最先端を行く富裕層の中国人はもう物質は何でも持っています。 | 日本のお姉さん

最先端を行く富裕層の中国人はもう物質は何でも持っています。

増加する「爆買いしない」中国人たちの本音
彼らは何を思い、どこへ向かうのか?
中島 恵 :ジャーナリスト 2016年01月05日
日本にきて「爆買いしない」中国人の本音とは?(写真提供:林翔氏)

「正直言いましてね、私、あまり中国人に会いたくないんですよ。だって、わざわざこんなところに来てまで……ねぇ……」

「えっ? 中国人に会いたくないって? そ、そうなんですか……」

これはある富裕層の中国人と私の会話だ。中国人の顔を見たくないといっているのは、当の中国人である。しかし、この話には「なるほど」と思わせられる、ちょっと切ないワケがある。

ある中国人、富裕層男性の本音

語り手は40代後半の富裕層の男性。上海の大手企業で管理職に就いている。年収は1000万円以上あり、妻と1人娘がいる。仕事はハードで毎晩遅くまで働いているが、年に何回か休暇を取り、家族で海外旅行に出かけることを密かな楽しみにしている。海外旅行のときだけは、数人の部下からの緊急メールを除き、仕事はシャットアウト。海外の中でもとくに好きな日本で、ゆったりのんびり過ごすことにしている。

行き先はさまざまだ。以前は北海道が好きで、札幌からそれほど遠くない都市にある隠れ家的な高級温泉旅館をよく定宿にしていた。たまたま友人に紹介された旅館で気に入ったのだが、 “中国人”は自分たち以外、一組もいない。日本語はできず、英語で会話しているが、その旅館は外国人もけっこう多いため、まったく問題ないという。京都や奈良も大好きで、大好きなお寺巡りや料亭での料理を楽しんでいる。行動をともにするのは家族だけ。英会話OKのタクシーをチャーターして、自由できままな旅行を楽しんでいる。

日本語以外の言語で話している、ということを除き、彼らの外見だけで中国人と判断することはちょっと難しい。おしゃれで、洗練されていて、知的なニューファミリーといった雰囲気を醸し出しているからだ。そう説明すると、語弊があるかもしれないが、いわゆる「爆買い中国人のイメージ」とは一線を画しているのである。

今夏、私は『「爆買い」後、彼らはどこに向かうのか?』の取材をしていて、彼らのような知的な仕事に就く富裕層が続々と来日していることを知った。彼らの目的は「癒し」、「学習」そして「日本でしかできない体験」だ。

→次ページもう、うんざり?

彼らは銀座の大通りの路肩に座ったり、炊飯器を10個も買ったり、「白い恋人」を30箱買ったり……という、いわゆる「爆買い」はしない。日本旅行に“買い物以外”の楽しみを見出している。そう、富裕層の一部はすでに「爆買いしない」層なのだ。

この男性家族の目的は「癒し」だった。家族だけで貸し切りの温泉に入り、個室を予約して、手の込んだ日本料理に舌鼓を打つ。リラックスすることが目的なので、誰にも邪魔されたくないと思っている。中国では売上高などの数字に追われ、厳しい仕事に追いまくられているからで、日本に来たときくらい、のんびりしたい。中国に比べ、早く発展した日本の旅館は少々古びてはいるが、ソフト面が充実しているため、居心地がよいという。

日本に来てまで「中国」を感じたくない

そんなサービスの行き届いた日本旅行を満喫中、最も嫌なのは、静かな環境をぶち壊されること。たとえば、以前、京都の清水寺に行く坂道を歩いていたとき、背後から人がどーんとぶつかってきたことがあった。「なんだ?」と思って振りむいたら、50~60代くらいの中国人数人がわいわいしゃべっていて、自分を押しのけたのだ。

強い衝撃にびっくりして思わず振り返ったら、がなり声の中国語が聞こえてきたという。

「もううんざりっていうか……。一瞬にして上海に引き戻されましたね(笑)。団体ツアーの人たちで、周囲の迷惑を顧みず、細い坂道でギャーギャー騒いでいまして。自分は同じ中国人ですが、残念な気持ちになりました」


