母親になってはいけない人もいるんだなあ。虐待するなら産むな。
「給食だけ」13歳、26キロ飢餓寸前 母親に手首切られ…里親と出会い「居場所」
西日本新聞 3月30日(水)11時18分配信
この春、里親の元を離れる愛さん。「小学生のころは、ずっとおなかがすいていた」と語る
この春、高校を卒業した愛(18)=仮名=が福岡県内の里親の家に来たのは中学1年の夏。身長128センチ、体重26キロ。小学校低学年ほどの大きさしかなかった。
この春、里親の元を離れる愛さん。「小学生のころは、ずっとおなかがすいていた」と語る
持参した服はいずれも6~7歳児のサイズで、多くに血痕が付いていた。
「骨が浮き出るほど痩せているのに、おなかだけぷくっとふくれていた」と、里親の山本直子(58)=同=は振り返る。
愛を診察した大学病院の医師は紙に0~10の数字を書き、「0が死、1がアフリカの飢餓状態の子ども。彼女は1に限りなく近い2だ」と説明し、深いため息をついた。「本当によく生きていましたね」
ホームで食卓を囲む愛さん。「ここにもっと早く来たかった。山本夫妻にはどれだけ感謝しても、感謝しきれない思いです」
「給食だけで生き延びた」
愛は九州北部で生まれ育った。幼いころから母と、母の交際相手の男、兄2人の5人でアパート暮らし。
男はいつも子どもたちに暴力を振るい、一番の標的が愛だった。気にくわないことがあると馬乗りになって殴られ、木刀や椅子でたたかれた。
この後遺症で愛は今も、怒鳴り声や大きな物音を聞くと過呼吸を起こすことがある。
家で満足にご飯を食べた記憶はなく「給食だけで生き延びた」。空腹を満たすため万引を繰り返し、小学生のころから警察に何度も補導された。
愛の左手首に3センチほどの傷がある。母に裁ちばさみで切られたときの傷だ。
2010年6月。きっかけはたわいもない口論だった。突然、興奮した母ははさみで愛の髪を切り刻んだ後、左手首を切った。さらに頸(けい)動脈にはさみを当て、「あんた、ここ切ったら死ぬんばい」とすごんだ。
下の兄が母からはさみを取り上げ、「逃げろ」と怒鳴った。愛は夢中で外に飛び出し、血だらけで夜の住宅街をさまよい歩いた。
コンビニの明かりが見えたので飛び込み、店員に助けを求めた。何時間も逃げたつもりだったが、家から歩いて数分の距離だった。
愛は児童相談所に保護され、山本夫妻の元に。母は愛への殺人未遂容疑で逮捕された、と聞いた。
「あのとき兄が助けてくれなければ、私は死んでいた」。今もうっすらと残る左手首の傷痕を見つめ、愛はつぶやく。
里親と出会い「居場所」
今月中旬の夕暮れ。ダイニングルームの大きな食卓でニラの卵とじや肉野菜炒め、みそ汁、白いご飯が湯気を立てる。
「おかん、明日は朝から出かけるけん」「お母さん、僕この野菜いらん」。小学4年の男児から高校を今春卒業した愛(18)=仮名=まで、中高生を中心に男女8人の子どもと里親である山本直子夫妻=仮名=とのおしゃべりが飛び交う。
5年半前、母に手首を切られ児童相談所に保護された愛は、夫妻が福岡県内で運営する「ファミリーホーム」で暮らしてきた。
来た当初、愛の異常な食欲に直子は驚かされた。体は小さいが、毎食ご飯をどんぶりで3杯、おかずも2人前を平らげた。「食べる物がない生活をしてきたから、あるときに食べようという強迫観念があったようだ」と振り返る。
食事中、愛は常に周囲をうかがうような目をした。幼い頃、母の交際相手から「食べるのが遅い」と木刀でたたかれたり、ビールが入ったコップを投げつけられたりしてきたからだ。「何時間かかってもいいけん、安心して食べり」。直子は愛の背中をさすった。
主治医から「やっと飢餓状態を脱した」と告げられたのは高校に入学したころ。ただ、「親元に帰せば、すぐ逆戻りする」とくぎを刺された。5年半で、愛の身長は18センチ伸び、体重も20キロほど増えた。
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私には戻れる場所がある
母は逮捕後、執行猶予付きの有罪判決を受けた。愛との接見を禁止されていたが、クリスマスや誕生日には手紙や贈り物を届けた。高2の秋、母から電話がかかってきた。
「保護観察が終わったけ、一緒に住もう。帰ってきて」
ホームに来てからも、愛は直子たちに母のことを決して悪く言わなかった。
お母さんは変わったのかも。もうひどいことはしないはず…。違う。交際相手の男が自分を働かせようと思ってるんじゃないか。ここを出てしまえば、もう戻れないんじゃないか…。
母を信じたい気持ちと不安で心が揺れた。決心させたのは直子の一言だった。
「お母さんのところに帰ってもいいんよ。それで無理やったら、戻っといで」。私には戻れる場所がある、ここにいる大人は信用できる。ここが自分の居場所だ-。そう、初めて感じる自分がいた。
結局、母の元へは戻らなかった。直子によると、この頃から愛の状態は目に見えて落ち着いたという。
今月初旬、高校の卒業式から帰宅した愛は、直子たちに深々と頭を下げた。「ここに来て初めて家庭というものを実感できた。山本のお父さんもお母さんも、私たちのことを一番に考えてくれた。ありがとう」
