安倍、“9条改憲”「短兵急にやらぬ」 | 日本のお姉さん

安倍、“9条改憲”「短兵急にやらぬ」

改憲派2/3超の歴史的圧勝
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杉浦 正章

安倍、“9条改憲”「短兵急にやらぬ」

共産の「自滅発言」が改憲勢力にプラス

自民党が27年ぶりの単独過半数荷は届かなかっものの、改憲勢力が戦後初めて憲法改正を発議できる3分の2議席を突破したのだから、これはどう見ても自民党にとって歴史的圧勝であろう。

紛れもなくアベノミクスの勝利であり、同時に3年3か月にわたり大失政を繰り返した民主党政権に対するアレルギーが依然根強いことを物語っている。

首相・安倍晋三は改憲を選挙の争点にしないまま、改憲に向けての“通行手形”を獲得したが、「短兵急にやるものではない」といきなり「9条改定」に取り組むことはない方針を明らかにした。

政権はアベノミクスの仕上げに全力を傾注することになろう。民進共産の野党共闘は一定の成果を上げており、今後総選挙に向けて共闘が持続する可能性は高い。内閣改造は8月にも断行されるだろう。

単独過半数は辛うじて届かなかったが、改憲3分の2は驚きの結果であろう。安倍は選挙期間中一切改憲には言及せず、自民党も公約には目立たないように掲げ、あえて論争を避けた。

自民党の基本戦略はアベノミクスの推進と民共共闘の批判に集中させ、この“2点集中戦略”が奏功した。改憲を前面に出せば必ず票は減るという読みが前提にあったが、これは戦略としては成功した。

朝日が11日付社説で「後出し改憲に信はない」と歯ぎしりして悔しがっているが、野党も肩透かしを食らって、改憲批判ものれんに腕押しにとどまった。

NHKの出口調査ではアベノミクスを大いに評価8%、ある程度評価48%で合計56%が支持していたことが判明、比例区での投票先の57%が自民党であった。やはり事実上の完全雇用と大企業、中小企業の利益が史上最高という現実が、野党の批判するGDPの不振よりも大きく作用したものとみられる。

加えて選挙冒頭までは躍進基調であった共産党の幹部が、防衛予算を「人殺し予算」と形容したことをきっかけに、勢いをそがれた事が、改憲3分の2に大きく作用した可能性がある。

6月26日の発言後7月上旬の産経の調査では5.7あった共産党支持率が4.5%に急落している。数字は小さいが躍進していた政党が22%の支持率減少となったのは痛い。

発言がなかったら3分の2は阻止できていた可能性がある。共産党の目標議席は比例区9議席であったが、比例区、選挙区合計で6議席にとどまった。前回の8議席にも及ばなかった。早くも共産党の躍進に限界が見えてきた。

それでも民進党が前回の参院選1人区では2議席しか取れず、共闘が実現する前の情勢では数議席しか自民党と互角の勝負が出来ないと予想されていたにもかかわらず、11議席を獲得出来たことは一定の共闘効果があったことを物語る。

代表・岡田克也は地元の三重で負けたら責任をとる旨発言した。これは三重選挙区候補の選挙を自らの選挙ににしてしまって当選させるという、苦肉の策だが、結果的には成功した。

それでも党内は9月の代表選に向けて混乱が続きそうだ。一方、共産党委員長・志位和夫は「バラバラだったらもっと厳しい結果となっていた。衆院でも持続していきたい」と共闘持続を表明した。

岡田は党内右派を念頭に共闘への明言を避けているが、結局独自の戦いでは党勢が弱すぎて勝負にならないことから、衆院でも共闘に乗らざるを得ないものとみられる。共産党は庇を貸して母屋を取る戦略だ。

改憲勢力3分の2議席を得た安倍は、「9条改憲」に関しては極めて慎重な姿勢を鮮明にさせた。「この選挙では憲法改正の是非が問われたわけではない」と正直に争点化を避けたことを認め、「今後憲法審査会で議論し、国民的理解が深まる中で、改正する条文が収れんしてゆくことを期待したい」と述べた。

これは国論を2分する上に、国民投票で敗れれば政局に直結する「9条改憲」を当面は“主導”しないことを明らかにしたものだ。野党とりわけ第1党の民進党を論議に引き込みつつ、当面は対決姿勢でなく与野党合意のもとで改憲の方向を探ってゆく方針なのであろう。

改憲勢力が衆参両院で3分オ2議席を獲得したことにより、安倍は内政外交でおごらず、重心を低くして「勝って兜(兜)の緒(お)を締めよ」の長期政権路線を行くだろう。

自民党総裁の任期も2期6年までを3期9年までに延ばす動きが出てくるだろう。国政選挙に4回連続して圧勝した首相は希有の存在であり、国会議員や党員を問わず延長に異論は出にくいだろう。

アベノミクスはまさにこれからが正念場である。安倍は選挙結果について「アベノミクスを力強く前に進めよというのが国民の声」と言明した。大型補正など大胆な財政出動も不可避の経済情勢となっている。

自民党内では10兆円規模の補正予算を求める声が強い。さらに中国、北朝鮮という軍国主義国家に隣接して、一触即発の状態が長期に続くことも予想される。外交・安保では気の抜けない状況が続く。

