魑魅魍魎の国、チュウゴク
北京のランダム・ウォーカー
2015年06月15日(月) 近藤 大介
周永康の次は江沢民元主席を狙い撃ちに!? 7月中旬以降に「中南海大地震」の可能性あり
周永康・前党中央政治局常務委員に無期懲役判決
このところ、日本は地震が多い。これは大地震の予兆だという専門家もいる。確かに、過去の大地震の前には、前震が頻発したり、火山が噴火したりする。
話はここから急に中国政治に飛躍するが、中南海もいま、前震や噴火が絶えないのである。
中南海の主である習近平主席の政治手法を見ていると、尊敬する毛沢東主席がかつてそうであったように、8月上旬に開く北戴河会議を非常に重視している。その北戴河会議で自らの権威を最大限に見せつけるため、そこから逆算して「政治日程」を決めているのである。
その大きな前震が、6月11日に起こった。周永康・前党中央政治局常務委員の無期懲役判決である。
新華社通信が同日18時27分に報じた記事によれば、4月3日に、天津市人民検察院第一分院が周永康を、天津市第一中級人民法院に起訴した。そして5月22日に、非公開の形で審理した。その間、周永康には、二人の弁護士が何度も接見した。
審理では、呉兵・中旭会長が証人に立った。周永康の中国石油ルートの実情を知るキーパーソンの一人だ。呉は2013年8月に失脚し、姿を消していた。
また、周永康の長男・周濱、妻・贾哓晔の録画ビデオが流された。他にも多数の人物の証言によって、周永康は1億2,904万1,013元の財物を賄賂として提供されたという。そして部下たちを使って、21億3,600万元の利益を得て、14億8,600万元の経済損失を与えた。加えて、5件の絶対機密と1件の機密を漏洩したという。
こうしたことから、収賄、職権乱用、機密漏洩などの罪で、無期懲役とし、すべての政治的権利の終身剥奪、あらゆる個人資産の没収を言い渡した。
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さまざまな憶測を呼んだ王岐山書記の訪米
この日の夜7時の中国中央テレビのメインニュース『新聞聯播』は、まさに衝撃的だった。まず第一に、トップニュースかと思いきや、習近平主席が訪中したアウンサン・スーチー女史と会見したというニュースがトップ。2番目は、李克強首相が食品安全に関する指示を出したというもの。3番目は、張徳江・全人代常務委員長(国会議長)が訪問先のイタリアでプーチン大統領と会談したというもの。4番目は、カメルーン首相が訪中したというニュースだった。
そして19時15分の前半ニュースを折り返したところで、ようやく周永康無期懲役のニュースが出たのである。あの血気盛んな様子は微塵もなく、ただの痩せこけた白髪の老人と化していた。裁判長に無期懲役の判決を言い渡された後、「何か言うことはあるか?」と聞かれた周永康。頭を垂れて、こう述べた。
「判決に従います。上訴するつもりはありません。私の違法な行為が、党に重大な損失を与えてしまいました。罪を認め、悔いています」
本当に、「強者どもが夢の跡」である。「百鶏王」(100人の愛人を持つ男)というニックネームで、中国の石油利権、警察司法利権、四川省利権など数多くの利権を一手に握っていた権力者の、哀れな晩節だった。
こうして習近平政権は、ついに党序列9位だった前常務委員を無期懲役刑に貶めたが、北戴河会議まで、これだけでは済まないはずだ。すなわち、7月中旬から下旬頃にかけて、他にもドカンと何かを起こす可能性がある。つまり、「中南海大地震」である。
その正体は何か? テレビのワイドショーでもっともらしく解説している地震学者のように言わせてもらえば、可能性としてあるのが、江沢民元主席、もしくは江沢民の一番の部下である曽慶紅元副主席の拘束である。あるいは江沢民時代の李鵬首相かもしれない。もし曽慶紅がターゲットにされたらM7~8、江沢民か李鵬ならM8~9クラスの「激震」となるだろう。
この大地震の「震源地」ともいうべきキーパーソンは、王岐山・党中央紀律検査委員会書記である。中国共産党の序列では6位だが、事実上は習近平主席に次ぐナンバー2だ。もし江沢民、もしくは曽慶紅、李鵬がこの夏に狙い撃ちにされるなら、「お縄」をかけるのは、習近平の意を受けた王岐山なのである。
その王岐山書記は、4月後半に訪米を予定していた。このニュースが流れたのは、2月のことだった。
だが、そもそもこの訪米が、いったい何の目的で行くのかと、さまざまな憶測を呼んでいた。
王岐山は、2008年3月から2013年3月まで、国際担当の副首相を務めていた。国際担当とはすなわち、アメリカ担当である。折しも2008年秋にリーマンショックが起こり、当時のポールソン財務長官や、その後のガイトナー財務長官は、アメリカ経済を復興させるため、全面的に王岐山に頼った。実際、王岐山はうまく立ち回ったので、欧米での知名度、信用度はうなぎ登りとなった。