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次ページは:私は私の道を行く
私は私の道を行く
愛は4月から食品メーカーに就職する。児童福祉法に基づく保護措置が解除され、ホームを巣立って1人暮らしを始める。
愛は、子どもは欲しくないと思っていた。「(母と)同じように虐待しそう」と不安だったから。でも、今は違う。「普通の家庭を築きたい。子どもが帰ってきたら『お帰り』と言ってあげたい」
この冬、母から再び帰宅を促す電話があった。「私を見捨てないで」。愛が「交際相手と別れるなら考える」と言うと、母は言葉を濁した。愛はきっぱりと言った。
「お母さんは自分の道を歩んで。私は私の道を行くけ」
初任給で山本夫妻にプレゼントを買う-。愛はそう決めている。
冬を越えて芽吹く春。貧困や虐待の連鎖を断とうとする若者たちの姿を追った。
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「給食だけ」13歳、26キロ飢餓寸前 母親に手首切られ…里親と出会い「居場所」
西日本新聞社
4月24日こども食堂サミット
「子ども食堂」が各地で広がっています。西日本新聞社は、九州や東京の関係者が集い、課題を議論するシンポジウム「こども食堂サミットin九州」を開催します。
◇とき 4月24日(日)午後1時~5時
◇ところ エルガーラホール・中ホール(福岡市中央区天神1-4-2)
◇内容 基調講演=栗林知絵子・NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク理事長「おせっかいがつなぐ子どもと地域」▽パネルディスカッション▽子ども食堂の作り方講座▽情報交換会
◇定員 200人。参加費500円(資料代)
◇申し込み 4月8日(金)必着で
(1)郵便番号・住所
(2)氏名
(3)電話番号
(4)子ども食堂の開設予定または検討の有無
を記入し、西日本新聞社企画推進部「こども食堂サミット係」へ。
はがき=〒810-8721(住所不要)
ファクス=092(731)5210
メール=kodomo@nishinippon-event.co.jp
◇共催 NHK福岡放送局
◇後援 福岡県、福岡市、北九州市、大野城市、こども食堂ネットワーク(東京)
◇問い合わせ先 企画推進部=092(711)5490(平日のみ)
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西日本新聞社
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160330-00010000-nishinp-soci&p=1
西日本新聞 3月30日(水)11時18分配信
この春、里親の元を離れる愛さん。「小学生のころは、ずっとおなかがすいていた」と語る
この春、高校を卒業した愛(18)=仮名=が福岡県内の里親の家に来たのは中学1年の夏。身長128センチ、体重26キロ。小学校低学年ほどの大きさしかなかった。
この春、里親の元を離れる愛さん。「小学生のころは、ずっとおなかがすいていた」と語る
持参した服はいずれも6~7歳児のサイズで、多くに血痕が付いていた。
「骨が浮き出るほど痩せているのに、おなかだけぷくっとふくれていた」と、里親の山本直子(58)=同=は振り返る。
愛を診察した大学病院の医師は紙に0~10の数字を書き、「0が死、1がアフリカの飢餓状態の子ども。彼女は1に限りなく近い2だ」と説明し、深いため息をついた。「本当によく生きていましたね」
ホームで食卓を囲む愛さん。「ここにもっと早く来たかった。山本夫妻にはどれだけ感謝しても、感謝しきれない思いです」
「給食だけで生き延びた」
愛は九州北部で生まれ育った。幼いころから母と、母の交際相手の男、兄2人の5人でアパート暮らし。
男はいつも子どもたちに暴力を振るい、一番の標的が愛だった。気にくわないことがあると馬乗りになって殴られ、木刀や椅子でたたかれた。
この後遺症で愛は今も、怒鳴り声や大きな物音を聞くと過呼吸を起こすことがある。
家で満足にご飯を食べた記憶はなく「給食だけで生き延びた」。空腹を満たすため万引を繰り返し、小学生のころから警察に何度も補導された。
愛の左手首に3センチほどの傷がある。母に裁ちばさみで切られたときの傷だ。
2010年6月。きっかけはたわいもない口論だった。突然、興奮した母ははさみで愛の髪を切り刻んだ後、左手首を切った。さらに頸(けい)動脈にはさみを当て、「あんた、ここ切ったら死ぬんばい」とすごんだ。
下の兄が母からはさみを取り上げ、「逃げろ」と怒鳴った。愛は夢中で外に飛び出し、血だらけで夜の住宅街をさまよい歩いた。
コンビニの明かりが見えたので飛び込み、店員に助けを求めた。何時間も逃げたつもりだったが、家から歩いて数分の距離だった。
愛は児童相談所に保護され、山本夫妻の元に。母は愛への殺人未遂容疑で逮捕された、と聞いた。
「あのとき兄が助けてくれなければ、私は死んでいた」。今もうっすらと残る左手首の傷痕を見つめ、愛はつぶやく。