自民党の圧勝で公明党との関係は一層強化されるだろう。公明党票あっての自民党躍進の構図は衆院選挙でも変わりようがないからだ。内閣改造は官房長官・菅義偉と財務相・麻生太郎の処遇が焦点となるが、とりわけ菅は余人を持って代えがたき仕事をしており、余人に代えては内閣がバランスを失って失速しかねない。まだ当分代えない方が得策と思える。
「人殺し予算」が民共共闘を直撃
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杉浦正章

「100万票減」と公明代表

昔、反党行為を犯した極左政党の党員が、まるで執行部を前にして懺悔を するかのようであった。

「人を殺すための予算」発言で政策委員長を更迭されたあとの藤野保史は 「党の方針とは異なる」「党の方針とは全く違う趣旨」と記者会見で繰り返した。

しかし防衛費を「人殺し予算」と断定した未曾有の大失言は、中国のことわ ざ「一言既出,???追」(一言口に出せば,4頭立ての馬車でも追いつ けない)そのものだ。

あっという間に参院選野党共闘を直撃、「比例票では既に100万票減らし た」(山口那津男)という惨状となった。

首相・安倍晋三を始め自公は千載一遇のチャンス到来とばかりに残る2週 間共産党と、同党と共闘する民進党などに照準を合わせて攻撃を続ける。

これまで発言を黙殺してきた朝日も、さすがに辞任劇ともなれば報道せざ るを得なくなったようだ。4面ながら報じている。

日曜のNHKの討論番組を見ていて気付いたのは、藤野発言に対して即座に 「それは言い過ぎだ」と反応したのは自民党政調会長・稲田朋美。公明やお おさかもこれに追随したが、民進党政調会長・山尾
志桜里は無反応。

意図的沈黙というよりどう反応して良いか分からないかの様であった。政 治家としての熟練度の違いを見せた。山尾にしてみれば何よりも大切な共 闘相手であり、批判すれば共闘にひびが入ると判
断したのかもしれない。

その共闘相手共産党が、さすがに藤野を切り捨てざるを得なかった。

委員長・志位和夫ら幹部は、当初は発言を取り消せば済むと考えたのだ ろう。26日夕方になって藤野に取り消させたが、まさに発言は燎原の火の ごとく広がり手がつけられないような様相となっ
た。

それもそうだろう、共産党は戦後各種“闘争”でたびたび殺人事件を起こし ているが、自衛隊は発足以来1人も他国の人命を奪っていない。

おまけに東日本大震災や熊本地震では、自衛隊がなければ多くの尊い人命 が失われていた。

熊本の病院では自衛隊の給水継続により350人の人工透析患者を救ったと いう。熊本選挙区では民進党幹部から「まるで民共共闘を殺す発言だ」と悲 鳴が上がるほどだ。少なくとも熊本では統一候補の当
選はあり得なくなった。

志位としても藤野を更迭せざるを得ない立場に追い込まれたのだ。藤野に 辞任会見をさせた志位は「党の方針ではないと強調せよ」と命じたに違いない。

ところが「人を殺すための予算」発言は共産党の「本音」に極めて忠実に沿っ たものであることは明白だ。第一に似ているのは共産党が好きなレッテル 貼りだ。

安保法制を「戦争法案」と決めつけ、同法成立を「徴兵制に道」と断定する “手口”にそっくりではないか。加えて自衛隊を憲法9条違反の違憲として 解消する党是も変更はない。

共産党は大矛盾を抱えている。自衛隊解消の党是について志位自身は記者 会見で「日本を取り巻く国際環境が平和的な成熟が出来て、国民みんなが 自衛隊はなくて大丈夫だという圧倒的多数の合意
が熟したところで9条全 面実施の手続き、すなわち自衛隊の解消に向かう」と発言している。

つまりこの地球上に未来永劫(えいごう)実現しないユートピアが出来て 初めて自衛隊を解消するという方向だ。戦後長期にわたって維持してきた 自衛隊解消の方針を三百代言の論法を駆使して、
「国民連合政府」実現のた め事実上転換したのだ。それにもかかわらず党是はそのままだ。これが矛 盾出なくて何であろうか。

その機微を理解しない藤野は、過去に勉強したとおり党是に忠実に自衛隊 を違憲の組織と判断し、国防上の役割を否定して「人を殺すための予算」発 言をしてしまったのだ。

こうして民進党にとっては共産党との共闘がプラスかマイナスか分からな いような状況になってきた。今後政府・与党は、「人殺し予算」発言を最後 の最後まで選挙戦に使い続けるだろう。

民進党内も右派が前原誠司のように「自衛隊は専守防衛で極めて重要な役 割を果たしている。極めて悪質な発言だ」と真っ向から批判に出ている。

前原としてはもともと共産党との共闘に批判的であり、「それ見たことか」 という思いが強い。

こうして民進党は選挙中に、再び遠心力までが生じ始めたのだ。苦し紛れ か代表・岡田克也は「地元の三重選挙区で敗れた場合」に辞任する意向を表 明したが、これは党が惨敗しても三重が残れば辞め
ないという布石のよう に聞こえ、哀れである。

いよいよ改選45議席が15議席以上減る流れが 現実味を帯び始めている。 共産党との共闘という「毒食った報い」で民進党 は自ら墓穴を掘ったとし か考えられない状況である。

おおさか維新の会代 表の松井一郎が「共産党は少しずつ化けの皮がはが れてきている。共産党 と組むということはそういう考え方で一致すると いうことだ」と述べ、 「人
殺し予算」発言を批判。共産党は民進党にとっ て童話の「おんぶお化け」 になりつつあり、これから逃れることは選挙中 は不可能だろう。