自分の苦しみ以外も苦しみと感じ、政治家に対してアピールし続けること | 日本のお姉さん

自分の苦しみ以外も苦しみと感じ、政治家に対してアピールし続けること

「保育園落ちた日本死ね」ネットとテレビで響きあい国会に届いた"絶望"
境治 | コピーライター/メディアコンサルタント 2016年3月3日 10時0分配信
「保育園落ちた日本死ね」2月15日に登場し二週間で国会へ

日ごろネットで話題を拾っている人なら知らない人はいないだろう。はてな匿名ブログに「保育園落ちた日本死ね」と題した文章がアップされ、またたく間に話題になった。ブログの日付は2月15日となっている。それがあちこちのメディアで取りあげられた末、2月29日の国会で議論の題材になり安倍首相がコメントした。これがさらに話題になったので記事を読んだ人も多いだろう。

「保育園落ちた日本死ね」ブログで激論 安倍首相「匿名である以上確かめようがない」(2月29日産経ニュース)

私はこれを読んだとき、不謹慎な言い方だが”面白い文章だな”と思った。単純に攻撃的と言うより、自虐的な文章でどこかコミカルでさえある。「どうすんだよ私活躍出来ねーじゃねーか。」とはもちろん、現政権が掲げる”一億総活躍社会”から来ていて、もともと奇妙な言葉である”一億総活躍”を茶化しながら、自分の惨めさを自分で嘲笑っているようなところがある。深刻なぼやき漫才のような不思議な魅力を持っている。そしてそこに”せめてこの文章を拡散させたい、自分の悔しさを伝えたい”という策略めいたものも感じた。けっこう広がるだろうなと思っていたら、けっこうどころか驚くほど広がってついに国会にまで到達したというわけだ。”拡散させたい”との思いで書いたのなら、本人の予想をはるかに超えた効果があっただろう。

拡散するプロセスで、ネットで広まった話題がテレビでも取りあげられた。私がはっきり覚えているのは、その週の土曜日、21日の夜TBSの「新・情報7daysニュースキャスター」で3分間程度この話題が出てきたことだ。一週間の出来事をおさらいするこの番組に登場したのは、大きな話題になったということだと受けとめた。

翌週もいくつかの朝のワイドショーが取りあげていた。そして翌々週には国会で議論されているのだが、その話題の連なりはどうなっていたのだろう。テレビでどの番組が取りあげたのか、知りたくなったので、調べてもらった。エムデータという、テレビ番組を記録する会社があるので、「保育園落ちた日本死ね」が登場した番組をリスト化してもらったのだ。その結果をみてもらおう。

TBSが火つけ役、日テレとテレ朝がこってり紹介

データ提供:株式会社エム・データ

2月15日のブログが翌日、翌々日とNHK「NEWS WEB」で取り上げられた。この番組には「つぶやきビッグデータ」というコーナーがあり、その日にtwitterで多くつぶやかれたワードをいくつか紹介している。その中のひとつとして”画面に出てきた”程度のようだ。

2月17日の夜には、「NEWS WEB」とともにTBS「NEWS23」が取りあげた。これは5分40秒とかなり長く、フローレンスの駒崎弘樹氏への取材映像などもあるので、前日から準備したのだろう。ここが最初の”発火点”だとわかった。

その後もTBSは様々の番組で取りあげ、先述の「情報7days」や日曜日の「サンジャポ」「アッコにおまかせ」のような軽めの番組にも話題として登場している。この話題に火をつけた前半の功労者はTBSだと見てよさそうだ。

翌週は朝のワイドショーで一斉に取りあげられた。中でも23日の日テレ「スッキリ!!」26日のテレ朝「モーニングショー」はそれぞれ20分、15分とかなりこってり扱っている。ここでも駒崎氏に取材したり、スタジオで識者が議論したりと、相当のエネルギーを注ぎ時間をかけて番組にした。この2つの番組を通じて、このブログが訴えかけている事柄を知った人も多いだろう。

さらに極め付けは、26日夜の「報道ステーション」で国勢調査で初めて人口が減少したことと併せて10分間扱ったことだ。国会へのルートでいうと、この番組も大きかったにちがいない。

twitterデータと併せて見えてくるテレビとネットの呼応関係

さて今度は、ネット側の盛り上がりがどう推移したのかも気になってくる。そこでTweet数の推移を知ろうと、データセクション社に頼み込んでデータをもらった。「日本死ね」を含むTweet数(10%抽出)を一日ごとに集計したデータから、折れ線グラフを作ってみた。せっかくなので、先ほどの番組リストを局別に色分けして円で描き加えた。円の大きさは厳密ではなく取りあげた分数を大ざっぱに表現している。

