欧米ではネオニコチノイド系農薬を状況証拠から使用禁止した国も多いが
ジノテフラン、クロチアニジンとも濃度にかかわらず成蜂数が急激に減少し、農薬投与群は最終的に消滅した。
このことからカメムシ防除のために実際に散布される農薬の1/10 の濃度であっても、農薬の急性毒性により蜂群が崩壊したことが示唆される。
これら二つの農薬はカメムシに対して同じ殺虫能力を持つよう調節されれば蜜蜂に対しても同じ殺虫能力を持つといえる。
農薬が散布されて水田や果樹園の水中で希釈されてその濃度が低くなるという想定をすると、外役蜂によって運ばれた低濃度の農薬が長期間に亘って蜂群に影響を及ぼし続けることによって、最終的には蜂群が崩壊したりあるいは越冬に失敗したりすることになる。
たとえ蜂群が崩壊せず元気なように見えても、女王蜂の産卵障害を引き起こしたり免疫力が低下して蜂群中にダニを蔓延させるようなことも起こり得る。
~~~~~~~~~~~~
The Japanese Society of Clinical Ecology, Vol.21, No.1, pp.10-23(2012)
ジノテフランとクロチアニジンの蜂群に及ぼす影響
山田敏郎、山田和子、和田直樹
金沢大学理工研究域自然システム学系
蜂崩壊症候群(CCD)と呼ばれる現象は養蜂や農業のみならず、生態系の危機へ繫がる深刻な問題である。
病原体説や農薬説など様々なCCD 原因説が提案されているが、決定的な結論は出ていない。
これまでCCD 原因解明のために、限定された条件下での実験やCCD 発生後の巣箱内の病原体の分析等が行われてきたが、CCD 発生過程の長期現場実験は殆ど行われていない。
欧米ではネオニコチノイド系農薬を状況証拠から使用禁止した国も多いが、日本では科学的根拠が確定されていないため禁止に至っていない。
そこで、日本で広く使われているジノテフランとクロチアニジンの長期投与実験を行い、その間の蜂数や蜂児数の変化および農薬摂取量を追跡し、蜂群がCCD の状態を経由して消滅に至ることを初めて明らか
にした。
また、太陽光下での蜜蜂の農薬摂取を想定して、これらの分解特性を調べた。
NMR スペクトル解析により、熱的には両農薬とも安定であり、紫外線に対してはジノテフランは安定であるもののクロチアニジンは不安定であることが判った。
Ⅰ 緒言
蜂群崩壊症候群(CCD)と呼ばれる現象
1~4)
は、養蜂業ばかりではなく花粉交配を蜂に頼む農業、ひいては生態系をも脅かす深刻な問題である。
CCD はほとんどの成蜂が急にいなくなり、花粉や蜜等食糧の残る巣に女王や卵、幼虫、さなぎなど各段階の蜂児がとり残されるという点で巣分かれとは異なり今まで見られなかった不自然な現象として注目されてきた。
その原因としてネオニコチノイド農薬説
5~9)、ミツバチへギイタダニとイスラエル急性麻痺ウィルス(IAPV)説
10~23)、ノゼマ病微胞子中と浸透性農薬の相乗作用説
24,25)の他、環境変化
26,27)や長距離輸送などの養蜂慣習、生息地減少による栄養不足
28)からのストレス説、遺伝子組み換え作物説
29,30)、電磁波説、複数相乗説
31~34)などがあげられる。
現在のところそのいずれの説においてもCCD が直接的な実験によって科学的に再現されているとは言えない。
一つには蜂が真社会性昆虫であり、CCD がその蜂群で起こる現象であることから、限られた数の蜂を扱う実験室内でのCCD 再現が難しいということが考えられる。
本研究では真社会性昆虫として行動するのに充分な数からなる西洋蜜蜂(Apismellifera)の蜂群を養蜂場の自然環境下に置き実験を行った。
新社会性昆虫の蜂群の趨勢を明らかにするため、本研究では成蜂と封蓋蜂児の数を測定し、女王の有無も確認した。
日本では米の等級を落とすということで斑点米が問題とされ、その原因となるカメムシを防除するため水田に農薬が散布されて来た。
ジノテフランとクロチアニジンは近年日本で広く使われている代表的なネオニコチノイド農薬であるが、これら農薬と蜂群に関する報告は今まで見当たらない。
本研究ではこれら農薬が蜂群に長期的に及ぼす影響とCCD との関連を明らかにするため養蜂知識と技術に基づき長期間の野外実験を行った。
実験ではカメムシ防除で推奨される濃度の農薬を10倍、50倍、100倍に希釈して各実験群に投与した。
それぞれの農薬濃度を高、中、低濃度と呼ぶこととする。
高濃度農薬は最初に一度だけ投与し蜂群に及ぼす農薬の急性毒性を明らかにした。
中、低濃度の農薬は慢性毒性の影響を明らかにするため毎回投与した。
各蜂群が崩壊に至るまでに摂取した農薬量を測定した。
一般的に田畑に散布された農薬は水で薄められた後太陽光を浴び熱せられ、紫外線の影響を受ける。
ジノテフランとクロチアニジンの太陽光下における光分解、熱分解特性を明らかにするためそれらの水溶液を50℃に熱し、紫外線照射したものをプロトンNMR スペクトラムにより解析した。
Ⅱ 実験方法と評価方法
1. 実験方法
【農薬投与の野外実験】
農薬は糖液と花粉ペーストの餌として投与した。
糖液は各コロニーの巣箱内に設置された給餌器に入れ、花粉ペーストは巣箱内で巣脾枠上に置いた。
農薬はジノテフランを10%含有する三井化学アグロ㈱のスタークルメイトとクロチアニジンを16%含有する住化武田農薬㈱のダントツを用いた。
これらは日本で斑点米の原因となるカメムシ防除のため水田散布によく使われる代表的なネオニコチノイド農薬である。
まずカメムシ防除用の希釈倍率を持つ糖液を以下のように作った。
市販のスタークルメイトを同量の砂糖と水からなる糖液中に1000倍希釈する(溶液中のジノテフランは100ppm)。
市販のダントツは糖液中に4000倍に希釈する(溶液中のクロチアニジンは40ppm)。各実験群に投与する農薬はこれらカメムシ防除用に実際に推奨されている濃度をそれぞれ10倍,50倍,100倍に希釈して用いた。
今後それぞれの濃度を高、中、低と呼ぶこととする。
スタークルメイトの高濃度溶液(ジノテフラン10ppm)をS-high(Run- 2)、中濃度溶液(ジノテフラン2ppm)をS-middle(Run- 3)、低濃度溶液(ジノテフラン1ppm)をS-low(Run- 4)、同様にダント
ツの高濃度溶液(クロチアニジン4ppm)をD-high(Run- 5)、中濃度溶液(クロチアニジン0.8ppm)をD-middle(Run- 6)、低濃度溶液(クロチアニジン0.4ppm)をD-low(Run- 7)と表すこと
とする。
各実験群の詳細を表1に示す。
純粋な花粉と花粉代用品“Feed-Bee”を1:1の重量比で混ぜ花粉混合物を作り、それと上記の農薬入り糖液を2:1の割合で練り混ぜて花粉ペーストを作った。
糖液と花粉ペーストは12 日目以降、実験日毎に新しいものと交換した。
S-high とD-high は12 日目以降無農薬の糖液と花粉ペーストを用いたがそれ以外は農薬入りの餌を群が崩壊するまで用いた。
実験日毎に巣脾の両面、給餌枠、巣箱内面、前面をデジタルカメラで撮影した。
巣箱入り口からの蜂の出入りと周辺の状況を記録するためデジタルカメラを固定し30分毎にタイマーを設定して撮影した。
できるだけ正確に成蜂の数を数えるため実験は外勤蜂が採餌活動を始める前の早朝を選び、雨の日は避け基本的に毎週、まれに二週間隔に行った。
実験を行った養蜂場は害獣、害虫対策が可能で農薬散布が調整可能な区域にあり、蜂が巣箱内の農薬入りの餌が気に入らなければ自由に巣箱を出て餌や水を求めることができた。
実験準備期間中、10個の未使用の標準巣箱を日当たりの良い東向きの崖の上で入り口を東に向け南北一直線上に並べた。
巣箱毎に蜂群に病気の兆候がなく元気であることや女王の産卵状況を確認し、目測ではあるが蜂児数、成蜂数が等しくなるよう成蜂や蜂児のついた巣脾を巣箱間で移動して調整した。
実験開始時10 蜂群から条件の整った8 蜂群を選んだ。
各実験群の巣箱内には6 枚の巣脾と糖液をいれた給餌枠があり成蜂は約1 万匹であった。
ブランク群では蜂が増えるので、分封(巣分かれ)するのを防ぐため巣素(新しい巣脾)を必要に応じて巣箱内に追加した。
