TPPが食を崩壊させる? 食品添加物に見る米国の暗部
TPPが食を崩壊させる? 食品添加物に見る米国の暗部
2015年5月19日
人気メルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者・中島聡さんが、「海外企業の脱添加物の流れ」というニュースを取り上げています。消費者としては喜ばしい限りではありますが、中島さんが指摘する「日本が警戒すべきこと」を読むと…、ちょっとゾッとします。
海外企業の脱添加物の流れと日本がいちばん警戒すべきこと
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脱添加物!海外企業はここまでやっている
日本の「安全」は世界の「危険」かもしれない
The New York Times
2015年05月14日
米国の大手カフェチェーン「パネラ・ブレッド」は食品添加物の使用を中止すると宣言した(写真:Chang W. Lee/The New York Times)
アセスルファムカリウム、エトキシキン、スモークフレーバー。
順に人工甘味料、抗酸化剤、風味増強剤だ。米国の大手カフェチェーン「パネラ・ブレッド」は2016年末までに、100種類以上の食品添加物の使用を中止すると宣言した。
パネラだけではない。さまざまな種類の人工の保存料や風味料、色素のほか、一部の甘味料や、抗生物質を使って飼育された動物の肉の使用中止を表明する食品会社や飲食店が増えている。自分が口にする食べ物に透明性とシンプルさを求める消費者の声に応えているのだ。
「業界として線引きを明確にして、自分の買った食べ物に何が入っているのか、消費者がわかりやすいようにしたい」と、パネラのロン・シェイクCEOは言う。
この半年で少なくとも十数社の食品会社や飲食店チェーンが、添加物を排除するために商品の製造過程などを見直すと発表している。
「もはやブームの域を超えて、大きな流れとして定着している」と、コンサルティング会社デイモン・ワールドワイドで健康に関するグローバルな消費者戦略部門を率いるカール・ヨルゲンセンは言う。
他社も続々と動きを見せる
ネスレUSAは2月に、バターフィンガーやベイビールースなどのチョコレート菓子やキャンディー、粉末ドリンクのネスクイックについて、人工香料と人工着色料の使用を年内で取りやめると発表した。
ハーシーは昨年12月に、ペパーミント菓子のヨークやキャンディーバーのアーモンド・ジョイなど一部製品で、高フルクトースコーンシロップ(ブドウ糖果糖液糖)を別の甘味料に切り替えると発表。その2カ月後には、すべての製品を「わかりやすいシンプルな内容」にしていくと述べた。
クラフトは昨年、マカロニ&チーズの一部製品について、黄色の着色料の代わりにターメリックやパプリカなどの天然色素を使うと発表した。ペプシコはダイエットペプシで、人工甘味料のアスパルテームをスクラロースに置き換える方針を表明している。
大手チェーンの決意表明が続くなか、マクドナルドも3月に、ヒト用の抗生物質を投与して飼育された鶏肉の使用を、段階的に中止すると発表した。数週間後にはマクドナルドに鶏肉を供給する食品加工大手タイソン・フーズが、鶏の飼育で抗生物質の使用を停止し、牛や豚などほかの肉についても検討すると表明した。
低脂肪・低コレステロールで売り出したナビスコのクッキー「スナックウェル」シリーズも、高フルクトースコーンシロップやトランス脂肪酸、人工の着色料と甘味料を排除する動きに呼応して、製品の見直しを進めている。
「20年前は低脂肪や無脂肪で満足していた消費者が、それだけでは納得しなくなった」と、全粒穀物食品メーカー、バック・トゥ・ネイチャー・フーズのビンセント・ファンテグロッシCEOは言う。
人気商品の改良は危険な賭け
ただし、象徴的なブランドを改良するのは厄介だ。消費者に味や口触り、品質の違いを感じさせたら、すべてを失いかねない。
「問題の成分をいっさい使わずに新しい製品をつくればいい小さな会社に比べて、私たちのように有名なブランドを擁する会社は難しい」と、ネスレUSAの製菓事業のマーケティング部長、レスリー・モーアは言う。
多くの企業は、消費者の要求に応えているだけだと慎重に言葉を選び、問題の成分の是非を判断することは避けている。それでも激しい批判にさらされがちだ。
メキシコ料理チェーンの大手のチポトレ・メキシカン・グリルは、遺伝子組み換え食品を排除する(パネラと同じく炭酸飲料は対象外)と発表したが、子供だましだと非難された。殺虫剤の問題が指摘されているヒマワリ油を排除しないのは、ダブルスタンダードだという指摘もあった。
パネラのシェイクCEOは、排除対称の添加物や成分を列挙した「ノー・ノー・リスト」を公式サイトに掲載している大きな理由は、売り上げを守るためだと語る。同社のリストは、ジョンズ・ホプキンス大学や、環境NPOのエンバイロメンタル・ワーキング・グループと天然資源保護協会、ヨーロッパ諸国の政府による研究や基準をもとに作成された。
「私は科学者ではないし、どの物質に発がん性があるとか、健康を害するといった議論に首を突っ込むつもりもない。ただ、消費者が今いちばん気になることだと考えている」
基本の食材に立ち返る
パネラはこれまで、提供する食品に450種類以上の添加物を使用していた。同社の下には多くの供給業者と、その下にも供給業者が連なっているが、彼ら業者は自分たちの製品にパネラが使用中止を決めたものが使われているかどうか、必ずしも把握していなかった。
「効率性と一貫性を高めるために添加物が増えていき、供給チェーンが長く伸びるにつれて保存料が使われるようになった」と、パネラの品質保証担当のサラ・バーネット上級部長は言う。
