私の周りには、各分野で頑張っておられる女性たちがおられます。今度で8人目。その方々にインタビューをさせて頂き、プロフィールや人生観などをお聞きしたいと思っていますが、皆さん、苦労しながら、ご自分の道を着実に切り開いておられ、その勇気に感動しています。

さて、今回は、この方にインタビューさせて頂きました。

Noriko Hino (日野紀子)
NPO Founder / Executive Director

ニューヨーク女性の集い


文と写真:キヨコ・ホルバート(キロスタジオ)


日野さんは、文教女子短期大学英文科卒業後、イベント制作会社勤務。1993年に渡米。School of Visual Artsで、コンピューターアート関係について習得後、 インターネットバブル絶世期に米系IT企業にてウェブデザイナー、アートディレクターとして勤務。その後、勤め先の会社が倒産。2002年に非営利団体「NY de Volunteer 」(ニューヨークでボランティア)を設立、現在団体代表。
New York CityよりDistinguished Honorees、Volunteer Appreciation Awardの二つを受賞。
内閣府国民生活局「生活達人2005」選出。TV局NY1『New Yorker of the Week』 選出



星座:山羊座
出身:東京都生まれ、神奈川育ち
好きな色:赤
好きな音楽:ボサノバ、ジャズ、クラシック
得意な料理:韓国の家庭料理(同居していた韓国人のルームメイトから習う。)、パスタ
尊敬する人:日本のNPOのパイオニア、谷口奈保子さん(ぱれっとインターナショナル・ジャパン代表)彼女は、母であり、妻であり、そしてパイオニアとして既成概念にとらわれることなく道を開いてきた凄腕であると同時に、暖かい家庭を築いていらっしゃり、バランスよく生きておられるから人である。

健康によい事してますか?:まずストレスをためないこと。ストレスフルな事はこっちの都合と関係なくふってきますので、それをうまく抜くことは日々工夫しています。人間関係では、なるべくストレートで裏表のない、まっすぐな関係を築くようにしています。
それと、去年からサンバエクササイズをしています。これがもう、たまらなく楽しいんです!


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Kiyoko: 紀子さんは、どんな子供だったのですか?
Noriko: 普通のサラリーマンの家庭に育ち、妹と二人姉妹でした。私は、今では身長173センチと大きく育ちましたが、産まれた時は、とても小さくて、未熟児に近い大きさだったそうです。小さい頃は、病気がちで、絵を描くのが好きな目立たない子でした。小学校に入ってから学芸会の主役に抜擢されたのがきっかけに、それからは自然にクラスの中心人物になっていきました。その後、学級長にも選ばれたりして、身長もグングン伸び、高校では、バスケット部に入り、チームワークや気配りを学びました。

Kiyoko: 紀子さんが、ニューヨークに来られるようになったきっかけは、何ですか?
Noriko: 父も英語を話しましたし、近所の知り合いや周りの大人たちが、海外につながりをもつような事をしていましたので、いつか海外に出て、何かをしたいと思っていました。でも、母が白血病になり、その看護で大変な日々が続き、母が亡くなった後、今度は、そのショックで、父が精神的におかしくなって、その後も家族の為にがんばっていました。でも、25歳になり、自分の人生の事を考えると、海外に行きたいという夢をあきらめきれず、やっと日本を離れる決心をしました。父は、私が渡米して1年後、亡くなりました。

Kiyoko: ニューヨークでは、初めはコンピューターアート関係ついて学ばれ、その後、IT企業にてウェブデザイナー、アートディレクターとして勤務されていたようですが、バブル経済崩壊で、会社が倒産という事になった時は、どのように思われましたか?
Noriko:NYに来たての頃、全てが分からなく、不安でいっぱいでした。前の職場が倒産した時は、既にNY在住10年で、IT業界にいたこともあって、会社の倒産には慣れていましたから、ああ、ここも潰れるのかくらいにケロッとしていました。おかげさまで多少の貯金があったので、あわてて次の就職をみつけなくてもすみました。こういう時間がある時期だからこそ!と普段忙しくて出来ないことを色々やってみました。私が日本にいたら、もっと悲観的になっていたかもしれない状況に対して、この街に住んでいることで、日々チャレンジをしている人たちを見て、大変なのは私だけじゃない!と思うことができて、前向きに自分の人生を捉えることができました。今の私があるのはNYのおかげです。私は、お酒の方は、けっこう飲める方なのですが、自分があんまり元気がない時は、飲まないようにします。お酒を飲めば、余計感情的になるだけで、あんまり良いことないですしね。

