水質が改善したこともあり、平成23年は前年比約4倍の783万匹にまで急増した。
多摩川で「天然江戸前アユ」が復活へ 3mの取水堰をトラックで代行遡上
産経新聞 6月17日(水)10時5分配信
「江戸前アユ」の遡上(写真:産経新聞)
東京都と神奈川県を流れる多摩川の下流と支流の秋川は6日にアユ釣りが解禁され、上流の奥多摩町でも20日に解禁となる。今年、太公望たちの話題となっているのが東京湾育ちで、天然の「江戸前アユ」だ。これまで、中流域などに設けられた高さ3メートルの取水堰(せき)などに遡上(そじょう)を阻まれ、上流ではなかなかその姿を見ることができなかった。そこで東京都は今年、中流で滞留していたアユをトラックで“遡上”させ、上流に約3万匹を放流した。8月後半になれば、上流で成長した江戸前アユを釣ることができると、期待が寄せられている。
【写真で見る】多摩川を遡上する天然の「江戸前アユ」
■中流域で滞留
江戸時代には将軍家にも献上されたという江戸前アユは、春から夏にかけて、東京湾から多摩川を遡上し、約5センチの稚魚から約20センチの成魚になる。秋に中流に戻り産卵し、そこで一生を終える。誕生したアユは川を下り、冬の間、東京湾でプランクトンを食べて過ごす。
昭和58年から下流域で定置網によるアユの遡上状況調査を実施している東京都島しょ農林水産総合センターによると、アユの推定遡上数は、水質が改善したこともあり、58年は18万匹だったのに対し、平成23年は前年比約4倍の783万匹にまで急増した。24年は調査以来最高となる1194万匹を記録し、25年は645万匹、26年は541匹、27年は435万匹が遡上したとみられる。
上流域は水や餌となるコケがきれいで、アユの生長などによい影響を与えるとみられる。だが、このうち上流域までたどり着けるアユは、決して多くないという。多摩川には、取水堰が8カ所あるほか、川底が削れるのを防ぐ護床工などがあり、アユの行く手を阻んでいるからだ。
中流域では、アユの稚魚が、取水堰を前に何度も遡上に挑む姿が見られるが、ほとんどは上り切れずに力尽きてしまう。
東京都農林水産部水産課によると、遡上を阻まれたアユは、下流から中流域に滞留。数が多いため、コケなどを根こそぎ食べてしまうほか、鳥などにも狙われやすいという。
■アユに過保護?「問題ない」
水質や餌などに優れる上流にアユを増やそうと、これまで、都や地元の漁業協同組合は、取水堰の脇に「魚道」を整備し、土砂を取り除くなど管理や点検を強化してきた。だが、川幅に比べ、魚道の間口は狭く、魚道の場所を探し出せないアユも多く、なかなか成果を出せずにいた。
そこで都は、中流域のアユをトラックで上流まで輸送する“遡上”プロジェクトを26年度からの3年計画で始めた。
26年度は仕掛け網の形状や候補地を選定するための調査を行い、2年目となる今年、実際に仕掛け網でアユを捕獲し、トラックであきる野市や青梅市の上流まで輸送した。5月2~25日までの間、中流域で4万5千匹捕獲し、上流に3万匹を放流した。今年中に調査結果をまとめ、来年度は漁協に提案し、引き継いでいく予定という。
堰は人工物で、過酷な状況を作り出したのは人間だ。アユが自力で遡上しなくても問題がないのかという指摘に対し、同課は「過保護に育てても問題ない」としている。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150612-00000541-san-soci