一連の農薬投与実験は2010年の7月18日から約4カ月の間、花が少なく比較的分封しにくい季節に行った。
【ジノテフランとクロチアニジンの核磁気共鳴測定】
ジノテフラン( 標準品) を関東化学㈱から、純度99.5 % のクロチアニジンをDr.Ehrenstorfer
GmbH (Germany)から購入し、それ以上純粋にすることなく用いた。
各サンプルを0.3%のトリメチルシリルプロパン酸を含有した重水に溶かし標準とした。
50℃で24 時間加熱して得られた分解物と紫外線310nm×50W/㎡で30 分照射して得られた分解物をプロトン核磁気共鳴で測定した。
この時の紫外線照射量はつくば市で6.5 日の間に太陽から受ける紫外線照射量に相当する。
実験では紫外線はガラス容器を通して照射されるのでいくらか弱まると考えられる。
紫外線照射はフナコシNTM-10 トランスイルミネイタ―で行った。
NMR スペクトルはJEOL ECS-400 スペクトロメーターを用い室温で得られた。
2.評価方法
本研究では蜂群中の成蜂数と蜂児数の長期にわたる変化を写真上で計測した。
巣箱全体の重さの変化には成蜂と蜂児以外に蜂蜜、花粉など他の要素が含まれるためである。
巣脾上の成蜂は五、六百以下の時は直接数え、それ以上の時は事前に直接数えた巣脾を参照しながら数を推定した。
各巣脾両面上の成蜂数を巣箱毎に合計し各郡の成蜂数とした。
封蓋蜂児と肉眼で見える幼虫を合わせた蜂児の数は巣脾片面毎にそこに占める割合で表し、各巣脾の割合を巣箱毎に合計して各郡の蜂児数とした。
これらの計数は二人でダブルチェックした。
糖液と花粉ペーストの餌の蜂群による消費量は実験日毎に直に目測または写真で測り群毎に崩壊に至るまでに摂取された全消費量を市販製品(スタークルメイト、ダントツ)の農薬量に換算した。
死蜂の数も実験日毎に直に目測または写真で測った。
3.規格化数の定義
成蜂数の群による初期数の違いと季節の影響による変動を相殺して相対的な変化を求めるため規格化成蜂数を以下の(1)式で定義した。
規格化成蜂数=(nij/njo)/(nBj/nB0) (1)nij=RUN i のj 日経過後の成蜂数nj0=RUN
i の実験開始時の成蜂数nBj=ブランクのj 日経過後の成蜂数nB0=ブランクの実験開始時の成蜂数
(1)式においてRUN-1 とRUN-8 の算術平均値をブランクの成蜂数とした。
蜂児の期間は成蜂の期間と比べて短く数の周期は群によりずれるので蜂児数は規格化しなかった。
Ⅲ 結果と考察
1.成蜂数の変化と死蜂数、女王の有無
表2は各実験群の成蜂数の経過日数による変化を、グラフ1は式(Ⅰ)による規格化成蜂数の変化を示す。
表2、グラフ1および死蜂の変化、女王の有無について以下の結果が得られた。
ジノテフラン、クロチアニジンとも濃度にかかわらず殺虫剤投与後成蜂数が急激に減少し、濃度によりその後の減少傾向にいくらか特徴がみられるものの農薬投与群は最終的に消滅した。
女王蜂は成蜂が殆どいなくなるまで存在し、女王消失の時点で蜂児と食糧が存在することが写真からも確認されている。
弱体化した巣脾を食害するハチノスツヅリガの幼虫(スムシ)は消滅までの全期間を通しまたその後しばらくの間も観察されなかった。
S-high(RUN-2)とD-high(RUN-5)では農薬投与は一度だけで最初に与えた高濃度の農薬を含んだ餌は12 日目に農薬の入らない餌と取り換えられるまで巣箱内に置かれた。
農薬投与後即死する蜂が観察された。
12 日間には即死と思われる非常に多くの死蜂が巣箱の内外で発生し、成蜂数が急激に減少した。
S-high で死蜂は3 週間後にいくらか見られ、その後わずかになったが15 週後には群が消滅した。
D-high では3 週間後もそれ以後もわずかの死蜂が見られるだけであったが18 週後に群が消滅した。
両群とも女王蜂は成蜂が完全にいなくなるまで存在した。
S-middle(RUN-3)とD-middle(RUN-6)でも農薬投与後成蜂数が急激に減少した。
初期にたくさんの死蜂が見られたもののその後はほとんど見られなくなった。
S-middle では初期成蜂数の1.4%に減った時点まで女王が確認されたが9 週後には群が消滅した。
D-middleでは0.6%に減った時点まで女王が存在し7週後に群が消滅した。
S-low とD-low でも農薬投与後成蜂数が急激に減少した。
農薬投与全期間を通して死蜂はほとんど見られなかったが成蜂数は減り続け両群とも12
週後に消滅した。
S-low で女王蜂は群消滅時点でも存在が確認された。
D-low では初期成蜂数の14%に減った時点まで女王蜂の存在が確認された。
2.蜂児数の変化
表3とグラフ2は各郡の蜂児数の経過日数による変化を表す。
以下の結果が得られた。
全農薬濃度において農薬投与後蜂児数が急激に減少した。
約5 週後にいくつかの群で蜂児数は一時盛り返した。
盛り返しは蜂児数の急激な減少により女王蜂の産卵が促された結果と考えられる。
このことにより農薬は女王蜂の産卵能力に影響を与えるが卵や幼虫には殆ど影響していないことが示唆される。
蜂児数の減少からおおまかに農薬の濃度が高いほど女王蜂の産卵能力により深刻なダメージを与えていると言える。
12 日後女王蜂の産卵能力は急激に減少し高濃度農薬は12 日目に無農薬餌に交換されたにもかかわらず、農薬濃度にかかわらずそれ以後も低く維持した。
蜂児数の長期に渡る観察結果から、農薬投与された群はCCD の様相を呈しながら最終的に崩壊したといえる。
このことは本研究が当学会誌に投稿直後公開されたネオニコチノイド(イミダクロプリド)殺虫剤を用いた“現場での蜂群崩壊症候群の再現”
35)の研究結果と一致している。
3.蜂群が崩壊に至るまでに摂取した全農薬量
表4とグラフ3は蜂群が崩壊に至るまでに摂取した全農薬量を示す。
それらより以下の結果が得られた。
S-high(RUN-2)とD-high(RUN-5)で高濃度農薬入り餌は12 日目に無農薬餌に取り換えられ、その後農薬は投与されなかったが蜂群は最終的に崩壊した。
このことからカメムシ防除のために実際に散布される農薬の1/10 の濃度であっても、農薬の急性毒性により蜂群が崩壊したことが示唆される。
大雑把に1 蜂群当たり毎日500 匹の封蓋蜂児
(蛹)が成蜂になり巣箱内に給餌されあるいは蓄えられた農薬入りの餌を摂取し影響を受けたと仮定すると、蜜蜂1匹当たりの致死量(死ぬまでに摂取した農薬量)はジノテフランが0.1072μg/bee(S-high)、0.2434μg/bee(S-middle)、0.1903μg/bee(S-low)、クロチアニジンは0.0360μg/bee(D-high)、0.1150μg/bee(D-middle)、0.0706μg/bee(D-low)であった。
岩佐ら36)が報告したLD50はジノテフランンが0.0750μg/bee、クロチアニジンが0.0218μg/bee であり大きく矛盾しない。
他方中、低濃度農薬投与の場合、S-middle(RUN-3)とS-low(RUN-4)、同様D-middle(RUN-6)とD-low(RUN-7)の各蜂群が崩壊するまでに摂取する全農薬量を比べるとほとんど違いがないことから、蜂群は中、低濃度農薬の慢性毒性により崩壊した可能性が考えられる。
すでに花蜜中に含まれる農薬に長期間暴露されることによる慢性毒性の可能性が指摘されている4)。
このことは中、低濃度農薬が蜜蜂の体組織内で代謝されず蓄積され、ある敷居値を超えたとき蜜蜂を死に至らせ蜂群を崩壊に導く可能性を示唆している。
さらに詳しく見てみると、崩壊に至るまで蜂群によって摂取された農薬量はS-middle
とS-low の場合はS-high の約1.5 倍でありD-middle とD-low の場合はD-high の約1.5
倍である。
このことから本研究における中、低濃度農薬の慢性毒性によって蜂群を崩壊に至らせるまでに摂取された農薬量は高濃度農薬の急性毒性によるものの約1.5 倍であることがいえる。