添加物排除のアプローチにも欠点はある。たとえば、アイスクリームやアイシングを白くする着色料として一般的な二酸化チタンを、パネラはモッツァレラチーズに使うのをやめた。ただし、チーズは時間とともに茶色くなる。
「消費者がどのような反応を示すか、まだわからない」と、バーネットは言う。
バーネットによると、サラダのドレッシングは成分の再構成が最も難しかった。ひとつには、油の種類によって粘り気と味が変わるからだ。グリークサラダのドレッシングは、使われていた香辛料を徹底的に分析した結果、基本に立ち返ることにした──レモン汁、にんにく、オレガノ、ローズマリーだ。
「これらの食材は(排除する)リストに載せる必要はない。これだけあればドレッシングが作れるのだ」
(執筆:STEPHANIE STROM、翻訳:矢羽野薫)
© 2015 New York Times News Service
http://toyokeizai.net/articles/-/69299
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抗酸化剤などの食品添加物や、家畜に与える抗生物質などが複合的に人間に与える影響を懸念し、「脱添加物」や「有機食材の使用」に踏み切る米国の企業が増えており、この面では日本は遅れていると警告する記事です。
確かに良い指摘だとは思いますが、誰もがほぼ同じものを食べている日本と、所得によって行くレストランから買い物をするスーパーまでが大きく異なる米国とを直接比べることは難しいので注意が必要です。
このことは、以前にも「米国の暗部」として指摘したことがありますが、農業や畜産業で使われる農薬、抗生物質、ホルモン剤などが人間に与える影響は不明な部分も多く、警告を発する学者も大勢います。しかし、薬品メーカーの政治力が強いため、FDA(米国食品医薬品庁)としても「統計的に優位な数字」が出ない限りは使用禁止に出来ず、表示義務だけ課して後は消費者に任せる、という方針です。
その結果、その手の警告に敏感な教育水準の高い人、割高な自然食品スーパーで買い物をする余裕のある高所得者だけはその手のものを避けるという少し歪んだ状態が保たれているのが米国の事情です。
日本が今、一番警戒すべきなのは、TPP に含まれる ISD で、これが調印されると、モンサントのようなグローバル企業が「遺伝子組み換え食材の差別は不当」という訴訟を国際法廷で起こすことが出来るようになります。
その場合、日本政府が「遺伝子組み換え食材が危険であること」を証明することが出来なければ、遺伝子組み換え食材の輸入の禁止措置も廃止しなければならなくなるし、禁止措置によってモンサントが被った被害までも保証しなければならなくなります(モンサントに関しては、遺伝子組み換え作物に待った! GMO最大手モンサント社の誤謬を暴くドキュメンタリー
映画『モンサントの不自然な食べ物』を参照してください)。
米国内にもTPPに反対する人の懸念としては、職が海外に奪われるという懸念が一番ですが、ISD 条約がグローバル企業に米国政府や州を訴える権利を与えて、その結果、米
国国内ですら、添加物の使用制限や表示義務などの法律を維持することが難しくなる可能性がある、という懸念もあるのです。
『週刊 Life is beautiful』2015年5月19日号より一部抜粋
【2015年5月19日号の目次】
■今週のざっくばらん
・2050年からの手紙
■今週のビデオ
・50 Years of Warren’s Wisdom
・How to Subtract By Adding
■今週のクラウドファンディング
・Lily Camera
■私の目に止まった記事
・Welcome to the revolution of low-cost batteries and software
・The Rise of Automated Cars Will Kill Thousands of Jobs Beyond Driving
・Forget The U.S., India’s Music Streaming Race Is The Big Growth Story
・Wolfram has created a website that will identify any image you throw at it
・How the Apple Watch Cured My iPhone Addiction
・脱添加物!海外企業はここまでやっている
・憲法を有名無実化するようなことを天下の自民党がやってはなりません
・The fast rise of Nikesh Arora at SoftBank
・武器輸出解禁の衝撃 世界の国防関係者が 日本の最新兵器に熱視線!
・日本初! 自治体が「まちの電力会社」を設立。道の駅、小中高から野球場まで電力を供給して、”電気の地産地消”を目指す「中之条電力」
・Tesla’s Model III goes 200 miles per charge and costs $35,000
・昔の人は、なぜ不便な山村に暮らしていたのか?
・平均視聴率5%台…フジテレビ危険水域、ついにタレント離れ&逃避か 大改編も大コケ
■読者からのご質問・ご意見コーナー
著者/中島聡(ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア)
マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。
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