★日ロ関係が悪化している理由 | 日本のお姉さん

★日ロ関係が悪化している理由

★日ロ関係が悪化している理由
全世界のRPE読者の皆さま、こんにちは!
北野です。

CGS動画、6回目が出ました。
私が体験した、
ロシア外務省附属モスクワ国際関係大学の教育について話しています。
秘密を知りたい方はこちら。

https://www.youtube.com/watch?v=n3puylPO-HY

では、本題。
少し世界情勢に関心のある人なら、
「日ロ関係が悪化している」
ことに気づいておられることでしょう。

最近の主な動きを見ると、


・8月22日、メドベージェフ首相、択捉島を訪問

・9月21日、岸田外相、モスクワでラブロフ外相と会談

岸田さんが、「北方領土問題を話した」というと、ラブロフさんは「いや、北方領土の話はしていない」と否定。

曰く、「会談では日本の『北方領土』についてもロシアの『北方領土』についても話さなかった。それは我々の対話の議題ではないからだ」。


・9月29日、安倍総理、ニューヨークでプーチンと会談
プーチン、領土問題に触れず。


<日露首脳会談>平和交渉継続で合意 露は「領土」触れず
毎日新聞 9月29日(火)10時55分配信
*
*
【ニューヨーク仙石恭】安倍晋三首相は28日午後(日本時間29日午前)、ロシアのプーチン大統領と国連本部で会談し、平和条約締結交渉の前進を図ることで合意した。

首相は、ロシアのメドベージェフ首相ら閣僚が北方領土を相次いで訪問したことを念頭に「平和条約交渉は建設的で静かな雰囲気の中で進めていく必要がある」と指摘。

プーチン氏も同意したが、同氏から領土問題には言及しなかった。

プーチン氏の来日については「引き続きベストなタイミングを探る」と確認するにとどまった。>

で、ごく最近、こんな出来事もありました。


<「シベリア抑留」記憶遺産、露が取り下げ要請
読売新聞 10月17日(土)20時17分配信
*
*
【モスクワ=緒方賢一】ロシアの国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)委員会のグリゴリー・オルジェニキーゼ書記は16日、シベリア抑留に関する資料の世界記憶遺産への登録について、露外務省でモスクワの日本大使館幹部と会談し、登録申請を取り下げるよう求めた。

日本側は要請を受け入れない姿勢を示した。

会談で同書記は「申請はユネスコの政治利用につながりかねないので見直してほしい」と語った。

日本側は、「政治利用する意図は全くない」と強調した。>

日本は「シベリア抑留に関する資料」を「世界記憶遺産」に登録申請した。

日本から見るとまったく正当なことです。

しかし、ロシアからみると、日本が「いやがらせをしている」ように見える。

中国が、「南京大虐殺の資料」を「世界記憶遺産」に登録申請し、それが受理された。


日本が復讐したければ、「チベット大虐殺」とか、核兵器実験による「東トルキスタン大虐殺」とか申請すればいいのに・・・。

(@もちろんシベリア抑留問題は大切です。

私の祖父は満州で亡くなりましたが、生きていればシベリアに連れていかれて強制労働させられたかもしれません。他人事ではないです。)

というわけで、日ロ関係は明らかに悪化しています。

・日本は、「北方領土」を返してほしい
・ロシア側は、「北方領土の話はしません」という
・日本は、怒っている
・ロシアも怒っている
一体ロシア政府は今、何を考えているのでしょうか???

▼「北方領土返還」自体は、ロシアの「国益ではない」が基本
これから話すことは、「ロシア政府が何を考えているか?」です。
私自身の考えではないこと、はっきり理解してください。
というのも、「ロシアが何考えているか」解説すると、しばしば、
「ふざけるな!日ソ中立条約を破ったことを忘れるな!」
「シベリア抑留を謝罪せよ!」」
などとクレームがきます。