また、蜂群崩壊までに摂取された全農薬量をスタークルメイト(ジノテフラン)とダントツ(クロチアニジン)の市販薬のカメムシ防除の濃度に換算して比べると、濃度にかかわらずほぼ等しい。
すなわちS-high/D-high≒1.1、S-middle/D-middle≒1.0、S-low/D-low≒1.0 である。
つまりこれら二つの農薬はカメムシに対して同じ殺虫能力を持つよう調節されれば蜜蜂に対しても同じ殺虫能力を持つといえる。
また農薬中の有効成分量で二つの農薬を比較すると蜂群崩壊までに一群当たりで摂取された農薬量比は高、中、低濃度でそれぞれS-high/D-high=2.50、S-middle/D-middle=2.53、S-low/D-low=2.55 となる。
このことからクロチアニジンの蜜蜂に対する殺虫能力はジノテフランの約2.5 倍であり、わずかではあるがその割合は殺虫剤濃度の減少とともに増大するといえる。
4.太陽光下を仮定したジノテフランとクロチアニジンの光分解特性および熱分解特性図4と5にはジノテフランとクロチアニジンに対するプロトンNMR(1H-NMR)のそれぞれの測定結果が示されている。
これらのNMRスペクトル解析から次のことが考察される。
1) ジノテフランとクロチアニジンは50℃では分解しない。
2) ジノテフランはつくば市での太陽からの6.5日分の照射量に相当する放射強度の条件下(放射強度(RI)50W/m2、波長(WL)310nm、放射時間(RT)0.5時間、)では発色団がないので紫外線には安定である。
このことは、つくば市の約400日の太陽光照射量に相当する条件下37)(キセノンアークランプを使用、RI=400-416W/m2、WL=300-800nm、RT=3.8時間)での水中光分解試験結果である既報の農薬調査書(2005年)とはいくらか異なっている。
この相違はUV照射量から来るものといえよう。
農薬は散布後できるだけ早く光分解することが望まれているので、太陽光の約400日に相当する照射量は法規制の半減期180日38)と比べても、多すぎるように思える。
3)クロチアニジンは紫外線を吸収するチアゾール環を持っているので、ジノテフランと同じ条件下では紫外線によって分解される。
この結果はつくば市の約3日の太陽光照射量に相当する条件下39)(キセノンアークランプを使用、RI=18W/m2、WL=360-480nm、RT=40-42分)での水中光分解試験結果である既報の農薬調査書(2008年)とほぼ同じ結果である。
ニトログアニジン骨格が嫌気性条件下で生分解性であることから紫外線による分解物は極めて多様であると思われる。
本研究では、分解物の特定とその毒性を調べていない。
5.想定されるCCD発生メカニズム
以下のような実験事実から判断すると、ジノテフランやクロチアニジンは蜂群の崩壊を引き起こすといえる。
即ち、1)ジノテフランやクロチアニジンは殆ど代謝されず、大部分が蜂の体内組織内に長期にわたって(慢性的に)蓄積されて低濃度や中濃度の場合は慢性毒性として作用する。
2)高濃度農薬は蜂群が崩壊するまでの農薬のトータル摂取量が低・中濃度の農薬のトータル摂取量よりも少ないという事実と死蜂の状況から判断して、高濃度の農薬は最初の1回だけ投与したことから判断して急性毒性として作用していると思われる。
3)蜂児の期間は極めて短いので、低濃度農薬は蜂児にはあまり影響を与えないが、寿命の長い女王蜂には影響を与えて結果として産卵を阻害することになる。
4)ジノテフランやクロチアニジンは熱的に安定である。また、ジノテフランは紫外線にも安定であるが、クロチアニジンは不安定である(かなり紫外線による劣化を受けやすい)。
5)スタークルメイト(ジノテフラン)のミツバチに対する殺虫力は、カメムシに対して同程度の殺虫力となるように調整した場合、クロチアニジンとほぼ同程度であると思われる。
我々は上記の研究結果から推論してCCD発生の妥当と思われるメカニズム例を以下に示す。
図6にネオニコチノイド農薬によるCCD発生メカニズムの概念図を示す。
田畑に散布される実際の農薬濃度がこの研究での農薬濃度よりも少なくとも10倍高いという事実を考慮し、水で薄められた低濃度農薬が太陽光下では安定でありその毒性が長期間に亘って変化しないと仮定すれば、蜂群は以下のように崩壊すると推定することができる。
外役蜂は農薬が散布された場所で即死する。
多数の外役蜂が死んだために外役蜂不足を補うために内役蜂が外役蜂に変わり、その結果、内役蜂が不足して蜂群の構成が不均衡となる。
外役蜂が高濃度の農薬を含んだ水や花蜜や花粉を摂取すると、農薬散布場所近傍で即死する。
水田近くの水から5ppmのクロチアニジンが検出されたという事実40)から判断すると、上記の仮定は妥当である(信頼できる)と思われる。
中程度の農薬を摂取した場合は、ある蜂は散布場所で即死し、またある蜂は巣箱に戻ってからまもなく死ぬであろう。
この場合、多数の死蜂が巣箱周辺で発見される。
一方、散布された農薬が水田や雨水で希釈されたり、あるいは花蜜の毒性が花からあふれ出てくる新しい花蜜によって希釈されたりする。
そのような場合、外役蜂はほとんど即死することはない。
そして、低濃度の農薬を含んだ水や花蜜や花粉を摂取した場合、外役蜂はその低毒性のそれらを巣箱に持ち帰ってくる。
その低毒性のものは内役蜂や蜂児や女王蜂によって摂取されるか、あるいは蜂蜜やハチパン(bee bread)として巣碑中に蓄えられ、そしてそれから、それらを摂取した蜂の体内
に蓄積されてゆき、毒性があるしきい値を超えることになる。
最近の論文41)で示唆されているように、農薬を摂取した蜂児が外役蜂となった時、慢性毒性によって方向感覚を喪失したりあるいは衰弱のため力尽きてしまうことになる。
女王蜂の産卵能力は低毒性のものを摂取して衰えはするものの蜂群が崩壊するまで生き残る。
蜂群の構成の不均衡もまた女王蜂の産卵能力の低下を引き起こし、最終的には女王が存在しながらも蜂群が崩壊することになる。
秋に低毒性の影響を受けた蜂群が越冬前にはたとえ一見元気なように見えても、慢性毒性によっておそらく越冬に失敗するであろう。
蜂群が崩壊せず活発で元気に見えた時でさえ、ネオニコチノイド農薬は女王蜂の産卵障害を引き起こしたり、ミツバチの免疫力を低減させて蜂群中にダニを蔓延させる原因ともなりうる。
Ⅳ.結論
ジノテフランやクロチアニジン投与後、蜂群はすぐに縮小してついにはCCDの様相を呈した後、絶滅した。
すなわち、女王蜂は成蜂がほとんど居なくなるまで存在し、蜂児や食料は女王蜂が居なくなった時点でも蜂群中に存在していた。
スムシは蜂群が絶滅した後もしばらくは存在しなかった。
このことは、CCDがミステリアスと言われているけれども、蜂群が絶滅するまでの1場面に過ぎないということを意味している。
これらのことは、ジノテフランやクロチアニジンのようなネオニコチノイド農薬は下記に示したようなメカニズムで引き起こされるということを暗示している。
即ち、農薬が散布されて水田や果樹園の水中で希釈されてその濃度が低くなるという想定をすると、外役蜂によって運ばれた低濃度の農薬が長期間に亘って蜂群に影響を及ぼし続けることによって、最終的には蜂群が崩壊したりあるいは越冬に失敗したりすることになる。
たとえ蜂群が崩壊せず元気なように見えても、女王蜂の産卵障害を引き起こしたり免疫力が低下して蜂群中にダニを蔓延させるようなことも起こり得る。
謝辞
著者らは藤原誠太氏、山田康博博士および養蜂関係者から、貴重な助言や有益な情報・協力を得ている。
また、NMR解析には金沢大学学際科学実験センターの支援を得ている。
この研究は山田養蜂場からの研究助成金により実施した。
参考文献
1. “Honey Bee Die-Off Alarms Beekeepers, Crop Growers and Researchers”,
Penn State Live of
The University’s Official News Source in Pennsylvania State University,
January 29 in 2007.