本来なら王岐山は、習近平の青年時代からの知己という内部事情と、アメリカが全面的に支持しているという外部事情から、習近平政権の首相になる野心を抱いていたはずだ。実際、ある時期、そうした様子が外部にも垣間見えたことがあった。
「王岐山の訪米は、キッシンジャー大統領補佐官が訪中したようなもの」
だが胡錦濤主席は、自らの後継者に習近平を承認する条件として、弟分の李克強筆頭副首相を首相に据えた。そのあおりを受けた王岐山副首相は、党中央紀律検査委員会書記に横滑りしたのだった。
この役職は、党内の風紀取り締まりを行う部署のトップで、当初は「閑職」と思われていた。ところが習近平・王岐山は、「恐ろしい野望」を胸に秘めていたのである。それは、「二人の皇帝」と呼ばれた江沢民と胡錦濤の両元主席(党総書記)の力を削ぐという役回りである。特に急いだのが、かつて上海閥と言われた江沢民派の壊滅だった。
薄煕来、周永康、蒋潔敏、徐才厚、郭伯雄・・・。江沢民と曽慶紅に連なる大物たちが、続々と召し上げられていった。すべては王岐山がトップを務める党中央紀律検査委員会が「腐敗分子」の烙印を押して失脚させたものだ。「返り血」も浴びたが、これだけの「大仕事」を一気呵成にやってのけた手腕は大したものだ。
江沢民派の一掃に成功した習近平・王岐山執行部は、いよいよ胡錦濤派の掃討作戦を始めた。その第一弾が、胡錦濤時代の「官房長官」(党中央弁公庁主任)だった令計画・党中央統一戦線部長兼政協副主席を失脚させたことだ。昨年12月22日、「重大な紀律違反の容疑で」令計画の調査が始まった。12月31日に党中央統一戦線部長の職務を剥奪し、全国政治協商会議が始まる直前の今年2月28日には、政治協商会議副主席の職務も剥奪した。
令計画の父・令狐野は、山西省の役人で、愛読していた党中央機関紙『人民日報』によく出てくる単語を、子供の名前にした。長男・方針、次男・政策、長女・路線、三男・計画、四男・完成である。後に三男の令計画が、中国共産主義青年団で中央第一書記を務めた胡錦濤に見出され、「胡錦濤秘書」として大出世を遂げた。
その令5きょうだいの末っ子の令完成は、吉林大学経済学部を卒業し、国営新華社通信の記者を20年近く務めた。その後、新華社傘下の中国広告連合総公司総裁になり、さらに中国華星汽車貿易公司総裁となった。
その令完成に関して、今年2月8日、香港の政治月刊誌『明鏡』のインターネット版が、衝撃的なニュースを流した。
〈 前中国共産党中央弁公庁主任の令計画の弟・令完成(仮名・王誠)は、甥の令狐剣とともに、アメリカに逃亡した。中南海の重大スキャンダルを持って出国した可能性があり、中南海は大騒ぎになっている。 〉
この報道を受けて、アメリカの華字ネット紙『博訊新聞網』も同日、次のように報じた。
〈 2015年1月初め、郭という(中国政府の)助理がニューヨークにやって来た。中国人を調査するためで、王誠という仮名を使っている令完成、妻の李平(元中国中央テレビキャスター)、娘も含まれていた。 〉
その後、サンフランシスコ・ビジネス・ジャーナル(2013年10月4日付)が、米NBAのBeno
Udrih選手が2009年に285万ドルで買ったカリフォルニア州ロサンゼルスの2342平方メートルの豪邸(住所:6105 Terracina Ct, Loomis, CA 95650)を、2013年9月19日に、王誠と李平
という中国人に売却していたと報じたことが、ニュースになった。
このあたりから、王岐山書記の訪米がニュースになり始めた。3月2日、アメリカ政府が運営するボイス・オブ・アメリカは、王岐山訪米に関する約30分の特集番組を流した。そこに登場した3人の中国系米国人コメンテーターたちは、次のような意見を述べた。
「王岐山の訪米は、単なる党常務委員の訪米ではなく、9月に訪米を控えた習近平国家主席の特使とみなすべきだ。1971年に、ニクソン大統領訪中の前に、キッシンジャー大統領補佐官が訪中したようなものだ」
「王岐山の訪米は、令計画の弟の令完成の引き渡しを直接交渉するためのものだ。令完成は幹部たちの大量の汚職情報(『博訊新聞網』は2800件と伝えている)を持ち逃げしている可能性がある。中国は現在、39ヵ国と犯人引き渡し条約を結んでいるが、アメリカとは結んでいない」
「王岐山が来ようとも、アメリカ政府は絶対に令完成を中国に引き渡さないだろう。これは2年前に元CIA職員のスノーデンを香港に潜伏させてアメリカに引き渡さなかったことへのアメリカの復讐なのだ」
どれも意味深なコメントである。
習近平・王岐山の弱点を虎視眈々と狙う江沢民・胡錦濤派OB
こうした動きを受けて、4月1日から中国は、「天網行動」のキャンペーンを始めた。「天に網をかける行動」、すなわち海外に逃亡している汚職幹部たちを一網打尽にするというものである。
