「辞める」をちらつかせる彼女たちのデリカシーは、残念としか言いようがない | 日本のお姉さん

「辞める」をちらつかせる彼女たちのデリカシーは、残念としか言いようがない

すぐ「退職」をちらつかせる女性に言いたい!
慰留前提の交渉は、長い目で見て損になる

堂薗 稚子 :ACT3代表取締役 2016年03月29日
「すぐ「退職」をちらつかせる女性に言いたい! 慰留前提の交渉は、長い目で見て損になる | 堂薗姐さんに聞け!キャリア女の人生講座 - 東洋経済オンライン」

すぐ「退職」をちらつかせる同期女子に腹が立っています(写真:Ushico / PIXTA)
結婚・出産で大きく変化する女子の人生は、右にも左にも選択肢だらけ。20代はもちろん、30代になっても迷いは増すばかり。いったいどの道を選べば幸せに近づけるのか? 元リクルート“最強の母”堂薗稚子さんがお答えします。
※お悩み相談はこちらのアドレス(onnaーsodan@toyokeizai.co.jp)まで


【ご相談】
新卒入社して丸2年の会社員です。同期入社は男女半々で30名ずつくらいいたのですが、女性はすでに10名以上退職してしまいました。表向きの理由は体調不良やほかにやりたいことができたなど、さまざまですが、裏では「仕事がつまらない」「しんどい」といった話がほとんど。今、残っている同期女子のうち、さらに数名が退職話を上層部としているようで、季節外れの異動が決まる子も出てきました。
ひとりからは、「今の仕事が嫌なら好きな部署に配属するから、どうしても辞めるなと言われた」などと得意気に言われてビックリです。「若手社員を辞めさせたくない」と考える会社の立場もわかりますが、「辞める」と言うと管理職たちが大慌てで慰留し、好きな部署に異動させるだなんて、まじめに現場で頑張ってほったらかしにされるこちらのモチベーションはどんどん下がってしまいます。「そんなに嫌なら、大騒ぎしないで辞めれば?」と腹立たしく感じてしまう私の感覚がずれているのでしょうか?
慰留前提で「辞める」という言葉を使う人がいる


この連載の過去記事はこちら
2年で半分近く新卒が辞めてしまう……なんて事態に会社が大慌てしている様子、すごく伝わってきました。個人的にはあなたの感受性にはすごく共感します。「辞めると言ったら好きな部署に異動」といったことが本当にあるかどうかは別にして、それを聞いたら「やってられない!」と思ってしまうのもよくわかります。

まじめに頑張るあなたのような若手社員を育てていくことのほうが、「仕事がつまらないから辞めたい」と言う同期社員たちを慰留するより、ずっと会社にとって価値があるはずなのに。大切なものを放置して、心の離れたものを追いかけまくるなんて、恋愛中の男女と会社組織っていうのはよく似ていますね(笑)。でも、そのくらい懸命に採用活動してやっと巡り合った新卒社員たちでもあり、入社して早い時期の離職は会社にとって非常に大きな損失でもあるわけなので、大人の事情もよくわかるのですが……。

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最近、複数の企業で女性社員と面談する仕事が重なり、合計50名以上の人たちとお話する機会がありました。企業や個人によっても事情はさまざまなので、十把一絡げに語るのは危険ですが、「2、3年で辞める」「いつ辞めてもいい」と当たり前のように口にする、「覚悟」の緩い女性がいたり、そういう若手の育成に苦労している人たちがいたりして、私にとっては衝撃的でした。

話を聞きながら、「そんな気分で働いてる人がいるのか……」と思う気持ちと「そりゃ急に学生気分だって抜けきらないわよね」と思う気持ちが半々くらい、湧いてきました。採用時点でどのくらい相互理解できているのか、という課題もあるでしょう。わくわくして意欲高く入社したのに、管理職のマネジメント力や育成力が追いつかなくて、そんな状況を作ってしまっているということもありそうです。でも、「長く活躍したいが将来が不安だ」と悩む女性と同じくらい、「ずっと働くわけじゃないし!」と緩い気分の女性もいっぱいいるんだなぁと改めて実感させられたのは事実でした。

「辞める」という言葉は、会社員にとって本来はとても重いものです。「退職したいと思っています」と言ってみたら、「そうか。わかった。」とあっさり受理されることだってあり得るわけで、そうなってしまったら本当に退職手続きに入ってしまいます。「働き続ける」ことがある意味宿命になっている男性陣は、「辞める」と言うときは、ある程度の覚悟が決まっているときか、その前の段階の「今の仕事に対して迷いがある」という相談のことが多い。これまでの私の経験では、男性陣が「辞める」と言ってしまってから踏みとどまるケースはあまりありませんでした。そのくらいこの言葉を使う時には覚悟をしているように感じたものです。一方、女性の中には、「慰留前提」で、政治的に、あるいはごく気軽に、この言葉を使う人がいるのも確かなように思います。

大好きだった恋人との関係がややマンネリ化してきた、自分が大切に思われていないような気がする……といったときに、相手の気持ちを試すために「私たち、もうダメかもしれないね……」などと言ってみる、みたいな。「ダメなんかじゃないよ!」と言われる前提の、「これからもう一度大切にしてよね!」というクギを刺すのが目的であって、決して別れたいわけじゃない、といった状況にすごく似ているような気がしてしまいます。「そうだね、ダメかもしれない……」なんて万が一言われたらパニック状態、みたいなね(笑)