2. vanEngelsdorp, D., Evans, J.D.: Colony Collapse Disorder: A Descriptive
Study. PLoS ONE,
4(8), e6481, 2009.
3. Maini, S., Medrzycki, P., Porrini, C.: The puzzle of honey bee losses: a
brief review. B. Insectol.,
63(1), 153-160, 2010.
4. Johnson, R.: Honey Bee Colony Collapse Disorder. Congressional Research
Service, 7-5700,
www.crs.gov, RL33938, January 7, 2010
5. Hileman, B.: Why are the bees dying ?. Chem. Eng. News, 85(25), 56-61,
2007.
6. Johnson, R.M., Pollock, H.S., Berenbaum, M.R.: Synergistic Interactions
Between In-Hive
Miticides in Apis mellifera. J. Econ. Entomol., 102(2), 474-479, 2009.
7. Girolami, V., Mazzon, Squartini, A.: Translocation of Neonicotinoid
Insecticides From Coated
Seeds to Seeding Guttation Drops: A Novel Way of Intoxication for Bees. J.
Econ. Entomol., 102(5),
1808-1815, 2009.
8. Mullin, C. A., Frazier, M., Frazier, J.L., Ashcraft, S., Simonds, R.,
vanEngelsdorp, D., Pettis, J.S.:
High Levels of Miticides and Agrochemicals in North American Apiaries:
Implications for Honey
Bee Health. PLoS ONE, 5(3), e9754, 2010.
9. Johnson, R.M., Ellis, M.D., Mullin, C.A., et al.: Pesticides and honey
bee toxicity–USA.
Apidologie, 41(3), 312-331, 2010.
10. Minkel, J.R.: Mysterious Honeybee Disappearance Linked to Rare Virus.
Sci. News (Scientific
American), September 7, 2007.
11. Vanengelsdorp, D., Underwood, R., Caron, D., Hayes, J.: An estimate of
managed colony losses
in the winter of 2006-2007: A report commissioned by the apiary inspectors
of America. Am. Bee J.,
147(7), 599-603, 2007.
12. Cox-Foster, D.L., Conlan, S., Holmes, E.C., et al.: A metagenomic survey
of microbes in honey
bee colony collapse disorder. Science, 318(5848), 283-287, 2007.
13. Boecking, O., Genersch, E.: Varroasis-the ongoing crisis in bee keeping.
J. Verbrauch.
Lebensm., 3(2), 221-228, 2008.
14. Teixeira, E.W., Chen, Y.P., Message, D., Pettis, J. Evans, J.D.: Virus
infections in Brazilian
honey bees. J. Invertebr. Pathol., 99(1), 117-119, 2008.
15. Highfield, A.C., El Nagar, A., Mackinder, L.C.M., et al.: Deformed Wing
Virus Implicated in
Overwintering Honeybee Colony Losses. Appl. Environ. Microbiol., 75(22),
7212-7220, 2009.
16. Schafer, M.O., Ritter, W., Pettis, J.S., Neumann, P.: Winter Losses of
Honeybee Colonies
(Hymenoptera: Apidae): The Role of Infestations With Aethina tumida
(Coleoptera: Nitidulidae)
and Varroa destructor (Parasitiformes: Varroidae). J. Econ. Entomol.,
103(1), 10-16, 2010.
17. Berthoud, H., Imdorf, A., Haueter, M., Radloff, S., Neumann, P.: Virus
infections and winter
losses of honey bee colonies (Apis mellifera). J. Apicult. Res., 49(1),
60-65, 2010.
18. Genersch, E., von der Ohe, W., Kaatz, H., et al.: The German bee
monitoring project: a long
term study to understand periodically high winter losses of honey bee
colonies. Apidologie, 41(3),
332-352, 2010.
19. Le Conte, Y., Ellis, M., Ritter, W.: Varroa mites and honey bee health:
can Varroa explain part of
the colony losses ?. Apidologie, 41(3), 353-363, 2010.
20. Bacandritsos, N., Granato,A., Budge, G., et al.: Sudden deaths and
colony population decline in
Greek honey bee colonies. J. Invertebr. Pathol., 105(3), 335-340, 2010.
21. Soroker, V., Hettzroni, A., Yakobson, B., et al.: Evaluation of colony
losses in Israel in relation
to the incidence of pathogens and pests. Apidologie, 42(2), 192-199, 2011.
22. Pohorecka, K., Bober, A., Skubida, M., Zdanska, D.: Epizootic Status of
Apiaries with Massive
Losses of Bee Colonies (2008-2009). J. Apic. Sci., 55(1), 137-150, 2011.
23. Di Prisco, G., Pennacchio, F., Caprio, E., et al.: Varroa destructor is
an effective vector of Israeli
acute paralysis virus in the honeybee, Apis mellifera. J. Gen. Virol., 92,
151-155, 2011.
24. Alaux, C., Brunet, J.-L., Dussaubat, C., et al.: Interactions between
Nosema microspores and a
neonicotinoid weaken honeybees (Apis mellifera). Environ. Microbiol., 12(3),
774-782, 2009.
25. Aufauvre, J., Biron, D.G., Vidau, C., et al.: Parasite-insecticide
interactions: a case study of
Nosema ceranae and fipronil synergy on honeybee. www. nature. com /
scientific reports, 2:326,
2012.
26. Sahba, A.: The mysterious deaths of the honeybees. CNN Money, March 29,
2007, retrieved on
April 4 in 2007.
27. Le Conte, Y., Navajas, M.: Climate change: impact on honey bee
populations and diseases. Rev.
Sci. Tech. OIE, 27(2), 499-510, 2008.
28. Naug, D.: Nutritional stress due to habitat loss may explain recent
honeybee colony collapses.
Biological Conservation, 142(10), 2369-2372, 2009.
29. Hopwood, L.: GE and bee Colony Collapse Disorder -- science needed!,
Letter from a Chair of
Sierra Club Genetic Engineering Committee to Senator Tomas Harkin on March
21 in 2007,
retrieved on March 23 in 2007.
30. Latsch, G.: Collapsing Colonies: Are GM Crops Killing Bees? ,
International –Spiegel Online
–News” on March 22 in 2007, retrieved on February 24 in 2008.
31. vanEngelsdorp, D., Evans, J.D., Saegerman, C., Mullin, C., et al.:
Colony Collapse Disorder: A
Descriptive Study. PLoS ONE, 4(8), e6481, 2009.
32) Ratnieks, F.L.W., Carreck, N.L.: Clarity on Honey Bee Collapse ?,
Science, 327, 152, 2010.
33. Ellis, J.D., Evans, J.D., Pettis,J.: Colony losses, managed colony
population decline, and Colony
Collapse Disorder in the United States. J. Apicult. Res., 49(1), 134-136,
2010.
34. Medrzycki, P., Sgolastra, F., Bortolotti, L., et al.: Influence of brood
rearing temperature on
honey bee development and susceptibility to poisoning by pesticides. J.
Apicult. Res., 49(1), 52-59,
2010.
35. Lu, C., Warchol, K. M., Callahan, R.A.: In situ replication of honey bee
colony collapse disorder.
B. Insectol., 65(1), 99-106, 2012.
36. Iwasa, T., Motoyama, N., Ambrose, J.T.: Mechanism for the differential
toxicity of
neonicotinoid insecticides in the honey bee, Apis mellifera. Crop
Protection, 23, 371-378, 2004.
37. Japan Food Safety Commission Report on Toxicity Assessment of
Pesticides – Dinotefuran –,
23-24, 2005.
38. Japan Food Safety Commission Report on Toxicity Assessment of
Pesticides – A Review of the
Criteria for Registration of Pesticide Residues in Soil –, 3, 2005.
39. Japan Food Safety Commission Report on Toxicity Assessment of
Pesticides – Clothianidin –,
3rd Ed., 13-14, 2008.
40. Kakuta, H., Gen, M., Kamimoto, Y., Horikawa, Y.: Honey bee exposure to
clothianidin: analysis
of agroxhemicals using surface enhanced Raman spectroscopy. Res. Bull.
Obihiro Univ., 32, 31-36,
2011.