データセクション社提供のデータからグラフを作成

Tweet数のグラフで興味深いのは、最初の二日間が異様に高い点だ。ピークの2月17日で"2324"だ。これは10%抽出データなので10倍すればほぼ実数と見ていい。つまり2万3千tweetsということになる。かなりの数だ。かなりの数だが、正直もっと多いかと思っていた。”ネットで沸騰”してもっと高いTweet数になった話題は他にたくさんある。

そしてその後、急速に下降したところを、またいくつか小さな山ができている。それらとテレビ番組で取りあげたことには相関性がありそうだ。とくに翌週、小さいながらもまた二つほど山ができているのは、ワイドショーで長時間取りあげられたことが大きく作用しているにちがいない。ネットで話題になったことを引き継ぎ、鮮度を落とさないようにテレビが保ち続けていたかのようだ。

最後にグラフがまたくいっと上を向いているのは、29日に国会で議論になり、それが翌日ニュースになったことによるものだろう。最後にゴールが決まった、といったところか。

話題を起こした原動力は絶望のチカラ

こうしてプロセスを見ていってもなお、この一件はとてもユニークで不思議さを感じてしまう。名もない母親の書いた文章がこれほど人びとの間で話題になり、多くのテレビ番組で取りあげられ、国会に到達して首相がコメントしたのだ。保育園が政治課題だからではあるが、ちょっとした奇跡のようにも思える。ひとりの女性のやるせない気持ちが言葉になった時、常識を超えた伝わり方をしていったのだ。そんなことが起こるとは。

彼女のやるせなさがそれほど強かったわけだが、独特の言語表現との相乗効果だとも思う。「日本死ね」このレトリックはシンプルだが巧妙だ。第一印象はひどくざらざらして不快でもある。実際、Facebookでこのタイトルを示したら何人かに「保育の話題で”死ね”は使うべきではない」と指摘する人もいた。まっとうな意見だがこの場合、もっと深く見つめてほしいと私は感じた。それに「日本死ね」は実は誰も傷つかないはずだ。人間じゃないのだから。誰かを責めているのではない。攻撃的に見えて攻撃の対象は自分が住む”国”だ。自分自身にも死ねといっているとも受け取れる。つまり表現されているのは”絶望”なのだ。自分もろとも所属する集団すべてが消えてなくなればいい。こんな国は存在する価値があるのか。強烈な絶望を無意識に感じるからこそ引き起こされた”奇跡”ではないか。

私の専門領域はメディア論で、保育の専門家ではまったくない。だが2年前に「赤ちゃんにきびしい国で、赤ちゃんが増えるはずがない」と題したブログを書いたことがきっかけで、よく知りもしない保育の取材も続けている。去年からは保育園開設への反対運動を取材している。

それらの記事はそれなりに拡散してけっこうな数の人びとに読まれてきた。反響もあって保育世代の母親や父親からメールをもらったりもする。それは励みになるが、そういう記事がネットでいくら読まれても、保育園に反対している人びとにはまったく届いていないようだ。反対する人びとの多くはお年寄りだからだ。ここは誤解してほしくないが、お年寄りがみんな反対するわけではなく、保育園に賛成したり開設に手を貸すお年寄りも大勢いる。

だが反対する人はほとんどお年寄りで、彼らにネットで書いた記事は届かない。こんなに頑張って取材して頑張って記事を書いて反響もあるのに、いちばん読んでほしい反対派の人びとには届かないのだ。何を書いても何も変わらないように思えて、絶望しそうになる。

「日本死ね」現象から学んだのは、絶望には大きなチカラがあることだった。ネットで生まれた言葉がネットを飛び出して、国会にまで到達したのだ。だったら私はまだ絶望が足りないのかもしれない。そんな風に考えたくなるくらい、あのブログは不思議な現象を引き起こしてくれた。だからこそ、もう少し追ってみたい。もう少し、展開がありそうな気もするし。

境治 コピーライター/メディアコンサルタント
1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。(
http://mediaborder.publishers.fm/ )たまたま育児について書いたブログが17万いいね!を得て取材をはじめ、書籍にまとめた『赤ちゃんにきびしい国で、赤ちゃんが増えるはずがない』(三輪舎刊)を出版した。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/sakaiosamu/20160303-00054988/

