公園になったトトロの家の貴重な11枚の写真
もう二度と見られない。公園になったトトロの家の貴重な11枚の写真
杉並区
2015年7月8日杉並区By 大原広軌
かつて宮崎駿監督が「トトロが喜んで住みそうな家」として愛したモダンな建物が、東京都杉並区を走るJR中央線の阿佐ヶ谷駅にほど近い住宅地にあったことをご存知でしょうか。
大正14(1925)年に建てられたその洋風住宅は、長く住まわれていた持ち主さんの引っ越しにより無人となり、取り壊しの危機に瀕しますが、地元の方の保存運動(6300もの署名が集まったといいます)により、建物も含めた敷地全体を公園として整備することが決定します。
しかし、2009年2月14日未明に不審火で焼失。誰もが公園化計画の頓挫を覚悟しますが、それを知った宮崎監督が焼け落ちる前の「トトロの家」の雰囲気を活かしたデザイン画を提供、かくして2010年7月に「Aさんの庭」という名の公園が誕生しました。
ちなみにこの「Aさんの庭」というネーミングも宮崎監督の発案なのだそうです。園内のパネルによれば、「Aさん」とは「公園を訪れるみなさん」のことを表し、さらに「阿佐ヶ谷」の「A」の意味合いも含まれているといいます。
そんな公園をジモトのココロ編集部が訪れたのは、7月のとある日曜日。あいにくの梅雨空でしたが、雨にしっとりとぬれる手入れの行き届いた庭は、また格別なものがあります。
持ち主さんが何十年も手塩にかけて育ててきたバラをはじめ、ツツジや藤、金木犀など、100種を超える植物が出迎えてくれるこの公園、どの季節に訪れても楽しめそうです。
公園のメインともいえるこちらの建物は、利用者のトイレ兼防災倉庫となっていて、屋根に使われているのは焼けてしまった建物に葺かれていた瓦なのだそう。オープン当初は濃いチョコレート色だったという外壁も5年の歳月を経ていい色落ち加減となり、元あった住宅の佇まいとまではいきませんが、白い窓枠と相まってどこか懐かしさを感じさせてくれます。
右側に見えるのは雨水を利用したトンボ池。宮崎監督はことのほかこの池を気に入り、座り込んでじっと水面を見つめていたといいます。
季節によって異なる閉門時間。今の時期なら午後7時まで、のんびり過ごすことができますね。この白い門も旧住宅に据えられていたデザインを引き継いでいると解説パネルにありました。
時間を忘れていつまでも居続けたくなってしまうほど素敵な「庭」。建物が焼失してしまったことが残念でなりません。いったいどのような住宅が佇んでいたのでしょうか。
実は…、その貴重な写真が残っていました。漫画家の大原由軌子さんが火事に遭う前にこちらを訪れた様子が、メルマガ『大原さんちの九州ダイナミック』で配信されていたのです。今回はその記事を以下に引用します。
トトロの住む家探訪記
宮崎駿監督の著書に『トトロの住む家』という書籍があります。監督が惚れこんだ、東京都内や都下の「トトロが喜んで住みそうな自然に囲まれた家」が6軒紹介されている書籍なのですが、そのトップを飾ったのが杉並区阿佐ヶ谷のKさん宅です。
一度きちんと見てみたいなーなんて思っていたのですが、このお庭の手入れをなさっていたのが『大原さんちシリーズ』にも登場する、同じマンションに住む庭師の通称「カメのお父さん」だったということが判明、さっそく頼み込んでダンナさんと見学に行きました。2008年10月の終わりのことです。
今日はその時の写真をご紹介します。ちなみにKさんは90歳近い(編集部注:2008年当時)という年齢からは想像できないほどお元気な方で、生活もすべてひとりでこなされているスーパーウーマンです。
こちらが偶然通りがかった宮崎監督の目を釘付けにしたKさん宅の外観。白いペンキ塗りの門がとてもいい雰囲気をかもし出しています。
お庭に入ってみると、Kさんの目の高さで手入れがされているバラが出迎えてくれます。白い窓枠は木製。私の憧れです。
さらに進むと玄関へのアプローチが。
別角度から見るとこんな感じになっています。セコムのステッカーが張ってあるのが玄関。白とチョコレート色のコントラストが本当に美しい建物です。
私が立っているのが、玄関の内側。これまたセンス抜群の木製のついたてです。右部分はリビングになります。
リビング全景とお隣の和室。「お女中部屋だった」と説明を受けた覚えがあるのですが、すいません、定かではありません。
お部屋の中から見た庭はこんな感じ。やはり木枠の窓は最高ですね。
リビングからキッチン方面に向かう廊下。木製のドアは重くていい色をしたものでした。
こちらはキッチン。白い水屋が素敵な質実剛健といった風情です。
「トトロの家」の外観写真はたくさん見かけますが、裏から回って撮られたものはあまり目にしません。ということでしっかりと押さえてきました。
もしも自分たちに家を建てるようなラッキーな出来事が起こるとしたら、このお宅をそっくりそのままコピーしようと決意した私でした。
焼失前の「トトロの家」のフォトレポート、いかがでしたか? 今回、大原さんに掲載許可を取るべくご連絡したところ、文中に登場した「カメのお父さん」にわざわざ話を伺い、さらなる情報を教えてくださいました。
なんでも元の持ち主のKさんはまだまたお元気で、ほぼ毎日「Aさんの庭」で草花の手入れをなさっているのだとか。ということは、お会いできるチャンスもあるということですよね。幸運にもKさんがいらっしゃるタイミングに訪れることができたら、素敵なお宅のお話など伺ってみてはいかがでしょうか。
住所:東京都杉並区阿佐谷北5丁目45番13号 営業時間:3月1日~4月30日・9月1日~10月31日 7:00-18:00 5月1日~8月31日 7:00-19:00 11月1日~2月28日 7:00-17:00
ジブリトトロの家フォト
大原広軌
東京都福生市生まれ。ライター、構成作家。一家で妻の出身地である長崎県佐世保市に移住してから4年余り、美味しい海の幸が安価で食べられる幸せを噛みしめつつ、九州・山口・沖縄の絶景スポットを巡る日々を送っている。
「Aさんの庭」に行ってみたい。お近くの人はぜひ。Kさんが、草花のお手入れをしておられるそうです。