そういうクレームは私ではなく、クレムリンに直接メールを送ってください。
私は、「ロシア側が何考えているかわかりません。解説してください」といわれるので、

「ロシア側が何を考えているのか」書いているだけです。

まず、ロシア側の基本認識を。

ロシアが北方4島を返すことは、ロシアの国益に合致していません。

なぜでしょうか?
常識的に考えればわかることですが、「4島を返すことは、【損】だから」です。
もしロシアが無条件で4島を返したら、

ロシアLOSE 日本WIN

です。

これはプーチンのいう、いわゆる「ひきわけ」ではありません。
「ひきわけ」とは、「日ロ両国がWINになること」です。

では「2島」返還したら?
これも、日本WIN ロシアLOSE
です。
日本側からすると「ひどい話」ですが。
なんといっても、ロシアは北方領土を実効支配している。
だから返さなくても、何も困ることはない。
逆に返還したら困ることになります。
「クリミア」をウクライナから取り戻して「歴史的英雄」になったプーチン。
(クリミアは1783年から1954年までロシア領だった。)
「北方領土」を日本に無料で返還したら、「歴史的裏切り者」になり、支持率は急落することでしょう。

そう、「北方領土返還」は、うまくやらないとプーチンの「自殺行為」になってしまう。

これがロシア側の認識です。

「北方領土を返すことは、1島でも4島でも、基本的にロシアの【損】である」

ロシアがこう考えていることを、日本側はしっかり認識しておく必要があります。

▼では、なぜ「領土交渉」を行うのか?

最近、ロシア側の態度がかなり硬化してきました。
とはいえ、今にいたるまで、「北方領土」に関する交渉は継続して
きました。

なぜなのでしょうか?
ロシアが島を返すことは、基本的に【損】で【LOSE】です。
だから、その「LOSE」を「WIN」にするための、【見返り】が必要なのです。

「なに~~~~、奪った領土は無料で返しやがれ!」

日本側はこう考えますが、そういう理屈が通用するのは、マンガとかライトノベルだけ。


実際の世界では、「無料で、奪った土地を返す」なんてことはありえません。

アメリカによる沖縄返還(1972年)すら、「無料」で戻ってきたわけではないのです。


「返還」は基本的に「損」であるにも関わらず、ロシアが交渉をつづけてきた理由。

それは、「島を返して欲しいのなら、それなりの【見返り】をくださいよ」ということなのです。

嗚呼、皆さんの怒りがこちらに伝わってきます。
繰り返します。

これ、「ロシア側の考え」で私自身の考えとは無関係ですから。
では、「見返り」ってなに?
これは、たとえば、「極東・東シベリア」への大規模投資とか。
ロシアが「資源依存経済」から脱却するのを助けるとか。
ガスパイプラインを、サハリンから日本にむけてつくるとか。
話し合えばいろいろあるでしょう。
「島を返して欲しければ、ロシアもWINになる見返りをください」
これが、ロシア側の基本認識2番目です。

▼日ロ関係に何が起こったか?

さて、安倍総理は、「自分の任期中に北方領土問題を解決する!」
と強い意欲を示しておられます。
それで、2013年、日ロ関係は「劇的」というほど改善しました。
政府も官僚も、「ロシアの経済案件を優先させろ!」といっていた。
この時期、日本とロシアの利害は一致していました。
日本は、

1、北方領土を返還してほしい

2、安い天然ガスが欲しい

なぜ?
福島原発事故で、全原発が停止。
原油・天然ガス輸入量が激増し、「貿易赤字激増」が大問題になっていたから。

ロシア側も「ウェルカム」でした。

というのは、最大のお得意である欧州が、「ロシア依存から脱却しよう」と動いている。

それで、ロシアは、「東の市場を開拓すること」が優先課題だからです。
日ロの思惑が珍しく一致しました。

ところが、「歴史的大事件」が日ロ関係を悪化させます。
それが「クリミア併合」。
日本は、アメリカを中心とする「対ロシア制裁」に加わった。
それで、「国策として、ロシアとの経済関係を深めること」が困難になった。
で、日本側がロシア側と会った時に話す内容は、
「事実上領土問題だけ」

になってしまった。
上にも書きましたが、ロシアは、「見返りなしで領土を返還するのは、ロシアになんのメリットもないどころか、【大損だ】」という考え。
正直、会って「領土問題の話」(損な話)だけされても、まったく面白くないし「国益」にもならない。

さて、日ロ関係をさらに悪化させる現象が起こりました。

それが、原油価格大暴落。

2014年8月まで、原油価格は、ずっとバレル100ドル以上で推移していました。
ところが2014年9月、100ドル割れ。
2015年1月には、50ドルを割り込んでしまいます。

