銀座に来る中国人は、もう富裕層だけじゃない
銀座に来る中国人は、もう富裕層だけじゃない
東洋経済オンライン 8月15日(土)5時20分配信
銀座の買い物ツアーの出発点は銀座8丁目。バスを降りた旅行客は、ラオックスやユニクロ、三越をめざす
中国人旅行客による“爆買い”が空前の規模になっている。今年4~6月の訪日外国人による旅行消費額は前年同期比8割増の8800億円余りに達したが、その4割を占めるのが中国人だ。1人当たりの旅行支出は28万5000円と、台湾人の2倍、韓国人の4倍にものぼる。4人家族だと消費額は100万円を超す。
6月には過去最高となる46万人(前年同月比167%増)の中国人が来日し、全国各地で莫大なお金を落とした。だが、爆買いの実態は必ずしも知られておらず、どんな商品がなぜ売れているのかについては、販売している店自体もつかみ切れていない。
そこで、中国人向けマーケティング会社を経営する徐向東・中国市場戦略研究所代表とともに、東京・銀座と新宿で中国人旅行客にインタビューを敢行。彼らの購買行動を検証してみた。徐さんは『中国人にネットで売る!』(2011年、東洋経済新報社刊)、『「爆買い」中国人に売る方法』(2015年6月、日本経済新聞出版社)を上梓。中国人向けマーケティングに関する講演活動も多い。中国人の消費行動について第一人者の徐さんの目に、爆買いの実態はどう映ったのか。直撃取材は8月初旬の日曜日の午後4時30分に銀座からスタートした。
【詳細画像または表】
中国人による“爆買い”の出発点は、銀座8丁目の玩具店・博品館近辺だ。土日の昼間は、首都高速道路下のこのあたりが歩行者天国の起点となっている。中国人を乗せたバスは高速道路下の中央通りの両側に停車し、観光客をおろしている。
■ 対応が追いつかず、試着をせずに買った……
博品館前の路上で、男の子2人を連れた30代の夫婦に聞いてみた。
「福建省から関西国際空港経由で来ました。職業は医師です」と女性は話す。正午過ぎからずっと買い物をしているという。一緒に来た夫は医薬品の販売会社を経営している。
驚いたことに、子どものおもちゃだけで1万元(約20万円、以下8月上旬の1元=20円で計算)も買ったという。ほかに子ども用のサプリメントやパナソニック製の4500元(約9万円)の炊飯器……。「サプリメントだけで6000元(12万円)も費やした」(女性)という。
共働きなので、ふだんはもっぱらインターネット通販で買い物を済ませているとのこと。「食料品や日用品以外は店では買わない」(女性)。日本での買い物体験について聞いてみると、「商品が多すぎてよくわからないまま買っている」(女性)。「百貨店では試着もできないまま、シャツを買った。サイズが合うのか不安です」という。各店舗とも中国人の店員を増やすなどの対応をしているが、急増する中国人観光客に対応しきれないようだ。
中央通りを三越の方向に歩いて行くと、「上海から来た」という中年の女性たちに出会った。おじいさん、おばあさんから孫までの8人家族でやってきたという。
女性にふだんの仕事を聞いてみると、外資系の自動車工場の組み立てラインで働いているとのこと。富裕層ではなく、典型的な中流層だ。「クルマの売れ行きがよくないので、8月は半分の従業員が休む予定。私の場合は、おじいさん、おばあさんに日本を一度見せたかったので来た」と女性は話した。
どんなものを買ったのか尋ねてみると、袋から取り出して見せてくれた。炊飯器は日立製(約4万4000円)。大金をはたいたのがニコンの望遠レンズで約10万5000円。牛乳にとかして飲むための、伊藤園の抹茶ラテの粉末も。
■ 株価下落の影響は大きくない
6月以来、中国では株価下落が著しく、負の資産効果が懸念されるが、「株はやらないので何の影響もない」とその女性はきっぱりと言った。株式投資については何人かに聞いてみたが、どの人も「自分はやらない」「旅行への影響はない」と口をそろえた。
取材に応じてくれた上海在住の外資系銀行勤務の男性によれば、「慎重にやっている人は最近の株価下落による影響はほとんどない。ダメージが大きいのは投機でやっている人だけだが、そんなに数は多くない」という。
中国経済の今後についてどう見ているか、聞いてみると、「いろいろ問題は起こるだろうが、10年間は高度成長が続く」と楽観的な見通しを語ってくれた。この男性の妻は貿易会社で働いている。夫婦の年収は合わせて100万元(約2000万円)にもなるという。
さらに銀座四丁目方面に歩いて行くと、いかにも金持ち風の美人女性が大きなダンボール箱を抱えていた。「主婦です。ゴルフクラブをまとめ買いしました」と女性は言う。「なぜ日本で?」と疑問を投げ掛けてみると「種類がたくさんあるから」と答えた。
「免税」を大々的にうたう家電量販店のショーウインドウには、中国人観光客目当ての美容家電やシェーバー、炊飯器がずらりと並んでいる。赤や金色が人気で、14万円もする炊飯器や4万円を超す電気ポットもある。電化製品の中で最も人気なのが炊飯器だそうだ。
