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「キョウ…?」







「ねぇ…キョウ?起きて…お家着いたよ…」






エンジンを即だに切り、運転席から振り返った私は、息子の小さな手を軽く握りながら静かに問い掛けた。



しかし、後部座席で寝入ってしまった息子は、目覚めようとする僅かな反応さえも見せない。








緊張感を醸し出しながら、薄暗い駐車場内を、息を潜めグルリと見渡してみる。







此処にも一樹の姿は見当たらない。







この場所から、エレベーターが位置するエントランスまでは、約20m位だろうか。



キョウを抱きかかえて走り抜ければ、僅か数秒で辿り着くはずだ。








もはや、ゆっくりと冷静に考えている余裕は無かった。




私は運転席から後部座席へスルリと車内を移動し、響の通園カバンや、自らの所持品を全て右腕に吊り下げる。



そして、もう片方の左手を駆使しながら、運動量と食欲が増え、最近グッと体重が重くなった息子を、今度はその瞼が開かないように、そっと抱き上げた。









左胸を激しく脈打つ鼓動が、まるでアクション映画のBGMを演出するかのように、掻き乱し追い詰められる私の意識を一直線に軌道修正させていく。








3、2、1…と、此処から脱出するタイミングを数えたかは記憶が無い。







次の瞬間、無色透明の視界へと向けて、私は無我夢中で車内から飛び出していた。


その傍らには、自身の命よりも大切な存在を抱き抱えて……………。









斜めに下ろした前髪が、生ぬるい梅雨の夜風に撫でられ、冷や汗が吹き出る私の額に、吸い付くように張り付く不快感を無視しながら、鉄砲玉のように僅か20m余りを走り抜ける。


そして、体勢を斜めに構えながら、僅かに稼働出来る指先で、エレベーターの開閉ボタンを連打し続けた。










ガタンッとエレベーターが太い咳払いのような機会音を発して、到着したことを知らせている。


その間、立ち止まる自身の背中を、一騎打ちを仕掛けてくる敵が現れないだろうかと、後方左右に視線を泳がせていた私の前方で




ゆっくり…ゆっくりと、左右に開かれていくエレベーターの扉の先に、大きな黒い影が浮かんで居るのが視えた。