Kiyoko: 確かに、このニューヨークという街は、不思議なパーワーがある街です。無味乾燥な大都会なのに、とても人情もろく、そして、躍動感がありますね。あなたは、落ち込んだり、悩んだりした時は、どのように解決していますか?
Noriko:落ち込んだりする内容が、まず自分で解決できるのかどうかを分析して、自分ができることは、すぐにアクションをとります。自分にできない範囲の事に関しては、できることを尽くした後は仕方ないですが、でも自分が出来る範囲の事でベストを尽くした感覚があれば、もう納得がいくと思います。という感じに行動派です。でもアクティブに行動するだけでもだめだったりするので、そうすると自分の癒しを自分にしてあげるようにします。自然に触れたり、身体を動かしたり、芸術に触れたり、あとはやっぱり気のおけない親友と会ったり.......
あっ!ショッピングとかメイクを変えるとか、ヘアカットをするとか、変化が見えやすいものも取り入れます。あとは、問題だと思っていることを別の角度から見ることができないかとか、その問題を色々頭の中で調理してみます。そして、自分ひとりでできないことは、ヘルプを求めます。あんまり大声で叫んだり泣いたりしない方で、わりかし論理的に分析してアクションをとるという風に、落ち込む気分の解決というよりは落ち込む状況の解決をするという感じで、男性的なのかも知れませんが。

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Kiyoko: ボランティア活動に興味を持ったのは、どうしてですか?
Noriko:失業した後ですが、仕事で忙しかった時には、できなかった事を色々やってみました。その中で、ボランティア活動ってやりたかった事の一つだった事に気がつきました。
私は、1993年にニューヨークに来ましたが、その次の年に、ブルックリンのコニーアイランドに行き、あまりにもゴミが多く、汚かったので、一人でゴミ拾いを始めたんです。そして、ずーっとゴミを集めていたら、よってきて、何でそんなお金にもならない事をやってるの?という人もいました。それでも、がんばってゴミを拾い続けていると、ある女の人が、私と一緒に、ゴミを拾い始めたのです。とても、嬉しかったですね。で、そんな事をふと思い出して、又、友人たちと何かボランティアしてみたいと思ったのです。
そして、2002年5月、グループボランティア参加を日系コミュニティによびかけ、約40名の方々と公園の美化活動したことをきっかけに、NY de Volunteer(ニューヨークでボランティア NYdV)を立ち上げ、組織化しました。今は、約20名ほどのスタッフでやっていますが、日本人の方は、数年ほどで帰国する人が目立ち、スタッフがどんどん変わる事や、アメリカは、訴訟社会でもありますので、組織的にする事にしたのです。

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Kiyoko: 今までの活動で、一番感動した事は何ですか?
Noriko: 感動は、活動を通して本当に沢山得られるのでとてもありがたいと思っています。老人ホームにおられる年長者の方々に、お化粧のボランティアをした時ですね。老人性認知症の症状緩和やリハビリに効果があると言われているメイクやネイルやヘアーブローを行なうThe Japanese Spa Dayというイベントを毎年実施っています。いつもは、無表情な老女が、お化粧を受けると、ぱっと明るい笑顔になり、それを見ていた彼女の家族が涙し、それを見て、私も胸に込み上げるものがありました。クオリティー・オブ・ライフ、豊かで充実した時の提供が出来た事、とても嬉しく思います。

Kiyoko:  ニューヨーク市から、Distinguished Honorees受賞を受賞されましたが、ブルンバーグ市長にお会いになった時の印象は?
Noriko:市長の印象は、何よりまず、「小さい!!」 慌てて、屈んで彼の身長にあわせて写真を撮りました。これのおかげで私がとても小柄だと思う人が多く、実物を見て、173センチの私に驚く方が何人もいらっしゃいました。(笑)

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Kiyoko: 「日本人とボランティア」について、どう思われますか?
Noriko:日本人は、1回でも接した人には、とても親切だけど、Strangerには、なかなか手をさし伸べないようです。20歳代から60歳代の日本人にアンケートした調査では、80%の人が、ボランティア活動に興味があると応えていますが、でも全体の20%の人たちだけが、経験があると答えています。でも、それに対し、アメリカでは、キリスト教の影響もあり、大学や会社でも、ボランティアをした経験がある人が、ほとんどですね。日本人の皆さんは、やりたいけど、やらない理由は、1)時間がない。2)始めたいけど、どうしたら良いか分からない。3)敷居が高い。という事なのです。又、日本では、公共サービスは、政府がするという意識があります。アメリカでは寄付をしたり、ボランティア活動をすれば、税金の控除が得られますが、それに対し、日本では、全くそのような制度は整っていませんから、なかなかボランティア活動が芽生えにくいのでしょう。現在、景気の低迷もあり、日本企業からの寄付も少なく、ニューヨーク市からの援助も減っています。こういった背景があり、まだまだボランティアが浸透しやすいインフラが整っていないと思いますが、だからといって日本人がボランティア精神がないとかそういうことじゃないと思っています。実際にNYdVと一緒にボランティアをしてくださった日本人の働きぶりは、チームワーク 、高い出席率 、時間の正確さ 、丁寧な仕事振り 、礼儀の正しさ 、思いやりのある対応で、それはそれは高い評価を得ています。