これは、日本にとって「神風」でした。

「貿易赤字増大問題」が勝手に解決にむかったからです。

「ロシアのガスが必要だ」という日本の認識は急速に薄れ、ますます、
「テーマは領土問題だけ」になっていった。

一方、ロシアにとっては、「地獄」のはじまりでした。
今年、ロシアのGDPは、マイナス4%程度になると予想されています。
ロシア経済がマイナスになるのは、09年以降はじめてのこと。
しかもその時は、メドが大統領だった。
今年は、プーチンが大統領として「はじめてのマイナス成長」になる。

そして、この「原油価格低迷」。
アメリカの「シェール革命」が主な原因とみられ、「長期化する」可能性が高い。

しかも、「核開発問題」を解決したイランが市場に戻ってくれば、さらに下がる可能性もある。

ロシアにとっては、「不況が長期化する」可能性が強まっている。
ということは、プーチン政権の基盤も危うくなっていくかもしれない。

現在、「強い危機意識」がロシア側にあること、日本も知っておく必要があります。

こういう深刻な状況の中、安倍総理がニコニコしながらプーチンのところに走ってきた。

何をいうかと思ったら、「プーチンさん、島返してくださいね!」。
「制裁」「ルーブル暴落」「原油暴落」のトリプル苦でロシア国民が苦しんでいる折。


「島を返したら、あんた(安倍さん)は国民的英雄になるが、俺は国賊になっちまう」

そういうことなのです。

▼日ロ関係は「休息」が必要

というわけで、ロシア側が、ロシアにまったく得にならない
「領土問題」だけ話す日本側に「うんざりしている」理由がご理解いただけたことでしょう。

日ロ関係を劇的に改善させたければ、
「サハリン - 日本 ガスパイプライン構想」
を進めればいいでしょう。
これなら、「液化」しなくてすみますから、かなり安いガスが手に入るようになります。

しかし、アメリカは当然、このプロジェクトを邪魔することでしょう。
そして、日本側も、「原油価格につられてガスも安くなっているのにあまりメリットがない」と思っている。

そうなると、日ロ間の話は「領土問題」だけになってしまい、両国の仲はますます険悪になっていくだけです。

これを一番喜ぶのが中国であること、いうまでもありません。
ですから、日ロは今、「休息」が必要なのだと思います。

「サハリンー日本ガスパイプライン構想は興味ありますが、アメリカが邪魔します。
時期尚早ということで、しばらくお休みしましょう。

私たちは、中国を恐れていますから、ロシアとの関係改善の必要性も感じています。
しかし、このままだと日ロ関係は悪化していくだけなので」

いずれにしても、安倍総理は、会うたびに「島返してくださいね!」とだけいっても目標は達成できないでしょう。
「日英同盟破棄」の話でも触れましたが、目的を達成したければ、相手のニーズを知ることです。
その上で「WIN-WIN」の関係を築いていく。

日ロ関係だけでなく、あらゆる国々との関係で必要なことです。

●PS

北野が「世界情勢分析する方法」を完全暴露しています。

これを読むと、あなた自身で、日本と世界の未来を予測できるようになります。

政治家、経営者、起業家、ビジネスマン必読。


【3刷決定!】

●アマゾン、「国際政治情勢部門」「外交・国際関係部門」
「社会一般部門」
「トリプル1位!」


●日本人の知らない「クレムリン・メソッド」
~ 世界を動かす11の原理 (集英社インターナショナル)

北野 幸伯

(詳細は→ http://hec.su/hHN )


●面白かったら、拡散お願いいたします。>
↓●おたよりコーナーへ
●Oさまからのメール
北野さま

【RPE】「エゴ ~ 日英同盟はなぜ破棄されたのか?」は、
かなり衝撃的な内容でした。
ちょうど、「日米安保廃棄が大方針の」共産党の志位さんが、
連立政権が樹立した場合には、有事の際には在日米軍に出動を要請することもあるとの認識を表明されました。
○共産委員長、日米安保廃棄求めず 連立政権で
http://www.47news.jp/CN/201510/CN2015101501001615.html

本当に、モラルなく、エゴですよね。。。
拙ブログでも紹介させて頂きました。

●共産・志位氏「有事の際には在日米軍に出動を要請することもある」
日英同盟は何故破棄されたのか?
http://kopiruakkun.blog.fc2.com/blog-entry-5078.html

いつもありがとうございます。
RPEジャーナル
北野幸伯
◎ロシア政治経済ジャーナル のバックナンバーはこちら
⇒ http://archives.mag2.com/0000012950/index.html