中国は昨年7月に、「狐狩り」と称して、海外に逃亡した汚職官僚たちを連れ戻すキャンペーンを行ってきた。その結果、昨年末までに69ヵ国・地域に公安部の職員を派遣し、680人を連れ戻したと、誇らしげに発表した。よくよく考えれば、これだけ官僚たちが国外逃亡する国のシステム自体に問題があると思うのだが、そこにはもちろん言及していない。
それをバージョンアップさせて、今年3月に、党中央反腐敗協調小グループ国際追跡業務弁公室(黄樹賢主任)が、習近平執行部の指示を受けて、「狐狩り」の幹部版といえる「天網行動」を開始することにしたのである。党中央組織部、最高人民検察院、公安部、中国人民銀行などが共同で業務にあたるという。
この突然の「天網行動」が、令完成のアメリカ逃亡を機に始まったことは間違いないだろう。4月22日、党中央紀律検査委員会は、「天網行動」の一貫として、「海外逃亡100人リスト」を実名、顔写真入りで発表した。男77人、女23人の逃亡者を、「指名手配」したのだった。だが、この「100人リスト」に出ているのは地方の小物官僚が多く、令完成クラスの大物は含まれていない。
「100人リスト」を発表した翌4月23日午後、王岐山書記は、日系の「客人」たちと、一時間半にわたって面会した。王書記の昔からの知人である徳地立人・中信証券社長を介して、フランシス・フクヤマSAIS教授、青木昌彦スタンフォード大学名誉教授と3人で面会したのである。徳地氏は日本人であるが、10代から北京に住んで北京大学を卒業し、中国国有企業の社長を務める異色の人物だ。3人は清華大学で行われた経済フォーラムを終えて、王書記に面会したのだった。
この時、王岐山書記は饒舌で、次のような意味深な発言をした。
「司法というのは、必ずや中国共産党の指導のもとに行動しなければならない。これが中国の制度というものだ。
憲法というのは、文件である。つまり人間の手によって書かれたものだ。だから憲法で定められた大統領というのは、神ではない。
だが中国において、皇帝というのは神なのだ。だから天子と呼ばれる。日本には天皇がいて、英国には女王がいて、それぞれ立憲君主制を敷いているが、それらは中国とは異なるものだ」
王岐山書記が言っているのは、「習近平=神」だということだ。だから中国で法治政治を敷くと言っても、神だけは法律の上にある。もしくは習近平の言葉は法律よりも重いということだ。
そもそも中国では古代から、法家の思想に基づいて、法律を整備してきた。それはただ一人、法律の上に位置する皇帝が、自分以外の人民をあまねく統治するためだった。こうした皇帝政治を習近平も貫くと宣言したのである。
これはもしかしたら、王書記が習近平主席に阿諛追従するために、自己アピールしたのかもしれない。中国ではよくある光景だ。
実際、この時の会話録は即日、新華社通信が長文の記事で報じた。その中で特に、この王岐山発言が興味深かったため、私はノートに書き写していた。そうしたらいつのまにか、この長文の記事が、中国のインターネット上から削除されてしまったのだ。
江沢民派と胡錦濤派のOBたちは常に、習近平・王岐山の弱点を、虎視眈々と狙っている。そんな中で、「習近平=神」と断言したこと、及び3人の「日系客人」との面会が、党の正式な手続きを経ていなかったことを咎めたようだ。
南シナ海の埋め立て問題が、米中関係悪化の大きな要因
さらにアメリカからも「爆弾」が飛んできた。5月28日、米ウォール・ストリート・ジャーナルが、「米当局、JPモルガンに中国高官情報の提供を求める」と題した衝撃的な記事を掲載したのだ。
〈 米証券取引委員会(SEC)は4月29日に、中国政府の当局者35人(うち多くは高位の当局者)に関連する交信の内容を、すべて開示するよう求める召喚状を、JPモルガンに送付した。ウォール・ストリート・ジャーナルが直接見た召喚状のコピーでは、王岐山氏は35人のトップに記載されており、事情を知る関係者によると、米司法省の検察官も、王氏に関する情報を要請した。当局の捜査担当はすでに、中国の高虎城商務相が、JPモルガンに在籍していた息子の高珏氏の雇用を継続することを条件に、同社に便宜を図ることを申し出ていたことに、調査の焦点を据えている。 〉
中南海の政争が、アメリカに飛び火するのは、過去にもよくあったことだ。胡錦濤体制から習近平体制に移行した2012年には、ブルームバーグが習近平一族の蓄財スキャンダルを報じたかと思えば、ニューヨーク・タイムズが温家宝首相一族の蓄財スキャンダルを報じた。これらはいずれも、中南海の敵対勢力によるリークと思われる。
このウォール・ストリート・ジャーナルの記事が出た翌5月29日、ボイス・オブ・アメリカは、3月に続いて再び、王岐山書記の特集番組を放映した。今回のテーマは、「王岐山の訪米キャンセル」である。このときも4人の中国系アメリカ人が登場し、それぞれの立場から興味深い意見を述べた。
