中国に苛立つ米国だが、効果的な制裁の選択肢は限られている
中国に効果的な制裁の選択肢
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成28年(2016)2月25日(木曜日)
通算第4827号
中国に苛立つ米国だが、効果的な制裁の選択肢は限られている
王毅外相「南シナ海は中国領だ」とケリー国務長官に開き直り
******************
2月23日、米中外相会談は、北朝鮮への制裁国連決議についてのみ、合意 が得られたが、西砂、南沙諸島の人工島埋立て、最新鋭のレーダー配備な どの中国の侵略的行為の撤回など米国の要請に、 中国は一切、聞く耳を持 たなかった。
「あそこは中国領であり、防衛は当然の主権行為、挑発して軍艦を派遣し たりしているのは米国だ」とあべこべに開き直った。
パラセル(西沙諸島)の永興島へのレーダー配備にしても「かなりの高性 能で米軍のF22などステルス機さえ無効とするシロモノ」とCSISの レポートやワシントンタイムズの辣腕記者、ビル
・ガーツも警告を発して いる。
従来、米国で議論されてきた中国制裁論に対してメディアの論調など は、「賢明でないばかりか、米国がそういう措置を施すような可能性が見 えてこない」というもので、もっと犠牲コストがか からない範囲内で、効 率的方法があるだろう、と議論されてきた。
財務省は中国が米国の赤字国債を1兆2000億ドルも保有しているた め、市場で投げ売りされると困るとばかり、むしろ北京の顔色をうかがっ てきたほど卑屈だった。
本来なら在米資産凍結を言えば、中国の保有する国債も凍結出来るのだ が、そのことを財務省は口にさえしなかった。
ロシア、イラン、北朝鮮に対して課してきた金融制裁はそれぞれ効果が あり、ロシアは新興財閥の資金移動が難しくなった。
イランは在米資産の凍結により国際的ビジネスが停滞、経済は後退した。 金額は問題外だが、北朝鮮のマカオに於ける銀行資産凍結は、北の孤立を 決定的とさせ、それぞれ効果があがった。
しかし対中制裁は「「米中貿易、人的交流などが強大すぎる」ために制 裁の対象はきわめて限定的にならざるを得ない。
最近では米国の国家機関、大手企業から大学、ペンタゴンに到るまで中 国からのハッカー攻撃に曝され、南シナ海の軍事的暴走がくわわって米国 では中国制裁論がたかまりをみせているのだが、
何一つ決定的な措置はと られず、苛立つ共和党候補者等は、中国制裁を合唱する。
また『中国崩壊論』で気を吐くゴードン・チャン(中国名=章家敦)な どは、
「崩壊は半年以内におこる」
などと言い始めている。
その根拠は人民元暴落、企業倒産、失業増大が経済活動に致命的な打撃を あたえ、社会擾乱から暴動の頻発による中国共産党の崩壊にいたると、日 本での議論に重なるような展望を語っている(多 維新聞網、2016年2 月24日)。
国家安全保障に関して、ハイテク流失の懼れが高い企業買収にのみ、米 国当局が関与して買収案件の白紙化を一部に実現した。
国家安全保障に脅威となる中国の行為に対してのみ、米国は神経質に、 しかし迅速に適切な反応をする。
▼ロシアやイラン制裁と同様な制裁は効果が疑わしい
さてそうなると、効果的な対中制裁にはいかなる選択肢が残されている のか?
リビアやロシア、イランは産油国であるがゆえに、その方面の輸出を国 際的合意で、制限するという制裁は効果を挙げた。
しかし中国は産油国なれど、同時に世界一の原油輸入国であり、ロシア、 イランと同様な方法は無効であるばかりか、関係各国の経済をも痛めつけ る懼れがある。
だから台湾への武器供与をオバマ政権がきめると中国は対米制裁にでた が、中味はロッキードマーチンなどとの取引停止だった。ロッキードマー チン、レイセオンなどは中国への輸出を禁じられて いるから、中国の対米 制裁はレトリックだけで、現実のビジネスはなんらの被害も被らない。
グーグルなどは中国から撤退するが、居残る米国企業が、今後の報復制 裁を中国がはじめるとすれば、真っ先の対象となるだろう。
それゆえ米国はつねに神経質に冷静に、制裁のオプションを探ってきたの である。
『ナショナル・インタレスト』最新号に拠れば、在米の中国人五名をハッ カーによる情報の党首容疑で逮捕状を執行したように、個別のケースによ り、個人もしくは個別企業のみを対象として、制 裁を施すという方法が、 いまのところ、もっとも有効で、日本が受けたレアアースの突然の輸出禁 止など、一部のアキレス腱をねらう報復を中国はかならず行うが、反撃さ
れても被害の少ないという計算のもとに制裁の選択肢を考慮するべきだと 米国の専門家が議論しているという。
迂回路ながら、米国が検討をはじめているのは個々の企業への制裁である。
たとえば西砂、南沙諸島周辺に海洋リグ工事をしているCNPC(チャイ ナペトロ)やCCCCG(中国通信建設集団)などを名指しで制裁する と、当該企業は事実上、上場予定を止めなければ ならなくなる。
社債の格付けが低下して資金調達が難しくなり、その下請けや関連企業も 株式の下落が不可避的となる。
こうした金融面での締め付けが効果をあげるだろうと米国有数のシンクタ ンクが議論している。