中国人の富裕層は日本のレストランにも「高い質」を求める(写真提供:林翔氏)
この男性は差別意識でいっているわけではなく、「自分はただ静かに過ごしたいだけなんだ」と力説する。人口が多く、さまざまな階層の人が混在する中国での生活は競争が激しく、彼いわく“まるで戦場”みたいなものだ。最近は少しずつ落ち着ける店もできてきたが、まだまだ少ない。

週末に家族で高級レストランに行っても、店員の教育が行き届かないこともしばしば。急速にサービスの質がアップしているとはいえ、日本とは比べものにならない。日本の高級店で受けるサービスは、中国人から見れば“殿様気分”に浸れるほど気分のいいものだ。

だから、 “癒し”や“リラックス”を求めて来日しているのに、そんなときに“中国”に引き戻されたくないという。むろん、初めての日本旅行を楽しんで、はしゃいでいる彼らの気持ちもわからないではない。ただ、同じ空間にいたくない、というのが彼のささやかな願いなのである。

以前、私は著書の中で「中国人にはマイナス100からプラス100までの幅広い層がある」と書いたことがあった。それくらい中国人は多種多様で、さまざまな人がいるが、日本では突拍子もない人に出会う確率はずっと少なく、“安心”できるのだ。

→次ページ洗練された旅行コースも登場
一方、「学習」や「体験」を求めて日本にやってくる富裕層も増えている。

取材の過程で知り合った林翔さん(35歳)は、京都の伝統的な町屋で暮らしている男性だ。以前は沖縄に住んでいたが、京都の奥深い文化にあこがれ、町屋を探して住み始めた。中国人富裕層たちから依頼された旅行手配などを行う仕事をしている。

日本人もびっくり、洗練された旅行コース


書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

林さんが企画するツアーに参加するのは上海から程近い杭州に住む30~40代の会社経営者や銀行員、大手企業に勤務する富裕層。彼らが興味を持っているのは、免税店を巡る買い物や、東京―大阪間のゴールデンルートを歩くバスツアーなどではなく、日本の建築やデザイン、農業、芸術、ホテル経営、日本人のライフスタイルなどを見聞することだ。

中国よりも進んでいる日本の最先端の技術や、日本人の精神性などを学びたいと思っており、日本の文化に詳しい林さんに「どこに行ったらそれを知ることができるか」相談してくるという。

「1回のツアーは少人数に限定しています。滞在日数は1週間から10日とゆったりしていて、彼らと相談しながらオリジナルのコースを組んでいきます。分刻みの慌ただしい旅行はしません。

たとえば、これまでに北海道の食材を存分に使った美瑛のオーベルジュや、里山の自然が美しい新潟のホテル、東京・新潮社の倉庫跡を改造したキュレーションスペース、個性的な美術館や博物館などに案内しました。単にそこを見るだけでなく、じっくりお話を聞いたり、建築や展示の方法などを研究することも目的のひとつです。いずれも一人では行きにくい場所で、中国ではまだ情報が出回っていないところ。言語の問題もありますので、とても喜ばれています」(林さん)

また、「地元の人とふれあいたい」「日本ならではの体験がしたい」という声も多く、それに応えて、日本全国各地に案内している。たとえば、福岡県の城下町で陶芸体験をしたり、田舎の小さな喫茶店のマスターらと語り合ったり、町のおまつりに参加したり、日本料理を習ったりすることなどだ。

「最先端を行く富裕層の中国人はもう物質は何でも持っています。モノを手に入れることで得る満足ではなく、独創性のあるお話に耳を傾けたり、そこでしかできない“経験”を欲しているのです。日本のことはまだあまりわからないので、日本人が何を考え、どうやってその作品を生み出すことができたのかなど、現在に至る過程や考え方を知ることが目的。そこでインスピレーションを得て、中国に持ち帰って、自分たちの仕事に生かしたいと思っています」(林さん)

モノではなく、日本人とのふれあいや日本ならではの体験で触発されたい――。「爆買い」という祭りのあと、早くもこの領域に達した人々がいる。この傾向は富裕層だけの現象にとどまるのか、それともいま「爆買い」している中国人にも及ぶのか。 少なくとも中国人たちが日本を見る目は、われわれ日本人が想像するよりもずっと速いスピードで、大きく変わりつつあるのだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「最先端を行く富裕層の中国人はもう物質は何でも持っています。」
それで、日本に来て癒しや体験学習を買っているというわけです。