41. Henry, M., Beguin, M., Requier, F., et al.: A Common Pesticide Decreases
Foraging Success and
Survival in Honey Bees. Science Express, 29 March 2012, Science, 1215039,
1-4, 2012
http://www.alterna.co.jp/wordpress/wp-content/uploads/2013/01/ce9aaed3763b47af25313fecc8fe13a8.pdf
このことからカメムシ防除のために実際に散布される農薬の1/10 の濃度であっても、農薬の急性毒性により蜂群が崩壊したことが示唆される。
これら二つの農薬はカメムシに対して同じ殺虫能力を持つよう調節されれば蜜蜂に対しても同じ殺虫能力を持つといえる。
農薬が散布されて水田や果樹園の水中で希釈されてその濃度が低くなるという想定をすると、外役蜂によって運ばれた低濃度の農薬が長期間に亘って蜂群に影響を及ぼし続けることによって、最終的には蜂群が崩壊したりあるいは越冬に失敗したりすることになる。
たとえ蜂群が崩壊せず元気なように見えても、女王蜂の産卵障害を引き起こしたり免疫力が低下して蜂群中にダニを蔓延させるようなことも起こり得る。
~~~~~~~~~~~~
The Japanese Society of Clinical Ecology, Vol.21, No.1, pp.10-23(2012)
ジノテフランとクロチアニジンの蜂群に及ぼす影響
山田敏郎、山田和子、和田直樹
金沢大学理工研究域自然システム学系
蜂崩壊症候群(CCD)と呼ばれる現象は養蜂や農業のみならず、生態系の危機へ繫がる深刻な問題である。
病原体説や農薬説など様々なCCD 原因説が提案されているが、決定的な結論は出ていない。
これまでCCD 原因解明のために、限定された条件下での実験やCCD 発生後の巣箱内の病原体の分析等が行われてきたが、CCD 発生過程の長期現場実験は殆ど行われていない。
欧米ではネオニコチノイド系農薬を状況証拠から使用禁止した国も多いが、日本では科学的根拠が確定されていないため禁止に至っていない。
そこで、日本で広く使われているジノテフランとクロチアニジンの長期投与実験を行い、その間の蜂数や蜂児数の変化および農薬摂取量を追跡し、蜂群がCCD の状態を経由して消滅に至ることを初めて明らか
にした。
また、太陽光下での蜜蜂の農薬摂取を想定して、これらの分解特性を調べた。
NMR スペクトル解析により、熱的には両農薬とも安定であり、紫外線に対してはジノテフランは安定であるもののクロチアニジンは不安定であることが判った。
Ⅰ 緒言
蜂群崩壊症候群(CCD)と呼ばれる現象
1~4)
は、養蜂業ばかりではなく花粉交配を蜂に頼む農業、ひいては生態系をも脅かす深刻な問題である。
CCD はほとんどの成蜂が急にいなくなり、花粉や蜜等食糧の残る巣に女王や卵、幼虫、さなぎなど各段階の蜂児がとり残されるという点で巣分かれとは異なり今まで見られなかった不自然な現象として注目されてきた。
その原因としてネオニコチノイド農薬説
5~9)、ミツバチへギイタダニとイスラエル急性麻痺ウィルス(IAPV)説
10~23)、ノゼマ病微胞子中と浸透性農薬の相乗作用説
24,25)の他、環境変化
26,27)や長距離輸送などの養蜂慣習、生息地減少による栄養不足
28)からのストレス説、遺伝子組み換え作物説
29,30)、電磁波説、複数相乗説
31~34)などがあげられる。
現在のところそのいずれの説においてもCCD が直接的な実験によって科学的に再現されているとは言えない。
一つには蜂が真社会性昆虫であり、CCD がその蜂群で起こる現象であることから、限られた数の蜂を扱う実験室内でのCCD 再現が難しいということが考えられる。
本研究では真社会性昆虫として行動するのに充分な数からなる西洋蜜蜂(Apismellifera)の蜂群を養蜂場の自然環境下に置き実験を行った。
新社会性昆虫の蜂群の趨勢を明らかにするため、本研究では成蜂と封蓋蜂児の数を測定し、女王の有無も確認した。
日本では米の等級を落とすということで斑点米が問題とされ、その原因となるカメムシを防除するため水田に農薬が散布されて来た。
ジノテフランとクロチアニジンは近年日本で広く使われている代表的なネオニコチノイド農薬であるが、これら農薬と蜂群に関する報告は今まで見当たらない。
本研究ではこれら農薬が蜂群に長期的に及ぼす影響とCCD との関連を明らかにするため養蜂知識と技術に基づき長期間の野外実験を行った。
実験ではカメムシ防除で推奨される濃度の農薬を10倍、50倍、100倍に希釈して各実験群に投与した。
それぞれの農薬濃度を高、中、低濃度と呼ぶこととする。
高濃度農薬は最初に一度だけ投与し蜂群に及ぼす農薬の急性毒性を明らかにした。
中、低濃度の農薬は慢性毒性の影響を明らかにするため毎回投与した。
各蜂群が崩壊に至るまでに摂取した農薬量を測定した。
一般的に田畑に散布された農薬は水で薄められた後太陽光を浴び熱せられ、紫外線の影響を受ける。
ジノテフランとクロチアニジンの太陽光下における光分解、熱分解特性を明らかにするためそれらの水溶液を50℃に熱し、紫外線照射したものをプロトンNMR スペクトラムにより解析した。
Ⅱ 実験方法と評価方法
1. 実験方法
【農薬投与の野外実験】
農薬は糖液と花粉ペーストの餌として投与した。
糖液は各コロニーの巣箱内に設置された給餌器に入れ、花粉ペーストは巣箱内で巣脾枠上に置いた。
農薬はジノテフランを10%含有する三井化学アグロ㈱のスタークルメイトとクロチアニジンを16%含有する住化武田農薬㈱のダントツを用いた。
これらは日本で斑点米の原因となるカメムシ防除のため水田散布によく使われる代表的なネオニコチノイド農薬である。
まずカメムシ防除用の希釈倍率を持つ糖液を以下のように作った。
市販のスタークルメイトを同量の砂糖と水からなる糖液中に1000倍希釈する(溶液中のジノテフランは100ppm)。
市販のダントツは糖液中に4000倍に希釈する(溶液中のクロチアニジンは40ppm)。各実験群に投与する農薬はこれらカメムシ防除用に実際に推奨されている濃度をそれぞれ10倍,50倍,100倍に希釈して用いた。
今後それぞれの濃度を高、中、低と呼ぶこととする。
スタークルメイトの高濃度溶液(ジノテフラン10ppm)をS-high(Run- 2)、中濃度溶液(ジノテフラン2ppm)をS-middle(Run- 3)、低濃度溶液(ジノテフラン1ppm)をS-low(Run- 4)、同様にダント
ツの高濃度溶液(クロチアニジン4ppm)をD-high(Run- 5)、中濃度溶液(クロチアニジン0.8ppm)をD-middle(Run- 6)、低濃度溶液(クロチアニジン0.4ppm)をD-low(Run- 7)と表すこと
とする。
各実験群の詳細を表1に示す。
純粋な花粉と花粉代用品“Feed-Bee”を1:1の重量比で混ぜ花粉混合物を作り、それと上記の農薬入り糖液を2:1の割合で練り混ぜて花粉ペーストを作った。
糖液と花粉ペーストは12 日目以降、実験日毎に新しいものと交換した。
S-high とD-high は12 日目以降無農薬の糖液と花粉ペーストを用いたがそれ以外は農薬入りの餌を群が崩壊するまで用いた。
実験日毎に巣脾の両面、給餌枠、巣箱内面、前面をデジタルカメラで撮影した。
巣箱入り口からの蜂の出入りと周辺の状況を記録するためデジタルカメラを固定し30分毎にタイマーを設定して撮影した。
できるだけ正確に成蜂の数を数えるため実験は外勤蜂が採餌活動を始める前の早朝を選び、雨の日は避け基本的に毎週、まれに二週間隔に行った。
実験を行った養蜂場は害獣、害虫対策が可能で農薬散布が調整可能な区域にあり、蜂が巣箱内の農薬入りの餌が気に入らなければ自由に巣箱を出て餌や水を求めることができた。
実験準備期間中、10個の未使用の標準巣箱を日当たりの良い東向きの崖の上で入り口を東に向け南北一直線上に並べた。
巣箱毎に蜂群に病気の兆候がなく元気であることや女王の産卵状況を確認し、目測ではあるが蜂児数、成蜂数が等しくなるよう成蜂や蜂児のついた巣脾を巣箱間で移動して調整した。
