「鬼はソト、福はウチ」は節分の豆まきのときの掛け声ですが、ソトは「素菟」と当て、これをスウサギと訓むと、「稻葉の素菟」は、古代イラン高原の南方にあった古都スーサの王の名乗り「須佐之男命 スサノオ」の物語りだと分かります。稻葉はトゥバと読むと、古代の北極星が位置していた龍座アルファ星のトゥバンThubanであり、今も「北辰」という呼び名に名残りを見ることができます。
素菟
スーサ岐(王)
須佐之男命
「α Draconis / α Dra。固有名はトゥバン(ツバーン, Thuban)。これはアラビア語で「蛇の頭」を意味する raʾs al-tinnīn に由来する。この言葉がルネッサンス期にラテン語に訳されて Rastaben と綴られ、元の al-tinnīn ではなくアラビア語で「蛇」を意味する thūʿban に帰せられることとなった。」
(Wikipedia "トゥバン")
このトゥバンは、本来「一者」を指す"to hen"に由来するものと見ることができます。それは、宇宙の中心に位置する、妙ず見える星に対する絶対視から生じた、妙見信仰として今も残っています。
「to hen プラトン,プロチノス哲学において,世界の根源をなす第一の,最高の原理をいう。ここから,一ならざるもの,すなわち多者が発出する。これは近世形而上学においても,さまざまに形を変えて (神,主観,自我,実存など)現れている。」
(『ブリタニカ国際大百科事典』小項目事典より)
thu ban 北辰
to hen 一者
「ゾロアスター教の教義には、「双子の兄弟」、悪しき霊「アンラ マンユ」と善なる霊スプンタ マンユ(後にアフラ マズダと同一視)が登場した。彼らが「双子の兄弟」なら「父」がいなければならない。そこで聖職者たちはズルワーンを「そこから双子が生まれてくるありうる唯一の『絶対者』」に同定した。
ズルワーンは、「無限なる時間(と空間)」「アカ(一つの、唯一の)物質」「運命」「光・闇」の神。語源はアヴェスター語「時間」「老年」を意味する「zruvan-」。サンスクリット単語の「サルヴァ」(sarva)と関係し、どちらも一元論的な神を記述する上で同様の意味領域を持つ。ラテン文字表記は、中世ペルシア語では「Zurvān」、「Zruvān」、「Zarvān」など、標準化された発音では「Zurvan」となる。」
(Wikipedia "ズルワーン")
古代ペルシアのゾロアスター教の原型は、ササーン朝ペルシアのズルワーン教に見ることができます。ゾロアスター教における善神ヤザタの一柱ミスラの信仰は、「蛇に巻きつかれた獅子」として表現されるアイオーンの姿にズルワーンを見ていたようです。そのことは「唯一の星」と翻訳することができるゾロアスターが、北辰を中心に回転する龍座を表現していると見るとき、ズルワーンとトゥバンの関係性が見えてきます。
Zurvan ズルワーン
Thuban 北辰
「仏教思想一般の通例に従って、『起信論』も自我、すなわち「アラヤ識」の主体的側面の自己凝固、を「不覚」への決定的な第一歩と見る。「己・已・巳」(己は巳であることによって、それだけで已に巳である)という意味のことを歌った詩人がある、と聞く。相当な文字言語感覚ではないか。しかし、そのことよりもここでは、己という巳(蛇)に巻きつかれて動きのとれなくなった実存のあり方という、『起信論』の見る自我の性格を、この比喩的レトリックが実に見事に感覚化していることに私は感心する。」
(井筒俊彦『意識の形而上学』)
この「蛇に巻きつかれて動きのとれなくなった実存」が、アストラル体(信念やアイデンティティ)と一体化して、それらから離れることができなくなった自我をイメージすることは、それほど難しくないと思います。しかしここで強調したいことは、北辰=ズルワーンを通じて、自我と一者=ブラフマン=スピリットとの間の符合を、日本の古代神話においても見出すことができるということです。
ゾロアスター教は「拝火教」と呼ばれることから、主神スプンタ マンユ=アフラ マズダは、天界の火を盗んで人類に与えたプロメテウスに比定されます。従って、スプンタ マンユの双子の兄弟アンラ マンユは、プロメテウスの弟エピメテウスに該当します。シュタイナーは、アンラ マンユを悪魔アーリマンと呼んでいるように、プロメテウスは堕天使ルシファーに重なり合います。ルシファーは自我をアストラル体と一体化させることによって、人間を感覚の世界=マーヤーに閉じ込めました。
スサノオはイザナギの鼻から生じたとされ、アマテラスが左目(感情)、ツクヨミが右目(思考)と伝わることから、鼻を自我のメタファーと見ると、スサノオをスピリット=ブラフマンに通じる絶対者ズルワーン、アマテラスをスプンタ マンユ(ルシファー)、ツクヨミをアンラ マンユ(アーリマン)の位置に見ることができるでしょう。



