<ギリシャ議会>譲歩案を賛成多数で承認 | 日本のお姉さん

<ギリシャ議会>譲歩案を賛成多数で承認

<ギリシャ議会>譲歩案を賛成多数で承認
毎日新聞 7月11日(土)9時45分配信


<ギリシャ議会>譲歩案を賛成多数で承認
ギリシャ議会で演説するチプラス首相=アテネで2015年7月11日、AP
【アテネ宮川裕章、ロンドン坂井隆之】ギリシャ議会(1院制、定数300)は11日未明(日本時間同日午前)、チプラス政権が欧州連合(EU)など債権者側に示した120億ユーロ(約1兆6000億円)規模の財政改革案を賛成多数で承認した。ロイター通信によると賛成251、反対32、棄権8で9人が採決を欠席した。ギリシャが改革実行への決意を示し、EUなど債権者側も改革案を肯定的に評価しており、11日のユーロ圏財務相会合でのEU側との支援交渉開始に向け大きく前進したことになる。

【表でわかりやすく】チプラス政権はどこまで譲歩したのか

改革案は、総額535億ユーロ(約7兆2000億円)の金融支援をEU側から受けるための条件。EU側が要求した緊縮策をほぼ受け入れる内容のため、5日の国民投票で緊縮反対を訴えた与党・急進左派連合(149議席)の一部から強い反発が出て、審議が長時間にわたった。

だが、最大野党の中道右派・新民主主義党(76議席)など野党の大半はユーロ圏残留を最優先すべきだと主張し、賛成に回った。

チプラス首相は採決を前に「国家としての責任を問う選択だ。私たちには国民を守る義務がある」と、賛成投票を促した。改革案について「公約とはかけ離れている」と認めたが「EU側の提案よりは少なくとも良い」と主張した。

今回の議会承認で、ギリシャは財政破綻回避に向けた譲歩の姿勢を強調することができる。承認を受けチプラス首相は「交渉を妥結し、経済的に実行可能で社会的に公平な合意を結ばなくてはならないという強い(国民の)負託だ」との声明を出した。

ギリシャは8日、ユーロ圏の金融安定網「欧州安定メカニズム(ESM)」に金融支援を申請。EUは、11日のユーロ圏財務相会合で支援交渉を始めるか議論する。12日のユーロ圏首脳会議とEU首脳会議で最終判断する。

財政改革案は、年金支給開始年齢の引き上げを早期に実施し、付加価値税(日本の消費税に相当)の一部軽減税率を廃止するなどの内容。防衛費は、債権者側が4億ユーロの削減を要求したのに対し、政権の連立相手の右派政党への配慮から、削減額は2億ユーロにとどめた。

この改革案について、EUなど債権団の実務者チームは10日夜までに肯定的な評価を下した。実務者チームの評価は、11日に開かれるユーロ圏財務相会合の判断の土台となる。

ロイター通信など複数の欧州メディアが伝えた。債権団の実務者チームは、EU欧州委員会と国際通貨基金(IMF)、欧州中央銀行(ECB)で構成する。

実務者チームはまた、ギリシャの金融支援に必要な額が740億ユーロ(約10兆円)に達し、ギリシャ側が要請している535億ユーロよりも膨らむとの見方を示しているという。財政安定のため、一定の資金上積みが必要と判断している模様だ。

チプラス政権の改革案については、フランスのオランド大統領が10日に「真剣で信頼できる内容」と述べるなど、ユーロ圏の首脳からも前向きな評価が出ている。ただし最大の支援国であるドイツは依然として厳しい見方を示しており、なおハードルは残っている。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150711-00000003-mai-eurp


ギリシャ民族主義の反撃 黄昏の欧州国際主義
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宮家 邦彦

ギリシャの衆愚政治が止まらない。5日の国民投票で有権者は国際債権団の財政緊縮策を大差で拒否した。
事前の予想に反し、「反対」の声は61%を超えた。
今ギリシャ・欧州で何が起きているのか。
ギリシャ問題はEU加盟国のユーロ圏離脱にとどまらない政治経済の複合現象だ。
欧州の現状を正しく理解するには若干の因数分解が必要だろう。