実験開始時10 蜂群から条件の整った8 蜂群を選んだ。
各実験群の巣箱内には6 枚の巣脾と糖液をいれた給餌枠があり成蜂は約1 万匹であった。
ブランク群では蜂が増えるので、分封(巣分かれ)するのを防ぐため巣素(新しい巣脾)を必要に応じて巣箱内に追加した。
一連の農薬投与実験は2010年の7月18日から約4カ月の間、花が少なく比較的分封しにくい季節に行った。
【ジノテフランとクロチアニジンの核磁気共鳴測定】
ジノテフラン( 標準品) を関東化学㈱から、純度99.5 % のクロチアニジンをDr.Ehrenstorfer
GmbH (Germany)から購入し、それ以上純粋にすることなく用いた。
各サンプルを0.3%のトリメチルシリルプロパン酸を含有した重水に溶かし標準とした。
50℃で24 時間加熱して得られた分解物と紫外線310nm×50W/㎡で30 分照射して得られた分解物をプロトン核磁気共鳴で測定した。
この時の紫外線照射量はつくば市で6.5 日の間に太陽から受ける紫外線照射量に相当する。
実験では紫外線はガラス容器を通して照射されるのでいくらか弱まると考えられる。
紫外線照射はフナコシNTM-10 トランスイルミネイタ―で行った。
NMR スペクトルはJEOL ECS-400 スペクトロメーターを用い室温で得られた。
2.評価方法
本研究では蜂群中の成蜂数と蜂児数の長期にわたる変化を写真上で計測した。
巣箱全体の重さの変化には成蜂と蜂児以外に蜂蜜、花粉など他の要素が含まれるためである。
巣脾上の成蜂は五、六百以下の時は直接数え、それ以上の時は事前に直接数えた巣脾を参照しながら数を推定した。
各巣脾両面上の成蜂数を巣箱毎に合計し各郡の成蜂数とした。
封蓋蜂児と肉眼で見える幼虫を合わせた蜂児の数は巣脾片面毎にそこに占める割合で表し、各巣脾の割合を巣箱毎に合計して各郡の蜂児数とした。
これらの計数は二人でダブルチェックした。
糖液と花粉ペーストの餌の蜂群による消費量は実験日毎に直に目測または写真で測り群毎に崩壊に至るまでに摂取された全消費量を市販製品(スタークルメイト、ダントツ)の農薬量に換算した。
死蜂の数も実験日毎に直に目測または写真で測った。
3.規格化数の定義
成蜂数の群による初期数の違いと季節の影響による変動を相殺して相対的な変化を求めるため規格化成蜂数を以下の(1)式で定義した。
規格化成蜂数=(nij/njo)/(nBj/nB0) (1)nij=RUN i のj 日経過後の成蜂数nj0=RUN
i の実験開始時の成蜂数nBj=ブランクのj 日経過後の成蜂数nB0=ブランクの実験開始時の成蜂数
(1)式においてRUN-1 とRUN-8 の算術平均値をブランクの成蜂数とした。
蜂児の期間は成蜂の期間と比べて短く数の周期は群によりずれるので蜂児数は規格化しなかった。
Ⅲ 結果と考察
1.成蜂数の変化と死蜂数、女王の有無
表2は各実験群の成蜂数の経過日数による変化を、グラフ1は式(Ⅰ)による規格化成蜂数の変化を示す。
表2、グラフ1および死蜂の変化、女王の有無について以下の結果が得られた。
ジノテフラン、クロチアニジンとも濃度にかかわらず殺虫剤投与後成蜂数が急激に減少し、濃度によりその後の減少傾向にいくらか特徴がみられるものの農薬投与群は最終的に消滅した。
女王蜂は成蜂が殆どいなくなるまで存在し、女王消失の時点で蜂児と食糧が存在することが写真からも確認されている。
弱体化した巣脾を食害するハチノスツヅリガの幼虫(スムシ)は消滅までの全期間を通しまたその後しばらくの間も観察されなかった。
S-high(RUN-2)とD-high(RUN-5)では農薬投与は一度だけで最初に与えた高濃度の農薬を含んだ餌は12 日目に農薬の入らない餌と取り換えられるまで巣箱内に置かれた。
農薬投与後即死する蜂が観察された。
12 日間には即死と思われる非常に多くの死蜂が巣箱の内外で発生し、成蜂数が急激に減少した。
S-high で死蜂は3 週間後にいくらか見られ、その後わずかになったが15 週後には群が消滅した。
D-high では3 週間後もそれ以後もわずかの死蜂が見られるだけであったが18 週後に群が消滅した。
両群とも女王蜂は成蜂が完全にいなくなるまで存在した。
S-middle(RUN-3)とD-middle(RUN-6)でも農薬投与後成蜂数が急激に減少した。
初期にたくさんの死蜂が見られたもののその後はほとんど見られなくなった。
S-middle では初期成蜂数の1.4%に減った時点まで女王が確認されたが9 週後には群が消滅した。
D-middleでは0.6%に減った時点まで女王が存在し7週後に群が消滅した。
S-low とD-low でも農薬投与後成蜂数が急激に減少した。
農薬投与全期間を通して死蜂はほとんど見られなかったが成蜂数は減り続け両群とも12
週後に消滅した。
S-low で女王蜂は群消滅時点でも存在が確認された。
D-low では初期成蜂数の14%に減った時点まで女王蜂の存在が確認された。
2.蜂児数の変化
表3とグラフ2は各郡の蜂児数の経過日数による変化を表す。
以下の結果が得られた。
全農薬濃度において農薬投与後蜂児数が急激に減少した。
約5 週後にいくつかの群で蜂児数は一時盛り返した。
盛り返しは蜂児数の急激な減少により女王蜂の産卵が促された結果と考えられる。
このことにより農薬は女王蜂の産卵能力に影響を与えるが卵や幼虫には殆ど影響していないことが示唆される。
蜂児数の減少からおおまかに農薬の濃度が高いほど女王蜂の産卵能力により深刻なダメージを与えていると言える。
12 日後女王蜂の産卵能力は急激に減少し高濃度農薬は12 日目に無農薬餌に交換されたにもかかわらず、農薬濃度にかかわらずそれ以後も低く維持した。
蜂児数の長期に渡る観察結果から、農薬投与された群はCCD の様相を呈しながら最終的に崩壊したといえる。
このことは本研究が当学会誌に投稿直後公開されたネオニコチノイド(イミダクロプリド)殺虫剤を用いた“現場での蜂群崩壊症候群の再現”
35)の研究結果と一致している。
3.蜂群が崩壊に至るまでに摂取した全農薬量
表4とグラフ3は蜂群が崩壊に至るまでに摂取した全農薬量を示す。
それらより以下の結果が得られた。
S-high(RUN-2)とD-high(RUN-5)で高濃度農薬入り餌は12 日目に無農薬餌に取り換えられ、その後農薬は投与されなかったが蜂群は最終的に崩壊した。
このことからカメムシ防除のために実際に散布される農薬の1/10 の濃度であっても、農薬の急性毒性により蜂群が崩壊したことが示唆される。
大雑把に1 蜂群当たり毎日500 匹の封蓋蜂児
(蛹)が成蜂になり巣箱内に給餌されあるいは蓄えられた農薬入りの餌を摂取し影響を受けたと仮定すると、蜜蜂1匹当たりの致死量(死ぬまでに摂取した農薬量)はジノテフランが0.1072μg/bee(S-high)、0.2434μg/bee(S-middle)、0.1903μg/bee(S-low)、クロチアニジンは0.0360μg/bee(D-high)、0.1150μg/bee(D-middle)、0.0706μg/bee(D-low)であった。
岩佐ら36)が報告したLD50はジノテフランンが0.0750μg/bee、クロチアニジンが0.0218μg/bee であり大きく矛盾しない。
他方中、低濃度農薬投与の場合、S-middle(RUN-3)とS-low(RUN-4)、同様D-middle(RUN-6)とD-low(RUN-7)の各蜂群が崩壊するまでに摂取する全農薬量を比べるとほとんど違いがないことから、蜂群は中、低濃度農薬の慢性毒性により崩壊した可能性が考えられる。
すでに花蜜中に含まれる農薬に長期間暴露されることによる慢性毒性の可能性が指摘されている4)。
このことは中、低濃度農薬が蜜蜂の体組織内で代謝されず蓄積され、ある敷居値を超えたとき蜜蜂を死に至らせ蜂群を崩壊に導く可能性を示唆している。
さらに詳しく見てみると、崩壊に至るまで蜂群によって摂取された農薬量はS-middle
とS-low の場合はS-high の約1.5 倍でありD-middle とD-low の場合はD-high の約1.5
倍である。