「保育園落ちた日本死ね」と叫んだ人に伝えたい、保育園が増えない理由
駒崎弘樹 | 認定NPO法人フローレンス代表理事/日本病児保育協会 理事長 2016年2月17日 9時38分配信

こんばんは、都内で13園の小規模認可保育所を経営する、中小企業のおっさんの駒崎です。

今日は、ネット上でバズっている魂の叫びに、保育園現場から、また政府の審議会委員の立場から答えたいと思います。

【魂の叫び「保育園落ちた日本死ね!!!」】

ある保育園入園審査に落ちた方の、ネット上の魂の叫びが、さざ波のように広がっています。

「保育園落ちた日本死ね!!!」

http://anond.hatelabo.jp/20160215171759

分かる、分かるよ。何が一億総活躍社会だよ、と。私活躍できないじゃん、と。その通り。

じゃあ、政府は何もしていないのか?

【実は保育所数は劇的に増えてるけど、待機児童は減ってない】

20年くらい前から少子化懸念が高まって、政府は待機児童対策をしてきましたが、あまりお金は使ってきませんでした。

遅きに失した感はありますが、ようやく消費税増税の一部を使う、という財源のメドをつけて、昨年4月から「子ども子育て新制度」という待機児童問題にガチで取り組みますよ、という方策を打ち出しました。

(実際は新制度を見越して、1年前倒しで、園づくりを加速させました。)
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ということもあって、平成25年度あたりからグンと保育の拡大量が伸びました。

しかし、認可保育所に申し込む人が増えたこともあり、待機児童は減らせず、むしろ若干増えている、という状況なのです。
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(内閣府子ども子育て会議資料より)

この2月の入園結果は、まだ統計には組み入れられていないので、確たることは言えないのですが、おそらく今年も状況は昨年と似たようなものではないか、と想定されます。

【もっと保育所つくって、待機児童減らせば良いじゃん?】

ここで疑問を持つ人も多いでしょう。認可保育所に申し込む人が多かろうが、それ以上に保育所つくれば良いじゃんか、と。

その通りです。しかし、そんなに機動的に保育所をつくれない、3つの要因があります。

1.予算の壁

2.自治体の壁

3.物件の壁

【予算の壁】

待機児童の多い都市部においては保育士不足です。これによって、開園に大きくブレーキがかかります。

保育所は一人でも保育士が欠けたら、法令違反で開園できません。よって、「保育士を採用できた数」が開園数上限になります。

保育士不足は保育士の処遇が低いことが要因です。

保育士給与は全国平均で月20.7万円。(出典:http://bit.ly/1HwTytD)

全産業平均と比較して、月額10万円程度低い。

しかし、政府はこの保育士の処遇改善の予算をわずかしか取っていません。

月額1万円を上げるのに340億円、全産業平均値まで上げるのに3400億円を予算として積みませば、保育士処遇は改善し、開園スピードは大きく早まります。

【自治体の壁】

自治体がブレーキ役になっています。パン屋であれば、好きな場所に何軒でもつくれます。

しかし、保育所は認可制になっており、自治体が計画を立てているので、

「このエリアとこのエリアに2箇所ずつ作る予定なので、他の場所につくってもらっちゃ困ります」

ということを言ってくるわけです。

(参照:待機児童増加の、意外な犯人はhttp://bit.ly/1M6kXyN)

また、自治体が独自の無意味なルールを勝手につくって、それが参入障壁を上げています。

例えば杉並区は、小規模認可の園長基準に「6年間『継続して』保育業務に携わった経験」を求めています。半年でも業務を離れたらアウト。育休も取れないことになり、馬鹿げています。

なぜこうした事態が起きるかと言うと、待機児童の常態化によって、「待機児童が解消できなくても、担当者の評価はマイナスにならない」ためです。一方で、保育所で事故や突然の事業者撤退があり問題になると、評価に大きく影響します。

すなわち、自治体(と担当職員)からすると、園を増やそうというインセンティブよりも、間違いのない事業者を選別する方が強い動機となり、参入を抑制するのです。

【物件の壁】

保育所は二方向避難路の確保や新耐震基準を満たしているなど、安全に運営するために必要な要件がどうしても多くなります。それを満たしていて、かつ周辺住民が文句を言わず、かつ保育所としてペイする坪単価で、駅からの距離がそこまで遠くない物件というのは、非常に限りがあります。