里親と出会い「居場所」
今月中旬の夕暮れ。ダイニングルームの大きな食卓でニラの卵とじや肉野菜炒め、みそ汁、白いご飯が湯気を立てる。
「おかん、明日は朝から出かけるけん」「お母さん、僕この野菜いらん」。小学4年の男児から高校を今春卒業した愛(18)=仮名=まで、中高生を中心に男女8人の子どもと里親である山本直子夫妻=仮名=とのおしゃべりが飛び交う。
5年半前、母に手首を切られ児童相談所に保護された愛は、夫妻が福岡県内で運営する「ファミリーホーム」で暮らしてきた。
来た当初、愛の異常な食欲に直子は驚かされた。体は小さいが、毎食ご飯をどんぶりで3杯、おかずも2人前を平らげた。「食べる物がない生活をしてきたから、あるときに食べようという強迫観念があったようだ」と振り返る。
食事中、愛は常に周囲をうかがうような目をした。幼い頃、母の交際相手から「食べるのが遅い」と木刀でたたかれたり、ビールが入ったコップを投げつけられたりしてきたからだ。「何時間かかってもいいけん、安心して食べり」。直子は愛の背中をさすった。
主治医から「やっと飢餓状態を脱した」と告げられたのは高校に入学したころ。ただ、「親元に帰せば、すぐ逆戻りする」とくぎを刺された。5年半で、愛の身長は18センチ伸び、体重も20キロほど増えた。
.
私には戻れる場所がある
母は逮捕後、執行猶予付きの有罪判決を受けた。愛との接見を禁止されていたが、クリスマスや誕生日には手紙や贈り物を届けた。高2の秋、母から電話がかかってきた。
「保護観察が終わったけ、一緒に住もう。帰ってきて」
ホームに来てからも、愛は直子たちに母のことを決して悪く言わなかった。
お母さんは変わったのかも。もうひどいことはしないはず…。違う。交際相手の男が自分を働かせようと思ってるんじゃないか。ここを出てしまえば、もう戻れないんじゃないか…。
母を信じたい気持ちと不安で心が揺れた。決心させたのは直子の一言だった。
「お母さんのところに帰ってもいいんよ。それで無理やったら、戻っといで」。私には戻れる場所がある、ここにいる大人は信用できる。ここが自分の居場所だ-。そう、初めて感じる自分がいた。
結局、母の元へは戻らなかった。直子によると、この頃から愛の状態は目に見えて落ち着いたという。
今月初旬、高校の卒業式から帰宅した愛は、直子たちに深々と頭を下げた。「ここに来て初めて家庭というものを実感できた。山本のお父さんもお母さんも、私たちのことを一番に考えてくれた。ありがとう」
.
次ページは:私は私の道を行く
私は私の道を行く
愛は4月から食品メーカーに就職する。児童福祉法に基づく保護措置が解除され、ホームを巣立って1人暮らしを始める。
愛は、子どもは欲しくないと思っていた。「(母と)同じように虐待しそう」と不安だったから。でも、今は違う。「普通の家庭を築きたい。子どもが帰ってきたら『お帰り』と言ってあげたい」
この冬、母から再び帰宅を促す電話があった。「私を見捨てないで」。愛が「交際相手と別れるなら考える」と言うと、母は言葉を濁した。愛はきっぱりと言った。
「お母さんは自分の道を歩んで。私は私の道を行くけ」
初任給で山本夫妻にプレゼントを買う-。愛はそう決めている。
冬を越えて芽吹く春。貧困や虐待の連鎖を断とうとする若者たちの姿を追った。
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「給食だけ」13歳、26キロ飢餓寸前 母親に手首切られ…里親と出会い「居場所」
西日本新聞社
4月24日こども食堂サミット
「子ども食堂」が各地で広がっています。西日本新聞社は、九州や東京の関係者が集い、課題を議論するシンポジウム「こども食堂サミットin九州」を開催します。
◇とき 4月24日(日)午後1時~5時
◇ところ エルガーラホール・中ホール(福岡市中央区天神1-4-2)
◇内容 基調講演=栗林知絵子・NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク理事長「おせっかいがつなぐ子どもと地域」▽パネルディスカッション▽子ども食堂の作り方講座▽情報交換会
◇定員 200人。参加費500円(資料代)
◇申し込み 4月8日(金)必着で
(1)郵便番号・住所
(2)氏名
(3)電話番号
(4)子ども食堂の開設予定または検討の有無
を記入し、西日本新聞社企画推進部「こども食堂サミット係」へ。
はがき=〒810-8721(住所不要)
ファクス=092(731)5210
メール=kodomo@nishinippon-event.co.jp
◇共催 NHK福岡放送局
◇後援 福岡県、福岡市、北九州市、大野城市、こども食堂ネットワーク(東京)
◇問い合わせ先 企画推進部=092(711)5490(平日のみ)
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西日本新聞社
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160330-00010000-nishinp-soci&p=1