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成28年(2016)2月25日(木曜日)
通算第4827号
中国に苛立つ米国だが、効果的な制裁の選択肢は限られている
王毅外相「南シナ海は中国領だ」とケリー国務長官に開き直り
******************
2月23日、米中外相会談は、北朝鮮への制裁国連決議についてのみ、合意 が得られたが、西砂、南沙諸島の人工島埋立て、最新鋭のレーダー配備な どの中国の侵略的行為の撤回など米国の要請に、 中国は一切、聞く耳を持 たなかった。
「あそこは中国領であり、防衛は当然の主権行為、挑発して軍艦を派遣し たりしているのは米国だ」とあべこべに開き直った。
パラセル(西沙諸島)の永興島へのレーダー配備にしても「かなりの高性 能で米軍のF22などステルス機さえ無効とするシロモノ」とCSISの レポートやワシントンタイムズの辣腕記者、ビル
・ガーツも警告を発して いる。
従来、米国で議論されてきた中国制裁論に対してメディアの論調など は、「賢明でないばかりか、米国がそういう措置を施すような可能性が見 えてこない」というもので、もっと犠牲コストがか からない範囲内で、効 率的方法があるだろう、と議論されてきた。
財務省は中国が米国の赤字国債を1兆2000億ドルも保有しているた め、市場で投げ売りされると困るとばかり、むしろ北京の顔色をうかがっ てきたほど卑屈だった。
本来なら在米資産凍結を言えば、中国の保有する国債も凍結出来るのだ が、そのことを財務省は口にさえしなかった。
ロシア、イラン、北朝鮮に対して課してきた金融制裁はそれぞれ効果が あり、ロシアは新興財閥の資金移動が難しくなった。
イランは在米資産の凍結により国際的ビジネスが停滞、経済は後退した。 金額は問題外だが、北朝鮮のマカオに於ける銀行資産凍結は、北の孤立を 決定的とさせ、それぞれ効果があがった。
しかし対中制裁は「「米中貿易、人的交流などが強大すぎる」ために制 裁の対象はきわめて限定的にならざるを得ない。
最近では米国の国家機関、大手企業から大学、ペンタゴンに到るまで中 国からのハッカー攻撃に曝され、南シナ海の軍事的暴走がくわわって米国 では中国制裁論がたかまりをみせているのだが、
何一つ決定的な措置はと られず、苛立つ共和党候補者等は、中国制裁を合唱する。
また『中国崩壊論』で気を吐くゴードン・チャン(中国名=章家敦)な どは、
「崩壊は半年以内におこる」
などと言い始めている。
その根拠は人民元暴落、企業倒産、失業増大が経済活動に致命的な打撃を あたえ、社会擾乱から暴動の頻発による中国共産党の崩壊にいたると、日 本での議論に重なるような展望を語っている(多 維新聞網、2016年2 月24日)。
国家安全保障に関して、ハイテク流失の懼れが高い企業買収にのみ、米 国当局が関与して買収案件の白紙化を一部に実現した。
国家安全保障に脅威となる中国の行為に対してのみ、米国は神経質に、 しかし迅速に適切な反応をする。
▼ロシアやイラン制裁と同様な制裁は効果が疑わしい
さてそうなると、効果的な対中制裁にはいかなる選択肢が残されている のか?
リビアやロシア、イランは産油国であるがゆえに、その方面の輸出を国 際的合意で、制限するという制裁は効果を挙げた。
しかし中国は産油国なれど、同時に世界一の原油輸入国であり、ロシア、 イランと同様な方法は無効であるばかりか、関係各国の経済をも痛めつけ る懼れがある。
だから台湾への武器供与をオバマ政権がきめると中国は対米制裁にでた が、中味はロッキードマーチンなどとの取引停止だった。ロッキードマー チン、レイセオンなどは中国への輸出を禁じられて いるから、中国の対米 制裁はレトリックだけで、現実のビジネスはなんらの被害も被らない。
グーグルなどは中国から撤退するが、居残る米国企業が、今後の報復制 裁を中国がはじめるとすれば、真っ先の対象となるだろう。
それゆえ米国はつねに神経質に冷静に、制裁のオプションを探ってきたの である。
『ナショナル・インタレスト』最新号に拠れば、在米の中国人五名をハッ カーによる情報の党首容疑で逮捕状を執行したように、個別のケースによ り、個人もしくは個別企業のみを対象として、制 裁を施すという方法が、 いまのところ、もっとも有効で、日本が受けたレアアースの突然の輸出禁 止など、一部のアキレス腱をねらう報復を中国はかならず行うが、反撃さ
れても被害の少ないという計算のもとに制裁の選択肢を考慮するべきだと 米国の専門家が議論しているという。
迂回路ながら、米国が検討をはじめているのは個々の企業への制裁である。
たとえば西砂、南沙諸島周辺に海洋リグ工事をしているCNPC(チャイ ナペトロ)やCCCCG(中国通信建設集団)などを名指しで制裁する と、当該企業は事実上、上場予定を止めなければ ならなくなる。
社債の格付けが低下して資金調達が難しくなり、その下請けや関連企業も 株式の下落が不可避的となる。
こうした金融面での締め付けが効果をあげるだろうと米国有数のシンクタ ンクが議論している。