このことから本研究における中、低濃度農薬の慢性毒性によって蜂群を崩壊に至らせるまでに摂取された農薬量は高濃度農薬の急性毒性によるものの約1.5 倍であることがいえる。
また、蜂群崩壊までに摂取された全農薬量をスタークルメイト(ジノテフラン)とダントツ(クロチアニジン)の市販薬のカメムシ防除の濃度に換算して比べると、濃度にかかわらずほぼ等しい。
すなわちS-high/D-high≒1.1、S-middle/D-middle≒1.0、S-low/D-low≒1.0 である。
つまりこれら二つの農薬はカメムシに対して同じ殺虫能力を持つよう調節されれば蜜蜂に対しても同じ殺虫能力を持つといえる。
また農薬中の有効成分量で二つの農薬を比較すると蜂群崩壊までに一群当たりで摂取された農薬量比は高、中、低濃度でそれぞれS-high/D-high=2.50、S-middle/D-middle=2.53、S-low/D-low=2.55 となる。
このことからクロチアニジンの蜜蜂に対する殺虫能力はジノテフランの約2.5 倍であり、わずかではあるがその割合は殺虫剤濃度の減少とともに増大するといえる。
4.太陽光下を仮定したジノテフランとクロチアニジンの光分解特性および熱分解特性図4と5にはジノテフランとクロチアニジンに対するプロトンNMR(1H-NMR)のそれぞれの測定結果が示されている。
これらのNMRスペクトル解析から次のことが考察される。
1) ジノテフランとクロチアニジンは50℃では分解しない。
2) ジノテフランはつくば市での太陽からの6.5日分の照射量に相当する放射強度の条件下(放射強度(RI)50W/m2、波長(WL)310nm、放射時間(RT)0.5時間、)では発色団がないので紫外線には安定である。
このことは、つくば市の約400日の太陽光照射量に相当する条件下37)(キセノンアークランプを使用、RI=400-416W/m2、WL=300-800nm、RT=3.8時間)での水中光分解試験結果である既報の農薬調査書(2005年)とはいくらか異なっている。
この相違はUV照射量から来るものといえよう。
農薬は散布後できるだけ早く光分解することが望まれているので、太陽光の約400日に相当する照射量は法規制の半減期180日38)と比べても、多すぎるように思える。
3)クロチアニジンは紫外線を吸収するチアゾール環を持っているので、ジノテフランと同じ条件下では紫外線によって分解される。
この結果はつくば市の約3日の太陽光照射量に相当する条件下39)(キセノンアークランプを使用、RI=18W/m2、WL=360-480nm、RT=40-42分)での水中光分解試験結果である既報の農薬調査書(2008年)とほぼ同じ結果である。
ニトログアニジン骨格が嫌気性条件下で生分解性であることから紫外線による分解物は極めて多様であると思われる。
本研究では、分解物の特定とその毒性を調べていない。
5.想定されるCCD発生メカニズム
以下のような実験事実から判断すると、ジノテフランやクロチアニジンは蜂群の崩壊を引き起こすといえる。
即ち、1)ジノテフランやクロチアニジンは殆ど代謝されず、大部分が蜂の体内組織内に長期にわたって(慢性的に)蓄積されて低濃度や中濃度の場合は慢性毒性として作用する。
2)高濃度農薬は蜂群が崩壊するまでの農薬のトータル摂取量が低・中濃度の農薬のトータル摂取量よりも少ないという事実と死蜂の状況から判断して、高濃度の農薬は最初の1回だけ投与したことから判断して急性毒性として作用していると思われる。
3)蜂児の期間は極めて短いので、低濃度農薬は蜂児にはあまり影響を与えないが、寿命の長い女王蜂には影響を与えて結果として産卵を阻害することになる。
4)ジノテフランやクロチアニジンは熱的に安定である。また、ジノテフランは紫外線にも安定であるが、クロチアニジンは不安定である(かなり紫外線による劣化を受けやすい)。
5)スタークルメイト(ジノテフラン)のミツバチに対する殺虫力は、カメムシに対して同程度の殺虫力となるように調整した場合、クロチアニジンとほぼ同程度であると思われる。
我々は上記の研究結果から推論してCCD発生の妥当と思われるメカニズム例を以下に示す。
図6にネオニコチノイド農薬によるCCD発生メカニズムの概念図を示す。
田畑に散布される実際の農薬濃度がこの研究での農薬濃度よりも少なくとも10倍高いという事実を考慮し、水で薄められた低濃度農薬が太陽光下では安定でありその毒性が長期間に亘って変化しないと仮定すれば、蜂群は以下のように崩壊すると推定することができる。
外役蜂は農薬が散布された場所で即死する。
多数の外役蜂が死んだために外役蜂不足を補うために内役蜂が外役蜂に変わり、その結果、内役蜂が不足して蜂群の構成が不均衡となる。
外役蜂が高濃度の農薬を含んだ水や花蜜や花粉を摂取すると、農薬散布場所近傍で即死する。
水田近くの水から5ppmのクロチアニジンが検出されたという事実40)から判断すると、上記の仮定は妥当である(信頼できる)と思われる。
中程度の農薬を摂取した場合は、ある蜂は散布場所で即死し、またある蜂は巣箱に戻ってからまもなく死ぬであろう。
この場合、多数の死蜂が巣箱周辺で発見される。
一方、散布された農薬が水田や雨水で希釈されたり、あるいは花蜜の毒性が花からあふれ出てくる新しい花蜜によって希釈されたりする。
そのような場合、外役蜂はほとんど即死することはない。
そして、低濃度の農薬を含んだ水や花蜜や花粉を摂取した場合、外役蜂はその低毒性のそれらを巣箱に持ち帰ってくる。
その低毒性のものは内役蜂や蜂児や女王蜂によって摂取されるか、あるいは蜂蜜やハチパン(bee bread)として巣碑中に蓄えられ、そしてそれから、それらを摂取した蜂の体内
に蓄積されてゆき、毒性があるしきい値を超えることになる。
最近の論文41)で示唆されているように、農薬を摂取した蜂児が外役蜂となった時、慢性毒性によって方向感覚を喪失したりあるいは衰弱のため力尽きてしまうことになる。
女王蜂の産卵能力は低毒性のものを摂取して衰えはするものの蜂群が崩壊するまで生き残る。
蜂群の構成の不均衡もまた女王蜂の産卵能力の低下を引き起こし、最終的には女王が存在しながらも蜂群が崩壊することになる。
秋に低毒性の影響を受けた蜂群が越冬前にはたとえ一見元気なように見えても、慢性毒性によっておそらく越冬に失敗するであろう。
蜂群が崩壊せず活発で元気に見えた時でさえ、ネオニコチノイド農薬は女王蜂の産卵障害を引き起こしたり、ミツバチの免疫力を低減させて蜂群中にダニを蔓延させる原因ともなりうる。
Ⅳ.結論
ジノテフランやクロチアニジン投与後、蜂群はすぐに縮小してついにはCCDの様相を呈した後、絶滅した。
すなわち、女王蜂は成蜂がほとんど居なくなるまで存在し、蜂児や食料は女王蜂が居なくなった時点でも蜂群中に存在していた。
スムシは蜂群が絶滅した後もしばらくは存在しなかった。
このことは、CCDがミステリアスと言われているけれども、蜂群が絶滅するまでの1場面に過ぎないということを意味している。
これらのことは、ジノテフランやクロチアニジンのようなネオニコチノイド農薬は下記に示したようなメカニズムで引き起こされるということを暗示している。
即ち、農薬が散布されて水田や果樹園の水中で希釈されてその濃度が低くなるという想定をすると、外役蜂によって運ばれた低濃度の農薬が長期間に亘って蜂群に影響を及ぼし続けることによって、最終的には蜂群が崩壊したりあるいは越冬に失敗したりすることになる。
たとえ蜂群が崩壊せず元気なように見えても、女王蜂の産卵障害を引き起こしたり免疫力が低下して蜂群中にダニを蔓延させるようなことも起こり得る。
謝辞
著者らは藤原誠太氏、山田康博博士および養蜂関係者から、貴重な助言や有益な情報・協力を得ている。
また、NMR解析には金沢大学学際科学実験センターの支援を得ている。
この研究は山田養蜂場からの研究助成金により実施した。
参考文献
1. “Honey Bee Die-Off Alarms Beekeepers, Crop Growers and Researchers”,
Penn State Live of
The University’s Official News Source in Pennsylvania State University,
January 29 in 2007.