浙江省の寧波から来たという女性は、中学校の教師だという。「炊飯器は日本のほうが、質がよくて値段も安い」と説明してくれた。プラダのバッグも買い、一人で6万元(120万円)も使ったという。
一緒にいたファッションデザイナーの女性は、「香港にはしょっちゅう行ってたけど、これからは日本に来る。だって、品物が安いから」と言い切った。そして「中国人はこんなにたくさん買い物しています。みなさんも中国と仲良くしてアジアで団結しましょう」と言い残して去って行った。
道ばたでは、ファンケルの化粧品をたくさん買い込んだ女性も。ツアーのガイドさんで、日本は5回目だという。「友人に頼まれて買い物をしています」と話す。
■ 共働きや副業などで、予想以上に収入が多い
「それにしても、ここまで中国人の購買力が大きいとは」と、徐さんも驚きを隠さなかった。銀座にやってきた中国人観光客は、団体客と個人旅行客に分けられるが、「いずれも想像を超えた大金を費やしている。しかも、中学校の教員や自動車工場の労働者など、庶民も少なくなかった」(徐さん)。ほとんどの人が銀聯カード(デビットカード)で買い物をしている一方、現金はあまり持たずに来ている。
一方、富裕層による“爆買い”も想像を超えた規模になっている。百貨店やヨーロッパのブランド品店でも中国人観光客の姿を数多く見掛けた。百貨店の茶道具の売場では、純金製の急須を買う客の2人に1人が中国人だという。道ばたでバスの出発を待つ中国人に、不動産のセールスマンがしきりに声を掛けていた。
中国人観光客へのインタビューをとおして見えてきたこととして、徐さんは次のように解説する。
「“爆買い”の背景としては、円安や免税対象の拡大によって、香港や韓国と比べて日本では電気製品や化粧品の値段が安くなっていること、品ぞろえが中国国内と比べてきわめて豊富で、中国では買えない新製品も多いことが挙げられる。また、中国人家庭では共働きが多く、副業などで予想以上に収入があることや、株価下落の影響があまり見えなかったことも特筆できる」
次回・新宿編では、スマートフォンを用いて買い物情報を本国の友人とやりとりするなど、最先端の動きをリポートする。
(撮影:尾形文繁)
岡田 広行
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150815-00080598-toyo-bus_all&p=1
東洋経済オンライン 8月15日(土)5時20分配信
銀座の買い物ツアーの出発点は銀座8丁目。バスを降りた旅行客は、ラオックスやユニクロ、三越をめざす
中国人旅行客による“爆買い”が空前の規模になっている。今年4~6月の訪日外国人による旅行消費額は前年同期比8割増の8800億円余りに達したが、その4割を占めるのが中国人だ。1人当たりの旅行支出は28万5000円と、台湾人の2倍、韓国人の4倍にものぼる。4人家族だと消費額は100万円を超す。
6月には過去最高となる46万人(前年同月比167%増)の中国人が来日し、全国各地で莫大なお金を落とした。だが、爆買いの実態は必ずしも知られておらず、どんな商品がなぜ売れているのかについては、販売している店自体もつかみ切れていない。
そこで、中国人向けマーケティング会社を経営する徐向東・中国市場戦略研究所代表とともに、東京・銀座と新宿で中国人旅行客にインタビューを敢行。彼らの購買行動を検証してみた。徐さんは『中国人にネットで売る!』(2011年、東洋経済新報社刊)、『「爆買い」中国人に売る方法』(2015年6月、日本経済新聞出版社)を上梓。中国人向けマーケティングに関する講演活動も多い。中国人の消費行動について第一人者の徐さんの目に、爆買いの実態はどう映ったのか。直撃取材は8月初旬の日曜日の午後4時30分に銀座からスタートした。
【詳細画像または表】
中国人による“爆買い”の出発点は、銀座8丁目の玩具店・博品館近辺だ。土日の昼間は、首都高速道路下のこのあたりが歩行者天国の起点となっている。中国人を乗せたバスは高速道路下の中央通りの両側に停車し、観光客をおろしている。
■ 対応が追いつかず、試着をせずに買った……
博品館前の路上で、男の子2人を連れた30代の夫婦に聞いてみた。
「福建省から関西国際空港経由で来ました。職業は医師です」と女性は話す。正午過ぎからずっと買い物をしているという。一緒に来た夫は医薬品の販売会社を経営している。
驚いたことに、子どものおもちゃだけで1万元(約20万円、以下8月上旬の1元=20円で計算)も買ったという。ほかに子ども用のサプリメントやパナソニック製の4500元(約9万円)の炊飯器……。「サプリメントだけで6000元(12万円)も費やした」(女性)という。