「王岐山は、訪米によって、アメリカがいかに自分をバックアップしているかを習近平に見せつけようと考えた。それによって次期首相の座を射止めようとしたのだ。だが今回のアメリカ政府の措置は、オバマ政権は王岐山の味方はしないという意思表示だ。換言すれば、習近平政権への政策変更だ」
「今回のJPモルガンのような事件は、1990年代からどこの会社にもあったことだ。それをいまさら大仰に出してきたのは、オバマ政権として、何らかのメッセージを習近平政権に対して発したのだ」
「中国の南シナ海における最近の行動は、許しがたい。習近平の娘をはじめ、多くの中国共産党幹部の子女がアメリカへ留学したり、アメリカの会社に勤めていたりする。そのため、南シナ海で埋め立てを続けるなら、まだまだスキャンダルを出すぞという警告の意味を込めて、JPモルガン・スキャンダルを出してきたのだ」
「法治国家のアメリカと、党治国家の中国は、そもそも互いに相容れない政治システムで動いている。これまで互いに目を瞑ってきたが、ついに噴出した格好だ」
「今回のJPモルガン・ルートの35人には、王岐山の他に、郭声琨公安部長、潘功勝中国人民銀行副総裁、高虎城商務部長、寧高寧中糧会長、孫家康中国遠洋運輸副総裁、それに中信幹部らが含まれている。これからどんどんスキャンダルが噴出する可能性がある」
こうしたアメリカ側の声を聞く限り、やはり南シナ海の埋め立て問題が、米中関係悪化の大きな要因となっていることは間違いないようだ。
事態を重く見た中国は、6月8日午後、人民解放軍の代表団を急遽、アメリカに派遣した。笵長竜・中央軍事委員会副主席を団長とし、孫建・国軍副総参謀長、呉昌徳・軍総政治部副主任、宋普選・北京軍区司令員らが同行した。
6月11日に米国防総省で行われたカーター国防長官との会談では、米中で侃々諤々の議論になったはずだ。
その間、習近平執行部は、引き締めに躍起になった。党中央紀律検査委員会は、5月25日に「政治を論じ大局を顧みる」、6月1日に「突出した紀律を執行する特色」、6月8日に「新たな監督審査方式を創る」という3度にわたる文章を発表した。それらに目を通してみたが、観念的すぎて、訳出するのが難しい。しかし、とにかく党内の引き締めに躍起になっている様子は伝わってくる。
そんな中、6月15日に習近平主席は、62歳の誕生日を迎えた。この「現代の皇帝様」が、枕を高くして寝られる日はまだ来ていない。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43726
『韓国人の研究』
著者=黒田勝弘
⇒本を購入する(AMAZON)
【今週の東アジア推薦図書】
『韓国人の研究』
黒田勝弘著(角川ONEテーマ21新書、税込み864円)
先日、久しぶりに「来日中」の黒田勝弘氏にお目にかかった。「近藤クンもオッサンになったなあ」というのが第一声。何の反論もできないところが悲しい。
黒田氏を初めてソウルの産経新聞ソウル支局に訪ねたのは、1988年のソウルオリンピックが終わって間もない頃だったので、もう25年以上も前のことだ。韓国人との接し方、取材の仕方など、酒をごちそうになりながらいろいろと教えてもらった。
それから四半世紀が過ぎてもまだ第一線で活躍している。前日に済州島でのシンポジウムを切り上げて最終便でソウルへ戻り、今朝ソウル発7時45分発の便で東京へ来たと言っていた。74歳になってこのように多忙な日本人ジャーナリストというのは、数少ない。
そんな黒田氏が、いわば集大成のように記した韓国人論が本書だ。韓国を見ていながら、常に日本人との比較であるから、本書は日本の社会文化の変化をも論じている。
黒田氏が本書で語る1970年代の「韓国が自分の手のひらに乗っているような感覚」は、1980年代から韓国を見始めた私にも理解できる。そして黒田氏は「ある時からしだいに韓国が手のひらに乗らなくなった」という。その感覚も私には理解できて、私の場合はそこから中国に乗り移っていったが、黒田氏は「手のひらに乗らなくなった韓国」に居続けて現在に至っている。これほど長期間にわたって定点観測していると、本当に含蓄ある文章となって読者に伝わってくる。
思えば、6月22日に日韓国交正常化50周年を迎える。50周年を振り返りながら、しみじみと読むのにふさわしい一冊だ。
著者: 近藤大介
『習近平は必ず金正恩を殺す』
(講談社、税込み1,620円)
中朝開戦の必然---国内に鬱積する不満を解消するためには、中国で最も嫌われている人物、すなわち金正恩を殺すしかない! 天安門事件や金丸訪朝を直接取材し、小泉訪朝団に随行した著者の、25年にわたる中朝取材の総決算!!
著者: 近藤大介
『日中「再」逆転』
(講談社、税込み1,680円)
テロの続発、シャドー・バンキングの破綻、そして賄賂をなくすとGDPの3割が消失するというほどの汚職拡大---中国バブルは2014年、完全に崩壊する! 中国の指導者・経営者たちと最も太いパイプを持つ著 者の、25年にわたる取材の集大成!!