経済合理性から見れば答えは簡単。
ギリシャ人はユーロを諦め、ドラクマ(かつての使用通貨)に戻るしかない。
そもそもギリシャにはユーロ圏に入る資格も能力もなかった。

そんな国がユーロを採用すればどうなる か。
現下の惨状は5年以上も前から一部で懸念されていた。
ユーロ圏EU 諸国はそんなギリシャに厳しい緊縮財政を強いた。

結果的にギリシャのプ ライマリーバランスは黒字化したが、国家経済全体は見事に収縮した。
こ れでは経済成長など望めず、借金返済どころではない。
要するに、EUが ギリシャに求めた緊縮政策は成功しなかったのである。

「欧州の乞食にはなりたくない」「自分たちは怠け者ではない」。
国 民投票直後、心あるギリシャ人たちは口々に将来への漠然とした不安、懸念を吐露した。

ギリシャ国民が二兎(にと)を追っていることを内心自覚しているからだろうか。
チプラス首相は今回の結果を「ギリシャ民主主義の勝利」と表現したが、首相がいかに民主主義発祥の地と自画自賛しても、ギリシャ内政の実態は典型的な衆愚政治だ。
同首相はギリシャ人のEUに対する反感とユーロ圏残留への期待を逆手に取って政権の生き残りを図ったにすぎない。

国内・国際を問わず、政治現象を経済合理性だけで説明することはできない。
ギリシャ問題は、現在東西を問わず、世界各地で顕著となりつつある「民族主義復活」の一環である。
今回のギリシャ国民の「ノー」はEU的な欧州国際主義に対するギリシャ民族主義の反撃なのだ。

そもそも、なぜEUは作られたのか。
それは第2次大戦後の冷戦が続く中、米ソのはざまで埋没しつつあった欧州がその生き残りを賭け「政治統合」を目指したからだ。

(軍事同盟の)NATOとは異なり、EUに米国 の影響力は及ばない。
EU・ユーロは経済的合理性だけでなく、政治的戦 略性、地政学的独自性の観点からも理解すべきだ。

欧州大陸でのギリシャ の地政学的重要性は論をまたない。
だからこそEUはギリシャをユーロ圏 に入れたのだろう。
その意味でEU主義、ユーロ圏構想の本質は、欧州の 地域国際主義に基づく欧州全体の生き残
り手段の一つである。

残念ながらギリシャはこのような欧州国際主義の期待に応え得なかった。
産業革命前まで地中海の恵を享受したギリシャは欧州の先進地域だった。

だが、科学技術の進歩に伴い第2次産業の優位が確立する中、第1・3次産業が中心のギリシャ・ローマ・地中海文明は比較優位を失う。

現在ギリシャは欧州の一部であると同時に、エジプト、チュニジア、レバノンなど旧地中海文明の開発途上国でもあるのだ。
そうだとすれば、ギリシャ問題を「北欧州近代文明圏」と「旧地中海文明圏」の対立と見ること
も可能だ。

それではEU・ユーロ圏は今何をすべきか。
ユーロ圏の動揺が政治的に容認不能なら、まずはギリシャ政府の統治能力回復が不可欠だろう。今の衆愚政治が続く限り、ギリシャ経済に明日はない。

だが、当然これでは不十分。
ギリシャのユーロ圏加入が経済合理性より欧州政治統合を優先した結果だとすれば、問題解決には経済合理性だけでなく、政治的資産再配分が必要となる。
その鍵を握るのはもちろんドイツだ。
ドイツを中心とするユーロ圏の勝ち組がその政治的責任を果たさない限り、EUが目指す政治統合など夢物語に終わるだろう。



【プロフィル】宮家邦彦
みやけ・くにひこ 昭和28(1953)年、神奈川県出身。栄光学園高、東京大学法学部卒。53年外務省入省。中東1課長、在中国大使館公使、中東アフリカ局参事官などを歴任し、平成17年退官。第1次安倍内閣では首相公邸連絡調整官を務めた。現在、立命館大学客員教授、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。
産経ニュース【宮家邦彦のWorld Watch】2015.7.9