共働きなので、ふだんはもっぱらインターネット通販で買い物を済ませているとのこと。「食料品や日用品以外は店では買わない」(女性)。日本での買い物体験について聞いてみると、「商品が多すぎてよくわからないまま買っている」(女性)。「百貨店では試着もできないまま、シャツを買った。サイズが合うのか不安です」という。各店舗とも中国人の店員を増やすなどの対応をしているが、急増する中国人観光客に対応しきれないようだ。
中央通りを三越の方向に歩いて行くと、「上海から来た」という中年の女性たちに出会った。おじいさん、おばあさんから孫までの8人家族でやってきたという。
女性にふだんの仕事を聞いてみると、外資系の自動車工場の組み立てラインで働いているとのこと。富裕層ではなく、典型的な中流層だ。「クルマの売れ行きがよくないので、8月は半分の従業員が休む予定。私の場合は、おじいさん、おばあさんに日本を一度見せたかったので来た」と女性は話した。
どんなものを買ったのか尋ねてみると、袋から取り出して見せてくれた。炊飯器は日立製(約4万4000円)。大金をはたいたのがニコンの望遠レンズで約10万5000円。牛乳にとかして飲むための、伊藤園の抹茶ラテの粉末も。
■ 株価下落の影響は大きくない
6月以来、中国では株価下落が著しく、負の資産効果が懸念されるが、「株はやらないので何の影響もない」とその女性はきっぱりと言った。株式投資については何人かに聞いてみたが、どの人も「自分はやらない」「旅行への影響はない」と口をそろえた。
取材に応じてくれた上海在住の外資系銀行勤務の男性によれば、「慎重にやっている人は最近の株価下落による影響はほとんどない。ダメージが大きいのは投機でやっている人だけだが、そんなに数は多くない」という。
中国経済の今後についてどう見ているか、聞いてみると、「いろいろ問題は起こるだろうが、10年間は高度成長が続く」と楽観的な見通しを語ってくれた。この男性の妻は貿易会社で働いている。夫婦の年収は合わせて100万元(約2000万円)にもなるという。
さらに銀座四丁目方面に歩いて行くと、いかにも金持ち風の美人女性が大きなダンボール箱を抱えていた。「主婦です。ゴルフクラブをまとめ買いしました」と女性は言う。「なぜ日本で?」と疑問を投げ掛けてみると「種類がたくさんあるから」と答えた。
「免税」を大々的にうたう家電量販店のショーウインドウには、中国人観光客目当ての美容家電やシェーバー、炊飯器がずらりと並んでいる。赤や金色が人気で、14万円もする炊飯器や4万円を超す電気ポットもある。電化製品の中で最も人気なのが炊飯器だそうだ。
浙江省の寧波から来たという女性は、中学校の教師だという。「炊飯器は日本のほうが、質がよくて値段も安い」と説明してくれた。プラダのバッグも買い、一人で6万元(120万円)も使ったという。
一緒にいたファッションデザイナーの女性は、「香港にはしょっちゅう行ってたけど、これからは日本に来る。だって、品物が安いから」と言い切った。そして「中国人はこんなにたくさん買い物しています。みなさんも中国と仲良くしてアジアで団結しましょう」と言い残して去って行った。
道ばたでは、ファンケルの化粧品をたくさん買い込んだ女性も。ツアーのガイドさんで、日本は5回目だという。「友人に頼まれて買い物をしています」と話す。
■ 共働きや副業などで、予想以上に収入が多い
「それにしても、ここまで中国人の購買力が大きいとは」と、徐さんも驚きを隠さなかった。銀座にやってきた中国人観光客は、団体客と個人旅行客に分けられるが、「いずれも想像を超えた大金を費やしている。しかも、中学校の教員や自動車工場の労働者など、庶民も少なくなかった」(徐さん)。ほとんどの人が銀聯カード(デビットカード)で買い物をしている一方、現金はあまり持たずに来ている。
一方、富裕層による“爆買い”も想像を超えた規模になっている。百貨店やヨーロッパのブランド品店でも中国人観光客の姿を数多く見掛けた。百貨店の茶道具の売場では、純金製の急須を買う客の2人に1人が中国人だという。道ばたでバスの出発を待つ中国人に、不動産のセールスマンがしきりに声を掛けていた。
中国人観光客へのインタビューをとおして見えてきたこととして、徐さんは次のように解説する。
「“爆買い”の背景としては、円安や免税対象の拡大によって、香港や韓国と比べて日本では電気製品や化粧品の値段が安くなっていること、品ぞろえが中国国内と比べてきわめて豊富で、中国では買えない新製品も多いことが挙げられる。また、中国人家庭では共働きが多く、副業などで予想以上に収入があることや、株価下落の影響があまり見えなかったことも特筆できる」
次回・新宿編では、スマートフォンを用いて買い物情報を本国の友人とやりとりするなど、最先端の動きをリポートする。
(撮影:尾形文繁)
岡田 広行
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150815-00080598-toyo-bus_all&p=1