福留水産0
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山内さんから本を借りて三年たった。

新潮文庫版の山月記と
魚喃キリコのBlue。

借りてすぐに読み終えたのだけど
すっかり忘れていて引っ越しのときに
これ山内さんに返しててねってお願いした。

本は山内さんに渡らず
郵送で引っ越し先に送られて来た。

山月記の表紙には
水色の付箋が一枚貼ってあり
「山内さんが直接返して欲しいってさ」
とだけ書いてあった。

俺は山内さんの山内さんたる部分を
うっかり見過ごしていたことに気付いて
恥ずかしい気持ちになったのと同時に
ああ。そうだ山内さんのこういうところが
好きなんだよなあと
改めて思い起こしたのでした。

山内さんと初めて会ったのは
知らない人のお宅での
パーティーにお呼ばれしたときで
そのときたまたま一枚だけ持っていた
ドヴォルザークのチェロ協奏曲の
小沢征爾バージョンで
なんでそれだけ持ってたのか
全然わかんないけど勝手にかけていたら
「ドヴォルザークいいよね」って
白ワインをなみなみ注いでくれたのが
山内さんだった。

山内さんは主に
カブトムシやクワガタなどの養殖を仕事にしていて
四回結婚して四回離婚して
そうして生まれた子供を全部引き取っているので
山内さんの家へ遊びにいくと
17人の子供が部屋の隅にひとつに溜まって
渦になっているのを見ながら
手作りのベトナム豆富を頂いたりした。

カブトムシのところからは全部嘘だけれど
山内さんのことを考えるだけで
無塗装の木の板を手のひらで触ったような
ざわざわした心地になる。

三年たった今、全然違う本を返してみたい。