致死率40%! 治療法がない“韓国MERS感染症”の恐怖 | 日本のお姉さん

致死率40%! 治療法がない“韓国MERS感染症”の恐怖

致死率40%! 治療法がない“韓国MERS感染症”の恐怖
PRESIDENT Online スペシャル
著者
福島 安紀
医療ジャーナリスト
MERSは予防ワクチンや治療法がない
お隣の韓国で中東呼吸器症候群(MERS)の感染が広がっている。6月10日現在、108人の感染が確認され、そのうち9人が死亡した。隔離対策の不備が次々と明らかになり、8日、韓国保健福祉部の文亨杓(ムン・ヒョンピョ)長官が国会で謝罪する事態に陥っている。
MERSは、2012年に初めて、ヨルダン、クウェート、オマーンなどの中東地域に在住・渡航した人に感染が確認されたMERSコロナウイルスが原因の感染症だ。2002年~03年に、中国から世界32カ国に広がりWHO(世界保健機関)が終息宣言を出すまでに774人もの死者が出たSARS(重症急性呼吸器症候群)の病原体もコロナウイルスだが、MERSとは別の病気。コロナウイルスは一般的な風邪のウイルスで、5歳くらいまでには誰もが感染している。
韓国でMERS感染拡大。死者・感染者は増え続ける(AP/AFLO=写真)
MERSが怖いのは、エボラ出血熱と同じように、今のところ予防ワクチンや治療法がなく、致死率が高いことだ。WHOによると、世界的には6月8日までに25カ国で生後9カ月から99歳までの1204人が感染し448人の死亡が報告されている。その致死率はなんと、約40%だ。
主な症状は、発熱、咳、息切れで、嘔吐、下痢などの消化器症状や胸痛を伴うこともある。重症化すると、血液中の酸素量が異常に低下する急性呼吸促迫症候群(ARDS)、腎不全になるという。潜伏期間は2日から15日で、感染から5日前後で発症する人が多い。症状が出ない人や軽い症状で済む人もいるものの、国立感染症研究所によると、63.4%の人が重症化し、44.1%が肺炎を発症、12.4%がARDSになっている。初期の症状はインフルエンザや風邪と症状が似ているため、MERSと分かったときには、家族や医療従事者などと接触してしまっていることが多く、それが感染拡大の理由の一つかもしれない。
感染力は強くないというが……
MERSがどのように人に感染するかはいまのところ分かっていない。中東のヒトコブラクダから同じMERSコロナウイルスが見つかっていることから、ラクダが感染源の一つではないかとみられている。また、コウモリからも同じウイルスが発見されており、もともとのウイルスはコウモリと関係があるのではないかとの説が有力だ。5月25日にMERSで死亡したサウジアラビアの68歳の女性はラクダを飼っていた。
患者には、韓国の患者のように、ラクダと接触していない患者も含まれており、患者から家族や医療従事者、MERS患者と同じ部屋に入院していた患者といったように、ヒトからヒトへの感染も確認されている。ただ、現時点では、韓国でも国内で感染した患者からうつった3次感染も含め、感染はすべてサムスンソウル病院(ソウル市内)などの病院内で起こっている。インフルエンザのように、次から次へと不特定多数の人に広がってしまうほど感染力は強くはなさそうだ。
もしもMERSになったときには、肺炎なら抗生物質で炎症を抑える、発熱は解熱鎮痛剤といったように、出ている症状を抑える対症療法しかない。急性呼吸促迫症候群(ARDS)なら人工呼吸器の装着、腎不全には透析が必要になる。糖尿病、慢性肺疾患、免疫不全などの病気を持っている人は感染症になりやすく、感染したら重症化しやすいので、厚生労働省は、そういった持病のある人がMERS流行地に行く際には、かかりつけの医師に相談し渡航の是非を相談するように呼びかけている。死亡している人のほとんどは、糖尿病や心臓病のような慢性疾患を持った人や高齢者だ。
昨年は276万人の韓国人が訪日、日本から228万人が韓国を訪問している。厚生労働省は、韓国の感染は限定的であることから、すぐに日本に流入するとは考えられないとの見解を示すが、中東と日本の間も毎日大勢の人が往来しており、いつ日本にMERSが上陸してもおかしくない。空港では、韓国や中東でMERSに感染した恐れのある人と接触したか確認するなど検疫を強化している。前述のように、潜伏期間は2日から15日なので、空港に着いたときには無症状でも、自宅へ帰って仕事に復帰してから発症する恐れもある。MERSかどうかは遺伝子検査を行い、陽性だと判明したら、全国47カ所の感染症指定医療機関に入院し隔離される。
MERSを予防するには、一般的な感染症対策である手洗い、うがい、人込みを避ける、咳をしている人に近づかないといったことの他に、ラクダやコウモリなどの動物にできるだけ近づかないといった注意が必要だ。厚生労働省検疫所では、中東へ渡航する人へラクダの生乳や尿を飲むことや調理不十分な肉を食べることは避けるよう、注意を促している。ちなみに、日本国内には動物園などで25頭前後のヒトコブラクダが飼育されているが、そのうち20頭にMERSコロナウイルス検査が実施され、いずれも陰性だった。
いまのところ、日本では過剰な予防策を練る必要はなさそうだが、新たな感染症が来たときに自分の身を守るためには、日ごろから睡眠不足になったり疲れをためたりしないようにするなど、免疫力を上げておくことも大切だ。
http://president.jp/articles/-/15485