「退職」という切り札を利用

だいぶ前のことですが、当時、駆け出し管理職だった私は、このタイプの女子と遭遇しました。誘われて2人で食事に出かけ、先輩ヅラして話を聞いたり説教したりしているうちに、彼女の考えるキャリアの話題になりました。すると、彼女はにっこり笑いながら、「○○の部署に憧れているんです。もう営業も3年やって、大体わかったし……。だから、役員に面談をお願いして、異動がかなわなかったら辞めますって言ってみようと思うんです」と言い出したのです。
「異動が無理だったら本当に辞めるの?」と聞いてみたら、「そのくらいの気持ちで異動したいんだって、伝わるかなぁと思って。」とまたにっこり。腹立ったなぁ、あのとき。自分の計画どおりに人事をしてもらおうとする彼女の自己中心的な発想にむかついてしまい、「その人事、実現させてなるか!」と底意地の悪いことまで考えたくらいです。

私は怒りを抑えながら、「退職という切り札を使って人事をしてもらうなんて、品のないことしないほうがいい」「そんな方法で異動したところで通用しない」などと意地になって反論しました。でも、「そうでしょうか。キャリアって、使える手はなんでも使って、つかみ取るものじゃないんですかね」とさらっと言われ、それ以上何も言うことができなくなってしまいました。

慰留されるために誰かと会うのは下品だ

そして、後日、私の願いも虚しく、彼女の異動は実現したのです! 私は、彼女が「面談してもらう」と言っていた役員に対して、がっかりした気持ちを持ったし、それからは彼女とも距離を置くようになってしまいました。今考えるとひがみもあったのでしょう。こちらはコツコツ、どんな仕事もやるようにしている。うまく欲しいものを手に入れていく器用さなんてまったくありません。彼女の処世術をどこかで妬ましく感じていたのかもしれません。

実を言うと、私自身も退職を決めた後、いろいろな人たちに慰留していただいて思わずうれしくなってしまった覚えがあります。「思っていたよりずっと評価してもらっていたんだなぁ」と感じるとなんだか、辞めたくないような気持ちにまでなってしまって。そして役員との最終面談のときに、その気持ちをちょっと匂わせてみてしまったのです。「私がやってみたいことを、なんでもやらせてやるから会社に残れよ、なんて言われたら辞めるのをやめるのもあり?」と調子に乗って考えてしまったわけです。

そうしたら、「お前さ。適性があって必要ならばどこへだって異動して仕事するのがサラリーマンだよ。それを辞めたいんだろう? やりたい仕事やミッションがあるんだから、寂しがるんじゃない。わくわくしながら去らなくちゃ」と笑われてしまいました。お見通し、かつ最後の大恥です。「……ですよね!」と頭をかきながら、私は気持ちがすっきりして、慰留されるために誰かと会うのは下品だな、とようやく心から悟りました。
繰り返しになりますが、「○○なら辞めます!」とか条件を出すようなやり取りは、やっぱり本当の最終切り札です。若いうちから何度も使っていたら「狼少女」になってしまう。そしてカードを出すたびに、少しずつ、「そういうやつだよな」と人としての評価も落としているかもしれない。長く働き、大きな責任のある仕事をやるようになれば、「○○は嫌です! それなら辞めます」なんて人事でゴネるとか、すぐに退職をちらつかせるなんてこと、できなくなります。

入社1、2年くらいで、「辞めちゃおうかな」と簡単に口にしてしまう人は、離職率の低減目標を持っている会社の誰かが、必死に慰留している対象なだけで、この先もずっと「会社にとって必要で重要な人」であるとは限りません。採用だって育成だって、使うコストや時間、パワーは会社にとっては大きな投資そのものです。そういった企業の経済活動のベースや利害を理解せず、「辞める」をちらつかせる彼女たちのデリカシーは、残念としか言いようがないと私は思います。自分のその言動で、女性全体、または若手全体の印象や地位を貶めてしまうことだってあるわけですしね。

長い目で見れば、得はしていないはず


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なんだかめちゃくちゃ厳しくて激しいことばかり書いてしまいましたが、つまり、あなたの同期女性たちのうち、あなたが「うまくやってるふうに見える」と思っている人たちは、長い目で見れば、決して得はしていないはずだと私は思います。正直にまっすぐ仕事に向かい、そこでもがいて闘いながら、必死に成長し続けている人たちが、結局はちゃんと得をするんだと思いたい。

おかしいと感じてもやもやしても、「あらら」とスルーできるくらい、あなたは目の前の仕事に没頭して成長してください。政治的に手に入れた人事なんて、所詮そんなもの。実力が評価され期待されて任される大きなミッションほど、うっとりするものはないのです。お互い、不器用に愚直に働き続けて、最後の最後に大笑いできるように頑張りましょう。こういう気持ちのときの呪文は、やっぱり、「人は人! あたしはあたし!」で不変なのかもしれないですね。
http://toyokeizai.net/articles/-/111208

わたしの会社では、「こうしてくれなかったら辞める」と上の者に交渉に行った女子は、全滅しています。