プチン大統領に翻弄されるオバマ大統領の「弱腰」 | 日本のお姉さん

プチン大統領に翻弄されるオバマ大統領の「弱腰」

■「加瀬英明のコラム」
プチン大統領に翻弄されるオバマ大統領の「弱腰」

お人好しと手練手管にたけた悪者が、中東のシリアを舞台にして、智恵比べをしている。オバマ大統領のアメリカと、プチン大統領のロシアだ。

シリアの内戦は、4年が過ぎた。2千万人の人口のうち、30万人以上が死に、人口の半分が難民となって、国内に溢れるか、周辺諸国に逃れて、ヨーロッパに流入している。

シリアの内戦の切っ掛けは、5年前に民衆がチュニジアでベン・アリ独裁政権を、倒したことから始まった。欧米のマスコミが、「アラブの春」と呼んだ。オバマ大統領が「民主革命だ」といって、直ちに称讃した。

「アラブの民主革命」がアラブ諸国に拡がり、エジプトのムバラク政権、リビアのカダフィ政権が倒れた。オバマ大統領が「中東の民主化が始まった」と述べて、小躍りした。

私は日本のマスコミも含めて、「アラブの春」とか、「アラブの民主化」といって、囃し立てるのを、苦々しく思った。

6世紀に、イスラム教が誕生してから、中東のイスラム国で民主主義が行われたことは、一度もない。独裁政権が安定を保っていた。

アメリカはシリアでアサド独裁政権に対して、反体制派の民衆が立ち上ると、資金武器を供給して、支援するようになった。

シリア内戦が激化すると、混乱に乗じて「イスラム国」(IS)が出現した。ISのほうが、アメリカや、サウジアラビアなどが支援する「自由シリア軍」よりも、はるかに大きな地域を、支配下に置くようになった。

アメリカはヨーロッパ、トルコ、サウジアラビアをはじめとする湾岸諸国などと、ISに空爆を加えているが、効果があがらない。「自由シリア軍」も振わない。いま、アサド政権は国土の3分の1しか、支配していない。

ロシアとイランと、レバノンのイランが支える民兵「ヒズボラ」が、アサド政権を支援してきた。ロシアはソ連時代からシリアの地中海沿岸のラタキアに海軍基地を持ち、シリアを中東における唯一つの足掛りとしてきた。

2015年10月に、プチン大統領は好機をとらえて、シリアに素早く軍事介入した。

ロシアからラタキア付近の飛行場に、最新鋭の戦闘爆撃機、2千人規模の地方部隊、戦車などを送り込んで、ISだけでなく、「自由シリア軍」に対する攻撃を始め、黒海に浮ぶ駆逐艦からミサイルを撃ち込んだ。

アサド政権の意気が揚がり、シリア政府軍がロシア軍の支援を受けて、失地回復しようとして、攻勢にでている。

プチン大統領はそのうえで、アメリカなどの諸国に対して、アサド政権も参加する和平会談を呼びかけた。シリア内戦を終結させて、平和を回復しようと、手を差し伸べた。

だが、アメリカははじめから「アサド政権打倒」を目標としてきたから、すぐに呑めるものではない。シリア政策が完全に失敗したことを、認めるものとなってしまう。

プチン大統領は、狡賢い。ウクライナから武力によってクリミアを奪って、ヨーロッパとアメリカから侵略者と見られていたが、オリーブの枝を銜(くわ)えた鳩に、変身した。

ヨーロッパはシリアからやってくる、前大戦以来最悪の難民危機に、対応できなくなっている。シリアで和平が行われれば、難民の流入が停まることになる。

プチン大統領の恐しいイメージが、ヨーロッパの救世主に変わりつつある。

イランはロシアの介入によって、アサド政権に対する支援に、いっそう力を入れている。オバマ大統領はイランへの経済制裁を解除したばかりだが、議会からイランが核兵器開発をやめないと主張する、強い反対があるために、イランを非難したくてもできない。

オバマ大統領は国内で、「弱腰」という批判にさらされるなかで、毅然たるところを示すために、中国が南シナ海で古来からの領土だと主張して埋め立てている、スビ礁の“領海内”に、イージス艦を航行させた。