う。メロディアのレコードは貴重なだけに、このSACDについて、私がどのように感じたかを述べることは、それなりに意味のあることだと思う。

初出音源とメロディアからレコードが出た演奏について、このSACDを聞いてどのように思ったかを語ってみる。このSACDセットは基本的に「良い仕事をしている」と思うが、どう公平に考えても、もはや今ではレコードでしか聴くしかないと思う録音もある。私の主な役割はそれを明らかにすることではないだろうか。

尚、LPに耳が慣れてしまった後でSACDを聴くと、音が薄っぺらく聞こえてしまうので、自分の聴いてきたアナログ音の記憶を信じて、一定期間、レコードを聴くのを我慢して、SACDを何周か聴きながら、この原稿を何度も書き直して仕上げた。使用装置によっても聞こえ方は異なるので、あらためて以下に紹介する。


<使用している装置>
・アンプ:Sansui AU-9500(レコード用)
・レコード・プレイヤー: Sony PS-515
・主なカートリッジ:SHURE M44-7, General Electric Variable Reluctance Cartridge Broadcast Model RPX-047
・スピーカー:Bose Wave Radioまたは手作りの大型スピーカー
・ブルーレイ・ディスク・SACDプレイヤー:Sony Blue-Ray Disc / DVD Player BDP-S380
・アンプ:Sansui Integrated Amplifier AU-D707F extra(ブルーレイ・ディスク、SACD用)