小学校入学前に通っていた通園施設では、言葉が全く出ていないりょうへいは、言語訓練を定期的に受けていた。
いつも意外だったのは、言語訓練といっても、言葉を教え込むわけではないこと。
りょうへいの大好きなおもちゃを与えて遊ばせるのだけど、さあ、また遊ぼう、とりょうへいがボールなどを取ろうとするタイミングで、先生がそれを取り上げてしまう。
初めは急におもちゃが取り上げられたことで、泣くだけだったのが、だんだん、取り上げる人を意識するようになる。
おもちゃが、ほしい、と伝えたい。
そんな気持ちが本人に芽生えて、初めて言葉が初めてコミュニケーションの手段としての意味を持つことになる。
ピアノ教室に行き始めたときも、初めからピアノの前に座らせて、音階を教え込むことはなかった。
先生は、まず始めに、鈴、タンバリン、トライアングルなど、簡単な楽器をりょうへいに与えた。
それらを、りょうへいは、まるでミニカーを並べて遊ぶように、ピアノいすの上にきれいに並べる。
すると、先生はピアノをひきながら、童謡を歌って聞かせてくれる。おもちゃのチャチャチャ、犬のおまわりさんなどなど。その間、りょうへいは、おもちゃの木琴をぽんぽん自由にたたく。それはもう、実に楽しそうに。
音楽って楽しいものなんだということを、まず先生は伝えたかったのだと思う。
実際りょうへいは、一度もピアノ教室に行くのを嫌がったことはない。
この写真は、その当時のりょうへい。
「男の子でも、割とみんな好きなんですよ。」とピアノの先生がくださったビーズで遊んでいます。