【では、どうする?】

怒りましょう。僕たちは怒って良い。予算配分は不当だし、このままだと少子化も進行し社会保障も危機になり、それは将来、可愛い我が子たちの生活を直撃するでしょう。

そして怒りを原動力に、行動しましょう。

まず、政府に対しては、保育士給与引き上げのための、予算増額の世論を高めることです。

ちなみに「保育園落ちた日本死ね」の中で、「国会議員を半分にしろ」という提言(?)がありましたが、残念ながらそんなことをしてもスズメの涙のお金しか出てきません。

(議員1人あたり給与と手当がざっくり4400万/年で、717人いる国会議員を半分の358人にすると、浮く税金は158億円。桁が違います。)

そうではなく、高齢者1000万人に3万円配ること(つまりは3600億円)をポンと決めちゃえるわけなので、出そうと思えば出せるのです。投票率が低いから、我々子育て世代の優先順位が、低いだけです。

声をあげて、世論の波をつくるのです。

メディアにお勤めの方は、工作員となってこの話題をニュースにあげましょう。友達に国会議員やその関係者がいる人は、臆せず文句を言いましょう。そうじゃない人は、SNSでとにかく拡散させましょう。ベッキーで騒いでる場合じゃないんです。

また、自治体に対しては、とにかく文句を言うべきです。

自治体の職員は、待機児童を解消できなくてもクビにはならないので、騒いでも効かないですが、市民の怒りを買って職を失う人たちはいます。

それが、首長(市長や区長)と地方議員です。

彼らに対し騒ぐのです。声を届けるのです。

数年前の「杉並保育園一揆」では、ママたちがベビーカーで区役所前でデモをして、その絵が面白いこともありメディアが食いつき大炎上。杉並区の認可保育園増設を大きく加速させました。

「保育園落ちた日本死ね」と叫んだ名も無きあなた、見てますか。僕も心はあなたと共にあります。あなたがネットで叫んだように、それをネットでも、リアルでも、あなたと共に何万人がやっていって、無関心な政治をこちらに向かせるしかありません。でないと本当に、日本は緩慢に死んでいくことになってしまうだろうから。

駒崎弘樹 認定NPO法人フローレンス代表理事/日本病児保育協会 理事長

1979年生まれ。慶応大学総合政策学部卒業。「地域の力で病児保育問題を解決し、育児と仕事を両立するのが当然の社会をつくりたい」と考え、NPO法人フローレンスをスタート。日本初の「共済型・非施設型」の病児保育サービスを東京近郊に展開する。また2010年から待機児童問題の解決のため、空き住戸を使った「おうち保育園」を展開、政府の待機児童対策政策にも採用される。内閣府非常勤国家公務員、内閣官房「社会保障改革に関する集中検討会議」委員、内閣府「子ども・子育て会議」委員などを歴任。現職認定NPO法人フローレンス代表理事、一般財団法人 日本病児保育協会理事長、NPO法人全国小規模保育協議会理事長。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/komazakihiroki/20160217-00054487/

政治が子育て層を簡単に無視できる、投票率以外の大きな理由
駒崎弘樹 | 認定NPO法人フローレンス代表理事/日本病児保育協会 理事長 2016年2月20日 8時30分配信

こんにちは、12年前から子育て支援活動をし続けておっさんになってしまったため、もう誰もかつてのように青年実業家扱いしてくれない駒崎です。

数日前のこの記事(「保育園落ちた日本死ね」と叫んだ人に伝えたい、保育園が増えない理由http://bit.ly/1U62fOM)がヤフトピ砲のお陰でバズったのですが、大切なことを一つ言い忘れたな、と思って書きます。

政治は子育て層を基本的に軽視しています。しかしこれは悪意ではなく、合理性からです。

【子育て層が無視されやすい要因1 投票率】
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このグラフ( http://p.tl/2BNR )を見て頂くと分かる通り、60代・70代の投票率は、20代・30代の1.5倍です。

あなたがスーパーの店長で、客単価が1000円の人たちと、1500円の人たち、どっちに合わせて商品棚をつくりますか?

答えは明らかですよね。

しかし、政治への影響力って、投票率だけじゃないんです。

何か?

