1922年(大正11)訪日したアインシュタインは、東京・仙台・名古屋・京都・大阪・神戸・福岡で計8回講演をおこなった(東京2回)。ということは、アインシュタイン旋風は裏日本を素通りしたのである。
しかし、このために裏日本は、表日本正調でないアインシュタインの夢をかえって見られることになった。
アインシュタインの理論のもっとも目に見える結実は原爆である。太陽中心での核融合がアインシュタインの方程式を裏付けている、という向きもあるかもしれないが、裏日本では太陽は重苦しい冬空に隠れているので守備範囲外である。
裏日本の冬の訪れを告げるのが《雪起こし》である。雷が鳴って雨がアラレに変わる。雷は広島型原爆の数十倍という大きな力能の現れである。シベリアからの冬の季節風が中朝国境付近に聳える2,000㍍級の長白山系によりカルマン渦や帯状対流雲を発生させ、冬の風物詩・ドカ雪をおみやげに持ってくる。
アインシュタインが見た日本は明るい楽しい日本でもあったろう。しかし、いつかアインシュタインが、わたしたちの、寒い、じめじめした裏日本にやってくるときが来るに違いない。そのとき、裏日本はその心裡の大思想を明らかにするだろう。
裏日本はそう決意して、いまでもその時を待ちつづけている。(つげ義春的な)