2015年06月15日(月) 近藤 大介
周永康の次は江沢民元主席を狙い撃ちに!? 7月中旬以降に「中南海大地震」の可能性あり
周永康・前党中央政治局常務委員に無期懲役判決
このところ、日本は地震が多い。これは大地震の予兆だという専門家もいる。確かに、過去の大地震の前には、前震が頻発したり、火山が噴火したりする。
話はここから急に中国政治に飛躍するが、中南海もいま、前震や噴火が絶えないのである。
中南海の主である習近平主席の政治手法を見ていると、尊敬する毛沢東主席がかつてそうであったように、8月上旬に開く北戴河会議を非常に重視している。その北戴河会議で自らの権威を最大限に見せつけるため、そこから逆算して「政治日程」を決めているのである。
その大きな前震が、6月11日に起こった。周永康・前党中央政治局常務委員の無期懲役判決である。
新華社通信が同日18時27分に報じた記事によれば、4月3日に、天津市人民検察院第一分院が周永康を、天津市第一中級人民法院に起訴した。そして5月22日に、非公開の形で審理した。その間、周永康には、二人の弁護士が何度も接見した。
審理では、呉兵・中旭会長が証人に立った。周永康の中国石油ルートの実情を知るキーパーソンの一人だ。呉は2013年8月に失脚し、姿を消していた。
また、周永康の長男・周濱、妻・贾哓晔の録画ビデオが流された。他にも多数の人物の証言によって、周永康は1億2,904万1,013元の財物を賄賂として提供されたという。そして部下たちを使って、21億3,600万元の利益を得て、14億8,600万元の経済損失を与えた。加えて、5件の絶対機密と1件の機密を漏洩したという。
こうしたことから、収賄、職権乱用、機密漏洩などの罪で、無期懲役とし、すべての政治的権利の終身剥奪、あらゆる個人資産の没収を言い渡した。
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さまざまな憶測を呼んだ王岐山書記の訪米
この日の夜7時の中国中央テレビのメインニュース『新聞聯播』は、まさに衝撃的だった。まず第一に、トップニュースかと思いきや、習近平主席が訪中したアウンサン・スーチー女史と会見したというニュースがトップ。2番目は、李克強首相が食品安全に関する指示を出したというもの。3番目は、張徳江・全人代常務委員長(国会議長)が訪問先のイタリアでプーチン大統領と会談したというもの。4番目は、カメルーン首相が訪中したというニュースだった。
そして19時15分の前半ニュースを折り返したところで、ようやく周永康無期懲役のニュースが出たのである。あの血気盛んな様子は微塵もなく、ただの痩せこけた白髪の老人と化していた。裁判長に無期懲役の判決を言い渡された後、「何か言うことはあるか?」と聞かれた周永康。頭を垂れて、こう述べた。
「判決に従います。上訴するつもりはありません。私の違法な行為が、党に重大な損失を与えてしまいました。罪を認め、悔いています」
本当に、「強者どもが夢の跡」である。「百鶏王」(100人の愛人を持つ男)というニックネームで、中国の石油利権、警察司法利権、四川省利権など数多くの利権を一手に握っていた権力者の、哀れな晩節だった。
こうして習近平政権は、ついに党序列9位だった前常務委員を無期懲役刑に貶めたが、北戴河会議まで、これだけでは済まないはずだ。すなわち、7月中旬から下旬頃にかけて、他にもドカンと何かを起こす可能性がある。つまり、「中南海大地震」である。
その正体は何か? テレビのワイドショーでもっともらしく解説している地震学者のように言わせてもらえば、可能性としてあるのが、江沢民元主席、もしくは江沢民の一番の部下である曽慶紅元副主席の拘束である。あるいは江沢民時代の李鵬首相かもしれない。もし曽慶紅がターゲットにされたらM7~8、江沢民か李鵬ならM8~9クラスの「激震」となるだろう。
この大地震の「震源地」ともいうべきキーパーソンは、王岐山・党中央紀律検査委員会書記である。中国共産党の序列では6位だが、事実上は習近平主席に次ぐナンバー2だ。もし江沢民、もしくは曽慶紅、李鵬がこの夏に狙い撃ちにされるなら、「お縄」をかけるのは、習近平の意を受けた王岐山なのである。
その王岐山書記は、4月後半に訪米を予定していた。このニュースが流れたのは、2月のことだった。
だが、そもそもこの訪米が、いったい何の目的で行くのかと、さまざまな憶測を呼んでいた。
王岐山は、2008年3月から2013年3月まで、国際担当の副首相を務めていた。国際担当とはすなわち、アメリカ担当である。折しも2008年秋にリーマンショックが起こり、当時のポールソン財務長官や、その後のガイトナー財務長官は、アメリカ経済を復興させるため、全面的に王岐山に頼った。実際、王岐山はうまく立ち回ったので、欧米での知名度、信用度はうなぎ登りとなった。