2. vanEngelsdorp, D., Evans, J.D.: Colony Collapse Disorder: A Descriptive
Study. PLoS ONE,
4(8), e6481, 2009.
3. Maini, S., Medrzycki, P., Porrini, C.: The puzzle of honey bee losses: a
brief review. B. Insectol.,
63(1), 153-160, 2010.
4. Johnson, R.: Honey Bee Colony Collapse Disorder. Congressional Research
Service, 7-5700,
www.crs.gov, RL33938, January 7, 2010
5. Hileman, B.: Why are the bees dying ?. Chem. Eng. News, 85(25), 56-61,
2007.
6. Johnson, R.M., Pollock, H.S., Berenbaum, M.R.: Synergistic Interactions
Between In-Hive
Miticides in Apis mellifera. J. Econ. Entomol., 102(2), 474-479, 2009.
7. Girolami, V., Mazzon, Squartini, A.: Translocation of Neonicotinoid
Insecticides From Coated
Seeds to Seeding Guttation Drops: A Novel Way of Intoxication for Bees. J.
Econ. Entomol., 102(5),
1808-1815, 2009.
8. Mullin, C. A., Frazier, M., Frazier, J.L., Ashcraft, S., Simonds, R.,
vanEngelsdorp, D., Pettis, J.S.:
High Levels of Miticides and Agrochemicals in North American Apiaries:
Implications for Honey
Bee Health. PLoS ONE, 5(3), e9754, 2010.
9. Johnson, R.M., Ellis, M.D., Mullin, C.A., et al.: Pesticides and honey
bee toxicity–USA.
Apidologie, 41(3), 312-331, 2010.
10. Minkel, J.R.: Mysterious Honeybee Disappearance Linked to Rare Virus.
Sci. News (Scientific
American), September 7, 2007.
11. Vanengelsdorp, D., Underwood, R., Caron, D., Hayes, J.: An estimate of
managed colony losses
in the winter of 2006-2007: A report commissioned by the apiary inspectors
of America. Am. Bee J.,
147(7), 599-603, 2007.
12. Cox-Foster, D.L., Conlan, S., Holmes, E.C., et al.: A metagenomic survey
of microbes in honey
bee colony collapse disorder. Science, 318(5848), 283-287, 2007.
13. Boecking, O., Genersch, E.: Varroasis-the ongoing crisis in bee keeping.
J. Verbrauch.
Lebensm., 3(2), 221-228, 2008.
14. Teixeira, E.W., Chen, Y.P., Message, D., Pettis, J. Evans, J.D.: Virus
infections in Brazilian
honey bees. J. Invertebr. Pathol., 99(1), 117-119, 2008.
15. Highfield, A.C., El Nagar, A., Mackinder, L.C.M., et al.: Deformed Wing
Virus Implicated in
Overwintering Honeybee Colony Losses. Appl. Environ. Microbiol., 75(22),
7212-7220, 2009.
16. Schafer, M.O., Ritter, W., Pettis, J.S., Neumann, P.: Winter Losses of
Honeybee Colonies
(Hymenoptera: Apidae): The Role of Infestations With Aethina tumida
(Coleoptera: Nitidulidae)
and Varroa destructor (Parasitiformes: Varroidae). J. Econ. Entomol.,
103(1), 10-16, 2010.
17. Berthoud, H., Imdorf, A., Haueter, M., Radloff, S., Neumann, P.: Virus
infections and winter
losses of honey bee colonies (Apis mellifera). J. Apicult. Res., 49(1),
60-65, 2010.
18. Genersch, E., von der Ohe, W., Kaatz, H., et al.: The German bee
monitoring project: a long
term study to understand periodically high winter losses of honey bee
colonies. Apidologie, 41(3),
332-352, 2010.
19. Le Conte, Y., Ellis, M., Ritter, W.: Varroa mites and honey bee health:
can Varroa explain part of
the colony losses ?. Apidologie, 41(3), 353-363, 2010.
20. Bacandritsos, N., Granato,A., Budge, G., et al.: Sudden deaths and
colony population decline in
Greek honey bee colonies. J. Invertebr. Pathol., 105(3), 335-340, 2010.
21. Soroker, V., Hettzroni, A., Yakobson, B., et al.: Evaluation of colony
losses in Israel in relation
to the incidence of pathogens and pests. Apidologie, 42(2), 192-199, 2011.
22. Pohorecka, K., Bober, A., Skubida, M., Zdanska, D.: Epizootic Status of
Apiaries with Massive
Losses of Bee Colonies (2008-2009). J. Apic. Sci., 55(1), 137-150, 2011.
23. Di Prisco, G., Pennacchio, F., Caprio, E., et al.: Varroa destructor is
an effective vector of Israeli
acute paralysis virus in the honeybee, Apis mellifera. J. Gen. Virol., 92,
151-155, 2011.
24. Alaux, C., Brunet, J.-L., Dussaubat, C., et al.: Interactions between
Nosema microspores and a
neonicotinoid weaken honeybees (Apis mellifera). Environ. Microbiol., 12(3),
774-782, 2009.
25. Aufauvre, J., Biron, D.G., Vidau, C., et al.: Parasite-insecticide
interactions: a case study of
Nosema ceranae and fipronil synergy on honeybee. www. nature. com /
scientific reports, 2:326,
2012.
26. Sahba, A.: The mysterious deaths of the honeybees. CNN Money, March 29,
2007, retrieved on
April 4 in 2007.
27. Le Conte, Y., Navajas, M.: Climate change: impact on honey bee
populations and diseases. Rev.
Sci. Tech. OIE, 27(2), 499-510, 2008.
28. Naug, D.: Nutritional stress due to habitat loss may explain recent
honeybee colony collapses.
Biological Conservation, 142(10), 2369-2372, 2009.
29. Hopwood, L.: GE and bee Colony Collapse Disorder -- science needed!,
Letter from a Chair of
Sierra Club Genetic Engineering Committee to Senator Tomas Harkin on March
21 in 2007,
retrieved on March 23 in 2007.
30. Latsch, G.: Collapsing Colonies: Are GM Crops Killing Bees? ,
International –Spiegel Online
–News” on March 22 in 2007, retrieved on February 24 in 2008.
31. vanEngelsdorp, D., Evans, J.D., Saegerman, C., Mullin, C., et al.:
Colony Collapse Disorder: A
Descriptive Study. PLoS ONE, 4(8), e6481, 2009.
32) Ratnieks, F.L.W., Carreck, N.L.: Clarity on Honey Bee Collapse ?,
Science, 327, 152, 2010.
33. Ellis, J.D., Evans, J.D., Pettis,J.: Colony losses, managed colony
population decline, and Colony
Collapse Disorder in the United States. J. Apicult. Res., 49(1), 134-136,
2010.
34. Medrzycki, P., Sgolastra, F., Bortolotti, L., et al.: Influence of brood
rearing temperature on
honey bee development and susceptibility to poisoning by pesticides. J.
Apicult. Res., 49(1), 52-59,
2010.
35. Lu, C., Warchol, K. M., Callahan, R.A.: In situ replication of honey bee
colony collapse disorder.
B. Insectol., 65(1), 99-106, 2012.
36. Iwasa, T., Motoyama, N., Ambrose, J.T.: Mechanism for the differential
toxicity of
neonicotinoid insecticides in the honey bee, Apis mellifera. Crop
Protection, 23, 371-378, 2004.
37. Japan Food Safety Commission Report on Toxicity Assessment of
Pesticides – Dinotefuran –,
23-24, 2005.
38. Japan Food Safety Commission Report on Toxicity Assessment of
Pesticides – A Review of the
Criteria for Registration of Pesticide Residues in Soil –, 3, 2005.
39. Japan Food Safety Commission Report on Toxicity Assessment of
Pesticides – Clothianidin –,
3rd Ed., 13-14, 2008.
40. Kakuta, H., Gen, M., Kamimoto, Y., Horikawa, Y.: Honey bee exposure to
clothianidin: analysis
of agroxhemicals using surface enhanced Raman spectroscopy. Res. Bull.
Obihiro Univ., 32, 31-36,
2011.
41. Henry, M., Beguin, M., Requier, F., et al.: A Common Pesticide Decreases
Foraging Success and
Survival in Honey Bees. Science Express, 29 March 2012, Science, 1215039,
1-4, 2012
http://www.alterna.co.jp/wordpress/wp-content/uploads/2013/01/ce9aaed3763b47af25313fecc8fe13a8.pdf