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Kiyoko: 将来への展望を聞かせて下さい。
Noriko:今までNYに住み、NYdVを通していろんなチャレンジをさせてもらいました。それでも、まだまだもっとできる事があるなぁと思います。今暖めているプロジェクトは諸々あります。何をしていても、どこに住んでいても、笑顔と感動を作る事をしていたいと思います。そして、その中で自分も日々感動しながら、笑顔あふれる日々をまわりの人たちと分かち合っていきたいと思っています。

Kiyoko: 最後に、あなたの好きな言葉は、何ですか?
Noriko: "It's up to you." つまり自己責任。それが、私がアメリカに来た理由でもあります。あとはやっぱり、「ありがとう」です。

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先日、日野さんたちが、ボランティアをしているブルックリンの会場に見学に行ってきました。
ニューヨーク市の委託を受け、市が運営するリクリエションセンターのアフタースクールの一貫として、NY de Volunteerのオリジナル企画 "Explore Japanese Culutre! (EJC) an After School Program" で、日本文化の紹介をされていました。ニューヨークの子ども達が異文化に触れることによって視野を広げ、ダイバーシティ(多様性を教える)教育が注目されているNYの教育界で高いニーズを担っているそうです。プログラムの内容としては、6歳から13歳のアメリカの子ども達に、日本の暮らしや文化を、日本語、日本の遊び、日本食、武道、茶道、踊りなどテーマごとに8回に分けて紹介しています。「起立。礼。着席。」で始まり、ボランティアのスタッフに「こんにちは。」と子供たちが挨拶。この日は、最終日で、日本の遊びをテーマに、「からくり」「紙相撲」「折り紙」などを教えていました。特に男の子たちは、「紙相撲」に熱中してやっていましたね。それから、ビデオで、日本の演歌を歌うアメリカ出身の歌手ジェロ を見て、とても困惑した表情をしていたのが、面白かったです。最後に、日野さんが、一人一人に修了書を渡して終了。
この子供たちの中から、将来、日本に興味を持って、勉強をしたり、仕事をしたりする子が、出てくる事でしょうね。楽しみです!

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以下は、感動したボランティアのエピソードです。
<コスメティックボランティア>
 先日、久しぶりに『ボランティア参加者』としてCosmetic Workshopに参加した。

 仕事は、障害者が入る事のできるNY唯一のシェルター『Barrier Free Living』のカフェテリアで、ネイルやお化粧をするというもの。

 私が最初に担当した女性は車椅子で、手が軽く痙攣する障害を持っていた。切って欲しいと差し出した彼女の手は、実に痛々しいものだった。爪は5センチ以上も延びたままで、割れており、爪の裏は真っ黒で、垢で埋め尽くされていた。

 この手で一体日々どうやって暮らしているんだろう?この女性は前日にシェルターに移って来たとのことで、表情は固く、会話をしようとしてもなかなか和らがない。

 生活しやすい清潔な爪になるように!と夢中に取り組み、ガタガタだった爪がみるみる綺麗になっていった。そのうちに、徐々に会話も弾みはじめ、マニュキュアの好み等希望を話してくれた。

 それから5名くらいの方の爪切りをした。「ネイルを俺にもやってくれ!」と言ってくる男性の中には、爪自体は全然綺麗でとくに切る必要もない人もいた。自分の為に何かやってくれる、という行為を楽しみたいようだった。そんな人達にはハンドクリームを塗って手のマッサージをした。

 ふと気付くと、最初に爪を切った女性がポツンと座り、ずーっと自分の爪を眺めている。目があうと、『I like it! I like it!』と言ってくれた。

 爪を切る、私がやった事はたったそれだけだが、それによってこんなに喜んでくれる人がいる。自分が誰かの役に立つ事が出来た実感が私の心を潤した。

 ボランティアの原点を改めて考えた。自発的に社会の為に役に立ちたいとボランティア活動に参加し、各自が自分のできる事を提供し、利害関係のない所で人と人との心が触れあう。

 ボランティアは決して一方的にしてあげる行為ではない、give & giveである。人はもちつもたれつ、見えない所で繋がっているんだと気付かせてくれる。

日本人にはまだまだ縁遠い『ボランティア活動』。私はその素晴らしさを多くの人と分ち合いたい。