本来なら王岐山は、習近平の青年時代からの知己という内部事情と、アメリカが全面的に支持しているという外部事情から、習近平政権の首相になる野心を抱いていたはずだ。実際、ある時期、そうした様子が外部にも垣間見えたことがあった。
「王岐山の訪米は、キッシンジャー大統領補佐官が訪中したようなもの」
だが胡錦濤主席は、自らの後継者に習近平を承認する条件として、弟分の李克強筆頭副首相を首相に据えた。そのあおりを受けた王岐山副首相は、党中央紀律検査委員会書記に横滑りしたのだった。
この役職は、党内の風紀取り締まりを行う部署のトップで、当初は「閑職」と思われていた。ところが習近平・王岐山は、「恐ろしい野望」を胸に秘めていたのである。それは、「二人の皇帝」と呼ばれた江沢民と胡錦濤の両元主席(党総書記)の力を削ぐという役回りである。特に急いだのが、かつて上海閥と言われた江沢民派の壊滅だった。
薄煕来、周永康、蒋潔敏、徐才厚、郭伯雄・・・。江沢民と曽慶紅に連なる大物たちが、続々と召し上げられていった。すべては王岐山がトップを務める党中央紀律検査委員会が「腐敗分子」の烙印を押して失脚させたものだ。「返り血」も浴びたが、これだけの「大仕事」を一気呵成にやってのけた手腕は大したものだ。
江沢民派の一掃に成功した習近平・王岐山執行部は、いよいよ胡錦濤派の掃討作戦を始めた。その第一弾が、胡錦濤時代の「官房長官」(党中央弁公庁主任)だった令計画・党中央統一戦線部長兼政協副主席を失脚させたことだ。昨年12月22日、「重大な紀律違反の容疑で」令計画の調査が始まった。12月31日に党中央統一戦線部長の職務を剥奪し、全国政治協商会議が始まる直前の今年2月28日には、政治協商会議副主席の職務も剥奪した。
令計画の父・令狐野は、山西省の役人で、愛読していた党中央機関紙『人民日報』によく出てくる単語を、子供の名前にした。長男・方針、次男・政策、長女・路線、三男・計画、四男・完成である。後に三男の令計画が、中国共産主義青年団で中央第一書記を務めた胡錦濤に見出され、「胡錦濤秘書」として大出世を遂げた。
その令5きょうだいの末っ子の令完成は、吉林大学経済学部を卒業し、国営新華社通信の記者を20年近く務めた。その後、新華社傘下の中国広告連合総公司総裁になり、さらに中国華星汽車貿易公司総裁となった。
その令完成に関して、今年2月8日、香港の政治月刊誌『明鏡』のインターネット版が、衝撃的なニュースを流した。
〈 前中国共産党中央弁公庁主任の令計画の弟・令完成(仮名・王誠)は、甥の令狐剣とともに、アメリカに逃亡した。中南海の重大スキャンダルを持って出国した可能性があり、中南海は大騒ぎになっている。 〉
この報道を受けて、アメリカの華字ネット紙『博訊新聞網』も同日、次のように報じた。
〈 2015年1月初め、郭という(中国政府の)助理がニューヨークにやって来た。中国人を調査するためで、王誠という仮名を使っている令完成、妻の李平(元中国中央テレビキャスター)、娘も含まれていた。 〉
その後、サンフランシスコ・ビジネス・ジャーナル(2013年10月4日付)が、米NBAのBeno
Udrih選手が2009年に285万ドルで買ったカリフォルニア州ロサンゼルスの2342平方メートルの豪邸(住所:6105 Terracina Ct, Loomis, CA 95650)を、2013年9月19日に、王誠と李平
という中国人に売却していたと報じたことが、ニュースになった。
このあたりから、王岐山書記の訪米がニュースになり始めた。3月2日、アメリカ政府が運営するボイス・オブ・アメリカは、王岐山訪米に関する約30分の特集番組を流した。そこに登場した3人の中国系米国人コメンテーターたちは、次のような意見を述べた。
「王岐山の訪米は、単なる党常務委員の訪米ではなく、9月に訪米を控えた習近平国家主席の特使とみなすべきだ。1971年に、ニクソン大統領訪中の前に、キッシンジャー大統領補佐官が訪中したようなものだ」
「王岐山の訪米は、令計画の弟の令完成の引き渡しを直接交渉するためのものだ。令完成は幹部たちの大量の汚職情報(『博訊新聞網』は2800件と伝えている)を持ち逃げしている可能性がある。中国は現在、39ヵ国と犯人引き渡し条約を結んでいるが、アメリカとは結んでいない」
「王岐山が来ようとも、アメリカ政府は絶対に令完成を中国に引き渡さないだろう。これは2年前に元CIA職員のスノーデンを香港に潜伏させてアメリカに引き渡さなかったことへのアメリカの復讐なのだ」
どれも意味深なコメントである。
習近平・王岐山の弱点を虎視眈々と狙う江沢民・胡錦濤派OB
こうした動きを受けて、4月1日から中国は、「天網行動」のキャンペーンを始めた。「天に網をかける行動」、すなわち海外に逃亡している汚職幹部たちを一網打尽にするというものである。