それが「如何に長期間に渡って、たくさんのコミュニケーションをとり続けられるか」です。

【子育て層が無視されやすい要因2 コミュニケーション量】

例えば日本医師会。政治に大きな影響があります。でも、医師の数って人口の0.24%しかいないんです。

ではなぜ大きな影響力があるのか。それは医師会としてまとまって、政治家とたくさんコミュニケーションを取るからです。

時に要求し、時に感謝し、時に説明し、時に応援する。そうやって仲良くなっていくと、政治家にとっては信頼できるパートナーになるし、彼らは基本的に正しいことを言っているし、何とかしてあげないとダメだ、となるわけです。

また例えば、障害者団体。障害者は全人口の6.2%です。マイノリティです。ということもあり、つい40年前は、市バスに車椅子で乗れませんでした。駅も階段しかなかったし、駅員も手伝わなかったので、車椅子での移動は至難を極めました。

しかし、青い芝の会を始めとした各種障害者団体の方々が、粘り強く市や国鉄と交渉し続けた結果、バスに乗れるようになり、駅にはエレベーターが設置され、駅員たちも業務として手伝うようなルールになっていったのです。(http://bit.ly/212H4Tj)

今では、そんな時代があったことさえ、誰にも信じられないことだと思いますが。

そう、粘り強く、継続的に、要望したり交渉したりコミュニケーションを取る人々が、社会運動には必要なのです。

【子育て層だけは、「当事者」期間が非常に短い】

しかし、子育て層は、この側面において、決定的に弱い。

保育園に入れない!という悩みも、入れてしまったら、もう過去の話になります。

子どもが熱を出して会社に行けない、困る!という悩みも、子どもが4歳を過ぎた辺りから、徐々になくなっていきます。

学童に入れない!という悩みも、高学年になったら塾に行けるし、まあいっか、となる。

そう、当事者が当事者であり続けるということが、ないのです。

喉元過ぎれば、課題は遠のく。だから、「今頑張れば、まあ良いか」となる。

過去味わった課題については「そういうことも、あったよね」となる。

怒りは持続せず、よって運動は継続しない。

一方、高齢者はどうでしょうか。65歳以降、少なくとも平均的には15年は高齢者であり続けます。

障害者は、障害によりますが、一生障害と付き合いを続けることになります。

彼らは、継続的に課題を抱え続け、そして継続的に当事者であるのです。

だから、継続的に社会運動を行っていくことになり、その継続性は成果を生みやすいのです。

2、3回要望されるのと、10年間継続して要望されるのでは、要望される方に与えるインパクトは、全くもって違うのです。

【ではどうする?】

ならば我々の取る戦略はクリアです。2つあります。

まず、

1「当事者でなくなっても、自分の味わった痛みを感じる人のために、動く」

ということです。

これは短期的には非合理です。自分の課題と関係無いのだから。

でも中長期的には合理的です。それによって他者が助かり、より良い社会になり、自分たちの子どもたちは自分たちと同じ目にあわずに済むからです。

そして

2「当事者じゃなくても、共感した人が動く」

自分に子どもがいなくても、直接子育てしていなくても、当事者のために運動に手を貸すこと。

ちなみに僕は自分が子どものいない、結婚すらしていない時に、保育業界の難問中の難問と言われた、病児保育サービスを始めました。今では全国最大の病児保育団体です。

当事者たちが数年で喉元すぎることも、非当事者の僕は何年も取り組み続けられました。常に新たな当事者たちの苦しみを、見続けたからです。

僕は願います。あなたが、自分の苦しみ以外も苦しみと感じ、動き続けることを。

それが「保育園落ちた日本死ね」と言われる我々の母国、日本を変える、ひとつの鍵なのです。

駒崎弘樹 認定NPO法人フローレンス代表理事/日本病児保育協会 理事長
1979年生まれ。慶応大学総合政策学部卒業。「地域の力で病児保育問題を解決し、育児と仕事を両立するのが当然の社会をつくりたい」と考え、NPO法人フローレンスをスタート。日本初の「共済型・非施設型」の病児保育サービスを東京近郊に展開する。また2010年から待機児童問題の解決のため、空き住戸を使った「おうち保育園」を展開、政府の待機児童対策政策にも採用される。内閣府非常勤国家公務員、内閣官房「社会保障改革に関する集中検討会議」委員、内閣府「子ども・子育て会議」委員などを歴任。現職認定NPO法人フローレンス代表理事、一般財団法人 日本病児保育協会理事長、NPO法人全国小規模保育協議会理事長。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/komazakihiroki/20160220-00054576/