中国は昨年7月に、「狐狩り」と称して、海外に逃亡した汚職官僚たちを連れ戻すキャンペーンを行ってきた。その結果、昨年末までに69ヵ国・地域に公安部の職員を派遣し、680人を連れ戻したと、誇らしげに発表した。よくよく考えれば、これだけ官僚たちが国外逃亡する国のシステム自体に問題があると思うのだが、そこにはもちろん言及していない。
それをバージョンアップさせて、今年3月に、党中央反腐敗協調小グループ国際追跡業務弁公室(黄樹賢主任)が、習近平執行部の指示を受けて、「狐狩り」の幹部版といえる「天網行動」を開始することにしたのである。党中央組織部、最高人民検察院、公安部、中国人民銀行などが共同で業務にあたるという。
この突然の「天網行動」が、令完成のアメリカ逃亡を機に始まったことは間違いないだろう。4月22日、党中央紀律検査委員会は、「天網行動」の一貫として、「海外逃亡100人リスト」を実名、顔写真入りで発表した。男77人、女23人の逃亡者を、「指名手配」したのだった。だが、この「100人リスト」に出ているのは地方の小物官僚が多く、令完成クラスの大物は含まれていない。
「100人リスト」を発表した翌4月23日午後、王岐山書記は、日系の「客人」たちと、一時間半にわたって面会した。王書記の昔からの知人である徳地立人・中信証券社長を介して、フランシス・フクヤマSAIS教授、青木昌彦スタンフォード大学名誉教授と3人で面会したのである。徳地氏は日本人であるが、10代から北京に住んで北京大学を卒業し、中国国有企業の社長を務める異色の人物だ。3人は清華大学で行われた経済フォーラムを終えて、王書記に面会したのだった。
この時、王岐山書記は饒舌で、次のような意味深な発言をした。
「司法というのは、必ずや中国共産党の指導のもとに行動しなければならない。これが中国の制度というものだ。
憲法というのは、文件である。つまり人間の手によって書かれたものだ。だから憲法で定められた大統領というのは、神ではない。
だが中国において、皇帝というのは神なのだ。だから天子と呼ばれる。日本には天皇がいて、英国には女王がいて、それぞれ立憲君主制を敷いているが、それらは中国とは異なるものだ」
王岐山書記が言っているのは、「習近平=神」だということだ。だから中国で法治政治を敷くと言っても、神だけは法律の上にある。もしくは習近平の言葉は法律よりも重いということだ。
そもそも中国では古代から、法家の思想に基づいて、法律を整備してきた。それはただ一人、法律の上に位置する皇帝が、自分以外の人民をあまねく統治するためだった。こうした皇帝政治を習近平も貫くと宣言したのである。
これはもしかしたら、王書記が習近平主席に阿諛追従するために、自己アピールしたのかもしれない。中国ではよくある光景だ。
実際、この時の会話録は即日、新華社通信が長文の記事で報じた。その中で特に、この王岐山発言が興味深かったため、私はノートに書き写していた。そうしたらいつのまにか、この長文の記事が、中国のインターネット上から削除されてしまったのだ。
江沢民派と胡錦濤派のOBたちは常に、習近平・王岐山の弱点を、虎視眈々と狙っている。そんな中で、「習近平=神」と断言したこと、及び3人の「日系客人」との面会が、党の正式な手続きを経ていなかったことを咎めたようだ。
南シナ海の埋め立て問題が、米中関係悪化の大きな要因
さらにアメリカからも「爆弾」が飛んできた。5月28日、米ウォール・ストリート・ジャーナルが、「米当局、JPモルガンに中国高官情報の提供を求める」と題した衝撃的な記事を掲載したのだ。
〈 米証券取引委員会(SEC)は4月29日に、中国政府の当局者35人(うち多くは高位の当局者)に関連する交信の内容を、すべて開示するよう求める召喚状を、JPモルガンに送付した。ウォール・ストリート・ジャーナルが直接見た召喚状のコピーでは、王岐山氏は35人のトップに記載されており、事情を知る関係者によると、米司法省の検察官も、王氏に関する情報を要請した。当局の捜査担当はすでに、中国の高虎城商務相が、JPモルガンに在籍していた息子の高珏氏の雇用を継続することを条件に、同社に便宜を図ることを申し出ていたことに、調査の焦点を据えている。 〉
中南海の政争が、アメリカに飛び火するのは、過去にもよくあったことだ。胡錦濤体制から習近平体制に移行した2012年には、ブルームバーグが習近平一族の蓄財スキャンダルを報じたかと思えば、ニューヨーク・タイムズが温家宝首相一族の蓄財スキャンダルを報じた。これらはいずれも、中南海の敵対勢力によるリークと思われる。
このウォール・ストリート・ジャーナルの記事が出た翌5月29日、ボイス・オブ・アメリカは、3月に続いて再び、王岐山書記の特集番組を放映した。今回のテーマは、「王岐山の訪米キャンセル」である。このときも4人の中国系アメリカ人が登場し、それぞれの立場から興味深い意見を述べた。
「王岐山は、訪米によって、アメリカがいかに自分をバックアップしているかを習近平に見せつけようと考えた。それによって次期首相の座を射止めようとしたのだ。だが今回のアメリカ政府の措置は、オバマ政権は王岐山の味方はしないという意思表示だ。換言すれば、習近平政権への政策変更だ」
「今回のJPモルガンのような事件は、1990年代からどこの会社にもあったことだ。それをいまさら大仰に出してきたのは、オバマ政権として、何らかのメッセージを習近平政権に対して発したのだ」
「中国の南シナ海における最近の行動は、許しがたい。習近平の娘をはじめ、多くの中国共産党幹部の子女がアメリカへ留学したり、アメリカの会社に勤めていたりする。そのため、南シナ海で埋め立てを続けるなら、まだまだスキャンダルを出すぞという警告の意味を込めて、JPモルガン・スキャンダルを出してきたのだ」
「法治国家のアメリカと、党治国家の中国は、そもそも互いに相容れない政治システムで動いている。これまで互いに目を瞑ってきたが、ついに噴出した格好だ」
「今回のJPモルガン・ルートの35人には、王岐山の他に、郭声琨公安部長、潘功勝中国人民銀行副総裁、高虎城商務部長、寧高寧中糧会長、孫家康中国遠洋運輸副総裁、それに中信幹部らが含まれている。これからどんどんスキャンダルが噴出する可能性がある」
こうしたアメリカ側の声を聞く限り、やはり南シナ海の埋め立て問題が、米中関係悪化の大きな要因となっていることは間違いないようだ。
事態を重く見た中国は、6月8日午後、人民解放軍の代表団を急遽、アメリカに派遣した。笵長竜・中央軍事委員会副主席を団長とし、孫建・国軍副総参謀長、呉昌徳・軍総政治部副主任、宋普選・北京軍区司令員らが同行した。
6月11日に米国防総省で行われたカーター国防長官との会談では、米中で侃々諤々の議論になったはずだ。
その間、習近平執行部は、引き締めに躍起になった。党中央紀律検査委員会は、5月25日に「政治を論じ大局を顧みる」、6月1日に「突出した紀律を執行する特色」、6月8日に「新たな監督審査方式を創る」という3度にわたる文章を発表した。それらに目を通してみたが、観念的すぎて、訳出するのが難しい。しかし、とにかく党内の引き締めに躍起になっている様子は伝わってくる。
そんな中、6月15日に習近平主席は、62歳の誕生日を迎えた。この「現代の皇帝様」が、枕を高くして寝られる日はまだ来ていない。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43726
『韓国人の研究』
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【今週の東アジア推薦図書】
『韓国人の研究』
黒田勝弘著(角川ONEテーマ21新書、税込み864円)
先日、久しぶりに「来日中」の黒田勝弘氏にお目にかかった。「近藤クンもオッサンになったなあ」というのが第一声。何の反論もできないところが悲しい。
黒田氏を初めてソウルの産経新聞ソウル支局に訪ねたのは、1988年のソウルオリンピックが終わって間もない頃だったので、もう25年以上も前のことだ。韓国人との接し方、取材の仕方など、酒をごちそうになりながらいろいろと教えてもらった。
それから四半世紀が過ぎてもまだ第一線で活躍している。前日に済州島でのシンポジウムを切り上げて最終便でソウルへ戻り、今朝ソウル発7時45分発の便で東京へ来たと言っていた。74歳になってこのように多忙な日本人ジャーナリストというのは、数少ない。
そんな黒田氏が、いわば集大成のように記した韓国人論が本書だ。韓国を見ていながら、常に日本人との比較であるから、本書は日本の社会文化の変化をも論じている。
黒田氏が本書で語る1970年代の「韓国が自分の手のひらに乗っているような感覚」は、1980年代から韓国を見始めた私にも理解できる。そして黒田氏は「ある時からしだいに韓国が手のひらに乗らなくなった」という。その感覚も私には理解できて、私の場合はそこから中国に乗り移っていったが、黒田氏は「手のひらに乗らなくなった韓国」に居続けて現在に至っている。これほど長期間にわたって定点観測していると、本当に含蓄ある文章となって読者に伝わってくる。
思えば、6月22日に日韓国交正常化50周年を迎える。50周年を振り返りながら、しみじみと読むのにふさわしい一冊だ。
著者: 近藤大介
『習近平は必ず金正恩を殺す』
(講談社、税込み1,620円)
中朝開戦の必然---国内に鬱積する不満を解消するためには、中国で最も嫌われている人物、すなわち金正恩を殺すしかない! 天安門事件や金丸訪朝を直接取材し、小泉訪朝団に随行した著者の、25年にわたる中朝取材の総決算!!
著者: 近藤大介
『日中「再」逆転』
(講談社、税込み1,680円)
テロの続発、シャドー・バンキングの破綻、そして賄賂をなくすとGDPの3割が消失するというほどの汚職拡大---中国バブルは2014年、完全に崩壊する! 中国の指導者・経営者たちと最も太いパイプを持つ著 者の、25年にわたる取材の集大成!!